お忍び全裸
ライガン達が山賊を討伐し、アニス達が調査に旅立った数日後…ライガンはいまだに馬車に揺られていた。
「…どうやら順調なようだな」
「そうだな。あれから賊も襲ってくる気配はないし、馬車や積み荷にトラブルもない」
スヴェンはライガンに答えると、軽く伸びをする。
「見えてきたぞ」
そんなやり取りをしている二人に、馬車の御者が声をかけた。
「やっとか」
スヴェンとライガンは馬車の入り口へと顔を出す。
馬車が走っていたのは、なだらかな丘の上だった。馬車から顔を出した二人の視界に入ったのは、その丘を下った先にある壁に囲まれた町だった。
「とりあえず街についたら冒険者ギルドに行かないとなあ。討伐した山賊のこともあるし」
「そうだな」
「しかしお前、良かったのか?討伐した賊に貼った札、全部俺のにしたけど」
そう言ってスヴェンは懐から出した紙をひらひらとさせる。そこには、複雑な魔術の術式がびっしりと書き込まれていた。
この札は冒険者ギルドが配布している魔術札である。賊やモンスターを討伐した際は、拘束した賊やモンスターの死体などにこの魔術札を張り付けておくことが冒険者の義務になっている。この魔術札は張り付けられると、近場の軍の駐屯地と冒険者ギルドへ魔術による信号が送信され、それを受けた軍が賊を引き取るという仕組みになっている。また、札には所有していた人間の情報も魔術的に書き込まれており、冒険者ギルドの方でその情報を管理し、討伐した人間に対して賞金を出すという仕組みになっている。
「かまわない。下手に私の情報を残すと、アニス達に居場所を知られてしまう可能性があるからな」
それを聞いてスヴェンはため息を漏らす。
「お前も大変だなあ」
「まあ、今後の路銀を考えると多少はこちらにも分け前をもらえると助かる」
「分かってるよ」
今度はスヴェンは苦笑する。
(どうしてこうも遠慮深くてストイックかなあ、こいつは…)
賊を壊滅させて隊商を守ったのはライガン一人なのだから、全面的に自身の都合を押し付けたうえで賞金を全額要求するという選択肢もあるはずだった。しかし、それをしないようなメンタリティの男であるからこそ、ライガンという男は常時全裸というハンディキャップを背負いながらも勇者パーティの一員として推薦されたのだろうと、スヴェンは一人納得する。
そんなやり取りをする二人に馬車の御者が声をかける。
「まあ、街についてからのことは街についてから決めてくれ。もうすぐ着くんだから準備してくんな」
御者の言葉に二人は頷く。一旦、馬車内に戻るとスヴェンは道具袋の整理を始めた。特に、討伐した賊から取り上げた装備品の一部は、自身が引き取って今後も使いたいものと、隊商にそのまま買い取ってもらいたいものを分類しておく必要があった。せわしなく戦利品を分類し、道具袋にしまい込んだり、整理して並べたりしているスヴェンを、座り込んだライガンがじっと見ている。
「…………」
「どうした?」
ライガンの視線に気づいたスヴェンが問う。
「……降りる準備と言われたが、することが無い」
そういわれてスヴェンはライガンを見る。ライガンの荷物と言えば道具袋だけである。そして、その中には多少の回復アイテムや食料、そして冒険者ギルドに関連する書類等が入っているだけだ。山賊からの戦利品も『装備品を装備することが出来ない自分には無用の長物』と言い、ライガンはスヴェンに丸々譲っている。
「……たしかに…することないな…」
ライガンは頷く。
「全裸は身軽なれどもすることも無し…だ」
「何の標語?」
スヴェンはため息を漏らした。