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シャドー

シャドーと言われるお菓子は、香り高い。

香りが鼻腔を擽るだけでお腹がすくような、

食欲をそそる香りだった。

一つ、と言って店員から受け取るソルテルを待ち、私はそわそわしていた。

一瞬でも一秒でも良いから一刻も早くあのサクサクのクッキーにかぶりつきたい。

なんて、お母様に聞かれたら怒られそうな欲求を胸中にぐるぐるとさせていた。

……ここは、本当に良いところ。

お祭りなんて来たの始めてで、知らないことばかりで、不安なのに、如何してこうも、何もかもがキラキラに光って見えるのかな。


ナレジッドはふと、眉を下げて疲れたような顔をした。

疲れていたのは本当。

でも、家でも学校でも極力隠してきたから、

ソルテルも見ていない。

ここは私を知らない人で私も知らない人だけがいるところ。

他人から無関心であられることは、ある意味楽なことなのだ。

無理をしてきたことにこんなところで気付かされるなんて、と、

困ったように笑った。

兄様には、きっと気付かれているのだろうな、とも。



「ねえ、ロエル。私、如何しましょう。今とっても楽しいのに、なんだか、とても疲れました………」

背後にいるはずの友に話し掛ける。

しかし、思い描いたような返答は帰ってこなかった。

どころか、

「……?ロエル?どうし……」

振り向いたナレジッド。

そこにいるはずのロエルを捉えられなかった視線が右往左往する。

それでも見当たらない。

一緒に来た友の顔が。


「ロ、エル?あ、ロエル!何所ですか!」

誰かを探すなんてやったことがなくて、兎に角大きな声で名前を呼ぶ。

その声に驚いたのか、ソルテルが走ってくる。

「どうした。急に大きな声だして。」

「ロエルが、ロエルがいませんの。」

「……、どこかに、行っているのか?でもその反応、何も聞いてないのか。」

「ええ、一声かけずに、居なくなるような方ではありませんよね。」

「ああ。」

迷子か?と、暢気なことを言うソルテル。

だが、二人とも顔は強張っていた。

彼女とて、百歩譲って貴族の子(貴族の子であることは間違いないのだが、それらしくないという意味)。

誘拐されたとしたら一大事、自分たちだけでは如何することも出来ないのである。


「ど、ど、どういたしましょう。」

「とにかく、来た道を戻ろう。途中で見かけるかも知れない。」

ソルテルは買ったクッキーをナレッジドに渡すと、手を引いて歩き出す。

あくまでナレッジドが付いてこれる速さで、ここで二人までもはぐれてしまったら、元も子もないからだ。

顔を真っ青にしているナレジッド、それに引き換えソルテルは意外にも冷静に行動していた。

冷静であれ。

兄からの言葉の通りに。




「ナーレのお兄様は怖いね。私泣いてしまいそう。」

「……ふふっ。君って不思議な子だ。だが、正義の子ではない。そう言う友は、うちの妹にはいらないよ。」

「ほんと、兄は妹が好きなのね。友達すらも管理する気?」

「何時まで経っても心配なのさ。」

冷ややかな目に、貼り付けた笑い。

こいつは怖いと、ロエルは、冷や汗をかいた。

これが王子として、また、いつか王として人々を統治する存在であるならば、なるほど、これは特別だ。

嫌になるほど気迫だけは満点なものだから。


『……ロエル。貴方のお友達、来ているみたいだけど如何するの?』

耳飾りから小さな声が聞こえる。

姉の声はいつもより低められ、あちらも真面目に集中していることが分かる。

珍しい。

「良いわ、そのままで。」

「?なんのこと?」

『了解、手出しはしないから、どうにか頑張りなさい。』

コツコツと規則正しい人々の足音の中にたったと走る軽やかな音が混じる。

なるほど、姉の言っていたことは本当のようだ。

「王子様。」

「なんだ?」

「貴方、妹が大好きね。」

「ああ。大切な、たった一人の信じられる子だ。」

「そう、でも残念。私も貴女の妹に愛されているの。貴方が私のことを嫌っていたとしても。」

ふっと、笑った。

ロエルは、背後ではっ、と喉を鳴らして二人が立ち止まるのが分かった。


「ロエル!そんなところに……っお兄様…、」

「王子…、」


どう見ても敵意むき出しの王子に此方に来ようとしていた二人が戸惑った。

私は、ほんの少し嫌な顔だった笑顔をかくし、振り返って二人に笑いかけた。


「ごめん、王子様に声かけられて、行けなかったの。」

言ってることは、間違いじゃないよね。

ある意味、逝かされそうになっていたのだが、

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