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その言葉の裏側には。  作者: 弥生
2/7

桜ノート

…起こしちゃったかな。でも精神病院も知らずに来るなんて…しかも入院…どんな子なんだ?

まるで春を連想させるようなピンクに染った頬、今にも折れそうな華奢な手、髪の毛はまるで黒く染ったシルクをまとっているかのようだった。

…まるで、春の精霊のような人だった。

「透、そこにいたんだな。」

「あ、先生」

…何してるんだろう。

「検診の時間だ。いつもの部屋で待ってろ。」

あぁ、もうそんな時間か。

「…先生はどこ行くんですか?」

少し迷ったように話し始める。

「お前だから特別に言うが、あそこの部屋にいる女の子がうつ病なんだが、そのことを御家族に言いに行くんだ。」

うつ病…?確かあそこの部屋って…

「…そうなんですね。」

あの子の部屋…

「もう逃げ出したりすんじゃねぇぞ。」

次はないぞと言わんばかりの表情で先生が言う。

「分かってますって。」

やっぱあの部屋にいるのは…あの、子か?何も悩みがなさそうに見えたが…

……まあ、俺には関係ないか。



それからは30分くらい経って先生が戻ってきた。

「じゃあ、診察はじめるぞ、何か変わったことはあるか?」

…んー、無いな。強いて言うならいつも以上に日常生活がつまんない…とか?

「…ない。」

どうせあると言っても、質問攻めにされるだけだし。

「…そうか。」

いつもこうだ。診察と言ってはいるけれどただ話しているだけ。こんなので俺の症状が良くなるわけない。それに…

なんで俺がこうなったのかも、何となくわかっているから。

「そう言えばだが…」

先生が机の中から何かを取り出す。

「なんですか?これ。」

「病院にこのノートを置こうと思うんだ。」

…なんのために?

「どうしてですか?」

「これは…“桜ノート”って言って、患者どうしで呟きの場になればなと思って作ったんだ。」

桜…

「…そうなんですか。それがどうしたんですか。」

少し“やっぱそーなるよな”って思ったのだろう。少し落胆した様子で話す。

「…いや、こうゆうのができたから言っとこうと思ってな。機会があれば何か書いてみてくれ。」

…こんなノートに何が出来るんだよ。たかがノートだろ。


あー暇だ…なんだよ、なんで診察の1時間前に来なきゃいけねぇーんだよ。

…あ、このノート。暇だし見て行くか。どうせ誰も書いてねぇだろ。

透は1ページ目を開く

…なんか書いてある。

『今日は曇りの中、少し暖かい太陽の光を感じました。桜もいよいよ満開になってとても綺麗です。こんな暖かい春の日が続くといいですね。』

何だこれ。ただの綺麗事じゃねぇか。見るだけ無駄だったな。ってか今日はどんよりした曇りだよな…何言ってんだ…?でもこの文どこかで…



キーンコーンカーンコーン

「起立、礼」

「「さようなら」」

今日も特になかったな…もしかして、俺一生このままなのか?

ヒラヒラ1枚の花びらが舞い落ちる

…花びらか、そう言えば…

“桜も満開になってとても綺麗です”

上を向いてみる透

「チッ…なんも感じねぇ…」

桜だけは特別だと思ったがいくら好きでも心は動かないらしい。

「なんで俺桜好きなんだろうな…」

多分、あの子のことなんだろうけど。あの日もこんな春の日だったか…?だめだ。思い出せない。

ガチャ

「ただいま」

「おかえりー」

…疲れた

「透〜今日ね、映画見ようと思うの。一緒に見ない?」

“透…大丈夫なのかしら…映画でも見て感情が戻るといいけど。”

余計なお世話だよ。

「…うん。」

考えてしまう。気にしないようにしていても。

(透、大丈夫かしら)

(お前は心配しすぎだ)

(でも……)

…思ってることを顔に出しすぎだ。

…まあ、俺がおかしいのかもしれないけど。

被害妄想って言う人もいるのかもしれない。

だけど…

考えてしまうんだ。。その人の思っていることを。言葉の裏に隠された心情を。

「いつからだっけ、人の気持ちを気にし始めたのは。」



「透〜そろそろ見ましょ〜」

そう言ってかあさんは某テレビ番組でやってる数年前に流行った映画を流す。

《俺は!!お前のこと…》

《いいの!もう…やめて…》

…ありがちなストーリーだな。

そろそろ眠くなってきた…

「透、見ないの?」

「…ごめん、ちょっと疲れてる。」

そう言って透は自分の部屋に戻る。

「ちょっと!透!」

驚いて後ろを振り向く。

…っ!…これだから顔は見ないようにしてたのに。どうして…こんな顔をさせてしまうんだろう。

そこには寂しいげな表情の中に、どこか不安も感じ取れる、そんな顔をしたかあさんが居た。

“もう、何しても…無駄なの?ねぇ!私は何をしたらいいの?”

そんなこと…俺が知りたいよ。

「…大丈夫だから。」

本当は今すぐにでも…この世から消えたい。でも…俺には夢があるんだ。それをするまでは死ねない。

自分の部屋に行った透はそのままベットに倒れ込んだ。

学校になんか行きたくない…勉強なんかどうでもいい。病院にも行きたくない…もう、病気なんでどうでもいい。

だけど…ただ1つ。あの子だけは…あの子だけは思い出したい。桜の花びらの下、やんちゃな笑顔を浮かべたあの子を。

とは言ったものの、本当はどうでもよかった。少し気になるくらいだった。だけど…少しの希望でも抱いてないとこの毎日に耐えられなかった。



「…うーん。」

眩しい…

そう思い目を開けると朝だった。

俺はあのまま寝ちゃったのか…時間は…7:40か。

まだ大丈夫。まだ遅刻じゃない。学校に…行かなきなきゃ…

そう思い、やっとの思いでベットから起き上がると透はしゃがみこんだ。

痛った…腹痛なんて…久々だ…

しゃがみ込んだまま10分以上が経った。

だめだ…全然痛みが引かない…



「透〜そろそろ学校に行く時間じゃないの〜?」

かあさん…心配かけないようにしようと思ったんだけど…

ガチャ

「と、透!?大丈夫なの?」

「うん、いつもの事じゃん。大丈夫だよ。」

うっ…痛い…

強がっても体は正直なようだ。

「顔色が悪いわよ!病院行きましょ!」

「そこまでしなくても…」

うっ…やっぱり、行かなきゃ無理かも。



「ストレス性胃腸炎ですね。」

ストレス性…

「そうですか…」

落ち込んだ様子でかあさんが答える。

「こちらでお薬は出しておきますので。お大事に。」

いつの間にストレスが溜まったのか…

「透、今からいつもの病院行きましょ。」

「…あぁ。」

また、かあさんに心配かけちゃったな…



「透じゃないか。どうしたんだ?」

「実は…」

俺はストレス性胃腸炎になったことを言った。

「…そうか。そうなったらストレスを緩和する必要がある。」

もしかして…

「嫌かもしれないが…学校を休みなさい。」

やっぱり…

「勉強は…どうするんですか?」

「それは、今から私が透の担任の先生と話してくるから。」

「…はい。」

「透はここで待ってなさい。」



って言われても…この病院何もないんだよな…これは…あのノートだっけな…見るか…どうせやることも無いし。

『今日は曇り空で気分も下がりますね。そう言えば今日は昨日見ていた景色とは違う気がします。なぜだか分かりませんが…何か無くし物をしたようですね。』

また、この人か…この前は気づかなかったけど、わざわざこの人ここに置いてあるボールペンじゃなくて、万年筆で書いてるじゃん。

なにかが心に引っかかる。その原因が気になりじっと読んでいると…もしかして…この人…!

あれだけ憎んできた醜い癖に生まれて初めて感謝した。

「この人も…一緒か…」

そこで、俺は桜ノートに初めて返信をした。

『こちらでは雨すら降らないどす黒い曇り空が続いています。ですが月日がたちまた桜の花が咲く頃になれば不思議と雲が無くなり日が出ていることでしょう。そして、あなたが綺麗なカキツバタを見つけてくれることを祈ります。』

カキツバタは綺麗な紫色をした花のことだ。カキツバタの花言葉は“幸福が来る”俺は…この人には幸せになってもらいたいと思った。俺よりももっと。



それからは毎日精神病院に通い、勉強をする。の、繰り返しだった。たまに担任も来た。

「佐藤〜調子はどうだ?」

「…そこそこです。」

と、こんなくだらない会話しかしなかったけど。ちなみに佐藤は俺の苗字だ。

担任との会話を広げられない理由はもう分かっている。単に、担任がやる気のないだけだ。言葉の裏になんの感情もない、ただの声。それだけ分かる。この人は俺になんの感情抱いてない。そりゃそうだよな。だって俺も何も思ってないんだから。

こんなつまらない生活の中でも楽しみなことが一つだけあった。



『相変わらずの曇り空ですが、学校に行く時に綺麗な桜を見つけたのです。あなたは見つけましたか?季節を感じると心も少しは軽くなる気がします。』

桜…か。

いつからだろうか、花を綺麗だと思えなくなっていた。

ふと見ると文の下には雨に打たれながらを力強く咲いている桜が丁寧に描かれていた。

その絵を見て少し微笑む透。

『あなたの桜を見ていたら曇り空の雲が少し少なくなった気がします。』

その日の帰り道。

…あ、桜の花。

そこには絵と同じような桜の花が咲いていた。

あの人も…同じ桜を見たのかな…

そう思ったら少し心が暖かくなった気がした。

こんな気持ちになったのは何年ぶりだろうか…

思えば

「あの人に…感謝しなきゃだな。」

あ、もしかして…同じクラスの人…?…そんなわけないか。

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