全を捨てる覚悟
「ということがありまして………」
「ほぉ……」
「あー、怒ないで?悪いことした自覚はある。」
「いや、私は今わかったのだよ。この国で何か起きたらいや、最早この世界で不可解な何かが起きたらとりあえずアエラのこと縛り上げればどうにかなる。」
「私の起こすバタフライエフェクトの強力さよ!」
ばたばたと暴れながらアエラはお約束のぐるぐる巻きにされて椅子に縛り付けられていた。
クマと共に。
思いっきり逃げようとした彼女を秒で捕まえた王子様は慣れた手つきで縛り上げた。
王子様曰く、イノシシとかクマと同じだとのこと。
狩りよく行くのかな?
アエラちゃん可哀想。
「女子学生を縛り上げるなんて………」
「うるさい。君は学生である前に事件の重要参考人だ。」
「重要な参考人なんだから優しくしてよ!」
『そうじゃ!クマも苦しいのじゃ!』
『ここからだせ~!いだ!いだだ!!放せぇ~!』
「………出せっていったから、出してあげたのだけど?」
王子様はクマの耳を掴むと、そのままぶんぶん振り回した。
クマたちの悲痛な叫びが上がる。
アエラに至ってはその鬼畜な行為に目を見張ったまま言葉も出せないでいた。
「あまり、私を怒らせないでくれ…、」
『もげるから!耳もげるからぁ!!』
『クマ!!おにょれ~どうせ振り回すなら我に………え?あ、ちょ……まっ、冗談だかりゃぁ~!』
「振り回されたいなら始めから言ってよ。」
ついに両手にクマとネコを持ち回し出す。
遠心力とスピードでクマ達の耳の付け根からビリッと行きそうだ。
一国の王子が両手に持ったクマとネコのぬいぐるみを振り回すというシュールな絵(目の前に縛られた少女付き。)を研究者達は黙ってみていた。
人形達の大きな叫び声も耳に入っていないように。
「アエラ、そろそろ吐いたらどうだい?副部長と呼ばれる彼が、犯人なんだろ?」
「…………。」
「睨み付けないでくれ。これじゃあ悪いことをしているみたいだ。」
『いや、じっしゃいクマを振り回すことは悪いことぉぉぉ!!』
「口の減らないクマ君だねえ。そんなに遠心力を感じることは楽しいのかい?」
『じぇんじぇんたのしくにゃいい!!』
スピードアップしたクマたちにアエラはようやくやめて、と呟いた。
嫌にしおらしい声にエリックは手を止める。
クマたちが静かに綿を吐き出していた。
「いやに素直だね。話す気があるなら、最初から話しなよ。」
「話す気なんて無い。ただ、言いたいことがある。」
王子のクマの耳を持つ手に力が入る。
クマたちの小さな悲鳴が聞こえた。
アエラはその声にほんの少し眉根を潜める。
「この事件は、ただの殺人で終わらない。この犯人は逃がしておけば国王暗殺の事件を大きく出来る。いわば、国の貴族社会の暗部をあぶり出せる。」
「そのために犯人を泳がせろと?そんなこと私には出来ないよ。」
「今日食べるために小魚を釣って、一年後の大魚を死なせるつもり?」
「一年後。一年あれば私はその魚を見つけ出して自分の水槽でいいように飼ってみせるよ?」
「パワーも知恵も持つ、そんな大魚はあなたの手に余るでしょう。近づき過ぎたら丸飲みにされるわよ?」
「君もテオドールもいるだろう?守ってくれるだろ、私の専属のシェフ達?」
「………ネタで言ってるとしたら笑えないわ。」
「ネタを言っているのは君だろう?」
ブルブルと震えるクマを王子はそっと撫でた。
アエラも握っていた手を緩める。
「君とたとえ話をするのはいやだねえ。」
「私もそう思うわ。面白くない。」
冷めてしまった紅茶のカップを王子は傾ける。
手も足も出ない(物理)アエラはうっすらと笑いながらそれを見ていた。
「しかし、君と関わるといつもあの雷の少年の凄さを思い知るよ。」
「ラクトが?なんで?」
「彼くらいだよ、飽きもせずに自ら君に話し掛ける猛者は。」
「あいつは物好きなだけだよ。婚約者でもあったから思うところもあるのかねえ。」
「そんなものかな。いっそ……」
破棄した婚約無理矢理修復して、一生手綱握らせれば楽なのに。と、口にはしなかった。
しなかった。
「いっそ?」
「いや、なんでもない。」
「気になるじゃん。」
何でも無いとついで言うと、へいへいとアエラは適当な返事を返し、体を揺らした。
未だ解かれない縄を見て、それから周りに視線を走らせた。
近くにいた研究員達が無言で目線を逸らす。
しーらない。ってことだ。
「ねえ、縄といてよ。」
「駄目。まだ聞いてない。」
「………私、あなたとお話しするの本当にいやだわ。」
「珍しく同意だ。私も出来ればこれから先一生御免被りたい。で?」
「………」
アエラの無言聞くなオーラに気付いてなお、王子様はにこにこ笑っている。
気持ち悪いほどに。
先に折れたのはアエラだった。
はぁ、とためいきをしいしい、ゆっくり口を開ける。
「女生徒の方。生徒会の、ケレス・クラプロート。知らない?」
「……聞いたことしかない。」
「あっそ。彼女だよ父親に命令されてやったの。」
「……父親?」
ピクリと眉を震わせ、王子はアエラを見る。
呆れた顔のアエラはそのまま続けた。
「父親って言っても戸籍上は他人。彼女の本当の父親の方だからねえ。」
「すまないが、なにを言っているのか分からない。」
「彼女、養子だったの。魔力が強力で、器量も良かったから、数年前に急に爵位の高い家に引き取られた。」
よくよくあるは無しだと王子は頷いた。
「それで、犯行の動機は?」
「えー、知らんし。」
「……。」
「殺したかった殺した。としか聞いてないよ、彼からは。」
「……彼って?」
「ケレスの父親。」
アエラはふっと笑うと、そのまま口を閉ざした。
『………ごめんにゃ…。』
『ほんとごめじゃ……』
『変わっちゃってごめんにゃ…、』
『どうにぃかしにゃかいけにゃいのじゃ……』
クマたちがそっと囁いた。




