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プロフェッショナル

ぽーん(効果音)

今回のプロフェッショナルはレアナス。

彼は長らく王族直属の魔法解析班の一員として働いてきた。

過去に解決した事件には、有名な殺人鬼や、珍しいところで魔獣相手の事件など、様々なものがある。

妻も息子も居るが、仕事第一な彼のもと、ついに愛想を尽かして出ていったのはもう十五年も前になる。

息子は大きくなり、結婚し、子供も生まれたらしい。

孫は見てみたいものだが、何せとうに切れた縁。

今更であうことも不可能に近かった。

そして、何事にも同じない冷静さを自負していた彼は、今まさに年甲斐もなく驚いていた。

目の前の少女に。


「いっけぇ~!!」

「ちょっ、何やってるの。やめなさい!」

「飛べ飛べ~!!」

「もう止め……もう止めて!!」

悲痛な女性隊員の叫びも耳に入らない様子で、彼女はそのイカレタお遊びを断行する。


数多くの危険物が集まる実験室で、

可燃性の紙を鳥にして飛ばすとか、

正気の沙汰とは思えない。

それが彼が最初に思ったことだった。


「やあ、やってるねえ。」

「エリック様……これは……」

「彼女、面白いよね。私が呼んだの。」

「さようですか……」

彼は、従順な王族直属の研究員である。

ただ、今。まさに今、

就業して初めて彼らに刃向かいあわよくば殴り倒したいと思った。



「アエラ、アエラ。そろそろやめなよ。」

「王子様。ここ面白いよ!」

「スリルテイキングは若者にはいいけど、レアナスは心臓が止まりそうだよ。」

「おじいちゃん大丈夫?」

「ごめんなさいは?」

「ごめんなさい。」

パタリと紙が落ちてくる。

ただの無機物になったそれは、どこか自分が燃え尽きなかったことに安心しているようにすら見えた。

此方としても、国から預かっている大切な研究の場が消えることなくて良かったわけだが。


気を取り直して、

私はレアナスというものです。

王子様は直々に目の前の少女を紹介なされた。

「此方、アエラ.シルベール。僕の知人で、魔法が兎に角前代未聞だ。今回の事件に役立つと思って。」

「は、はあ。」

「アエラです。よろしくね。」

どう見ても少女の彼女をここに連れてきて、一体何をなさる気か、

ここは託児所ではないことを今一度確認すべきかも知れない。

悶々とそんなことを考えていると、部屋の壁についたボードに、王子が何事か書き込んでいく。

その場に適当に張られていた写真や書類も張り直し、アエラと呼ばれた少女をその前に座らせる。

どうやら、今回の事件について説明するらしい。

今回の事件……

難解なそれは、死因すらおおよそ見当もつかなく、

やむなく魔法により死亡となったのだ。

病気でも外傷でもなく死んだなら、それは魔法だと決めつけるのは些か可笑しな話だが、

この世界にある魔法的な何かとは、まさに化学では説明できないもの全般を表すので、それでも当たり障りないのだ。


「アエラ、説明していくから、質問は後回しね。」

「お、おう。頑張って聞くよ。」

どう見ても聞きたくないように苦笑いするアエラにエリックはふっと笑った。

このアエラに教え込むのは、大分骨の折れる仕事らしい。


事件の概要はこうである……、

被害者は高等部一年生の女子。

中間層のお家柄で家同士で争っている相手などはない。

至って普通の子で、成績も中の中。

情報を一通り攫っても、特に目立ったところはない、キングオブ普通で賞があったら受賞しそうな子。

まあ、ここまで何もないと逆に怪しいが。

死体になって転がっていた男子生徒等とは彼等曰く面識がなく、周りの生徒達も、三人が共にいたり言い争ったりしている様子は確認されていない。

まあ、隠した間柄ならば兎も角。

容疑者として最も最初に上がった宿舎の部屋の二人はそもそも前日には部屋におらず、二人とも近しい家の間柄で、片方の家に不幸が出たため、二人で帰省していたらしい。

つまり犯行の動機どころか犯行すら不可能ということで、操作からは外されている。

では、誰がいるのか。

「で、手詰まりさ。」

「一日二日でよく調べたねえ。」

「それ位はね。簡単でした。」

「あっそう。で、手も足も出ないから読んだんだろうけど、私は犯人捜しはしないよ?」

「ああ、君は殺害方法を考えてくれればいいんだ。」


静かに聞いていたアエラ様は、こくんと頷くと、

あい、分かった。と、言われた。

何が分かったのか。


「そもそもさ、既存の魔法か個人的に産み出した魔法かで、話が違ってくるよ。思いつくだけで、殺害方法は幾つかある。ども、どれも現実的じゃないねえ。」

「そうなんだ。魔法なら何でもあり、ならこんな魔法があれば……なんて言っても、それが使えるかどうか。」

「今までは、どんなのが上がったの?」

王子様はアエラ様に資料をお渡しになり、自分は憶えていらっしゃるらしい綴られた文を熟々とおっしゃられました。


「今までに考えられたのは、死体を運ぶ魔法だ。死因が分からないからには、そちらから考えるしかない。瞬間移動か、ものの入れ替えか、空間を入れ替えたか。」

「ふんふん。」

「体内の方にも異常は見られないから……どう思うレアナス。」

「恐らく、限りなく自然死に見せる魔法でしょうな。ゆっくり臓器の動きが止まれば、どうにか……」

「ほへ~。医学とか分からないから、そうなのかもね。」

渡された資料をパタパタと扇ぎ、気の抜けた返事をする。

髪の毛を剃ってやろうかこの女。

王子様に失礼極まりない。


「それで、アエラ、何が思い浮かんだんだい?」

「……『くまよくわかんにゃ~い』だって。」

「ははっ。クマ君には聞いてないさ。アエラ。」

「……。」

王子。器が大きくなられて……

なんて、感心していたら、王子が近くにあった記録用のペンをつまみ上げ、にこにこしながら折曲げた。

……王子……恐ろしい子!

器が大きくなったのではなくて、面の皮が厚くなったらしい。

「……怒ってる?」

「怒ってないさ。」

いやいや、怒ってるだろ。どう見ても。

不穏な雰囲気に押されてか、アエラ嬢は暫く黙って後、ゆっくり口を開いた。


「古代の魔法に、一つ。オリジナルで作るとしたら、もう二つ。死因になり得るものはある。」

「そのどれか、判別できないのかい?」

「一番だろうね。残り二つは理論上出来るってだけで、やってる人を見たことが無い。」

「ちょ、ちょっと待ってください。だとしたら古代魔法も、こんな死因の事件は…」

「事件には、なっていないの。ただ、今でも使えるように改良して、成功した例を見たことがある。」

私の言葉を掻き消すように、アエラ嬢は話し出した。

それこそ、初耳だった。

国最先端の技術者の一人として、日々新しい情報は手に入れているつもりだが、そんな危険な魔法が現代によみがえっているというのは寝耳に水。

知らずにいたことに青ざめた。

怠慢していたつもりはないが、学生に負けるほどとは。


「で、どこの誰なの?そいつは。」

王子が真剣な顔で聞く。

事件解決の有力な第一歩になり得る情報を彼女の口から聞き出そうとしていた。

言い淀むように口を動かして、

少女は顔をしかめて呟いた。


「………私、です。」



空白。


「かくほー!!」

「え?!」

「アエラ、君犯人だね。よし、捕まえて貰え、罪は償え。」

「ちょっ、は?なんで?いやいや、やってないし。やる意味ないし!」

「端っから思ってたんだよ。どうせ今回も君なんだろうと。はーい、テオドールとの賭け勝ちだ。」

「賭けてたの?!って、やってないから!事実無根!!」

「君にしか出来ない犯行だろ?」 

「誰にでも使えるように改良したのだよ?!それを知ってる人は誰でも出来るってことだよ!」

ついに王子に首根っこを掴まれたアエラは、その身長差故、足がほんの少し浮いてプラーンとなっている。

そこまでなってようやく借りてきた猫のように静になった。

お労しや王子様。

これと同じ校舎で学ばれているのかと思うと……、うう……


幼き子ろより知る私は、心配です。

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