火蓋は切って
「おしまい。」
と、言う声とともに絵本に見立てた舞台の幕が閉じられる。
わぁ~、と言う声とともにパチパチと可愛らしい拍手が部屋の中に響いた。
上演者の委員達もようやっと肩の荷が下りたように互いに声を掛け合っている。
何となく暇つぶしに来ていたらしい生徒達も、暇つぶしにしては良いものを見れたと、ブツブツ呟きながらその場を後にしていた。
一番前で見入っていた少女は隣のお姉さんにキラキラとした目で話し掛けた。
「お姉ちゃん。凄かった!あれ、なんてお話し?」
「ん~?あれはね、オオカミさんと私って言うお話し、お姉さんが作ったの。」
「すっごお~い!お姉さんはとってもお話しつくるの上手なのね。」
「えへへ~。嬉しいなぁ~」
アエラの周りに飛ぶ人形も彼女の気持ちとリンクしてクルクルふわふわ飛び回る。
それに少女は面白さを見出したか、きゃっ、と笑って捕まえようとした。
「こら、リリカ。帰りましょう。」
「あ、お母さん。うん、帰るけど、もう少しいられないの?」
「この後、お兄ちゃんの試合でしょう。」
「あ、そっか。じゃあね、お姉ちゃん。」
パッと立ち上がると、少女はアエラに手を振る。
「うん。ばいばい!」
アエラも同じように振り返した。
母親は一つ頭を下げると、
少女の手を引いていく。
どちらの顔も笑っていて、どうやら喜んで貰えたようだ。
「大成功。で、いいか。」
「大成功だよ?とっても楽しかった。」
「……これは、きちんと記録に残せ。来年の役に立つように。」
「うへぇ~。」
近づいて来た副委員長の言葉に、いやそうな顔を浮かべるアエラ。
片付けも着々と進んでいくさなか、
机を元の場所に戻そうとした生徒にアエラが慌てて声をかける。
「あー、待って待って、其の儘にしておいて。」
「え?でも。」
「後でやっとくから。みんなも、持ち場終わったら帰っていいよ。おつかれ~。」
お疲れ様で~すと声が上がる。
これから何処に行こうかと楽しげに話し合う声が聞こえる。
皆、早く祭りに戻りたいのか、室内はすぐにガラガラになった。
「で?何かするつもりか。」
「言っとくけど、室内で危ないことしたら駄目だよ。」
「ありゃ?副委員長とラクトは残ったの?」
開けた真ん中に立って、本棚の近くから顔を出した二人に振り返る。
人払いしたつもりなのになぁ~と困ったように笑う。
「お前だけ残しても、ろくなことにならん。」
「酷っ!先輩少しは信頼してくださいよ~。」
何だよもぉ~と言いながら、振り返ると、
えいっと、一言。同時に足で床を蹴った。
すると
ぼふんっと煙とともに。
「うわっ!」
「っ……」
二人の男が現れた。
びっくりぃ~
超絶びっくり~
「はい、二名様ご案内~」
「っ………貴様ぁ!!」
「うにゃぁ!?」
しかもでてきた男、王子さんエリックがアエラを確認した途端襟元を掴みかかる。
これはびっくり。
でも、天使的にはそういう暴力はちょっと……
うん、止めだと思う。
女の子よ?
相手女の子よ?
いいの?王子さん。
「くっ……離して、苦しいっ!」
「貴様…マリアナを……」
王子さんは、目頭に険しく皺を寄せ、冷たく睨み付ける。
アエラのおちゃらけを笑うときも、
マリアナのかくしごとを怒ったときすら、こんな本気の顔は見せたことはなかった。
いわば、
「まずい……マジギレだ。」
「あれは、王子か?」
ラクトと副委員長は止めることも忘れて緊迫した空気に固まっていた。
「おい。離してやれ。」
「………テオ……。」
「アエラだって分かってるはずだ。」
現れたもう一人の男、テオドールが止める。
エリックはちらとテオを見ると。
「……分かった。」
仕方ないというようにアエラを下ろす。
首元をようやっと離されたアエラは、けほけほと咳き込み、その場に倒れ込んだ。
テオがすかさず背中をさする。
「……けほっ……あ、ああ、なんで急に来たの……ロエルに……」
「ロエルに薬渡したのは分かってる。それは、」
「全部知ってたんだろ、マリアナが倒れること。」
「知ってた。」
「っ……」
やはりと言ったようにエリックは顔をしかめる。
「でも、私は犯人じゃない。」
「だが、君の出店の、」
「とりあえず、向こう言ってから話すわ。マリアナはどこに?」
「保健室だ。」




