花
イライラとヒールの低いパンプスを踏みながら、アエラは壁の花となっていた。
所謂社交界。
ダンスパーティーだとか、お茶会だとか、そう言ったものを心底嫌うアエラは、いつものことながら断ろうと思っていたのだが、友人に無理にと勧められ、さらに早朝にご自宅訪問されるという俗に言う「アーエラちゃーん遊びましょう~」「はーい」をされたことにより、大変不本意ながら参加しているのである。
つい癖で、はーい、と言ってしまったのは現代日本人のアニオタの悲しい性………クスン。
「……あれは誰だって、『はーあーい、うん、マリアナちゃんって言うの』って言っちゃうでしょ。おじいちゃんちに行く度に森の妖精と五月の名を持つ姉妹のお話し見てた私を舐めるなよ……リコーダーで主題歌吹けるからな……、」
などと、不毛な発言をブツブツとしていた。
折角綺麗に着飾ったり、メイドさん方やお母さんによってたかられてメイクまで綺麗に施されているのに、影で恐ろしい気迫を纏っていたら誰も寄りつかない。
と言うか、怖い。
「アエラ、君は何時までそうしているつもりだい?」
「つか、ラクト……なんで来てるのさ。」
「僕も呼ばれたの。いや~君と来られて良かったよ。」
「なにが?」
「僕もなかなかこういう場には出てこないから、注目されるかと思ってたんだけど、君の方が目立ってて、僕なんてそうでも無かった。」
良かった良かったと笑うラクトの背後、チラチラと感じる視線にアエラはため息を吐いた。
「私を盾に使わないでよ~。クマ……もう帰ろう。」
『クマもそょれで良いと思う。』
「だよね。ここの空気は肺に毒だ。そう……まるで腐海……」
『クマ、肩ににょろうか?』
ドレスのレースの肩の部分にクマが乗ると、アエラは、壁に向かって小さくランランと歌い出した。
そう、あれである。
察しろ。
「それは……何か儀式かい?」
「儀式………ああ、うん。それでいいよ。」
説明するのも面倒くさいアエラは、適当にひらひらと手を振って話を流した。
これにはラクトもため息をついた。
そして、肩に乗るクマの頭を撫でると、
「クマくん。君の主はもう駄目みたいだね。」
『くまあ~?』
そっとわらった。
「ちょっとアエラ!久しぶり!」
「う、見つかった。マリアナ。」
明らかに嫌そうな顔をしたアエラに、マリアナは容赦なく近付くと、左手の人差し指でおでこを弾く。
パチッ、と小さな音がして、アエラは眉間に皺を寄せた。
「痛い。」
「その反応。昨日夜更かししたわね?」
「………そんなにしてない。」
「何時に寝たの?」
「…………五時?」
「朝の?」
「AM」
「この子……お馬鹿さんだわ。」
「ようやく気付いたのですかマリアナ嬢。」
「いいえ、再確認よ。」
朝の五時は寝る時間じゃない、とマリアナとラクトは頭を抱えた。
学生の頃から変わらない、この夜更かし癖は未だかつて健在である。
学生でなくなり、授業もなくなったためよっぽど顕著である。(不良生徒でも授業には出ていたアエラさん。)
「ほんとに、体に悪いわよ。」
肩をすくめて、子供を諭すように言うマリアナに、アエラは口をとんがらせて余計なお世話だというようにブツブツと言い返した。
「いいもん、回復魔法使えるから。」
「そういう問題じゃないでしょう!」
「どういう問題なのさ!」
「回復魔法じゃ、身体の回復は出来ても、精神の回復は出来ないって言いたいの~!!」
優しい笑みに青筋を立てたマリアナさんはそりゃあ恐ろしかったですわ。
天使泣きそう。
小さい拳でアエラの頭をぐりぐりする。両方から。
あんまりいたくないだろうが、アエラは困ったように顔を顰めた。
「本が面白すぎるのが悪い。」
「子供じゃないのよ?寝なさい!と言うか、友達にこんなこと言わせないで!」
私は貴方の母親じゃないの、と、マリアナ。お疲れさまです。
「マリアナ母さん。私眠いから帰る。」
「ちょっと待ちなさい。誰がお母さんだって?」
「……良いじゃん。年上じゃん。」
「一歳しか違いませんわ!」
「一歳で産んだんだよ。」
「………はぁ………。」
もう溜め息しかでない、というふう。
ラクトはその二人の様子をただにこにこ見ていた。
「で?呼んだってことは何か用事があるのでしょ?」
「あ、ええ。」
「相変わらず急に本題に入るね。」
肩からクマを下ろして、アエラはそれをマリアナに渡す。
受け取ったマリアナはクマを一撫ですると、アエラの耳元に口を寄せてきた。
「王子様は今あんまり外に出られないから、直接貴方から来てもらうしかなかったの。ごめんなさいね。」
「良い。どうせそうだろうと思ってたから。」
ラクトに少し人払いして欲しいという風に目配りすると、アエラとマリアナはこそこそと話し出した。
「で、どうしたって言うの?」
「ええ、それより今から話すことは他言無用よ?」
「やけに勿体ぶるわね。なんなら盗聴阻害魔法とかかける?」
「………そんなのあるの?お願い。」
「おお……お巫山戯で言ったのに」
はいはい、とアエラは面倒くさそうにちゃちゃっとまじないをかける。
面倒くさいなら言わなきゃ良いのに、とラクトがそう思ったのには天使も同意である。
「で?わざわざ何の話よ?」
「………話は5日前に遡るわ……」
「わぁーお。120時間分の話を聞くのは流石に骨が折れそうだよ。」
「王子が私を呼び出したのよ。」
防音魔法をかけていても尚マリアナは声を潜めていた。
「どうも近頃家臣の一部が不穏な動きを見せてるみたいだから充分気をつけろって。」
「今に始まったことじゃないでしょ。」
「ええ。でも今回はどうやら少し違うみたいで。」
「なにが?」
「相手が。かしらね。」
「相手が違う~?あの王子さまから見たら他のだれかなんて有象無象でしょうに。」
「そうでも無いわよ。特に。」
マリアナはアエラの大きく開かれた首筋を撫でる。
擽ったそうにまゆを寄せたアエラの耳元でこそっと言葉を残した。
「特に貴方たちはね……、」
「……あっそ。」
***
こんにちは!!
お久し振りです。
じつは、スマホの買い換えと同時に使えなくなってて……ようやく使えるようになった!!
今日からは名前も変えて心機一転頑張っていきます!
せめて……これは書き終わらせたい……




