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二兎を追う

ふむ、と、顔をしかめたアエラは、指先でくるくると人形を遊ばせていた。

ふわふわ浮かぶ人形達は、アエラのかき回す空気と同じ動きをする。その動きは可愛らしくもあった。

ふと、王子は顔を上げる。

「ねえアエラ。」

「ん~?」

完全に思考ストップモードのアエラは生返事を返す。

それを気にすることなく、王子は言葉を続けた。

「君の魔法って、授業中と大会と、後どこで発表とかしてるんだい?」

「あー?発表なんてだいそれたことしないし。面倒くさい」

「じゃあ、なんで皆知ってるんだい?」

「普段から使ったりしてるから?回復魔法……って言うか、治療魔法?あれだって元々は怪我した時に使ったのが妹の目にとまって、今じゃ時々病院に出張だよ。」

面倒くさいとこになった、とアエラは肩を回しながら言った。

別に肩凝ってるわけじゃないのにな。


「じゃあ、件の魔法をどこかで使ってたって事は?」

「あんな物騒な魔法使わないよ。殺したい人とかいないし。」

「だよねえ。」

手詰まりである。


事件から数日、

何人もの捜査員が手詰まりになり、解明が進まないまま奥の手として送られてきた二人すら悩み出す始末。

これは本当に迷宮入りになりそうだ、とレアナスはため息をついた。

仕方なく、漂う陰鬱とした空気を少しは和らげるため、実験室の片隅に隣接された小さな給湯室に入る。

たいしたものも無いが、紅茶くらいなら入れられる。

銀の薬缶で湯を沸かしながら、話し合いを続ける二人をちらと見た。


クマのぬいぐるみも机の上に置かれ、アエラも真面目に話をしている。

あーではないか、こうではないか、と言い合っては撃沈して頭を抱える。

どこからか取り出した紙切れにひっきりなしにメモを取り、情報を書き出してはつなげて、消して、

紙もどんどんとインクの黒で染まっていく。

それを見ていると、どこか気持ちがよかった。

次々と考えが浮かぶ若い頭が羨ましい。

物事を整理する能力と知識だけは無駄に増えても、合理的な考え方が頭に染みつき、想像力で捜査する対魔法事件は苦手になってきていた。


お湯が分ける音がして、慌てて火を止める。

紅茶を二人分と、自分用にコーヒーを入れた。

気の利いた茶請けなどないから、せめてもの糖分補給にと角砂糖を小皿に入れてカップやポットと一緒におぼんにのせる。

熱い紅茶は好きだろうか。

これは、二人の役に立てるだろうか、と、レアナスは思った。

それと同時に、これくらいしか役に立てそうにないと思う自分がなんだか珍しくて面白くて、少し悔しくて、苦笑いが零れた。


「お二方、紅茶はいかがですか?」

「レアナス。ありがとう、いただくよ。」

「私の分も?ありがとう。」

集中を途切れさせ、二人とも紅茶を啜ると、ほっと息を吐く。

舌の肥えた二人からしたら、泥水を啜るようだろうが、美味しそうに飲んでくれる。

別れた家族を思い出しそうになって、静に目線をそらせた。

念えば、誰かに紅茶を入れるのも久しぶりだ。


「ここの紅茶美味しいねえ。クマも飲む?」

「疲れてるから尚更美味しいよ。ありがとう、レアナス。」

「いえ。」

話の腰を折ったことをとがめられることはなさそうだ、とレアナスも緊張を解く。

同じ机で紅茶を飲むわけにもいかず、一つ礼をしてから自分のディスクに戻る。

大事件があったとは言え、通常教務や、他の些細な事件がないわけではないので、そう言ったものをかたづけていく。

細かい文字が見えづらくなった目の目頭を押さえ、老眼鏡をかける。

ジーとこちらを見てくるアエラの視線を感じながら、ペンを走らせる作業に戻った。


『にゃぁあああ!!!』


煩く響いた猫の声に、研究員一同耳を塞ぐ。

アエラの猫が発した声だとすぐ思い至った王子は、その猫を無造作に掴むと口と思わしきところに消音魔法をかける。

消えた声に皆ほっと一息、

それから

「アエラ!耳が潰れるかと思ったじゃ無いか!」

「アエラ様、この部屋では静にするのがマナーです。守っていただかないと。」

その声の主であるアエラに、詰め寄る二人。

その一方、レアナスの顔をジィーと見ながら、アエラは呟いた。

「使った……間違いなく、一回だけ、人前でその魔法使った……」

「何時?どこで?誰がいたんだ!」

「と、図書室で。多分、あの場にいたのは三人……いや、二人…、かな?」


珍しく片言に話すアエラは、どこか血の気の引いた顔で壁を眺めるような目をしていた。

「アエラ、誰がいたんだ!」

思わずといった風に肩を掴むエリック、

籠められた力にアエラは顔をしかめた。

責め立てるように誰がいたのか聞き出そうとするエリックに、アエラは頭を押さえて立ち上がった。


「わからないけど二人は思い出せる。副部長と、あと中等部の女の子。それから……」

「それから?」

「………。逃げよ。」

脱兎の如く、

と言えばいいのだろうか。

とにかくアエラは

「に、逃げるんだよ!!」

「っ、アエラ!捕まえろ!」

逃げ出しました。


クマも置き去りにして。


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