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ハーブティーの世界一に合わぬお茶の時間

「お~。王子様だお久しぶり~」

「そうだね。一週間ぶりか、」

週一で会っていればなかなか会ってあると思うが、ほぼ毎日のように顔を合わせていた二人からしたら、こんなにも会わないのは珍しいことで、

まあ、一方が会うのを拒否していれば、それは会うこともないでしょうが。

穏やかな微笑みのアエラに打って変わり、相変わらずの完璧な王子の作り笑いが痛々しく思えた。

そんなに会いたくないならば、会わなくていいのに。

テオドールは気がついているのかいないのか、

天の上から天使すらも戦々恐々とする中、どうにか恐ろしい王子様が爆発しないうちに、終わってくれることを見ている者は唯々見守るのみだった。


ティーカップなどの食器類が並べられた台車を押しながら、アエラは王子の元に歩く。

ふよふよと浮く人形立ちも、いつもと変わらぬ様子だ。

「テオ兄様が急に呼び出すから、驚きましたよ。てっきり、叱られるのかと。」

「怒られたかったのかい?」

「まさか。悪いこと何もしてないし。」

肩をすくめてみせるアエラに王子のこめかみがピクリと動く。

なんでこう癇に障ることばかり言うのか。

わざとなのか?

最早この兄妹の性格が全て演技のように見えてくる。

あまりに突飛すぎて、

人と思えぬほどであるから。

王子にしても、三人兄妹を飼い慣らしておけるうちは、扱いごたえがあって良かったが、最近の小手先で遊ばれているような事件の数々には歯がゆさを感じえないらしい。

何より何でも無いような顔をして、何もしていないと言い切るこの少女に、

長年操りきってきた王子のうちの苛立ちが誤作動を起こしそうになるのを危なっかしく思う。

「………悪いことしてない。か、安眠妨害は、悪いことじゃないんだね。」

「安眠妨害は悪いことじゃね?」

「君が、昨日の夜中に鳥を飛ばしてきたのは、安眠妨害ではないと?」

「…………。」

思いがけず刺々しくなったのは許してあげて欲しい。

例え友の妹で仲良くしてきたものとは言え、そろそろ堪忍袋の緒が切れる頃なのだ。

穏やかでいる人にも限度がある。

そもそも気の強いちた王からその血を濃く受け継いだ彼は、元々勝ち気で気持ちのすんなり表れる性格なのだ。

しかし、あまりに回る頭がその性格を不必要で裏目に出ると分かっていたため、早々に包み隠しただけなのだ。

薄い幕一枚したにある素顔を、まだ年若い学生である彼が見え隠れさせてしまうのは、仕方がないことだろう。

いや、見え隠れさせることによって、いろんなものを守っているように見える。

「………あ、あんみんぼーがいじゃないしー。モーニングコールだしぃ。」

「……アエラ、それはきつくね?」

「可愛い後輩からのモーニングコールですよ!」

「何が可愛いですか。」

「待って、王子様。そこは否定しないで欲しかった。」


………あー。

どうやら王子様のイライラが微塵も、そりゃあもうミジンコサイズも、

最早ミジンコより小さい、アオミドロ?ミカズキモ?兎に角、一ミリも一マイクロも伝わっていないようであるアエラに、

鈍感で有名なテオドールさんも不穏な空気に気付きだしたらしく、宥めるように肩を叩く。

その意味を全く気付いていないアエラさんは、一度自分の周りの見えてなさを反省して、眼科に行ったほうが良いと思います。

私も胃が痛くなってきたので天使用の内科行くので一緒に行きましょうか?


「………アエラ……」

「なんですか?」

「……はぁ。もういい。何でも無いです。」

「………?王子様疲れてるねえ。」

「誰のせいで………」

あ、やめて、拳握らないで。

「ま、まあまあ。アエラ、お茶は?」

「兄様、お茶好きになったの?」

「いや。そんなに。」

……うん。

「お茶はいりましたよ?」

「いただくよ。」

「俺も。たまには飲む。」

「意外。」

アエラは二人にカップを渡すと、目の前にカップケーキを置いた。

「ちょうど買ってきてたから。今人気のお店らしいですよ?」

「アエラ。これ何味だ?」

「ん~と、オレンジ?」

「よし。」


ピリピリした空気の中、アエラの入れた御茶は、その場に不釣り合いなほど香草の良い香りがして、根拠のない安心感を与えてくれる。

刺々と、自分にも他人にも当たってしまう棘がほんの少し丸く柔くなった気がした。

ハーブティーの柔らかい香りも、カップケーキの香ばしい香りも、

久しく嗅いでいなかったような気がしていた。

それを「はい、」と渡されてしまったら、ありがとうといって受け取り、手に取るしかないわけで。

不本意ながら喉が渇いていたエリックには押し返す動力に合う理由を失いつつあった。

素直に口を付けて、

ほっと息を吐く。

嫌いな相手が入れたのに、

信用できない者が入れたものなのに。

如何してだか人間達には分からなかった。


天使は、分かるけどね。

最近、人の顔見るの上手くなったんだ。

だって、アエラはさあ、そんなことしないものね。

『大好きなことには手を抜かないし、面白いこと以外はしない。』

はて、アエラが何か企んでいたとして、他人を動かして王子様を困らせる方が楽しいとアエラは思っているみたいだ。

性格悪いね。


「美味しい?」

アエラの問いかけに、先輩二人は黙って首を縦に振る。

良かった、と、アエラはにかっと笑った。

それから、からになったテオドールのカップにお茶を注ぎながら、アエラは二人に話し掛ける。

世間話を口にするようにすんなりと。

「なんか事件もあったみたいだし、どうせまた首突っ込むんでしょ、兄様と王子様のことだから。」

「………まて。」

「ん?」

それにピクリと動いたのは王子様。

ポットをタオルで拭いていたアエラをじっと見ると、

問いかけると言うより、問い詰めるような口調で言葉を紡ぐ。

「アエラ、君は我関せずないいようだね、」

「まあ、実際関係ないし。」

「君は、今回の事件には関わっていないのか?」

「はい?私が殺したと思ってるんですか?酷い!」

「いや、それは流石に…でも、どうせ裏で糸引いてると……」

「まるで、私が悪者みたいないい方ですねぇ!全くの言いがかりです。私だって、普通に生活しているだけなんだから、そんな頻繁に次元に関係したりしません。某アニメの小学生じゃないんだし。」

「……あ、アニメ?」

「アエラ、やめろ。」

「…………気付く人もいないでしょ。」

…………、待て待て。

おいまでアエラ。

お前、やめれ。

おまっ…………おい!

大天使から怒られるの自分ね。おっけい?

これ以上怒られたら、俺首チョンパ。

天使なのに首が飛びます。

翼は生えないけど。

………面白くもないわ。


「と、兎に角、君は今回本当に関係しないんだな。」

「何に誓えばいいですか?なんなら、このクマに誓って、今まで関係もしてきてないし、これからも関係はしません。私は、ね。」

「…………、まあいいか。此方はその方が動きやすい。」

訝しげにアエラを見るエリック。

しかしながら、問い質すにしても言い辛い。

兎に角スルーするようだ。

段々扱い方分かってきているよう。


王子は気を取り直すように椅子を引くと、手を組んでく地を開く。

「で?じゃああの伝言は?」

「伝言?鳥の?」

「ああ。」

「あれは、自分で考えてよ。」

「は?」

「いや、私が言っても面白くないし。」

「…………でたよ。」


思った。天使も思った。

アエラはにっこり笑うと、お茶のお代わりを勧めてくる。

苦笑いしながら受け取りながらも、王子は心中こう思っていたに違いない。

なんか後ろが騒がしくて、忙しくなること間違い無しだから、天使の置き手紙ならぬ置き言葉として、



この……くそ女………。


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