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鏡の向こう

作者: 日下千尋

「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番美しいのはだーれ?」

「それは白雪姫」

私は5歳の時、保育園のお部屋で何度も読んでいた白雪姫の話の一部だった。

それ以降私は鏡で自分の姿を見る習慣が出るようになってしまった。

私、中山春美は16歳の高校1年生。

東京都町田市の女子高に通っていて、周りはとても静かで過ごしやすい環境になっている。家も学校からバスで片道15分なので、比較的通いやすい距離となっている。

ある日の昼休み、教室で「4時44分になると鏡の世界に行ける」という話が飛んできた。

正直、そんな話は決まって迷信だと思っていたので、耳など傾けるつもりはなかった。

帰りのバスの中、私はイヤホンで音楽を聴きながら鏡を見つめていたら、保育園からの幼馴染で近所に住んでいる岡上麻衣子に会った。

「また白築姫に影響されて鏡でも見ていたの?」

「ちょっと自分の顔が気になって…」

「ウソばっかり。春美は昔から白雪姫に影響されていたよね。保育園でも、小学校でも、中学校でも決まって誰もいないところでこっそり『鏡よ鏡さん』って言っていたよね。」

「そんなことあったっけ?」

「あったわよ。もう、春美は照れ屋さんなんだから。」

麻衣子は笑いながら言ってきたが、私は正直恥ずかしい思いをした。

ちなみに麻衣子とは家が隣同士だった。

家に戻って鏡を見ていたが、特に何も起こらなかった。

自分の顔を見ていてもしょうがないと思って、私はパソコンを起動してインターネットで鏡の世界の話を調べてみた。

しかし、どれもうさんくさい内容ばかりだった。おまけに鏡の販売の宣伝までしてくる始末だったので、正直諦めて、録画したアニメを見ることにした。

夕方食事を済ませた後、私は思い切って麻衣子に鏡の世界のうわさについて話を持ち掛けることにした。

「麻衣子、こんな話を持ち掛けたら笑われるかもしれないけど、今日クラスで何人かが鏡の世界のうわさをしていたけど、麻衣子は信じる?」

「その前に聞きたいけど、それってどんな内容だった?」

「4時44分に別の世界に行けるという話。」

「私は正直わからない。学校のうわさを確かめたいなら試しに4時44分になったら鏡の前に行ってみたら?」

「そうるね。」

電話を切った後私はスマホのアラームを4時にセットしてみた。果たして起きられるか不安になってきた。

アラームがなり、着替えを済ませ玄関から靴を用意して4時44分になる瞬間を待っていた。

スマホの時計が4時44分になった瞬間、私は鏡に手を当ててみたが、特に何も起こらなかった。

時計を見たら4時45分になっていたので、その日は断念した。

昼休み、噂の張本人である大口裕子に聞いてみたら呪文を唱えないと鏡の中へ入れないらしい。その呪文とは「鏡よ鏡さん、私を鏡の世界へ連れて行っておくれ。」と言って、反対に戻るときには「鏡よ鏡さん、私を元の世界に戻しておくれ。」ということになっている。

こんな子供だましの話を鵜呑みにするつもりはなかった。

次の日から学校はゴールデンウイークになるので、それを利用して体験をしてみようと思った。

4時44分、私は「鏡よ鏡さん、私を鏡の世界へ連れて行っておくれ。」と言って鏡に手を当ててみた。すると今度は水のようになっていて、体が吸い込まれて行ってしまった。

そのとたん、私は床に落ちてしまった。

あたりを見渡すと自分の部屋そのものだった。特に変わった様子はなかった。

もしかして失敗だったのかと思ってしまった。

しかし、どこか違和感がある。ベッドや机の配置がすべて反対になっていた。

試しに外に出てみた。

特に変わった様子がなかった。

貼り紙の文字などは特に変化なし。

通りに出て、車の行き交う様子を見たら違和感を覚えた。左側通行が右側通行になっていたり、車も右ハンドルではなく、左ハンドルになっていた。

まるで海外にいる感じだった。

それだけではなかった。すれ違う人々を見たら顔が外人みたいな顔していた。

もしかして、言葉も英語?そう思って試しに誰かに話しかけてみようと思ったが、話すきっかけがなかったので、あきらめた。

もっとこの世界について調べてみようと思った。商店街、近所の公園などだった。

ここで気になったのは子供が着ている服だった。どこから見てもコスプレだった。子供だけではない、親もそうだった。

どうなっているの?ハロウィンかなと思ったが、そうでもない。それとも何かの仮装?イベントの案内などどこにもなかった。

子供が「お母さん、このおねえちゃん、コスプレしているよ。」と指さしながら言ってきた。コスプレはあんたたちでしょ?って突っ込みたくなってきた。

「しっ、見ちゃだめ!」

私がコスプレで、あの親子が普通の格好?ありえないでしょ?

だんだんおかしくなってきた。

「あら、今日は学校休みなのかい?」

後ろを振り向いたら、近所のおばあさんだった。よく見たら、おばあさんがセーラー服を着ていた。

「失礼ですが、何か仮装でもあるのですか?」

「仮装?これがかい。これは普段着だよ。」

「お前さんこそ、昼間から学校サボって、こんなコスプレまでして!」

「これは普段着ですよ。それに今日はお休みですよ。」

「何いってんだい!今日は学校がある日なんだよ!そんなに言うなら学校へ行ってみな!」

私は半信半疑、バスに乗って学校へ向かってみた。

バスに乗る際、定期券を端末にタッチしようとしたら、読み取り装置がなかったので料金箱にお金を入れようとしたが、料金箱もなかった。

「あの、お金はどちらに入れるのですか?」

「お金なんか払う必要ないよ。」

「じゃあ、ただ乗り?」

「何言っているだよ。それが普通でしょ。あ、納得した。こんなコスプレなんかしていたらわかるわけがないか。」

「運転手さんこそ、なんですか、この姿。」

「何言ってんだよ。これは制服じゃないか。」

「制服って言うより。コスプレに近いんですけど…。」

運転手の姿は明らかにゴスロリだったが、あまり言い合っても仕方がないので、バスに乗ることにした。

校門に近くへ行ってみると、みんな制服姿だったので、これだけは安心した。

この世界はおかしすぎる。私を見て、コスプレっていうから。

一度戻って、麻衣子の家に行ってみようって思ったがよくよく考えてみたら、麻衣子は学校にいるはずだったので、自宅へ戻ることにした。

このままだと職務質問されてもおかしくない。こっちの世界では私の姿はコスプレの扱いになっているから。

バス停に向かう途中、案の定巡回中のおまわりさんに遭遇した。

「君、学校も行かないで何してる?」

「これから家に帰る途中だよ。」

「家に帰ってどうするつもりだ?」

「忘れ物を取りに行くだけです。本当です。信じてください。」

「こんなコスプレみたいな格好している人間の言葉など信じられるか?」

「これからバスに乗って帰りますので、すみません失礼します。」

「おい、こら待て!」

私は走って、おまわりさんから逃げることに成功した。

家について、自分の部屋に戻り、クローゼットから制服を探した。

クローゼットを見ると明らかにコスプレ衣装ばかりだった。

もしかしたら、こっちの世界の私が存在しているかもしれない、そう思って制服着替え、ウイッグとカラコンしてさらにマスクして学校へ向かった。

さすがに私だとばれていないみたいだった。

学校へついて、校舎の中へ忍び込み、様子を見ることにした。

教室を一つ一つ覗くのは面倒なので、自分の教室へ行ってみることにした。

そっと覗いてみたら誰もいなかった。

移動教室かな。そうなってくると考えられるのは音楽、美術、体育、理科の実験、家庭科の調理実習が濃厚的になってきた。

最初に回ったのは音楽室。しかし何も聞こえてこなかった。次に、美術室。誰もいない、次に体育館と校庭もハズレだった。残るは理科室と調理室の2つになった。

家庭科室へ行ってみたら、ビンゴだった。

麻衣子と私の姿が見えた。でも、ここで話しかけると面倒になるからいったん学校を離れて、作戦を立て直すことにした。

校舎を出ようとしたら生徒指導部の先生に声をかけられてしまった。

「お前見ない顔だが何してる?」

「実は転校性なんです。実は今日体調が悪いので今日は早退させていただきます。」

「名前なんていうんだ?」

「中山あゆみです。」

「中山あゆみ?聞いたことないぞ。」

「中山春美の従姉妹なんです。」

「何年何組だ?」

「1年C組です。」

「1年C組って、担任は三ノ輪先生か。」

「はい、そうなんです。」

「疑って悪かった。体調悪いんだろ。気を付けて帰れよ。」

生徒指導部の先生があっさり帰してくれたから助かった。

とりあえず、あの学校へ近寄るのはやめにしておこう。

お腹が空いたから、近くで食事ができる場所を探してみた。

バス停とは反対の方向を歩くと、牛丼屋があったのでそこで食事を済ませた後はどうしたらよいものか。

もう一度家に戻って、洋服に着替えたいのだが、またコスプレと思われるから白ロリに着替えて、洋服は手提げ袋に詰めて、麻衣子に会うことにした。

夕方まで自分の部屋で張り込みをしていたら、鏡の世界の私と一緒に帰ってきた。

家が隣同士だから仕方ないけどね。

私は鏡の世界の私に気が付かれないように、麻衣子の家に行った。

ちょうど家族は出かけているようだったので、家に入れてもらうことになった。

「誰?」

「私、春美。ちょっと訳あってこの姿でいるの。」

私はウイッグとカラコンを外して麻衣子に見せた。

「本当に晴美なんだね。よかった。この世界、何だかへんだよ。」

「じゃあ、現実世界の麻衣子?」

「うん。」

麻衣子は私の前で今までのことを全部打ち明けた。

学校で聞いた呪文のこと、そして4時44分になったら鏡の世界に行けること、考え方などが正反対になっていることなど。

こっちの世界の麻衣子が戻ってくる前に近くのビジネスホテルに行こう。

そして、そのまま元の世界に戻ることにした。

次のバスが車で10分近くあったので、自販機に行って飲み物を買ってこようとした。

しかし、自販機は食べ物ばかりだった。

確かに飲み物って書いてあるのに、売っているのは菓子パンやスナック菓子だけだった。

仕方がないので、バス停に戻り、駅前まで向かうことにした。

「学校にいた時、麻衣子を見かけたけどあれは現実世界の麻衣子?」

「うん、鏡の世界の住人に成りすませて学校へ入ってみた。」

「授業ってやっている?」

「ほとんど遊びだった。」

「何か手掛かりはつかめた?」

「特にない。」

「そっか。」

バスは駅前について、そのままビジネスホテルを探した。

探して15分、駅前から少し離れた場所にお城のような建物があり、入り口には「ビジネスホテル」と書いてあった。

すぐにチェックインを済ませ、私と麻衣子で一部屋にした。

近くで夕食を済ませた後、軽くシャワーを浴びて一休みをしていた。

「そういえば帰りって、時間は4時44分?」

「聞いていなかったな。その時間なら大丈夫じゃない?」

それを確信してアラームを4時にセットした。

朝4時に目を覚まして着替えを済ませ、準備を整えたらあとは4時44分になるのを待つだけ。

ところがドアの外で妙な会話が聞こえてきた。

「こっちの世界じゃない人間が紛れ込んでいる。」

「どうしたんです?」

「スパイだ。それも高校生ぐらいの女の子が二人。このホテルに泊まっている。しらみつぶしに探し出せ!」

時計は4時42分。この2分がやたらと長く感じる。

足音がだんだん近づいてきた。念のためにチェーンまでしておいた。

私たちを狙っている人は誰?悪者?警察?どっちみに私たちを狙っているのことは確かだった。

今すぐ逃げたい。

時計は4時43分、万事休す。

ドアを強くたたく音が聞こえた。

「すみません、警察です。中を開けてもらえますか?鍵を閉めても無駄ですよ。こちらにはマスターキーがありますから。」

まだ4時43分。この1分がやたらと長く感じる。

「お二人さん、それとも名前を呼びましょうか。中山春美さんと岡上麻衣子さんでよろしいですね。スパイ容疑で逮捕しますから。」

時計は4時44分、私と麻衣子は洗面所の鏡に向かって呪文を唱え始めた。

「鏡よ鏡さん、私達を元の世界に戻しておくれ。」

そのとたん、鏡が光りだし、私と麻衣子を吸い込んでいった。

男が入った時には私たちは元の世界に戻れた。

次の日から平凡な毎日、代わり映えのない学校生活が始まった。

特別なものはいらない、家と学校を往復するだけの日々を過ごすのも和少ないと思った。

鏡の世界はもうこりごり、普通の生活をするのが一番の幸せだと私は思った。

連休明けは学校行事が盛りだくさん。中間試験、体育祭など。

それが終わると、期末試験と言った流れだった。

あの一件以来、私は鏡を見る回数が減ったのだが、それとともに鏡に対する恐怖も覚えた。

そして4時44分には接待に鏡に近寄らないと誓った。

さて、話は夏休みに飛ぶことにする。

私と麻衣子はクラスのみんなと花火大会をやったり、肝試しをやって楽しんでいた。

場所は学校近くの市営墓地だった。

真暗で足元がほとんど見えていない。

トイレの洗面台にある竹ひごをもってきて、戻ればゴールという流れだったのだが、その道のりは結構怖かった。

トイレについて、鏡を見た途端、私たちを狙ってくる連中が来るのではないかと少しおびえていた。

でも何もなかった。

私と麻衣子は竹ひごをもって戻り、無事ゴールした。

帰りはバスがないのと、夜道で危険という理由でクラスメイトの親の車に乗せてもらい帰宅した。

その日の夜中、夜空を見上げてみたら宝石をちりばめたような星空だった。

東京でもこんなきれいな星空が見られて、正直驚いた。

そして天と星に誓った。2度と鏡の世界にかかわらないことを。



おわり。

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