盗作~コピーに負けたオリジナル~
昔むかし、ある所に、『小説家になろう』で書籍化を目指す男がおりました。
仕事で疲れた体に鞭打ち、来る日も来る日も執筆にいそしんでおりました。
設定を練りに練った処女作にはブクマがほとんどつかず、感想がもらえる事もありませんでした。
昨日あったブクマが今日は1件消えて意気消沈し、そんな所に再びブクマがついて喜んで執筆の励みとする、そんな毎日を送っておりました。
初めて感想がついた時にはモニターの前で小躍りして喜んだものです。
その感想をくれた人は、男がブックマークをして何度も感想を送っていた、書籍化作品の作者でした。
男は驚くと共に、大急ぎで返信しました。
それがきっかけとなり、その人との交流が始まります。
時に自作の展開の相談もするまでとなり、創作の辛さも喜びも分かち合える仲間を得て、男は毎日を頑張っておりました。
日々執筆を続け、作品を次々完結させてゆき、そして遂に、総合ランキングに乗るまでになったのです。
毎日が楽しく、大喜びで執筆を続けていきました。
そんなある日、自分の作品と非常に良く似た内容のモノが、瞬く間にランキングを駆け上がってきたのです。
複数の読者からの知らせを受け、その作品を確かめにいった男は驚きました。
キャラの名前は流石に違っていましたが、テンプレで片付ける事は出来ない程に展開が似通っていたからです。
しかも、男が最新話を投稿すれば、その作者も似た最新話を投稿するといった具合です。
男は気になって、その作者の他作品を調べます。
その作品が初投稿のようでした。
男は初め、事態を静観しておりました。
何かの間違いかな、とも、人が考える事は同じなんだな、とも思い、何らかの行動をした方が良いとのアドバイスもありましたが、あえて人を疑う事はせず、大人しく見守っていたのです。
交流の続いていた人も心配してくれ、揺れる心を相談し、気を落ち着けていました。
盗作じゃないのかとネットでも話題となっている事は知っていましたが、自分から動くのもどうかと思い、何の対策を取る事もなく、自分の執筆を続けていったのです。
しかし事態は、男が思ってもいなかった形となって動きます。
その作者があろうことか、男こそが盗作していると自身の感想欄でも活動報告でも訴えているというのです。
ネットは騒然となりました。
総合ランキングに乗っている作品同士で盗作騒動が起こったのですから。
しかも、誰がどう見ても同じとしか思えない内容の物なのです。
テンプレでは説明出来ない程に、同じ様な登場人物、同じ様な展開の物語なのですから、それぞれの作品の読者でなくても興味を惹くでしょう。
どうなるのかと祭りを楽しむ気分の人々で、男の感想欄もその作者の感想欄も荒れました。
中には、同一人物による炎上芸ではとの疑問の声があがりましたが、やっていない証明は出来ないので、男にはどうする事も出来ません。
男の作品を初めの頃から読んでくれている読者は、皆心配した言葉をかけてくれました。
男の方が先に書いていたのは読んでいる者が知っているし、それは投稿日時を見れば明らかです。
それに、順調にランキングを上げていた男が、わざわざ炎上騒ぎを起こす訳もないと思っていました。
しかし投稿日時といった証拠があるにもかかわらず、件の作者は訴えを止めません。
それを指摘する読者の声には、なんと構想していたのは自分の方が先だと主張するのです。
男は開いた口が塞がりません。
いくら頭の中で同じ事を考えていたとしても、先に発表した方に権利がある事は当然だからです。
しかし中には、心無い言葉を男に投げつける者もおりました。
感想だけではなく、メッセージでも多数届き、執筆に集中する事が出来ない程となっていきました。
男は困り、対策を考えます。
まずは運営に相談する事にしました。
調査すると言う回答をもらいましたが、すぐに結果が出る訳もありません。
男は独自に対策を考えました。
もしも盗作ならば、自分が投稿を止めたらその作者の投稿も止まるはずです。
男はそう考え、定期的に更新していた最新話の投稿を、執筆は終えたものの一時的に停止しました。
そして、いつも更新している日時に、注目してその作者の作品を見ていました。
更新されなければ盗作の疑いはより濃厚になります。
その時間が来るのを緊張して待ちました。
そして、遂にその時間がやって来ます。
驚いた事に、その作者は作品を更新したではありませんか!
慌てて男は最新話に目を通します。
何とその内容は、男が執筆を終えて投稿を止めていたモノと似た内容だったのです。
男は混乱しました。
どういう事だと訳がわからなくなりました。
そして、考えが定まらないまま自分の最新話をアップしてしまったのです。
混乱は、見守っていた男の読者も同様でした。
それまでは、男の作品こそオリジナルだと信じていたのに、今度は逆になってしまったのですから。
炎上芸という言葉が今更のようにネットに広がります。
混乱している男の元へメッセージが届きます。
男を混乱させている、その原因を作り出している人物からです。
半ば恐怖心に駆られながらもメッセージを開きます。
そこには、これで自分の主張を信じる気になっただろうと、そういうような事が書かれていました。
男は益々混乱します。
これまでの自分の創作活動は、一体何だったのだろうと疑いました。
本当に自分は盗作をしていたのだろうかと、自分の事なのに信じられなくなってしまったのです。
自分で気づいていないだけで、知らぬ間に、他人の作品をコピーしていたのではと一人妄想してしまいました。
何がどうなっているのかさっぱり分からないまま、時間が過ぎていきます。
もはや執筆どころではありません。
投稿は滞り、読者も離れていってしまいました。
そんな男を嘲笑うかの様に、その作者の更新も止まってしまいます。
男は恐怖しました。
また、自分が投稿した後を見計らって投稿するのだろうか?
それとも、直前に同じ内容の最新話を載せ、やっぱり盗作じゃないかと言うつもりなのだろうか?
そんな事を考えると、恐ろしさに筆が進むはずがありません。
それまでは定期的に投稿を続けていた男の作品が、ついに止まってしまいました。
仕事においても単純なミスを連発し、注意を受けました。
最近おかしいぞと職場の人も心配してくれましたが、小説を書いている事は誰にも言っていない男には、相談出来る相手はいません。
このまま退会してしまおうか、何度もそう思いました。
運営からの調査結果もいつになるかは分かりません。
男にとって良いモノとならない可能性もあります。
折角ランキングを上げていたのに勿体ないですが、ここですっぱりと諦めて、別のサイトで新しく始めた方が速い、そんな気持ちになりました。
ブクマしてくれ、感想を送ってくれた人には申し訳ないと思いながらも、辛い思いをしてまで執筆するモチベーションなんて湧きません。
そして、交流のあった作家さんにだけは自分の思いを伝え、惜しまれながらも遂になろうを退会したのです。
なろうを退会し、気持ちを落ち着ける為に時間を置き、新作を書きたい思いが募った頃に別のサイトに登録しました。
あれだけ精力と時間をかけて書いた、過去の作品が全てなかった事になっている現実は辛いモノがあります。
とはいえ、いつまでも気にした所で仕方ありません。
男は気持ちを切り替え、別名での作家生活を始めたのです。
何作も完結させ、なろうの総合ランキングに載るまでになっていた男ですから、作家としての実力は既にあります。
新作もすぐに読者の目に留まり、徐々に人気が出始めました。
ホッとすると昔の事が思い出されてしまうのも人情です。
久しぶりになろうを覗いてみる事にしました。
変わらない異世界ファンタジーの人気ぶりに安心するような、懐かしいような妙な気分です。
ふと、自分を退会に追いやった例の作品はどうなっているのだろうかという思いが湧きました。
恐る恐る検索します。
すると完結していたのです!
男が止めた所からも話は進んでおり、暫く続いて物語が終わっていました。
その作者はそれ以外に書いていなかったようです。
こうなったら最後まで確かめてやろうと、男は続きを読み始めました。
やはり、自分が考えていた通りのストーリーを追っています。
しかし、徐々に違和感を覚えました。
段々と、自分が考えていたモノと違った展開になっていたのです。
あれ程似ていたのに、どういう事だと思いました。
疑問を抱えたまま最終話に進みます。
すると、違和感は確信に変わりました。
その作品の結末は男が当初に考えていたモノで、退会寸前に考えていた新しい結末案ではなかったのです。
そして思い出します。
その事は交流のあった作者さんにも言っていなかった事を。
作品のプロットから結末に至るまで、事細かに相談していた男ですが、その心変わりだけは言っていなかったのです。
信じたくないと思いながらも、男は事件の真相を悟ります。
尊敬し信頼していた作者さんから裏切られたのです。
しかし、何故なのだと疑問が湧きます。
あの作品を書き始めた時点で既に書籍化していたその作者さんが、そんな事をする意味が分からないからです。
自分とは比べ物にならない程人気のあった人が、ばれたら垢バンは必至な上に、下手をしたら出版停止などの措置も受けかねない振る舞いをする理由が思いつきません。
何のメリットもない筈なのに意味が分かりませんでした。
怒りも覚えます。
同じ創作仲間として信頼し、相談事もしていたのに、最低の形で裏切ったのですから。
運営に報告しようかとも思いましたが、証拠がなくて無駄になりかねません。
それに恐怖心もあります。
もしも男の思った通りだったとして、自作を書きながらそんな事をする熱意が理解不能です。
兼業作家が一つの作品を執筆するだけでも大変なのに、当時は2作品を連載していた筈なのです。
それに加えて男の作品のコピーなんて、どれだけのエネルギーを注いでいるのか想像もつきません。
得体の知れない存在に遭遇したみたいで背中がゾクッとします。
二度と関わってはならない人だと感じ、慌ててなろうから離れました。
そして今日の分を投稿しようと、利用しているサイトにアクセスします。
マイページにコメントがあるとの文字を見つけました。
何気なくクリックし、男は衝撃を受けます。
なんと……