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異形者の目指したものは  作者: 夜空 切
11/20

011

 冒険者ギルドは扉がなく、そのままくぐるだけだった。これ、警備は大丈夫なのだろうか。

 中に入ると窓口がいくつも並び、そのどれもが5・6人の列を作っている。その奥には素材の買い取りカウンターがあり、窓口はとても大きかった。奥には見たことのない素材が机に並んでいる。魔物であろう皮や牙、聞いた魔石という魔法の言動力なども見受けられる。本当にファンタジーだ。

 クルサさんに教わった通り、入って左手の奥にある新規受付に並ぶ。

 5人のあとで僕らの順番になった。


「はい、お待たせ致しました。冒険者ギルドファルガ支部へようこそ! 本日は冒険者としての登録でよろしいでしょうか?」


 受付嬢がこちらにニコリとほほ笑んだ。彼女もエルフだった。薄い緑の髪に、青い瞳が澄んでいて人形のようなとても綺麗な人だ。


「……は、はい」


 無駄に緊張してしまい、返事が遅れた。後ろから視線が飛んできている気がするが、努めて意識しないようにした。


「畏まりました。では、皆さんこの用紙に記入をお願い致します。あ、もし文字を書けないようでしたら私が代筆致しますよ」

「大丈夫です」


 文字に関しても、クルサさんたちとのやり取りで確認が取れている。

 羽ペンとインク、用紙を受け取ると書いていく。この世界の用紙は完全に白紙ではないがしっかりと紙になっている木紙と、羊皮紙が一般的だった。羊皮紙は契約などに使われ、木紙はメモなど日常生活で使うものとして区別されている。

 誠は羽ペンをインクに浸し、羊皮紙に日本語を書いていく。すると自身では日本語を書いているはずなのに、手が勝手にこの世界の文字を書いているのだから不思議だ。自動翻訳便利すぎる。

 書く内容も簡潔に、名前、性別、年齢、生まれた国。これだけだ。


「これだけなんですね」


 沙友里が呟く。


「はい。冒険者になる方々は事情があるでしょうし、色々書かせる方が大変と申しましょうか……」


 受付嬢の目が死んでいくのを見るに項目を増やしたり、説明しても教養が足りずに理解されないということか。

 はい、と背後から沙友里が3人分の羊皮紙を渡してくるので、受け取って自分のと合わせて受付嬢に渡した。


「はい、確認いたしました。マコト様、カエデ様、ケント様、サユリ様ですね。では、少々お待ちください」


 そう言って受付嬢は奥に引っ込んでいく。全員とりあえず名前だけで登録することを決めていた。苗字があると貴族と間違われたりしてこの先大変だろうと思ったからだ。

 ほどなくして受付嬢が四枚のカードを持って帰ってきた。先ほどとは違い、その手には白い手袋を嵌めている。


「では、皆さんこちらをお持ちください」


 4人はカードを受け取ると、カードがわずかに光った。


「はい、これにて登録完了いたしました」

「え?」


 これだけ? 血とかいらないの?

 かえでと健斗はほえーとアホ顔である。

 僕らの反応が面白かったのか、受付嬢さんは小さく笑っていた。


「はい、これだけですよ。そのギルドカードは皆さまの情報を読み取って個人と結びつける魔法がかけられておりますので、肌で触った時点で完了でございます」


 ああ、そのための手袋か。恐らく個人認識を阻害する効果があるのだろう。

 ギルドカードを見てみると、名前、性別、職業、ランクが記載されている。ランクの横には0/100の表記があった。これがランクアップに必要なポイントといったとろだろうか。

 意図せず、互いのギルドカードを突き合わせて覗き込んだ。

 僕らの職業がまた笑えた。

 僕とカエデは魔法師。カエデには(占い師)が横に記述されていた。ケントが闘士、サユリが巫女と大体日本にいた頃のスペックを引きついでいるようだ。


「そのカードは無くされても戻ってくる魔法もかけられておりますので、紛失の心配は無用です。万が一死亡が確認された場合、カードは登録したギルドへ転送されますので、もしはぐれたりして仲間の行方が分からなくなったら一度契約したギルドを訪れることをお勧め致します」


 ああ、なんて便利なんだ。ひとしきり感心したところで、誠は説明を求めた。


「すみません、冒険者について詳しく教えていただけますか?」

「畏まりました! 皆さまは本日よりFランクの冒険者となります。ランクはFからA、最後にSと順に高くなっており、ランクに応じて特典が変化いたします。

 Dランクになりますと素材の買い取り額が10%上がります。

 Bランクになりますと指名依頼を受けられるようになります。ですが、これは強制ではございません。依頼主と相談して頂き、ご本人で受けるか決めていただいて結構です。断ったからと言ってペナルティはありません。依頼を断ったとして依頼主が癇癪を起したとしてもギルドと国が鎮静に動きますのでご安心ください。

 Aランクになりますと、待遇が貴族とほぼ同列となりますが今は説明しないでおきますね。

 Sランクはよほどのことがない限り、認定されることはありませんのでこちらも割愛いたします。

 依頼はランクごとで区分けされております。また、受付嬢の推薦によりひとつ上の依頼も受けられる可能性があります。

 ランクアップについてですが、依頼の達成数、内容に応じてポイントを贈呈いたします。一定数溜まり次第昇格という感じですね。Dランクまでは昇格試験はありません。Cランクに上がるタイミングで昇格試験を受けていただく必要があります。こちらは主に面接です。Cランクより貴族方から出された依頼も受けられるようになるため、そちらの対応ができるかの試験となります。

 ……皆さまは問題なさそうな気がしますね。そして依頼のなかには期限ありとなしがあるので、お気を付けくださいね。期限を過ぎてしまいますと依頼失敗となり、違約金をお支払いしていただきますので注意してください。

 なるべく実力に合った依頼を受けていただきたく思います。また、あまりにも依頼内容が実力とそぐわないと受付嬢が判断した場合、依頼受付をお断りさせていただく場合がありますので悪しからず。依頼は先ほど通っていただいたカウンターで受け付けています」


 ああ、やっぱり貴族はいるんだな。


「また緊急依頼が発生した場合、その地域にいる冒険者すべてが参加の対象となります。ギルドが発令したと同時にギルドカードが光りますのでそれが合図だと思っていただいて結構です。発令時点で範囲にいる冒険者の一覧がギルドに出現し誰もが確認できます。もしそれに参加できない場合は申し訳ありませんがお預かりしているお金から自動的に補助金を引かせていただきます。この金額はその緊急依頼の状況やランクで変化いたします。それに対する異議申し立ては受け付けていません。そこは了承していただきますようお願いいたします。

 また、負傷などによる理由でやむを得ず参加できない場合は事後承諾でも結構ですので冒険者ギルドへ連絡していただきますようお願いいたします。怪我の真偽につきましては魔法で判別可能のため誤魔化せませんのでご注意を。以上で説明は終了となりますが、ご質問はございますか?」


 真偽の魔法は先ほど経験したので、特に驚くことはなかった。


「もし、依頼以外の素材を持ち込んだ場合はどうなりますか?」


 サユリがちょこんと手を挙げて質問した。


「もちろん素材は買い取りいたします。ですが特別なことがない限り、依頼外の素材によるランクポイントの進呈はございません」

「わかりました」

「そのほかにございますか?」


 マコトはぐるりと3人を見るが、特に無いようだ。


「大丈夫です」

「では、皆さまのこれからのご活躍を期待しております。あ、申し遅れました。私はミンスと申します。以後お見知りおきくださいませ」

「はい。よろしくお願いします。ありがとうございました」


 お礼を言い、4人はこれから受けられる依頼を捜しに依頼板へと向かった。

 窓口を離れて買い取りカウンターの横を過ぎたタイミングでカエデがマコトの横に並んだ。


「ねえ、マコト。ミンスさんに証明板を見せなくてよかったの?」

「証明板って、クルサさんからもらったやつか?」

「うんそう」

「いや、あれは切り札になるからとっておくべきかなって」


 騎士の知り合いは交渉の時に箔をつけるため、もしくは自分たちでは解決できない問題に直面したら使う方がいいだろう。多用すれば自分たちで解決できなくなってしまう。まずはこの世界に慣れることから始めなくては。それにここで見せては厄介事になりそうな気がしたのだ。


「確かにそうかもね」


 納得してくれたようでカエデは依頼板へと足を速めた。

 4人は入り口付近まで戻り、依頼板を見上げた。

 依頼板は番号が振られ、その横に内容、報酬、依頼主、期限、ポイントが書かれている。この番号を依頼カウンターで言うことで依頼受付が完了する仕組みだ。この依頼板、驚いたことに魔法型電光掲示板で、恐らく受注されると依頼が消える仕組みだろう。


「紙の取り合いをするよりよっぽど効率的だな」


 ケントが言う。


「そうだね、そこは安心した。ええと、初心者御用達の薬草採取とかかな?」


 まだ僕らはステータスの確認をしていない。宿についてからお互いじっくり話し合うことにしていたので、依頼が戦闘系ばかりなら明日出直すことに決めていた。

 カエデが受けられそうな依頼を捜していく。


「うん、あった。無期限依頼。10番と22番……37番あたりかな。これ高いしいいかも」


 10番は薬草採取。22番は運搬系だな。そして37番だが……


「カエデが受けそうな依頼ですね」

「そうだな」


 黄金魚と呼ばれる魚の納品。ファルガ川というくらいだから近くにあるはずだ。それは破格の値段で置かれている依頼だった。1尾2万スーサ。そしてポイントは何と50。この依頼2回でEランクに昇格出来てしまうものだった。

 この世界は銅貨、銀貨、金貨、白金貨の順でそれぞれ10倍の価値があり、パンふたつで銅貨1枚。価値的には銅貨1枚100円といったところで、1スーサ≒1円とすれば非常にわかりやすかった。少々こちらの方が物価は安いくらいの認識で済んでいる。


「高級魚だが、運が良ければ誰でも手に入るからFに置いてあんだよ」

「うわっ!」


 横から知らない声がして、マコトは大声を上げた。

 横を向けば、革鎧を身に着けた背の高い男性が依頼板を眺めていた。

 ケントほどありそうな身長に、鍛え上げられた太い両腕は胸板の前で組まれていた。

こちらに視線を落とし、にやりと凄みのある笑みを向けられた。その迫力にマコトは思わず身がすくんでしまう。


「おう、すまないな。そうおびえなさんな」

 いつの間にいたのか、まったく気配を感じなかった。

「なら、自然に声を掛ける努力をしなさいよ」

「なにおう?」


 後ろから窘めたのは同じく軽装の女性だった。黒く長い髪を揺らし、ジトっとした目を向けていた。

 男はその視線から逃れるように身を引く。


「あのー、どちらさまで?」


 ケントが空気を読まず尋ねる。


「なんだ、おめえら。俺らのこと知らないのか?」

「ガロスはちょっと黙ってなさい。……ごめんなさいね」


 すまなそうに片手を立てていた。綺麗系のお姉さんという印象が強い、モテそうな人だ。


「私はネメリー。このファルガで活動している冒険者よ。で、こっちの馬鹿がガロス。私たち『白牙』のメンバーよ」

「はくが?」


 カエデが首を傾げる。


「ええ、私たちのパーティーの通り名よ。そこそこ名の知れた、ね」


 ネメリーさんは片目を瞑って答えてくれた。

 そこそこ、という言葉が気になってマコトは周りを見渡すと、なにやらざわついている。

 この反応、そこそこじゃすまなそうだよなぁ。

 とりあえず全員自己紹介を済ませると、ネメリーは改めてガロスを見た。


「それでガロス、新人捕まえて一体どうしたのよ?」

「ん、ああ。こいつらが黄金魚の話をしていたからちょっと聞こうと思ってよ」

「なら普通に声をかけなさいよ……」


 ネメリーが額を押さえていた。何か彼女に同情できた。


「すみません、黄金魚ってそんなに珍しいものなのでしょうか?」


 名前と金額からするに希少価値があることは間違いないが、市場を聞いてから場合によっては受けないことも考える必要があった。

サユリの問いに、ネメリーは頷いた。


「そうね。ここから30ウェンほど歩いた場所にあるファルガ川にいる魚なんだけど、なかなか釣れないのよね。それにおいしいから高級魚に指定されているの」


 ウェン=分と覚えておけばいい。つまり30分って、割と近くに川があったことはうれしい。

 漁でもすれば取れそうなものだが、この世界ではどうなっているのだろうか?


「網でまとめて取ったりしないんですか?」

「それが出来たら苦労しないわね。黄金魚は顎が強くて普通の網だったら噛み切っちゃうのよ」


 どれほどの魚だよ。ピラニアか何かだろうか?


「そのくせ、いつ出てくるか分からないからそれこそ運次第。だから希少で高値で取引されているわけよ」

「なるほど」


 ちらりとカエデに視線を向けると、任せとけとばかりに親指を立てていた。もしかしたらお金、どうにかなるかもしれない。


「ちなみに、取り方はどうしているのでしょうか?」

「ああ、それは簡単だ。網か釣り糸に強固の魔法をかけりゃいい。レベル4くらいで十分なはずだぜ」


 魔法を使えばいいのね。……ということは、その強固の魔法を扱える人が少ないのか?

 レベル4ということは一般的な人だとほぼカンストに近いし難しいのでは?


「因みに、その強固の魔法は珍しいのですか?」

「いや、特に珍しくはねえな。中級クラスからわりとメジャーなはずだ」


 成程。本当に希少価値な魚なわけか。そうなってくると金額は高いけれど、若干報酬が安く思えてきた。


「そうなんですか。教えていただきありがとうございます」


 あとで強固の魔術が使えるかも確認しておこう。先にステータスを見たい欲が出てきたが、今は我慢だ。


「では、これらを受けましょうか」

「異議なし!」


 無期限の依頼なので、受けておいてもデメリットはない。意見がまとまったところで、ネメリーさんが言った。


「じゃあ、私たちはいくわ。お邪魔しちゃってごめんね。ほらガロスも」

「おう、邪魔したな」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」


 じゃあね、とネメリーは手を振ってその場を離れていく。渋々ガロスもその後を追いかけ、ギルドから出て行ってしまった。


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