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トリッキーさは相も変わらず。

薄い紅をおくのもアイラインを引くのも、わりと慣れてきたように思う。

学生時代のアエラが見たら、きっと驚き戸惑うほどに、彼女は普通の女生と同じような化粧をするようになっていた。

クマはまだいる。

時々喋る。

『にゃんだぁ!もんくあんのにょかい!』

『そーじゃ、そうしゃ!!』

…………。

相変わらずうるさい。

そこまでなにも変わらなくても、やっぱり変わるものは変わる。

学生が学生でなくなり、そのまま研究者として大学部院生になった者もいるが、大体の者が家を継ぐために学び舎をはなれた。


そして、アエラ、テオドールもそのうちである。


「アエラ、君はいつも暇そうにしているね。」

金髪の青年が、だらしなく椅子に横たわる女に話し掛ける。

女は面倒くさそうにそちらを見て、また面倒くさそうにため息をついた。

「ラクト、貴方仕事は?」

「父が殆ど手を貸してくれるから。それに仕事は得意なんだよ。」

「あっそう。で、なんでわざわざ私のところに来るのよ。」

「婚約者だから、当たり前でしょう。」

「doubt、本当は研究してる魔法について知りたいだけ。」

「バレた?」

ビシッ、と指さしたアエラにラクトは困ったように笑う。

幼さの残る顔に随分と大きくなった体はそれでも不格好でなくて、世間一般的に言うイケメンなのだろう。

彼とこうして巫山戯合えるのも、アエラくらいなものだろう。

「未だに私と勝負を付けようもしてるのは知ってるよ。私の勝ち越しで卒業したものね。」

「……ああ。でも今じゃ僕の方が強いかもよ?」

「別に良いわよ、貴方の方が強くても。私はもう、強さなんていらないから。」

「才能あるのに勿体ない。」

「才能より欲しいものもあるのだよ。」

「君の魔法は平和的だが強力だ、国からの依頼も受けてるんだろ?」

「脅されてやらされてるの。あんの王子、本当に嫌いだ。」

「まあまあ。君の親友と近々婚礼の儀を行うんだろ?」

「………友人として呼ばれてる。代わりに行ってよ。」

「良いけど、多分当日迎えが来るんじゃない?君のことよく知ってる二人なんだから。」

む、お顔を顰めたアエラ。

その眉間に寄ったしわをラクトはそっと撫でた。

「バニーライン。しわ寄せちゃ駄目だよ。」

「うるさい。」

不躾に触ってきたラクトの手を叩くと、アエラは立ち上がる。

お腹の上に載せていたハードカバーの本を閉じて机の上に置くと、相変わらず丈の短めのスカートの上からエプロンを着ける。

「なにを?」

「今日は依頼が二件入ってるの、一件は病院。どこぞの貴族のご子息様が、魔物退治で満身創痍らしいわ。治療にあたれって。」

「………若いの?」

「態とらしく嫉妬したみたいな声ださないで。私達より二つ下よ。」

「態とらしかった?」

「かなり。」

今度は気をつけるよ。と悪びれもなく言う彼に呆れたようにため息をついた。


「嫌がりなさいよ。わざわざ婚約解消していた女が、また婚約者に逆戻りよ。おかしな魔法使う、クマの人形が好きな婚約者なんてまともじゃないわよ。」

「君がそれを言うのかい?」

馬車を出すほどでないからと、レースの帽子を被って、重たげなボストンバックを持って歩く アエラが後ろをついてくるラクトに自虐的に言う。

それでも、ラクトはそっと笑った。

「別に、いやじゃなかったからね。君は変な奴だが面白い。」

「はいはい、道化としては有力ですよ~だ。」

「そう言うわけじゃないさ。君は、いわばこの国の猟犬。テオドールさんも君も、よく読めない人達だから、一緒にいると楽しいのさ。」

「良く読めない……ねえ。」

アエラの隣に浮いていたクマがくるりと回る。

それからばたっと腕を動かした。

「読めなくて良いよ。他と私達じゃあ、生きてきた世界が違うの。」

「……わかってるさ。君たちの家は特別だ。」

「家の話をしているわけじゃ無い。……なんと言ったら良いのか。」

ガヤガヤとした市場の中で、アエラは首をかしげる。

「こことは違うところを私達は知っている。としか言いようがないかな。」

「国一番の貿易市であるこの市場の人でも知らないような?」

「そう。この世界の誰も知らない世界を私達は知っている。って、言ったら驚く?」

「今更だな。」

「あっそ。」

どこか異国のスパイスの美味しい香りの漂うお店や取れたての野菜などの並ぶ出店を横目に二人は歩く。

若い人から高齢の方まで、良く賑わっている中で、ラクトはふと足を止める。

先を歩くアエラは気付かず、そのまま歩いて行こうとするが、ねえ、と声をかけられ足を止めた。

面倒くさそうに振り返る。

「これ、君に似合いそうだね。」

「………買い物しに来たわけじゃ無いのよ?遅れるから急ぐ。」

「え~。あ、お姉さん、これ一ついくら?」

仮にも金髪のイケメンに話し掛けられてお店のお姉さんはあたふたと答える。

そのようすを楽しげに見ているラクトを、アエラは呆れたように見ていた。それでもまってるって、アエラちゃん優し……

「東洋のガラス細工のイヤリング。」

「………何か、企んでるの?」

「まさか、ただのプレゼント。婚約者にプレゼントするくらいは、僕も甲斐性があるさ。」

「……くだらない。」


耳に付けていた金木犀の花の飾りを取ると、渡されたそれを付ける。

黒い髪の前で輝くそれを、ラクトは満足げに頷いた。

アエラは眉をしかめると、さっさと病院に向かって歩き出す。

可愛い分かりやすい照れ隠しである。


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