友達というもの
「マリアナ、大丈夫?」
「アエラ!」
静かにベットを覗き込んだアエラに気付き、マリアナに付き添っていたソフィアンが振り返る。
その目には戸惑いと安心の色。
「良かった、アエラならどうにか出来る?」
「ええ。ちょっと見せて。と言うか、私よりロエルの方が些か詳しいだろうけど。」
「いやいや、私だってそんなに。」
ベットの近くで本を読んでいたロエルが少し目を上げる。
アエラを一瞥すると、深ぁ~くため息をついた。
「大変だった。なんでもっと早く来ないの?」
「ごめん。仕事中だった。だから王子様とテオ兄様を廊下に閉じ込めてた。」
「……あっそ。」
アエラの言い訳を聞き、ロエルは再び本に目を戻す。
今までのことをすらすらと述べだした。
「薬は打った。足あげて呼吸器に異常が見られて呼吸が苦しそうだったから、上体は起こしてあるけど、意識あるか微妙だし、よく見といて。」
「ん。」
ロエルに手短に答えると、アエラは、マリアナに近寄る。
たしかにぐったりしていて、顔が赤くなるほど苦しそうだ。
「マリアナ。マリアナ聞こえる?」
「……はぁ、アエ…ラ?」
「うん。苦しい?」
「アエラ、聞かなくても分かるでしょう。あなたならどうにか出来るのでしょう、早く対処を。」
「うん。」
と、言ったものの、
アエラは、特に行動を起こそうとしない。
その様子にソフィアンは不思議そうに焦れったそうにアエラに話し掛けた。
「ね、ねえ、アエラ?何してるの?」
「私達は医者じゃないから出来ることは限りがある。アナフィラキシーの対処をしたなら、後は……」
「アエラ姉、何焦ってるの?」
俯きブツブツと言い出したアエラにロエルは、本から目も上げずに話し掛ける。
その声にはっとしたようにアエラは顔を上げた。
「焦ってない。やるべき事はやる。」
ドレスのポケットから、細い管と硝子で出来た何かを取り足す。
「うん。こういうことを見越して、作っといたんだ。」
「酸素吸入器?やるじゃん。」
「実物見たこと無かったから大変だったんだよ?」
硝子の器状になっている方をマリアナの口元に当てると、そこから伸びる管を傍らの人形に差し込んだ。
「なにそれ。」
「ん?酸素出してくれるックマ。」
「どこからの酸素?」
「空気中?」
「じゃあさ、この部屋の酸素濃度は減っていくわけだ。」
「うん。………うん?」
こんな暢気な奴でも、友達が苦しんでいたら焦るんだなぁ~と
天使思いました。
まあ、そうだよなあ。
悪魔じゃないんだもんな。
でも、何というか、冷静ではないけど、何時も飄々としているアエラがこうも静かに取り乱していると、
何というか、新鮮だなぁ。
………。
窓、開けようか?
ソフィアンが窓を、ロエルがドアを開けるため、椅子から立ち上がる。
さて、ドアを開けようとしたロエルは、まさにドアに手をかけようとした瞬間、勢いよく顔面にドアがクリーンヒットした。
「ヒグッ!」
「アエラ!!」
大声を上げてはいってきたのは王子様ことエリック。
そう、今で静かだったのは一重に彼がアエラに置き去りにされ(テオドールとともに)、保健室にいなかったからであり。
何処に行ったか大体想像が付くため、急いで起きかけてきたわけだが、
今回の騒動の容疑者として信じて疑わない相手の上に廊下に閉じ込められる、図書室に置き去りにされる等の仕打ちでそれはもう怒りに怒っていた。
「王子様、静かに。」
「貴様、誰のせいで」
「私のせいじゃないとは言いきれない。けど、私に言われても言われても困る。」
そっとマリアナの髪を撫で付けていたアエラが騒がしい相手に目も向けず答える。
その対応に王子はさらに声を荒立てる。
「なっ…おまっ!」
「エリック。静かにしよう、マリアナが起きる。」
「………。」
後ろから追いついたテオドールがエリックの口を押さえる。
それに驚き、口を閉ざす。
暫く、じっとアエラとマリアナを見て、ようやく冷静になったのか、後ろから口を押さえるテオの腕をもう大丈夫と叩き、解放してもらう。
「すまない、取り乱した。」
「いや、気持ちは分かる。」
「山羊のようにカッカと怒ってたね。」
いたた、とドアにぶつかった鼻を押さえながら、涙目でロエルは元いた椅子に戻る。
再び読書を始めた。
彼女だけが長閑な祭りの日にいるように。




