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旅立ち、そして初めての

「これは……異様に報酬が高かった理由にも頷けますね」


「え、どういうこと?」


 翌日、朝、北門前にて。

 少し外れた馬車停車場に、俺とメウ、そしてシャルマは集結した。

 昨日請け負った護送クエストのためである。


「ほら、見てください、馬車の扉にある金細工。一角の馬のモチーフがありますよね」


 停車場に着いた俺たちを待っていたのは、豪奢な大型馬車だった。俺が知る馬車はせいぜい馬一頭に引かれるタイプのもので、せいぜい荷物を運ぶか一、二人が乗るための馬車だった。

 だがしかしその大型馬車は四頭もの馬に引かれる形で、乗車スペースも広く、外装も豪華。高級馬車というに相応しいものだったのだ。

 そしてその乗り口である扉にはひときわ華美な金細工が施されていたのだ。


「あれはラズリス王国の王室紋章です。……つまりこれは王室の馬車なのです」


 おお。

 と、ジョークを言っている場合ではない。


「え、まさかあれが俺らの依頼の……護衛する馬車ってこと?」


「恐らくそうでしょう。指定の時間と場所に間違いありません」


 ひそひそと話し合う。背後では暢気なちっちゃ娘が朝食の残りのバゲットをもぐもぐしている。


「とにかく行ってみるか……」


 そう結論付けて豪華な馬車に近づく。

 四頭もの馬を繋いだ御者台に座って待っているのは、小太りの初老の男。こう言っては何だが豪華な馬車には不釣り合いな庶民風の男だった。

 近付いた俺たちに気が付いた御者が顔を上げた。


「あんたらが依頼を受けてくれた冒険者かい」


「ああ、そうだ。これが依頼書だ」


 そう言って受領の証のついた依頼書を見せる。


「おっさんが今回の依頼人か? 随分と高額な報酬だったが、それにしてもこの馬車は……」


「ああいや、俺はただの雇われだよ。御者がいないってんで声がかかっただけに過ぎんさ。依頼人はこっちだ」


 そう言っておっさんは自分の背後を指差す。大型のボックスタイプの馬車の中には、よく見ると女性が先に座って待っているようだった。

 その姿はすらっとした細身。真っ白なシルクのローブに身を包んでいる。透き通るように美しい長髪は金色で、その頭部にはティアラが飾られていた。

 ……ティアラ?


「なあ、あれって……」


 と、シャルマに相談しようとすると、俺たちに気づいた金髪の女性が馬車から降りて来た。


「あなた方が護衛を務めてくださる冒険者の方々ですか?」


 その女性は毅然とした態度でまっすぐにこちらを見つめてくる。


「……あ、ああ、そうだ」


「頼りにしております。ヴェルリヤまでは数日かかりますが、その間宜しくお願い致します。わたくしはシャー……ええと、シャーリーと申します」


 恭しく頭を下げられる。これはどうも、と俺とシャルマも礼をした。メウはバゲットを食っていた。


「俺はチヒロ、こっちがシャルマ、魔術師だ。後ろの失礼なガキはメウ。一応この三人でチームを組んでいる。よろしくな」


「よろしくお願いします」


「もごもご」


 依頼人であるシャーリーは女性というべきか少女というべきか、そのちょうど間くらいの年齢に見える。ヒト族なのは間違いないが顔立ちが見慣れた東洋人のそれではないので正確な年頃は測りかねる。

 しかしその物腰と気品あふれる様から、どう見ても庶民ではないのだろうと思わせる。豪商の娘か、貴族の娘か、はたまた。というか、だ。あのティアラはなんの冗談なのだ。

 いやもしかして冗談では……ないのか?


「あー、そういや、依頼の内容は重要な荷物の護送、ってことだったけど……荷物はどこに?」


「皆さんに護送して頂く荷物はここにあります」


 とはいうが、そのようなものは見当たらない。

 訝しがる俺に対しシャーリーはこう言った。


「わたくしが護送対象です」

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