記憶という夢
$数十年前、天界本土ルートラッシュ国$
「っふざけんじゃねぇ! てめぇ、これで何回目だ?」
畑で中年の農家が、少年に激怒していた。農家は少年の頬とお腹に一発ずつ殴った。少年は持っていたトウモロコシは落とし「ご、ごめん……な、さい」と農家に謝った。
「ああ! もう堪忍袋の緒が切れた。今日という今日は、軍に連れていってやる! こっちにこい」
「い、痛い……」
農家は少年の手を引っ張りながら、近くの公安部隊の駐在所へ向かった。
少しすると、町が見えてきた。その町は数年前に村と村が合併してできたばっかりで、転移魔法陣すら設置されていない。人口百人ほどののどかな町だ。
川に架かっている木製の橋を渡ろうとしたその時、「君、大丈夫?」とピンク色のワンピースを着て、麦わら帽子を被っている女性が少年に話し掛けた。少年は女性の問いに対し、「あ、あの……」と助けを求めようとしたが、農家が少年の握っている手に力を入れ喋ろうとするのをやめさせた。そして、農家は、
「いえ、お気になさらず。少し作業の際にぶつけたものですから、これから医者に診てもらおうとしていたところです」と言った。
「そっか……なら良いや」
「急いでいるので、これで失礼します」
農家は足早に橋を渡った。しかし、女性は少年の顔や手にある痣が気になり、もう一度少年に話しかけた。
「ちょっと待って、君本当にその傷――」
「何度も言いますが、急いでいるんです」
「もしかして、虐待されてるんじゃないの?」
農家は女性の問いに対し「何言ってるんですか? そんな筈無いじゃないですか……それに、さっきからあなた一体誰何ですか?」と怒りながら言った。
それを聞いた女性は、カバンから何かを取り出した。
「私は、天界軍第109治療部隊隊長よ。治療なら私がやってあげる」
少年はか弱い力を振り絞り、農家の握っている手を外し、女性の方へと逃げようとした。
しかし、農家は握っている方の手の力を更にあげた。その結果、少年の腕に爪がめり込み、傷口から血が流れ落ちた。
「やめてあげて。その子は自分の意思であなたから逃げようとした。それに、なぜ逃げないように力を入れてるの。――おいで、君。お姉ちゃんが護ってあげる」
少年は女性の後ろに隠れた。そして、女性の服の裾を持った。
「助け、て……」
「大丈夫だよ。私から離れないでね。治療は私の方でする。その間に貴方はそこの公安に自首してきな。この手の傷は貴方がこの子に自らつけた。これは傷害よ。それと、逃げても無駄だよ。貴方の容姿、声はもう保存されている。これを情報本部に渡せば貴方はどこに逃げても直ぐに特定される。軍を舐めないで欲しいな」
農家は猛スピードで畑へと逃げていった。
「さっ、もう大丈夫だよ君。今から治療するからじっとしててね」
女性はしゃがみ、少年に治癒魔法をかけた。傷口を包む様に光が現れ、数十秒その場に留まり光は消えた。すると、傷口は瞬く間に薄れ消えた。
「よし。これで治療完了!」
「あ、あの! ありがとう軍のお姉ちゃん」
「どういたしまして。まぁ、困っている人を助けるのは軍使の責務だからね。君はこれからどうするの?」
「軍のお姉ちゃん。そ、その、ごめんさい! 実は僕……あの農家から食べ物盗んじゃってそれで、だから、農家は悪くないから、通報しないで」
女性は笑みを浮かべ、涙を流している少年を抱いた。そして、少年の頭にそっと手を乗せ、優しく撫でた。
「そっか、ありがとう言ってくれて。でもね君。あの農家は君を傷つけた。それは変わらないんだ。それだけはわかって欲しいな。それと、盗もうとするのはダメだよ。一緒に軍に言いに行こっか。大丈夫だよ。軍も君のことは許してくれると思うから。それに、私はアナって言う名前があるんだけど……だから、今度からは軍のお姉ちゃんじゃなくて、アナお姉ちゃんって呼んでくれると嬉しいな」
「う、うん分かった。アナお姉ちゃん!」
少年とアナは手を繋ぎながら、町にある公安部隊の駐在所へ少年の罪を打ち明ける為に向かった。
$天界本土天界軍主要研究所内第8エリア$
「っち、また変な夢を見てしまった」
デスクで寝ていたセンキは頭を抱えた。
「何十年もまだっていうのに、未だに鮮明に覚えてやがる。あの忌々しい夢を」




