魂の力と勝敗。そして、誓い
サンは剣と一緒に神力を鞘に納める。全ての戦いはこの一瞬の為。神力はこの場にある魔力と融合し、サンの身体に浸透した。
「これが……彼の戦で剣豪と謳われたアルフ=ブレッドが手にしたと云われた《魂力》か――。俺らは全てを捨ててヘブン・エンターに立っている。
愛する者。
大切な家族。
信頼した部下。
共に笑い、泣きあった同期。
この命。貴様と一緒に散ってくれよう。ルドルフ、力を貸してくれ」
魂力。全ての生命にある魂本来の力。自らの魂に封じられている魂力の一部を開放することで魔力を根本としている魔法では到底太刀打ちできない力を得ることができるが、この魂力を開放するには、一筋縄ではいかなく、失敗したら魂が消滅し、転生すらできなくなってしまう。魂力を開放する方法は一つ。第5魔数以上の魔力と第2魔数に匹敵する量の神力を同時に得ること。しかし、魂力を使うには計第10魔数以上の魔力がないといけない。サンの魔力は最大10魔数。本来であれば魂力を使用できるが、剣技魔法 神斬技やクロとの戦闘にて魔力を使用してしまった為、現在のサンには第7魔数しか残っていない。全ての魔力を回復させる為には最低二日は掛かってしまう。魔癒を使っても第10魔数には到底及ばない。そこで、サンは共同詠唱をしたルドルフの魔力を使えば第10魔数に及ぶと思いついたのだ。現在のルドルフは第5魔数。魂力を共同で使ったらいいじゃないかと。
「サン様。貴方の事は知っています。天界軍剣使部隊総隊長及び全戦統合指揮官、天界軍剣使部隊特別育成学院最上級学院長。卓越した剣技の持ち主で約200年前に大天使長に成って以来その剣技には歯止めがかかったと思いましたが、まだまだ成長し続けているらしいようで。全くあいつが喜びますね。――まあいいでしょう。此処で貴方方は最後を遂げるのですから。天使風情が私たちに盾突かずに大人しく要求に応じればこんなことしなくてもよかったんですけどね。流石に私も邪神詠唱を2回も使うとは思っていなかったので魔力が大分無くなってしまいました。なので、これで終わりにしましょう。魔を手中に納めし、我が皇よ。我に参の力分け与へよ。邪之神気参の魔。魔力増幅。起源魔法 終始」
ドウラは右腕に(壹)という文字が刻むと同時に地面に半径10mの魔法陣を描く。
「ルサノ様の魔力をお借りした魔力と私の魔力を注いだ終始です。天滅紅矢雨より威力は上です。果たして、詠唱によって手に入れたその力で太刀打ちできるでしょうか」
魔法陣の右半分が赤色に左半分が黒色に変化する。
「絶望というのは必ず直面する壁です。そして、絶望を越えるには幾多の試練が持ち受けているでしょう。生命はそれを乗り越え成長していくのです。絶望が無ければ生命は怠惰になっていくのです。今こそ貴方方、天使が成長した姿を見せて下さい」
「ルドルフ! 俺らであいつに見せてやろう。他者の世界に干渉した罪を受けて貰おう」
サンはルドルフの元に駆け寄りしゃがむ。ルドルフはサンの肩を持ち、立ち上がった。
「感じられるか? 魂の内側から溢れ出る力を。憎いだろう。奴の眼を見てみろ。俺らを格下と思い、嘲笑ってやがる。故郷が焼かれた日の事を思い出せ。あの時、魔軍を指揮していたのは奴だ。お前は何の為に今まで頑張ってきた? その力は何の為だ? 全てはあの時の事を復讐する為だろ。さぁ、見せてみろ。お前の神髄を」
「そうだった。なんで忘れていたんだろう。あの時、俺は……誓ったんだ。彼女と。――魂 弌」
落ち着いた声で詠唱すると、ルドルフの胸元から白色のオーラが溢れ出る。ルドルフはそのオーラを右手で掴む。
「サン。後は俺にやらせてくれ。あの時の誓いを果たすときが漸く来たらしい……」
「ああ、分かった。お前のその憎しみをぶつけて見せろ」
右手で掴んだ白色のオーラを剣身に塗る。
「頼むぞ、カヤノ。持ってくれよ……天剣魔法 通魔付与」
天剣カヤノの剣身が白色に変化する。何色でも染まることのできる白。可笑しい。通魔付与を使ったことのある者なら思っているだろう。本来、通魔付与を使っただけでは剣身が白く変色しないからだ。通魔付与を使っただけで白く変化する事象は通魔付与が誕生してから今日に至るまで一度しかない。それは――後述二重同時詠唱。詠唱の高度な技術である後述詠唱、二重詠唱、同時詠唱を全て使う詠唱の事を言い、魔法の詠唱の中でトップクラスに難易度の高い詠唱で、太古の昔に行われた統一戦争に於いて二十柱の一人として戦った天使、ヒーロ・グリフローザルトが使ったと文献で記されている。彼女は第1期上級大天使として天界軍に入隊している。
「全てを見通すと謳われる貴様の王に伝えろ。出ていけと……」
ルドルフの両手の手の平にそれぞれ、右手には赤色の。左手には緑色の魔法陣が展開される。両方の魔法陣には通常の魔法を凌駕する程の魔力が詰まっている。一歩間違えれば魂が耐えられなくなり自滅するだろう。ルドルフが「見ろ」というと、彼の両手に展開されている魔法陣から右手には緑色の粒子。左手には赤色の粒子が現れる。
「天使であることを辞めたのですか。そんな手を使って勝っても嬉しくないでしょう? ――まあいいでしょう。魔使……いいえ邪神の力を見せてあげましょう」
「何を言っている? 俺は天使だ。どんな卑怯な手を使っても勝つ。それが俺の部隊、第9部隊の心得だ。総隊長である俺はその心得通りどんな手でも使う。至極真っ当なことだろう?」
「天界軍総合部隊第9部隊総隊及び総合部隊特別作戦遂行部隊隊長である貴方に言っても無駄でしたか……。貴方がその気なら私も本気で殺らなくてはいけませんね」
ルドルフは両手にある粒子を天剣カヤノに浸透させた。すると、白色だった剣身が黄色に変化した。
天剣カヤノを右手に持ち、ルドルフはドウラのところまで歩み寄る。
「無防備で来るとは何と愚かな! 闇魔法 聖天破壊」
ドウラが描いた魔法陣から紫色のオーラがルドルフを襲う。
「それに触れれば貴方は聖天の力を失い、堕天します!!」
「そうか……」
ルドルフは天剣カヤノを横に一振りし、紫色のオーラを一直線に斬る。魔力による剣圧と天剣カヤノに浸透させた粒子の一部がそのオーラを吸収したことにより、紫色のオーラは消え伏せた。
「ちっ、反魔法 佰重結界」
聖天破壊がたった一振りで消えたことに怒り、ドウラは舌打ちをする。その後、白い高さ1000m、長さ3000mはある巨大な結界を等間隔にルドルフと自分までの距離に創った。しかし、ルドルフが天剣カヤノで地面を叩くと、呆気なく全ての結界が割れてしまった。
「貴様には解らないだろう。故郷が焼かれた苦しみ、愛する者が目の前で死んだ哀しみを。貴様ら魔界軍の所為で数多の命が失われ、その多くが転生した。俺にみたいにまだ幼く、これからの人生を楽しみにしていた者も居ただろう。しかし、そんな夢も貴様らの所為で途絶えた。貴様みたいな指揮官は知らないだろう。
脳裏に焼き付き、忘れることのできない蹂躙される光景。
鳴り響く悲鳴。
血塗れな土地、建物。
物陰に隠れ、脅える日々。
ああ、頭が可笑しくなる……。本来であればこんな事に成る筈は無かった。成ってはいけ無かった。あの時、俺に力があれば……そんな事を思っても現実は変わらない。だが、現実逃避しなくては、精神が持たなかった。傍に居る気がしたんだ……彼女が。これであの時の誓いを果たす時が来た――」
「終始、起動。終焉の始まりです」
ドウラが地面に描いた魔法陣から骸骨が地面から這い上がって来た。
「そんな骨を出したところで俺の歩みは止められない。葬ってくれよう」
その骸骨は聖天破壊を斬った際に紫色のオーラを吸収した粒子に触れると、瞬く間に燃え、灰になった。
この場の空気中には緑、赤色の粒子が舞っている。そして、その粒子に触れると、どんな魔法、どんな者でも燃え最終的に灰になる。
ルドルフは天剣カヤノを両手で持ち、怒号を上げ、怒りに身を委ね、走りだした。
「おりゃああああああああぁぁぁ」
〈サン。この力はな、愛する者を護る為にある。そして、今がその時だ。もしかしたら、死ぬかもしれねえ。その時は天界を頼んだぞ〉
ドウラの近くまで走ると、ルドルフは高く跳び、天剣カヤノを振り翳した。
「終わりだああぁぁ。ドウラァ!!」
「良いでしょう。十分伝わりました。天界を護りたいという貴方方の思い、熱情を」
天剣カヤノは粒子の放出を最大にし、自らの剣身を巨大化させた。そして、赤色の粒子によって炎を纏った。不死鳥のごとく炎は火柱をあげる。緑色の粒子はドウラに纏わりつき、自然発火した。
ルドルフは、魔力、神力、体力共に最大出力でドウラの体を斜めに斬った。斬った断面から骨までもが蒸発する温度の炎が燃え移った。しかし、ドウラは悲鳴の一つもあげなかった。
「私の負けです。楽しかったですよ。貴方方の本気を見せて貰って。まあ、私は直に再生します。指揮官の私が負けたとなれば、魔界軍の侵攻も止まるでしょう。その間に貴方方は休息をして、魔力を回復させて下さい。その方が再度戦った時に楽しくなるので。然様なら……」
ドウラは最後までルドルフを嘲笑うかのような眼を変えなかった。
数秒でドウラの体全てが燃え尽き、灰と化した。
ルドルフはそっと、天剣カヤノを鞘に納め、詠唱した。
「オタエジュ、カゲノナ。草神、火神として天に立つ神よ。我の呼に応じ、神力の深淵を覗くことを許可なされ。
全ては、恩君の為。この我。彼の者を今度こそ燃える草の如く滅却して進ぜよう。
深淵魔法 火、深淵魔法 草。
二つの異なる力が混ざる時、禍が訪れる。深淵魔法 火草。
――さようなら。アラ…………」
ルドルフは全ての魔力を使い果たし、その場に倒れた。そして、意識を失った。
やっと、ドウラとの戦いに決着が着きました。
因みに天魔戦争編はまだ続きます。
第◯魔数とは、魔力の量を表す際に用いられる数値で、一般の天使は平均第2魔数くらいです。




