6.リリィの適正
リリィにかかった呪いを解いた後、俺たちは宿を出て街へと繰り出した。
次にやることは、リリィの武器を買うことだった。
だが、街を歩いていると、
「――ぐぅぅ」
リリィのお腹から大きな音が聞こえてくる。
俺が思わずリリィの方を見ると、彼女は赤面して顔を伏せた。
「なんだ、腹が減ってるのか」
「……あの、ご主人様……少しだけ……」
「そうか。じゃぁ、先に飯を食おう」
「あの、でも私お金が……」
「心配するな、衣食住は保証すると言ったはずだ」
俺が言うと、リリィは申し訳なさそうに顔を下に向けた。
俺もあまり頭が回っていなかったが、きっと奴隷商の下ではまともに食わせてもらえていなかったことだろう。
戦うにはとにかく気力が必要だ。
腹ペコでも、補助スキルを使ってステータスを強化してやることはできるが、それでは気持ちが持たないだろう。
だから武器は後回しだ。
手近な食堂を見つけ、カウンター席に並んで座った。
「好きなものを頼んでいいぞ」
俺はリリィにメニューを渡す。
すると、リリィは、メニューをまじまじと見る。
そして、視線を動かして――あるところで止まった。
それからもう一度視線をキョロキョロさせて、そして恐る恐ると言う感じで俺に言う。
「じゃぁ、これで」
そう言ってリリィが指差したのは――、トーストにサラダがついただけの一番安いメニューだった。
きっと遠慮したのだろう。
「女将さん、この子にドラゴンミートのハンバーグ定食を」
俺は勝手に、店で一番高いメニューを頼む。
すると、リリィが「ご、ご主人様!?」と声をあげた。
「銅貨3枚と30枚なんて、経営者からしたら大して変わらんから遠慮するな」
「……でも……」
「ハンバーグ、食べたいんだろ?」
「え? い、いや、そんな、あ、いや、その……なんでわかったんですか?」
「目線が止まってたからな」
ダンジョンでモンスターと退治するときに、目の動きを追うのは基本中の基本だ。
なので、自然と目線を追う癖がついていた。
と、女将が俺たちの間を遮ってくる。
「ハンバーグ一つね。そんで、あんたの分は?」
「俺はさっき食べたんだ。悪いな」
「じゃ、一人分ね」
そう言って女将は厨房へと戻っていく。
リリィが本当に申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「……あの……本当に、奴隷の私にはもったいないというか……」
「だから、もうお前は奴隷じゃない。自由の身だ。別にここから去りたいならいつ去ってもいいんだ」
俺が言うと、リリィはブルブルと首を振る。
「去るなんて! ご主人様に仕えさせてください、お願いします! 捨てないでください!」
どうも、俺が怒ったと勘違いしたらしい。
「別に、捨てるも何もない。むしろ、一緒に働いてくれたら嬉しいんだ。貴重な戦力だからな。だから遠慮せずたくさん食べてくれ」
「はい、ありがとうございます。ご主人様」
それから、少しして料理が運ばれてくる。
それなりに美味しそうな見た目だった。
「――ッ」
と、料理を見たリリィは、もうまさに釘付け、と言う感じだった。
「――い、いただきます」
「ああ」
リリィはフォークをハンバーグに突き刺して、そしてそのままそれを口まで浮かせて、かじった。
その小さな唇の周りに、ソースがべちゃりとつく。
むしゃむしゃと噛みながら、ゴクリと飲み込む。
そして、次の瞬間、リリィは涙を流し始めた。
「おい、どうした?」
「あの、いや……美味しすぎて……」
そんな、大げさなと思ったが、長いことあの檻の中にいたのだから、無理もないだろうか。
俺はその栗色の髪を撫でてやった。
ハケンで稼いだ金も、こうして誰かの飯に使えるなら悪くはないなと思った。
†
飯を食べ終えた後、俺たちは当初の目的地だった、武器屋に向かった。
「おお、レイの兄ちゃんじゃねぇか! 今日はどんな用で?」
ガタイのいい主人が出迎えてくれる。
昔からパーティの武器を管理をするのも雑用係である俺の仕事だったので、武器屋にはよく足を運んでいた。
その経験から、この店が街で一番だと知っていた。
「この子の剣を買いに来た」
俺が言うと、主人はリリィを見て首をかしげる。
「剣かい? 獣人の武器といったら、槍と相場が決まってるが」
確かに、獣人の戦士には槍使いが多い。
だが、この子は例外だ。
「いや、剣がいい。なにせ、剣適性が100もある」
俺が言うと、主人は「なんだって!?」と驚きの声を上げる。
だが、リリィの剣適正に驚いたわけではないらしい。
「兄ちゃん、<適正鑑定>のスキルも持ってたのかい!? Sランクの超レアスキルだろ!?」
「まぁ、たまたまな……」
「たまたまって……他にも色々Sランク持ってるのに、全部偶然っていうのか……冗談はよしてくれよ」
「まぁ、俺のスキルはどうでもいいからこの子に剣を頼む。予算は金貨50枚だ」
俺が言うと、今度はリリィが驚きの表情を浮かべる。
「き、金貨50枚!? そんな高いものを私に!?」
確かに、金貨50枚は、俺の貯金全てだった。
だが、ここでケチるのは得策ではない。
それに、この「投資」は、必ず何十倍にもなって返ってくると確信していた。
「命を守る武器だ。それに金を稼ぐ道具でもある。これくらいの投資は当然だ。むしろ、それ以外に使うところがない」
「金貨50か、こりゃ俺のお宝品コレクションが火を噴くな」
店の主人は、ニヤリとしながら店の奥に行き、一本の剣を引っ張り出して来た。
「こいつはどうだい。魔法剣で、持ち主の成長に合わせて丈が変わる」
俺は念のため<鑑定>スキルで渡された剣を見る。
――もちろん値段に見合ったものだった。
「ちょっと持ってみろ」
俺がそう言うと、リリィは主人から剣を受け取って握りしめる。
「どうだ?」
「すごく軽いです。それに持ちやすい。なんかしっくりきます」
「よし、じゃぁこれで決まりだ」
俺は主人に有り金を全て渡す。
「毎度」
「ありがとうございます、ご主人様!」
鞘に入ったままの剣を、両腕で大事そうに抱え込むリリィ。
「さて、リリィ。これで俺は持ち金が全部なくなっちまったわけだが……」
俺が言うと、リリィはハッとして顔が真っ青になる。
「ど、どうすれば……」
――冒険者ギルドが、金を稼ぐ方法は、たった一つだ。
「ちょっとダンジョンに行ってみるか?」
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