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全裸、パーティを抜けるってよ


「…ということがあったわけなんだが…」

 ライガンは、今日起きた出来事の振り返りを締めくくる。

 そしてこう続けた。

「まあなんとなくお前の言いたいことは分かった…、が……」

「が…何よ?」

 なんとも煮え切らない物言いをするライガンにカミラが問う。

「これ、半分くらいお前も悪くないか?」

 その時、周囲にいた聴衆達の心が一つになった。


(両方とも悪い)


 しかし、カミラはそんなライガンの言葉を適当に受け流す。

「んー?そうー?やっぱアンタが悪いわよ、アンタが」

「むぅ…そうか…」

 カミラにそう言われてライガンはあっさり引き下がる。

(チョロいな、ライガン…)

 周囲の人間たちは呆れ返るが、ライガンは気づきもしない。

「しかし、どうしたものか…」

 ライガンは腕を組み再び考え込む。

「どうしたものかって何が?」

「アニスが言っていただろう、クビだと」

 カミラはライガンの生真面目さに呆れてため息を漏らす。

「あんたまさかあの子が酔った勢いで言ったことを間に受けてるわけ?どうせ明日の朝になったら忘れてると思うわよ?」

 カミラの言葉にライガンは首を左右にふる。

「いや、このままでは俺の存在は彼女の情操教育に良くない」

 ライガンの言葉に、周囲の聴衆達の言葉が再び一つになった。


(間違いない!!)


「あー…そう、ねえ…」

 ライガンの言ったことに対して何一つフォローを入れられないカミラの返事も流石に端切れが悪くなる。

「俺はこの『すっぽんぽん』になって大分長い。そのせいですっかり違和感を感じなくなっていたが…、やはり世間から見れば俺は異常なのだ。世間、そして異性というものに疎いアニスがこれ以上俺と一緒に居ては、彼女に間違った男性観を植え付けかねない。そして、そのことが冒険者ギルドと国・教会の間で問題に発生する可能性だって否定できない」

「……」 

 カミラは何も言い返せない。


「だから俺は、これを機にパーティを抜けようと思う」


 そういうライガンの真剣な眼差しを見て、カミラは後頭部を掻く。

「…でもあんた、冒険者ギルドにはなんていうのよ。パーティが不和で解散したなんてことになったら、冒険者ギルドと国でゴタゴタが起きるかもしれないじゃない?」

「うむ。それは俺が力量不足を感じて修行の旅にでた…ということにしておこう。それであればアニスや国、教会、ギルドにも言い訳が立つはずだ」

 ライガンの返答を聞き、カミラはやれやれとため息を漏らす。

「そこまで本気じゃしゃーないわね。この子との旅も中々楽しかったけど、それもここまでか」

 勇者との折り合いが悪ければパーティを抜け、ふたり旅に戻ろうというのは予め話していたことだった。しかし、一緒に勇者パーティを抜けようと考えているカミラを、ライガンが手で制する。

「?」

「いや、カミラ。お前はこのままアニスについていてやってくれ」

 ライガンの言葉にカミラは目を丸くする。まさか自分の情操教育にも悪いとか寝ぼけたことを言い出すんだろうか、この男はとカミラは警戒する。

 しかし、ライガンの回答は予想以上に真摯なものであった。

「彼女はまだ旅にでて日が浅い。お前のような経験豊富で優れた仲間が必要だ。頼む」

 そう言ってライガンは頭を下げる。それを見たカミラが意外そうな顔をする。

「へー、あんたこの子のことそこまで気に入ってたんだ」

 カミラに聞かれてライガンは頷く。

「彼女は非常に誠実で実直だ。きっとこれからも勇者として成長し、多くの人の助けになってくれるはずだ。だから、信頼のおけるお前のような人物に彼女のサポートを頼みたい」

 ライガンのストレートな言葉を受けて、カミラはやれやれとため息を漏らす。

「まったく…分かったわよ」

「ありがとう、助かる」

 カミラの了解に、ライガンは笑顔で礼を言う。

(ほんと、こんな時まで人の心配しているんだから、呆れた…)

 カミラは内心苦笑する。しかし、そんな彼女の内心も知らず、ライガンは伸びをする。

「では、俺は早速今夜のうちにここを発とうと思う。アニスのことは頼んだぞ」

「はいはい、任せといて」

 カミラは片手をひらひらとライガンに向かって振る。それに見て頷いたライガンは、今度は店主の方へと向かって歩き出す。その途中でライガンは地面に落ちていた布袋を拾い上げる。それは、ライガンの持つ道具袋だった。

「店主」

 ライガンに呼ばれ、店主は振り向く。未だに現実を受け入れることが出来ないのか、目の焦点が合っていない。そんな店主の両肩を掴んでライガンは店主に言う。

「今回は俺のせいで店が壊れてしまって誠に申し訳なかった。店の弁償は俺がする」

 ショックを受けていた店主の頭をライガンの言葉がさらにぶん殴る。

「ば、馬鹿野郎、ライガン…!こんだけの店を新たに立て直すだけの金額なんてお得意様だったお前においそれと…」

「いいんだ。どうせ俺は装備品に金が掛からないからな。金なんて余っていて使い道がなかったくらいだ。アンタが役に立ててくれ。これは俺の冒険者ギルドでの決済手形だ。これに必要な金額を書いてギルド受付で処理してもらえば金が引き出せるはずだ」

 ライガンはそう言って、手に持っていた道具袋から紙を取り出し、それを店主に手渡す。

「ライガン…おめえ…」

 ライガンの言葉に店主が泣き出す。

「俺はこれから王都を発つ。店主…それに他の冒険者のみんなも達者でな」

 ライガンはそういうと城門の方へ向かって歩き始めた。その背中をカミラや店主、野次馬、冒険者達は静かに見守った。そのことを知らないのは、未だにカミラの胸の中で寝息を立てているアニスだった。


 

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