ケープ
肩に、それから目の前に垂れ下がる薄い布に、ナレッジドは一つ、瞬きをした。
「に、兄様?これは?」
隣に立ってこちらを満足そうに見ている兄に話し掛ける。
ん?と、過保護な兄。
妹の前に垂れ下がる薄い沙羅を持ち上げると、頭を撫でながら聞き返す。
「何がだい?」
「この布です。私、今から星祭りに行くのですが。」
「そうだよ。だから僕が君にこれをプレゼントしたんだ。」
「は、はあ。」
エリックは生返事を返す妹から注意を切り、側に立つアエラに向き直る。
アエラもどこか満足げだ。
「アエラ、ありがとうね。良いケープだ。それにヴェールも」
「でしょ。薄いケープにちりばめられた星、美しい素顔を隠す黒い闇夜のようなヴェール。まるで星空を切り取ったよう。我ながら完璧なできだわ!」
心なしか周りを飛ぶクマも嬉しそうだ。
否、身を震わせているから、嬉しいのだろうな。
それがクマの意思かどうかはさておき。
「ほんとに素晴らしいね。アエラに頼んで良かった。」
「構想に二時間、制作一時間半の超大作!これで、安心ね!」
「ああ。まったくだよ。」
「どこが、安心だ!!!この馬鹿!」
「いったぁ!ちょっと、なんで私だけ殴るの?」
うんうんと、頷く二人に、そっと近付いたロエル。
馬鹿なことをほざく自らの姉の頭を力任せに叩いた。
全力で叩いても、痛いで済んでいるアエラの頭の固さよ。
「逆に目立つわ!こんなの付けてる人誰もいないでしょ。ねえ、ソルテル。」
「俺に振るな。…………あー、恐れながら、ロエルの言う通りかと。」
年上+王子様の考えに反論すると言うことで、ソルテルは緊張気味だ。
ナレッジドは未だに固まっている。
兄の予想以上の過保護さにか、もしくは自分の置かれている状況にか、残念ながら、こちらからは分からないが。
「王子様、そうなの?」
「見ないねえ。でも、いいじゃ無いか。」
「バッ……良くないよ!目立たないことが大切でしょう。本末転倒って言葉、知ってる?」
馬鹿なの?と、言いかけて、相手に王子が含まれることを思い出し、ロエルはどうにか押さえる。
でも、どこかけんか腰な態度は隠しきれなかったし、押さえようともしていなかった。
「折角、平民ふうの衣装とか仕入れて、お忍びで行こうとしてたのに、これじゃだめだ。」
「しかし、妹の顔をむやみやたらに人前にさらすことは出来ない。」
「王様からは許可を取っているのでしょ?ならいいでは無いですか!」
「兄である私が許さない。父が許そうと、母が許そうと、例え天の神が許そうと。」
神様は許してくれるだろ。
割と自由主義だからなーあの人。つか、あの神?
過保護すぎる王子に、ロエルは苦々しげにため息をつく。
過保護な姉を持つ分、彼女にも分かるところがあるらしい。
「あの、兄様?私こんなものがなくても、帽子を被って参りますわ?」
「君が、転んで帽子がとんだら?誰かに奪われたら?僕は心配でたまらないよ。」
「た、たしかに、そうですわね。」
「ナーレ?!諦めないで、言いくるめられないで!」
純粋かつ、兄の言うことに絶対の信頼を寄せる妹が、ちょっと反論したところですぐに言いくるめられる。
これは、長期戦になりそうだ。
むう~、と、ロエルが悩んでいたところで、恐らくこの場に最も相応しい、かつ、ロエル達に有利な味方、百人力どころか、千人力にもなり得る味方が入ってきた。
「何してんだ?」
「テオ兄!」
「ロエル?」
訝しげに入ってきたテオドール。
長期戦を短期で終わらせる神。
戦略の申し子、ここに見参!って感じだ。
「テオ兄、あのね………」
「あ!ロエル!テオ兄様の力借りるのは……卑怯。」
「何?は?え?何?」
唯一状況が理解できていないテオドールにロエルはこそこそと耳打ちする。
最初は、は?とか、あ?とか言っていたテオドールも、流石の飲み込みの早さというか、ほんの三分程度で状況を理解する。
「なるほどな、」
「と言うわけで、テオ兄お願い!」
「んー。」
行け、テオ兄!と言う感じて、エリックにテオドールを差し向ける。
とぼとぼとテオドールはエリックの前にやってきた。
「何?テオも一言言いたいの?」
「いや、俺が言いたいことは何もないが、まあ、せめて言うとしたら。」
寝癖の付いた髪を搔きながら、テオは口を開いた。
只一言。
「俺にはお前の妹が、顔を隠すには勿体ないくらいの美人に見えるんだが、どう思う。」
と、
***
長くなるんで、後編に続く。




