暑い夏の一騒ぎ
「……暑い……」
そう呟いて起き上がったアエラ。
隣のベットで眠る友達をジーと見る。
育ちの良さが分かる寝相の良さ。
暑いのにも関わらず布団を微塵も乱すことなく、肩の上まで被っている。
凄い。
それに引き換えアエラさん。
この国の夏は暑くはあるが蒸し暑くは無く、少しは寝やすいのではないか……な~んてことを考えていましたが、そんなことは微塵もなく、
暑いものは暑い。
ていうか暑い。
「だぁあああ!!」
「うひゃっ!」
思わず叫んだアエラ。
勿論、シャルロッテも跳び起きるわけで。
「な、な、何事ですの。」
「シャル!」
「は、はい。」
「暑い。」
「はい。」
「と言うわけで行くよ。」
「は?はい?え?」
目覚めは良いほうなのか、起きて数秒でもう意識ははっきりしているようだが、流石に状況が把握できないようである。
脈絡ないにもほどがあるのだから、
たとえ始めから起きていたとしても把握は出来なかったであろう。
起きたアエラは薄いカーディガンを一枚引っ掛けると、慌てているシャルロッテの手を引いた。
「ほら行くよ。とりあえず庭ね。」
「え?なんで庭。ちょっと、待ってください。」
戸惑うシャルロッテを無理矢理ベットから引きずり下ろすと、そのまま引きずる要領で歩き出した。
「で?」
「ん?」
「何をしにここへ?」
「否、暑かったから来ただけだけど?」
暗い庭へ出てきたアエラとシャルロッテ。
特に何をする予定もないアエラは、そのままそこに咲いていた花を眺める。
と言っても、夜なので殆ど閉じているが。
夜に咲いている花はもとより少ない。
月下美人などが有名だが、殆どの花は朝に目覚めているものだ。
「花も咲いていないですし、戻りましょう。こんな夜中に出ていることは、褒められることではありませんよ。」
「うん。褒められたことじゃないよ。夜中にいるってことは、」「分かっているなら、帰りますよ。」
「もうちょっと……」
「子供じゃないんだから………もう。」
「ごめんって。」
よいしょっとアエラは立ち上がると、地面に着いていた手から土をはらう。
湿った土の匂いがした。
「目がさえちゃって、眠れそうにないの。月下の鳥が、見たくなったの。」
「なんですか?」
「この時間だと鳥も眠っているのに、なんでこんなに目がさえるのかな。」
「朝を告げるにわとりの話ですか?」
「そう言うこと、頭良いね。」
「怒りますよ。」
支離滅裂なことを言いながら、アエラはふと手をまえに伸ばす。
そこにあった濃い紫の花の蕾を摘む。
無造作なその行動に、シャルロッテは眉をひそめた。
「花壇の花を抜くのはマナー違反ですよ。」
「これはディモルフォセカ。もう終わりの花だから、明日抜いちゃう予定だったんだって。」
「へえ……よく知ってますね。」
「まあね。暇なときとか、見てるから。」
花の蕾にそっと触れると、ピクリと花弁が揺れた。
見ててねぇ。と、アエラが笑う。
シャルロッテは黙ってみていた。
まあ、どうなるかは大体想像が付いていたが、
想像通りか、
アエラの触れた花は一瞬の後少しずつ花弁を広げていく。
固く結ばれていた蕾が、解けていく。
全て開ききるのに、さほど時間はかからなかった。
「相変わらず………」
シャルロッテは呟いた。
凄い力ね、と言いたかったが、振り返ってアエラがにやりとしたので口をつぐんだ。
それなりに長い付き合いだから分かる。
『この程度で驚いているの?』と、言うような顔だった。
右手に咲いた花を持ったアエラは、それを行きよい良く振った。
それから、左手で示した空へ投擲する。
強くはない、
勢いを付けた間間、手から離れる瞬間にほんの少し力を緩めて、
ふっと、放ったようだ。
空中に舞った花は、ぱっと姿を変える。
アエラの良く作るもの。
尾の長い鳥の形に。
「行っておいで。」
優しく語りかけたいアエラの声に反応してか、鳥はか細く澄んだ声でぴゅーいと鳴く。
そのまま紫の翼をはためかせ、
暗い空へまざると見えなくなった。
「何したのです?」
「どっかの誰かの安眠妨害。」
「………ほんっとに、趣味悪いですね。」
てへ、っと笑ったアエラに、シャルロッテは呆れたようにため息をついた。
一秒でも早く寝たいシャルロッテは、しびれを切らしてアエラの首根っこを掴んだ。
「帰りますよ。」
「え~。もうちょっと。」
「さっきも言ってました。」
「言ってないよ。言ってない。ねえ~。」
中庭に面した部屋にいた何人かは、夜中にもかかわらず煩い声を聞いたそうだが、その声の主が知られていたため、何の苦情もなかったという。




