星祭りの夜
「さてと、どこから話せば良いのかな?」
随分と落ち着いた様子でロエルは笑って見せた。
既に捕まえる体勢に入っている王族憲兵団の面々を前にして、彼女はその飄々としたたいどを崩すことなかった。
「そうだね。出来れば全部教えて欲しいかな。」
「えー?まだ教えられないのは沢山あるよ。」
「……言えるものだけでいいや。」
「たとえば……」
そこから話し出した話に、王子は思わず顔をしかめた。
貴族王族の暗殺計画の多さに。
対王族の暗殺計画ほど、暗部での働きが多く、聞いていて耳が痛い。
何度か出てくる自分や妹の名前に、緊張感にも似た忌避感を感じる。
ナレッジドも、泣きそうな顔をしている。
つらつらと述べられていく事実を、手で制したのは此方だった。
「ん?何?」
「もう良い分かった。」
「どう?」
「君は本当に………良いのかい?」
「暗殺計画罪の、援助。罪かな?」
「確実に。」
「あっそう。」
エリックは後ろに立つ兵士達に声をかけた。
前に立つロエルから目を外すことなく、
「暴れたら、ここで殺してもかまわない。捕まえろ。」
「し、しかし。」
「なんだ。」
「相手も、ご令嬢でして。」
「暴れないから、捕まえるなら早くしてよ。」
「だそうだよ?早くs…」
黒い影が彼女を包み込んだ。
そう、見えた。
何が起きたのか分からないうちに私達は、
呆然とそこにたっていた。
自分たちは何をしていたのだろう。
「アエラ?」
「……ん、テオ兄。来てたの。」
「お前、ここで何している。」
「……カンシ?」
「また、悪巧みか?」
「いいえ。監視よ。」
言えの屋根の上、アエラは座って下を眺めていた。
テオドールはそれを訝しげに見ている。
下には末の妹とその友達。
それから王子とその使い。
何人かの人々がひしめき合い、何を言っているかまでは分からなかった。
「ロエル。やっぱりなんかしてたのか?」
「役だったからねえ。仕方がないよ。やりたくないとは言っていたけど。」
「やらせたのか?」
「それが彼女の役だったから。」
「実の妹だろう。お前の。」
「常識が無いのか、みたいなこと言わないで。兄さんに言われたくないわ。」
「どういうことだ。」
「………知らない。」
下を見ていたアエラはふと、くるっと指を回した。
「何を?」
「なんだと思う?」
「どこかに、飛ばしたのか?」
「……うん、彼女の何もかもとともに。」
「…………。なにもかも、と言うと、」
「地位も、友も、役割も、思い出も、ぜーんぶ。」
にひゃっとアエラは笑った。
「よくやるよ、あの子も。何企んでるかしらないけど、如何するつもりか自分を解放しろって。」
よくやるよね、と、アエラは手を叩いた。
アエラからしてみれば、ロエルの真面目な、否、真面目すぎるほどの実直さと演技、かくしごとの上手さこそ、魔法のように思える。
まさに、我が妹ながら素晴らしい。
一番敵に回したくなく、出来るだけ仲良くしておきたい相手である。
テオドールにとってもそれは一緒、
早く何かをしでかすまえに、捕まえておきたい。
「………ロエルは?」
「さて?私の知り得るところじゃない。目的地の指定は彼女持ち、私は記憶消去だけ。」
「そうか。」
姉すらも使って、妹は姿を消した。
はて、
どこへ行ったから誰も分からない。
死んでいるか、生きているか、
分かる日はいつか……
「アエラ。」
「なあに、兄さん。」
アエラは、かつかつ、と屋根の瓦をならして去って行く兄を見た。
自分もここを去ろうとしていた時に声をかけられたのだ。
「アエラ、お前は戦略家ではないな。」
「まあね。余計なことすると裏目に出るから、全部かくしているわけだからね。」
「俺は、お前みたいな魔法の才能も無い。だが、今回ばかりは俺の勝ちだ。」
「…………。」
ふっ、と笑った兄を見、アエラは何かを感じ取ったのか今一度下にいる人々を見下げた。
妹のことを何もかも忘れたであろう人々。
そして、その異様を。
「ロエル!ロエル何所!?」
「っ、おい、ロエルを捕まえろ!時るだけ早く探しだせ。」
ヒステリックに叫んでいるものが二人。
それぞれの連れは、困ったように首をかしげていた。
「なるほどね。やられた。」
「魔法に頼りすぎだ。相手が対策をしていることも考えて、下準備をするんだな。」
「はいはい。でもまあ、たった二人が憶えてただけでどうなるの?」
「……さて、お前に分からせるつもりはない。」
「あっそ。」
じゃあね、と、アエラは屋根から飛び立った。
一瞬の後、鳥が一羽赤い一番星の星空に飛び立った。




