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盗賊、それとも

投稿開始から二日にしてブックマーク10件達成いたしました!

読んで下さった皆様に心からお礼申し上げます。

今後も精進してまいります。


※ブクマ10件達成記念に本日は三話投稿します※

「あ、あの、皆さん……」


 シャーリーが怯えた声色で言う。


「心配するなシャーリー、こう見えて俺はチート持ちなんだ」


「ち、ちーと……?」


 そう、俺は異世界転移型主人公。最近ではちょっとばかりチート能力の兆しみたいなものも感じ始めた。大丈夫、大丈夫だ。

 俺は自身に言い聞かせるように心の中で繰り返した。


「メウ、なるべく遠くまで離れてろ。できればあいつらの感知外まで」


 そう言ってメウの肩を叩いてやる。メウは力強く、わかった、と言ってシャーリーと御者を連れて反対側の森の中に駆け出して行った。

 するとそれに反応した敵の内の数名が追いかけるように飛び出してくる。

 森の中から姿を現したのは目深にフードを被った男たち。そのまま俺とシャルマの間を縫って行こうとする。


「行かせません!」


 すぐに反応したのはシャルマだった。バッと両手を広げる。その両手は転倒した馬車を飛び越えようとするフードの男たちに向かって。そしてシャルマは急速に練り上げた魔力を放出する。

 どうするつもりだ、とちょっぴりワクワクしていたら、魔力の塊がその場で大風を巻き起こした。


「ヌッ!」


「ウオォッ!?」


 男たちの眼前に巻き上がった強風が行く手を阻み、風圧で押し返したのだ。


「おお、凄いなシャルマ! 風属性魔法・ウィンドウォール……ってところか?」


「な、なんですかそれ?」


 俺の軽口に律義に返してくれる。

 とはいえ正直焦っていた。気力感知でわかっていたとはいえ現れた奴らが明らかに人間だったために、怯んで迎え撃つことができなかったのだ。あれほど自信満々に言っておきながら敵を見逃してメウたちを危険な目に合わせるところだった。


「くっ……魔術師か」


 と言ったのは男たちの中の一人。

 改めてそれに向き合う。やはりどこからどう見ても人間だ。フードのせいで顔が見えず、ヒト族かどうかは判別できない。後方に控えて様子をうかがっているのは六人。今俺とシャルマの目の前に姿を現したのは四人である。


「あなた方、いったい何の用ですか?」


 シャルマは油断なく右手を男の一人に向けながら問いかける。


「……お前らに用はない」


 しかしその答えは得られず、懐から短剣を取り出した。他の男たちも同様にそれぞれ獲物を構える。

 男たちの持つ短剣は刃渡り20センチほどで細身。切り結ぶというよりも隙をついて刺し貫くことを意識したもののようだ。

 なんとも、いかにも盗賊らしい武器をお持ちのようである。


「おい、女の方を先にやるぞ」


 一人が他の男たちに言うと、二人がそれに呼応してシャルマに向き直った。残りの一人は俺と相対する形になる。俺は一対一、シャルマは一対三。魔術師であるシャルマを警戒するのは当然だろう。

 俺は額に冷や汗が流れるのを感じた。シャルマが熟練の魔術師だとして、果たしてこの世界では魔術師の戦闘能力はいかほどの物なのか。相手が盗賊とはいえ三人を相手取って戦えるものなのか。


「おい、女の心配をしてる場合か? お前は俺が相手してやるぜ」


 へっへっへ、と汚らしい笑い方をしながら、俺と相対している男が言って来た。

 シャルマは危険ではないのか。マズい、と思いながらも俺は目の前に立ち塞がる男を今すぐどうにかできるわけではないのだ。シャルマに加勢するためにはまずこいつをどうにかしなければ。


「この前は面倒な騎士サマたちのせいで標的を取り逃がしちまったからなあ……けどまあ、まさか新しい護衛が、ド素人に女と子供とはな。どうしたんだお前、腰が引けてるぞ?」


「……ってことは、やっぱお前らは前にシャーリーを襲った連中なんだな?」


 へらへらと笑う。答えはイエスと見てよさそうだ。

 よほど俺のことを舐めているのだろう。俺としては油断なく相対しているつもりでも、この世界でずっと命のやり取りをしてきた盗賊共からすると俺の構えが何の技術もない素人剣術だと見抜けてしまうのだろう。

 そしてそれは悲しいことに事実なのだ。


「とっとと終わらせるぜぇ!」


 そう言って一気に距離を詰めてくる。キラリと短剣が光り、俺の胸元めがけて飛び込んでくる。マズい、と思って咄嗟にそれを長剣ではじいた。

 しかし俺の剣は空振る。直前で身をひねって俺の背後を取ったのだ。

 しまった、フェイント……!


「ひゃああっは!!」


 奇怪な叫び。俺は剣を振ったままの反動で回避できない。

 どうする。

 俺に取れる手段は少ない。瞬間的に真っ先に頭に浮かんだ行動を取った。


「……ッ!?」


 背後を取られたまま、革鎧のつなぎ目から短剣を突き刺された。

 ……が、しかしその切っ先は僅かに数ミリ刺さっただけでそのまま俺の体を刺し貫くことはなかった。


「な、なんだ……どうなってる……!?」


 動揺したのは切り付けた盗賊の方。

 俺が咄嗟に取った行動、それは気力操作だった。

 全身の気力を背中に集中させての硬化。気力で身体能力を向上させるとわかってから、もしものために使えると思って練習しておいた技術だった。

 気力を集中させた硬度はさながら石のよう。薄刃の短剣でどうこうできる硬さじゃない。


「ぅおりゃっ!」


 そのまま体を反転させて背後に向かって右手の長剣を振り払う。

 驚愕で硬直していた盗賊だったが、さすがにその反撃には反応する。短剣で俺の剣の切っ先を切り付けてその軌道を捻じ曲げる。

 どう考えても相手の方が技術は上だ。

 ならば相手に攻撃させる暇なく押し切るしかない……!


「おりゃ! どりゃ!」


「ふっ、ふっ、てめえ、くそ、素人のクセにッ、なんて馬鹿力だッ!?」


 確かに俺には何の技術もない。だが有り余り気力で肉体を強化することだけはできる。

 めちゃくちゃに振り回す長剣は強化した腕力で振り回すだけで一撃必殺の破壊力となる。相手もそれはわかっているのだろう。何かの間違いで一撃でも食らえばタダではすまないダメージになるのだと。


「はぁっ、まだまだっ、こんなもんじゃないぜ」


 短剣は時に俺の剣を弾き、時に受け流し、時に受け止める。しかしそもそも短剣はこうして真正面に敵を相手取って剣戟をぶつけ合うための武器ではない。隙をついて急所を急襲するための武器なのだ。だが俺の肉体は硬質化のおかげで短剣如きではビクともしない。

 男に目に見えて余裕がなくなるのがわかった。

 この勝負、俺の勝ちだ。


「オラァッ!!」


 思い切り気力を込めて長剣を振り下ろす。強化された肉体のおかげで速度と威力は十分過ぎるほどだ。

 焦った盗賊が短剣で受け止める。……が、ついに耐え切れなくなったのか、その短剣は根元から折れ、剣身が吹き飛んだ。

 そのまま相手の首元に剣先を突き付けてやる。


「おい、まだやるか」


「……く、クソッ、おい! こっちに手を貸せ!」


 盗賊が叫ぶ。シャルマの方を相手にしていた残りの三人の方に。

 ハッとしてシャルマの方に向き直る。俺がこの一人を相手している間、シャルマはそのせいで三人を相手に戦わなければならなかったのだ。

 するとそこには互いに何の傷も負わずに相対しているシャルマと三人の盗賊の姿があった。先ほどまでと状況は何一つ変わっていない。

 ……いや、よく見るとそれは違う。シャルマは険しい表情で男たちに右手を向け、相対する三人は膝が震えて顔面には脂汗がびっしりだった。

 シャルマは何かをしている。遠目には何一つ起きていないように見えるが、明らかに様子のおかしい盗賊たちの姿を見る限りそれは間違いない。


「な、何をした……魔術……師……」


 男の一人が苦しそうな声でシャルマに問いかけた。そしてその言葉の言い終わる前に、背後の二人が地に膝をついた。

 脱力し、そのまま満足に呼吸もできないようだ。倒れた男の片方は嘔吐までしている。


「あなたたちの周囲の大気を掌握しました。酸素を減らしたので、もう動くことすらできないはずです」


 シャルマは冷徹にそう言い放った。

 大気の操作? つまり、十分な呼吸のできない状態にする魔術、ということだろうか。

 確かに空気中の酸素濃度が下がれば酸素欠乏症を招く。人間というのは存外脆く、僅か数パーセントの酸素濃度の低下で昏睡状態に陥り、数分で死亡するのだ。


「おいおい……風で切り刻むとか、そんなのが子供騙しに思えるような凶悪な魔術だな……」


 しかもそれは何の音もない攻撃だ。突然満足に呼吸ができなくなり、対処する暇もなく昏倒させる。サイレントキリングなんてもんじゃない。痕跡一つ残すことはないのだ。

 呼吸を必要としない生き物なんて少なくとも地上には存在しない。明らかにチート級の魔術だ。


「ぐ……う……かはっ」


 そして最後まで抵抗していた男がその場に崩れ落ちた。

 意識を失ったのを確認したシャルマは右手を降ろす。魔術を解除したのだろう。


「ふう……少し魔力を使い過ぎましたね」


 額に流れる汗をぬぐう。どうやらこの反則級の魔法は消耗も激しいようだ。


「な、なんでこんな田舎で、こんな魔術師が冒険者なんかやってんだよ……!」


 動揺した声を上げるのは、今もなお首元に俺の剣の切っ先を突き付けられている男。

 シャルマも相手の命までは奪う気はないようである。俺も相手が悪人とはいえ、言葉の通じる人間を殺す気にはとてもなれない。武器もなく身動きを封じられたこいつはもはや脅威ではないが、問題はまだ仲間が残っているという点だ。最初から全員でかかってこなかったのは俺たちの実力を測るためだろうが、仲間が倒された今もなお森の中からこちらの様子を伺い続けているのだ。


「お前は寝てろ」


 このままこの男に付きっ切りで動くことができないのはつらい。俺は気力を込めた左ストレートで男の顔面を殴りつけた。

 鼻血を吹き出しながら倒れる盗賊。まさか死んだということはあるまい。


「シャルマ、油断するな! まだ連中の仲間が森の中にいるぞ!」


 当然そんなことはシャルマにも分かっている。今のは盗賊の仲間たちに向けて言ったのだ。

 何を狙っているのかは知らないが、隠れて隙を狙うことはできないぞ、という意味の言葉だ。

 あわよくばこのまま引いてくれないか、とも思ったが、相手もそういう訳にはいかなかったらしい。しばらくするとその気配が動き出し、俺たちの前に姿を現した。

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