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どこもかしこも。

痛み出した頭を抱えながら、テオドールに引っ張られるままに校内を歩く。

現場だと言われるところに近付くにつれ、生徒のざわめきが激しくなった。

中には、泣き声も聞こえる。


被害に遭ったのは、高等部一年の女子らしい。

男子寮で女子が死んでいるという可笑しな話だが、日中は申請さえすれば出入りは可能だ。

まあ、わざわざ申請するような生真面目な生徒はあまりいないが。

兄弟の手引きなら二つ返事で入れるため、そうと偽って自室で逢瀬している恋人達もいるわけで………。

そう言う奴らが痴情の縺れで……と言うのもなきにしもあらず。

兎に角、どうにでも起こそうと思えば起こせる事件なのである。


それが起きないように、常日頃見張っている存在が、生徒会だ。

そして起きてしまったからには手を焼くのもまた生徒会である。

と言うわけで、生徒会の役員であり、二人の友達であるモルガーは鬼の形相で野次馬達の前に立ちはだかっていた。


「……なんだ。二人も来てたのか。」

「お疲れさま、モルガー。君は?」

「仕事だ。現場の保存は重要だろう。既に関係各所には連絡済みだ。くっそ……委員会の奴ら、高等部の問題だからってなすりつけやがって………」

「大分、がたが来ているな。」

いつもより随分と口の悪いモルガーに長年の友達はただ、お疲れ、と。

久しぶりの世界の優しさに、モルガーはほんの少し瞳を煌めかせた。


「心配させてすまない。テオ、お前の妹のこともあり、あまり寝てないんだ。」

ほんとに、どうにかして欲しい。と、モルガーは欠伸を噛み締める。

それにピクリと反応したのは王子だった。

「…………。どっちのだ?」

声を低めた問いかけに、モルガーは首をかしげる。

「どっち?こいつに妹は一人しかいなかっただろ。」

「………ああ。」

「君も疲れてるのかい?王子様は大変だからな。」

お互い体には気をつけよう、と、若者らしからぬことを言っては少し笑った。

エリックも合わせて笑う。

テオドールだけ、ほんの少し目を細めた。



「で?ここには何を?」

わざわざ人の集まるところに来るような奴じゃなかったはず、と、モルガーは友達二人がこの場に来た理由を図りかねていた。

「王子を連れてきたのは俺だ。」

「そうなのか。でも、残念ながら入れないぞ?」

「そうなのか?!」

さぞ驚いたようで、テオドールにしては芯のある声で叫ぶ。

それに苦笑いを返したのはモルガー。

この友達は、時々王子という地位を持つもう一人の友達を買い被っている節がある。

王子だって、この学校では生徒の一人で、

その生徒を校則を元に取り締まるのが自分たち生徒会役員で、

今回ばかりは規則に則れないものだが、それでも平穏な生活をすぐにでも戻すべく、最小限の被害に押さえるのが自分たちの仕事であって。

例え、友の頼みでも、と言うのが正直なところだ。

「テオ、君入ろうと思ってたのかい?諦めることだね。」

「………むう………」

「何を言っているんだい?」

「はい?」

今まで話に入ってこなかったエリックが声を挟む。

そのあっけらかんな声に驚いたのはモルガー。

こいつ何考えてるんだ?と、声には出していないが顔に表れている。


それを知ってか知らずか、

思った通りの王子様的思考で立ちはだかるモルガーを押しのけて部屋に入ろうとするエリック。

「失礼するよ。」

「あっ、ちょっと、待て。」

「なぜだ?」

「………え?俺の話聞いてた?」

ガヤの声が騒がしくなる。

この二人を会わすと面白いものが見れるというのは、アエラが常識外であると言うことと同じくらいこの学校では暗黙の了解なのだ。

おもに色々こじらせた女子たちから。

………。人間の考えることはよく分かりませんね。

閑話休題

本当に分からないという顔をするエリックに、どう説明したものか、とモルガーは頭を捻る。

それで、結局思い浮かばなかったようで、テオドールに助けを求める視線を投げかける。

それはもう、賢明に。

それで気付かないテオでなく。

二三度まばたきをすると、困ったように話し出した。


「あー、エリック。現場を保存して、担当者に任せるべきじゃないか?俺達で解決できる問題じゃないだろうし。」

モルガーもうんうんと頷く。

彼は今ほど友を持つことの大切さを痛感したときはないだろう。

寝不足、休み不足で暗雲がかった脳みそで、考えることはしたくなかった。


「そうかなぁ。」

「そうだな。」

「………じゃあ、いいや。邪魔したね、モルガー。」

じゃ、と、言うと、エリックはその場を去ろうとする。

それに驚いたのはモルガーで、驚いたようにくまのくっきりついた目を、ほんの少し見開いた。

「あ、ああ。やけにすんなり諦めるんだね。」

「まあね。」

肩をすくめると、王子様は苦笑いをこぼした。

「私だって疲れてるんだ。長々と友と口論するほど、元気じゃないのさ。」

「………そうか。」

疲れの染みついた顔で二人は互いに笑い合う。

立場は違えど、大変なのは一緒で、

学生身分でここまで大変な二人だからこそ、通じ合う部分があるのだろう。

可哀想な二人だ。

本当に。



それを見ていたその他一人が首をかしげた。

彼からしたら、疲れることなど無い人生を送っているわけで、

二人の考えていることはよく分からない。

だからこそ、不思議そうだ。

「……眠たいなら、眠れよ。………まさか、ベット無いのか?俺のベット広いから、二人使って良いぞ。」

そういうことじゃ無いと思う。

でもでも、この天然というか、すっとぼけと言うかの科白に、

二人の疲れが少しだけ軽くなったのは言うまでもない。


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