8 痛み分け
白いシーツの上に広がる茶色い髪をそっと撫でた。
アエラは、目を閉じて起きているのかいないのか分からない友の呼吸音に耳を澄ませていた。
授業開始のベルが鳴り、この部屋、保健室にいるのはアエラとマリアナ。それから隣の部屋で資料に目を通している先生。
静かな部屋の中、眠たくなりそうなほどの柔らかく暖かい空気が流れていた。
なるほど、空調はバッチリと言うことだ。
ぜひ、天界にも導入して欲しいものだ。
それはさておき、
どうも調子の悪かった友を心配して、珍しく真面目な顔のアエラは、無理に聞き出すことも考えたが、結局、彼女からその理由を話し出すのを黙って待っていた。
「………アエラ…授業は?」
「ん~?別に出なくても良いやつ。あの先生、テストでしか点付けないし。」
「でも、分からなくならない?」
「魔術科目って聞いてもよく分からないんだよね。私のは自己流だし。」
「……ふふっ、確かに。」
布団の下、笑いを溢した友達につられてアエラも笑った。
隣のベットに座っていた先生の持ち物であるクマのぬいぐるみが嬉しそうに身を震わせた。
アエラの魔法は、何も自分が出したぬいぐるみだけでなく、その近くにあるものなら操れるのだ。
その『操る』と言う魔法こそ、彼女が自己流であることを示しているのだが。
「自己流でも、アエラの魔法は凄いわ。レクチャーして欲しいくらいだもの。」
「むぅ、難しいなぁ。先生に聞かれて答えたけど、結局理解してもらえなかったんだよね。」
「先生でも?」
布団の陰になって顔は見えないが、驚いていることが声から分かった。
そりゃあ、驚くだろう。
ここの教師はすべからく王国最高峰の知識の持ち主達だからだ、彼等に分からないなら誰も分からないとすら言われているのに、分かる奴がここにいるというわけだ。
「う~ん。ほら、魔法ってさ、ある程度の定型しかないわけ、呪文とか、そう言うのは誰かが産み出した仕組みを皆が理解できるように作られた説明書なわけで、大切なのは『Personal definition』つまり、個人的定義。こうなるからこうなるんだぁ~ってのをはっきり持てれば誰でも出来るの。」
「う~ん。そんな簡単かしら?」
マリアナはいまいち納得できないように唸る。
あたり前だ、この説明でやってみようとして出来たやつは一人もいない。
いわばこの理論すらも彼女の個人的定義であると言える。
これで納得することが出来るのは彼女しか今のところいないのだ。
「………難しいな…。同じ歳で、同じ学校に来ていて、こうして話してるのに、アエラのこと何も分からないわ。」
「何もじゃないでしょ。始めよりは私を理解できているはずだよ。それに、私もソフィアンも、あなたのことも周りに皆のことも、完璧に理解できる人なんていない。私の兄弟すら完璧に理解できないしね。」
「……アエラは、私のこと分からないのですか?」
「う~ん、完璧にはちょっと無理かな。今こうして、具合が悪いことの理由すら分からない。だから、こうして着いていることしか出来ないんだ。ごめんねぇ。」
「………いえ、此方が悪いのです。」
アエラのはにかんだ声にマリアナは布団を握りしめた。
彼女は、彼女の友達の時間を自分の身勝手で奪っているような気がしたのだ。
「ここ最近……体中に腫れ……と言うか、赤く湿疹が出ているのです。」
「それは……病気?」
「私もそう思って、あまり人に近付かないようにしてましたの。でも、エリック殿下には相談できなくて、何となく顔合わせ辛くて………。」
語尾が小さく弱々しくなっていく。
自信がないのだ。
不安なのだ。
それがアエラには痛いほど伝わってくるのだ。震えるからだと声から。
誰もがそうだろう、自分の体のことをよく分からないというのは、不安になるのだろう。
「……診療所やお医者にかかったほうが良いと思うよ?」
「ですわよね……。ですので、今度の休みなどに行こうかと。」
「そうしなよ。」
こんな助言しか出来ないけどさ、、とアエラは笑う。
身体的なことには其処まで手が出せないのは仕方のないことで有る。
素人が手出ししてもろくな事にはならない。
勿論、緊急の時はそれこそ一刻をあらそうときは違うだろうが。
「よし、そうと決まればお出かけの準備だぁ!!」
感じた負の感情を取り去るように、アエラは元気よく叫んだ。
「うるさい。」
「あいてっ……」
先生に頭叩かれたが。
***
こんにちは。まりりあです。
最近寒いですねぇ。花冷え、でしょうか?とにかく、朝と夜が寒い。
夏になったら熱い熱い言うのでしょう。
全く、耐え性のない動物ですね、人間は。
ココア飲みたい。
では、次の機会に。




