情緒不安定
はぁ…また…月曜日が来る…
そう思いながら俺はSNSを開いた。
『そろそろ新学期ですね。今日の天気は荒れている気がします。明日の天気は晴れか、雨か、…曇りか。』
あ…更新されてる。
俺が見ているのは、とあるポエム。あまり有名な訳では無いが、根強いファンも少なからずいる。そのポエムの特徴には作者の心情を比喩で表すことだ。
比喩とは例えば、「彼女の頬はりんごのように赤い」など、例えの文で言う“赤い”という共通点を通してそのものを表現することだ。このポエムの場合、「〜のように」という言葉がなく比喩らしくないが、心情を天気などで例えて表している。
「今日の天気は雨だった。」という文があったとしよう。前提として、このポエムで言う天気は作者の心情である。まぁ、雨というのは、ほとんどの人にとって憂鬱なものであり、雨が降っている間は少し気温が下がる。このことから、今日の気分は最悪だ。と読めることもできるし、雨というのは、水が降ってくる=泣いたと、読むことも出来る。
最初こそどうゆう意味か分からないが、コツを掴めば読み取るのが楽しくなる。そして何より…自分の気持ちと重なるんだ。
「俺は…雨だな…きっと。」
俺は新学期が苦手なんだよ…この人も同じ気持ちなのだろうか…
これは、そんな不思議なポエムと、とある少女との物語り。
(ねえねえ、またあの子窓の外見てるよ)
(おかしい事じゃないけど……あんな長時間見る必要ある?)
(確かに〜)
桜の花も満開になる頃。
「…」
また、新学期が始まるんだな……
窓の外には無数の桜。
暖かく、鳩は高く飛び、太陽の匂いが充満する春の晴れの日の匂い。
この匂いを感じると、新学期が始まるのだと心が踊る。
入学式の時に感じた、あの高揚感と似たような
懐かしい匂いのように。
でもそんな天気とは裏腹に私の心は黒く染っていた。
キーンコーンカーンコーン
……!!…もう、時間か。
廊下から教室に入ると初めて見る人ばかり。改めて新学期だな、と感じる。
「それじゃあHRを始めるぞー席につけー」
げっ…山田先生じゃん。
「今年から高校2年生だ。先輩になると共に受験期も迫ってくることなど、心身共に大人に近づいているという自覚を……」
はぁ……つまんない。
というか自覚ってなんだよ、別にもってもなんか変わるわけじゃねぇじゃん。
……こんなことにムカつかなくてもいいのに。
「はあ……」
胸の奥深くにヘドロのような感情が溜まっていく。
なんでだろ。
最近、ささいな事でもイライラするようになった。
休み時間、不意に誰かに声をかけられる。
「汐橘、おはよ!」
慌てて振り返る。
誰かと思ったら…桃花か。
そこには小中高と同じの幼なじみがいた。
「おはよ〜」
正直言って桃花は苦手だ。
「汐橘、髪の毛サラサラで羨ましいわ。」
相変わらずの社交辞令。
「そう?」
「そうだよ!めっちゃ綺麗な黒髪!」
…またか。
桃花は昔から頼み事する前に必ず何かしら褒めてくる。ある1種の癖じゃないのかな。
自分でわかってるのかな…
「…ありがと〜」
「あ、そうだ!今日一緒に帰らない?」
…え。正直言うと桃花が苦手だ。
1年生の頃最初の方こそ一緒に帰ってたけど後期になるとなんらかと理由をつけて避けてきたもんな…
今日は行きたいとこがあるけど……しょうがないか、逃げられそうにない。
「……いいよ〜」
「やった!やっぱ汐橘は優しいね!」
「……」
…優しいなんてもの私には一欠片もないのに。
…本当は断りたかった。でも…断れなかった。こんなはずじゃなかったのに……
まただ。また、ヘドロのような感情が溜まっていく。イライラする度に溜まっていく。
HR後
教室中から笑い声や話し声が溢れていた。
…うるさい。頭が…痛い。
昔はこんなんじゃなかった。昔は…
すると誰かが近づいてきた。
…桃花?
「汐橘!あの子たちと話に行こうよ!」
ゆっくりしてたいけどな……周りにも合わせなきゃだし…
1人でいたいけどクラスで孤立するのはいやだ。そんなの我儘なんて分かってる。
「……うん!行こいこ!」
そう言って廊下の方にいる明らかにカースト上位にいるグループに話しかけに行く桃花。
そう言えば、中学生の時もそうだったな。
「おはよ!」
「おはよ〜」
え…この人たち、さっき私の噂をしてた人…?
当たり前のように桃花が先に話しかける。
「あ!さっき窓見てた子だよね!何してたの?」
ニヤニヤしながら前の子が聞いてくる。
…寄りによってその事を聞かれるなんて。
「い、いや、ぼーっとしちゃってて。」
自分なりの精一杯の言い訳をする。
また変な事言うと馬鹿にされるだけだ。
「ふーん。何それ、笑えるんだけど。」
そう言って、前の子が軽蔑するように笑う。
え……自分で振った話題なのにそんだけ…?
どんどんヘドロのような感情が私を蝕んでいく。
「汐橘窓見てるなんて病んでるの?w」
そこで、すかさず桃花がつっこむ。桃花は、その場の雰囲気に合わせただけ。悪気がないからこそ、余計にイラつく。
「い、いやちょっと外を見て……」
昔からいじられるのが苦手だった。だんだんぎこちない笑顔になっていくのがわかる。
「あ、てか、名前なんて言うの?」
まだ話してる途中だったんだけど…そうゆうものなのかな…
「えっと…」
悩んでいると、横から桃花が口を挟む。
「せきかっていうんだ〜当て文字だから読めないよね〜」
笑いながら桃花が話す。
お前は私じゃないでしょ。なんで私の名前の説明を桃花がするの?
最初に話をした子とまた違う子が話しかけてきた。
「読めなくてなんだろーって思ってたんだよね〜。なんか、キラキラネームっぽい。」
嘘つけ。最初から興味なんてないくせに。
「そう…だね…」
「そうそう〜」
「ほらもっと積極的に話しなよ!もう、いつもこうなんだもん。ほら、私に頼らずに話してみてよ!」
私の心情も知らず桃花は話しかけてくる。
連れてきたくせに。話すことなんてないんだってば……っていうか、桃花に頼った覚えないんだけど。
「う、うん……」
「ほらほら!ちゃんと自己紹介くらいしなよ!」
え、急に…?え、どうしよう…ってか、何で私だけ自己紹介しなきゃいけないの?
「え、えーっと…」
考えてると桃花が呆れた顔して、
「もう、こんなんだから汐橘は…友達出来ないんだよ〜」
そう言われた瞬間自分の中に溜まったヘドロが溢れ出した。
それと同時に自分では抑えきれないくらいの苦いものが自分を襲う。
何?桃花に私の何がわかるの?何も知らないくせに。いつもいつも押し付けんなよ。ウザイんだよ。
そんな事を思っても、私は何も出来ない。何も言えない。私は…
弱いから。
さっきから、桃花が私に呼び掛けてる声が聞こえる。でも聞こえない。聞きたくない。
「…汐橘?」
「…。ご、ごめん。ちょっとトイレ行くね」
「え〜今?」
ほらまたそうやって私を押し殺す。
「じゃあ私も行くよ!」
…!!や、やだ!!
「ご、ごめんね、ちょっとやばめだから一人で行ってくる!」
そう言ってダッシュでグループの輪から外れる。
(ごめんね、空気読めない子なんだー)
(うちらとは合わないよねー)
(それなー)
後ろから聞こえてくる声。
全部聞こえてるっつーの。せめて本人が見えなくなってから話せよ…
……外の空気でも吸ってこよう
そう思って廊下にある窓を見る。
…桜だ。
外の景色を見てると自然と心が落ち着いてくる。
桃花は悪くない。頭ではわかってる。そう、桃花が悪いわけじゃない。むしろいい人だ。だけど…今は…それが…
“苦しい”
涙が溢れそうになる。
「桜…綺麗だな。」
突然知らない声が聞こえた。
…!!!
隣には、冬を連想させるような白い肌に黒く艶のある黒髪の男子が立っていた。
「そ、そうだね。」
なんなの、急に…
だいたい一言かけてから隣に来てよ…
溢れそうな涙を拭って彼に話しかける。
「…独り言。」
勝手に反応して勝手にイラついていたことに恥ずかしくなってくる汐橘。
「ご、ごめん。」
紛らわしいなぁ…
「何組の人?」
見たことないんだけど…でも、まぁ、それもそうか。
「俺?俺は2組。」
え、嘘、同じクラス…
「え、同じ!?」
男子は興味無さそうに答える。
「…そうなんだ。」
反応薄いな…もう少し反応してくれてもいいのに。
「女子が友達と喋らずにここでなにしてんの?」
ぐっ…そこ突いてくるか…
「え?えーっと…」
ふと彼の横顔を見る。
あんまりこうゆう愚痴言わないんだけどなぁ…
この人になら言っても大丈夫そう…かな。
「疲れちゃってさ。あそこにいるのが。」
あんま吐かない弱音。初めてかも…同級生に、弱音吐いたの。
「…ほんとに女子?」
少し驚いた表情でこちらを見る。
「…女子じゃないかも。」
少しはからかっても許されるよね。
「そこは否定しろよ。」
思ったより面白い人かも。
彼の口が少し笑った気がした。
でも、急に窓を見てるって…何してるんだろう。
私が言えたことじゃないけど。
「貴方は何してるの?」
少し考え込んだ顔をして彼は答える。
「俺は…わかんない。」
…?
どうゆうこと?
「景色見てるとかじゃなくて…?」
外を見ている意味がわからないってこと?んなわけ。
「んー、景色自体はあんま見ないけど、桜は好きなんだ。だからかも。」
どうゆう意味なんだろ…
「何それ。」
「違うかな。俺には…景色を見る意味なんてないからさ。」
それってどうゆう…
「じゃあな、俺、行くわ。」
「う、うん。」
余計なこと聞いちゃったかな…
少し歩いたところで彼が止まった。
「…俺、あの教室の雰囲気好きじゃないんだよな。…だから無理しなくてもいいと思う。」
それが私の気持ちを察してなのか、さっきの話を聞いたからなのか分からない。
だけど…嬉しかった。“無理をしなくていい”その一言が心に響いた。こんなキラキラした感情を感じるのはいつぶりだろうか。
「…!ありがとう…」
…名前、なんて言うんだろうな。
放課後
「でさーまじだるいー」
またいつものマシンガントークならぬマシンガン愚痴。
「そうだね」
いっつもそう。もう聞きあきた。
「ねぇーほんとに思ってる?」
思ってるわけないじゃん。けど…そんなことを表に出したら…友達もいなくなっちゃう…
だから…
「あ、え…うん!めっちゃ嫌だよよね。」
嘘をつく。自分の立場を守るために。
「そうそう。でさ〜…」
でも…もう心のスペースなんて…どこにも…
もう自分が笑ってるのかも分からない。
「う、うん。」
「あれがさ〜」
あともう少し…もう少しだ…
そしてようやく2人が別れる交差点まで来た。
「あ、ここ右だからまた明日ね〜」
「あ、じゃあね!また明日!」
…明日も聞かなきゃダメなのかな。
「…う、うん!」
本当は嫌なのに。
また、また、否定できない。もう、疲れた。
ガチャ…
「ただいま。」
「あら、おかえりー」
そう言ってお母さんがでてきた。
「今日も勉強するのよね。」
…またそーやって決めつける。
「…うん。」
「あ、そうそう新しいワーク買っておいたからやっといてね。勉強頑張ってね。」
だって勉強しなきゃあんたがヒステリー起こすからだろ。“なんで勉強しなくなっちゃったの!?またそうやってお母さんに反抗して…昔はそんな子じゃなかったのに…”ってな具合で。
「…自分の部屋にいるね。」
「おやつとかだったら持って行ってあげるから安心して勉強してね。いや〜将来が楽しみだよ。公務員とか?いや、医者でもいいかもね。」
やっぱり勉強する前提なんだね…
「…うん。」
私はお母さんの操り人形じゃないのに。
ガチャ
自分の部屋に入ると幾分気分が落ちついた。
私に期待しすぎなんだよ…昔からそう。幼少期から習っていたピアノだって、発表会があれば優勝しないと怒られるし、友達と遊びにも行けない。私は遊びに行けないのに、お母さんはしょっちゅう同窓会とか言ってどっかに行ってるし。お正月もおばあちゃん家に行っても勉強。お年玉も、もちろん親のもの。しかも、勉強をサボるとすぐ叩く。おばあちゃんの居ないところで。
我儘かもしれない。けど、いつでもお母さんの期待に応えられるわけない…
なにもかも嫌。終わりの見えない努力はいつまで続ければいいの?私はいつまでお母さんの人形なの?いっその事…
と思った瞬間、視界がぼやける。
め、目眩…?だめ……倒れる……!
目が覚めたらそこは見知らぬ場所のベットの上だった。
どこだろう…
「……なん、で?」
そう口にした瞬間、耳が痛くなるような大声が聞こえた。
「うわぁぁぁ!」
うわっ…びっくりした…ってか誰…辺りを見渡すとそこには…
「…え?……え!?なんで貴方がここにいるの!?」
窓で話したあの男の子がいた。
「いや、俺のセリフだって!ってか急に目を覚ますなよ……心臓飛び出るかと思った…」
少し呼吸が荒くなっている彼が言う。
「心臓飛び出てないから大丈夫だよ。」
冗談交じりで言う。
「そうゆう問題じゃ…」
少し困った顔をする男の子。
「面白いなぁ。」
やっぱ彼、面白い。
「からかうなって……」
この人ならここどこだか知ってるかな?
「…あのさ、ここ、どこ?」
「おま…何も知らずにここに来たのか!?」
え、そんなおかしい事だった?
「うん。」
「…はぁ。ここは、精神病院だ。」
…え?
一瞬自分の耳を疑った。
「え?なんで…私が精神病院…?」
「知らないよ。」
…まあ、そうだよね。
「…とりあえず、教えてくれてありがとう」
少し頷いてから彼は病室から出ていってしまった
「娘さんは…重度のうつ病です」
え…
「嘘よね!嘘って言って!」
お母さんの声が頭に響く。
「ねぇ、汐橘!誰かにいじめられてたの!?ねぇ!相談なら乗るわよ?」
また、まただ。うるさい…ほっといて…
「お母様、もう少しお静かに…」
「うるさいわね!!あんたには関係ないでしょ!汐橘!どうしたの!?お母さんに言ってみなさい!」
頭にガンガン響く声がマシンガンみたいに発される。
「……そうじゃないの、お母さん。ごめんね、今は…ほっといて欲しいの。」
「まあ…汐橘…。お母さんは受け入れないと言うのね…悲しいけれど…。今の選択なら受け入れるわ。」
また…私が悪いのかな…
「受け入れないとかじゃ…」
私が言い終わるのも待たずお母さんが言う。
「でも絶対必要になるはずよ!その時には頼りなさい!お母さん待ってるわ!」
やっぱり、お母さんは私がお母さんを拒絶してると思ってる…
「違っ…」
そう言って、私が言い終わらないうちに病室を出ていってしまった。
母は…いつもそうだった。人の話を聞かず、いつも1人で突っ走って…
それに合わせようと頑張ったこともあったけど、振り回されて終わり。自分が傷ついただけだった。
今も…必死に母が訴えかけてくれても、何も…感じられなかった。
「汐橘さん。あなたが一人で抱え込まずに周りに相談することも大切ですよ。」
母のことだろうか…
「…はい」
「それが、別にお母様でなくてもいいのです。どうか、頼れる人を作ってください。」
それだけ言って医者行って しまった。
母でなくてもいい、か。
不思議とあの男の子のことが頭をよぎる。
「あの子は…なんでここにいたんだろう…」
この作品のキーポイントはノートのポエムをどう解釈するかで決まります。「曇り」の解釈など、あらゆる場所で、比喩表現が入ってきます。皆様に伝わるよう比喩を入れたつもりですが、初の作品のゆえ、上手くいかないところもあるかとおもいます。御手数ですが、アドバイスなどがあればお聞きしたいです。
また、個人的には「ルビーの宝石」の比喩がとても好きで、皆様にもしっくりくる比喩があればいいなと思っております。
読んで下さりありがとうございました。