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―The Day Before―

2019年7月より着手


みんなが親の仇より大嫌いな転生前の地球を描いたプロローグですが、割と物語の根幹に関わるお話なのでできれば飛ばさず読んでくれると嬉しいです。

あと冒頭には死体を転がせ、とミステリの書き方指南で読んだので初っ端から死体転がしました。ミステリじゃないけど。

―The Day Before―


「さて、お喋りはこれくらいにしよう」


 『彼』は真っ赤に染まる両手を合わせてパチンという音を立てた。弾かれて、まだ乾かぬ数滴の血が飛び散った。これで剣戟の飛ばぬ上演前の時間は終わりだというわけだ。

 辺りには無数に転がる死体。沸騰しそうになる頭を鎮めた。


「……本当に止める気はないんだな」


「無理だね。今更どうして?」


「俺とお前は、剣を合わせて戦わなきゃいけないような関係じゃなかったはずだからな」


「君が引いてくれるなら、やり合う必要も無いんだけどね」


「……そういうわけにも行かねえだろ」


 犯した罪は消えない。それでもせめて、この世界にたった一人でも……この俺だけでも『彼』の背負った苦しみや悲しみを共に背負うことが出来るのなら。

 悲劇が悲劇を生む必要はない。ここで止めることさえできるなら、きっといつか共に笑えるようになる未来も待っているかもしれない――。


「俺がお前の呪いを何とかしてやる」


「……ふふ、まさか君がそんな風に考えてるとはね。僕の背負う罪をわかった上で言っているのかい。僕は君だって殺してしまうかもしれないのに」


「お前は俺のダチだからな」


「…………君は本当に苦労する性格をしているよ」


 どうしたって『彼』は止まれない。例えそれが間違っているものだったとしても。逃れられない十字架を背負って、殺す者の覚悟を持っている『彼』を、戦うことなく止めることなどできないのだ。

 そんなやり取りの最中にも、爆音が近くから遠くから聞こえてきている。今この瞬間にも誰かが命を落としているかもしれない。

 一番大切なことは何なのか。一刻も早くこの惨劇を終わらせることだ。

 説得して止められないのなら、力づくで止めるしかない。そんなことは最初から分かっていたのだ。


「殺し合いがお望みなら付き合ってやる。けど悠長にしている時間もない、とっととボコってお説教はそのあとだ」


「ははは、相変わらず君は面白いな」


 『彼』に剣を向けた。心の中はざわざわと騒いでいる。どう足掻いても、後悔しても、こうなる運命だったのだろうか。思えば最初から、こんな結末を迎えてしまうことはなんとなく予感できていたのかもしれない。

 二つの剣の切っ先が音もなく微かに触れ合った。

 ――そして、二人の男の剣が交差した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「『続きを楽しみにしています!』……と。ブックマークもだな」


 深夜、真っ暗な部屋の中でカタカタと慣れた手つきでキーボードを叩く。部屋の電気は消えていて、唯一の光源は目の前のモニターだけだ。


「ふぅー……なかなか見どころのある新人だな」


 そう呟いて俺はニヤリと口元をゆがませた。更新のあった作品を一通り読み漁り、ついでに直近のランキング上位の新作をまとめて三作品ほど読破したのだった。

 一息つく。近くにあった炭酸ジュースのペットボトルを手に取るが、中身は空っぽだった。


「あちゃ……買い置きなかったかな」


 誰にともなく独り言。一人暮らしが長くなり、ほとんど誰とも会話をすることない生活が続けば、自然と独り言は増えていくものなのだ。

 一人暮らしを始めて数ヶ月。実家を離れる際は不安もあったが、慣れればこの生活もいいものだった。

 逃げ出したと言えばその通りなのだが、いい年した大人がいつまでも実家暮らしでいるというのも世間体が悪い。


 ボサボサの頭をぽりぽりと掻きながら、スマホと財布を持って立ち上がる。

 六畳ワンルーム。簡素なベッドと、少し大きめのPCデスクとチェアー。部屋の壁一面を占領する本棚と、そこから溢れるように積み上げられた漫画本。アニメを見るためだけに存在するテレビと、その横には収納場所がないために行き場所を失ったアニメDVDの数々。劇場版も少し。

 この部屋が、管理費込みで家賃五万のこの部屋が、俺の城だった。


   ◇


 バタン、と扉が音を立てて閉まる。ジャージ姿にサンダルというラフな格好で、俺は近場のコンビニまで繰り出すことにした。田舎でも都会でもない深夜の住宅街はひっそりと静まり、数メートルおきに置かれた街灯の光だけが足元を照らす。

 スマホを見れば午前二時を回って少し、といったところ。こんな時間ではこの辺りを歩く人影はない。財布の中身は一万とちょっと。無駄遣いはあまりできない。とはいえ、ちょうど小腹も空く頃合いである。カップ麺とジュースと……まぁそれくらいなら許容範囲だろう。


「うー……寒い。さすがにもうジャージだけじゃきついか」


 コンビニまでは片道七、八分程度。とはいえ十月も終わるというこの時期の深夜に薄手のジャージ一枚では厳しかったかもしれない。

 そういえば一応言っておくが、俺は、ニート、ではない。限りなくそれに近いのではあるが、少なくとも家賃と生活費程度は稼いでいる。しかしもう三十も手前だというのに未だに親から仕送りをせびるダメ人間である、という自覚はある。なまじ実家がそこそこ金持ちだったために、自分で働いて金を稼ぐということに現実感がないのだ。

 職場であるコンビニでも、勤務態度を何度も注意されている。……知ったことか。クビにされたら次を探せばいいだけだ。

 とまあそんな態度であるために、同僚からの評価も低い。『狩谷さんは仕事を舐めている』とは、同じ職場の大学生クンからの耳の痛いお言葉である。嫌になる、全く。九つも下なんだぜ?

 狩谷千尋、俺の名前だ。今年で二十九歳。職無し、金無し、彼女無し。絶望的だろう。おまけにやる気無し、と来たもんだ。

 

『やりたいことが見つからない』


 そういって就職活動を放棄したのが……さて、もう何年前だったか。

 父親はエリートだった。誰もが知る有名な大学を出て、誰もが知る有名な企業で重要なポジションになった。母親とはお見合い結婚だった。そこそこの愛があったのかどうか、それは俺にはわからない。少なくとも実家に流れる空気は無味乾燥だった。

 何が不満なのか、父はいつも不機嫌なように見えたし、母はいつもそんな父の顔色を窺っていた。そしてそれ以上に世間体を大事にした。

 三つ上の兄が父親と同じ国立大学に合格し、三年後に俺が不合格したとき、俺の人生はバッドルートに分岐したのだと今になってみればわかる。


『……そうか』


 何の感情もない目でそう一言呟いただけで、俺の合否の報告は終わった。父は俺に……というか、きっと他人に興味が無かったのだろう。父の関心を欲して、父が望むだろう道筋を歩んできたつもりだったが、それもその時に全て終わったのだ。

 その日を境に、俺は無価値な存在になったのだと気づいた。それでもせめて少しはマシな人生を目指そうと、滑り止めで受けていた大学に入学し、それなりに四年間頑張ってみたりもした。

 だが、両親の関心が俺に向けられることはついになかったのだ。


 そうかい、だったらとことんまで堕ちてやろうじゃないか、と半ば反抗心もあって俺は就活を拒否してみたりした。今考えると非常に幼い思考回路だった。頑張っても褒められないのなら、わざとワガママを言って親の目を引いてやろう、と考える子供のようなものだったのだろう。

 結果として……俺は何も言われなかった。大学を卒業して、そのまま自室に閉じこもるようになった。さすがに母はどうにか社会に復帰して欲しいと思っていたようだが、何も言わない父の手前、俺に声をかけることはなかった。

 それから数年経ち、余りにも息苦しい家の空気に先にギブアップしたのは俺の方だった。


『家を出る。バイトして生活費は何とかする。落ち着くまでは金を都合して欲しい』


 そういう俺に対し、父は一言だけ呟いた。


『好きにしろ』


 数年ぶりに聞いた父の声だった。


「いらっしゃーぁ……あぁ、狩谷さん」


 さーてさて目的地のコンビニに到着。

 真夜中にぶらつくと、どうにも思考が暗い方へ暗い方へと行ってしまってよくないね。

 こんなことならイヤホンを持ってきてお気に入りのアニソンでも聴きながら来ればよかった。


「うっす」


 俺は片手をあげて、夜勤の店員に返事する。ちょうど納品されたのだろう週刊誌を陳列している最中だった。

 家から一番近い最寄りのコンビニは、俺の勤務先でもあったのだ。


「廃棄余ってない?」


「勘弁してくださいよ。それで俺この前怒られたんスから」


「マジか、バレたのか」


 軽口を言いながら、店内をぶらぶらと歩く。店内BGMは最近はやりのアニメソング。思えば最近のコンビニはオタクコンテンツを遠慮なく押し出してくるよね。

 お気に入りの炭酸ジュースを数本と、カップ麺を数個。無造作にかごに入れて俺はレジまで向かった。

 ちょうどレジ前に並べ終わった雑誌の表紙が目に留まる。


「『俺のスマホのナビアプリを使って最短ルートで攻略する異世界生活』……」


「今季の覇権っすよ。スマホ持ったまま戦闘するとかちょっと頭おかしいところありますけどねー」


 同僚がへらへらと軽薄そうな顔で言う。

 俺はパラパラと雑誌をめくり、その表紙になっている漫画のページで手を止めた。


「知ってるよ、原作読んだことあるし。アニメは録画しただけでまだ見てないけど」


「マジすかーさすが狩谷さん、異世界モノはことごとく押さえてますね」


「原作の"なろう"の方がまだ完結してなくてなあ。コミカライズに続いてアニメ化までして、作者が忙しくなったせいで更新止まってるんだよ」


 そのままざっと目を通し、パタンと雑誌を閉じた。

 タイトルに似合わずシリアス展開の多い作品だったが、思っていたよりもコミカルな感じに改編されているようだった。


「俺もアニメとか好きっすけど、狩谷さんの異世界好きはちょっと極端ですよね」


「まぁ……異世界・転生モノしか読んでないかもな。昔は色々他にも手は出してたけど」


 ピッピッ、と慣れた手つきで商品をスキャンしながら会話が進む。


「今じゃ年間何本あるんだっつーくらい異世界モノで溢れてますからねー。さすがにネタ切れっつーか、もうお腹一杯だろとは思いますけど」


「そんなことない! 異世界・転生にはロマンがあるんだよ、それがわからんかねえ」


 財布から千円札を取り出して、手渡す。


「ロマンねー……やっぱ狩谷さんも異世界行きたいんスか。もし行けたら何します?」


 軽い調子で聞いてくる。当然それはただの世間話だったのだが……。


「……いや、まあそりゃ、行けるもんならな是非行きたい。つってもだよ、実際万年インドアの俺がだよ、剣と魔法のファンタジー世界に行ったとしてもだ、スーパーサバイバルな世界で最強になるどころか果たして生き残れるかどうか? まあでもこれはチート能力が与えられる前提があればなんとかなるかもしれないけどな。あーでもさ、そもそも異世界があったとして、死んだだけで行けるとかハードル低すぎんか? だったら毎年どんだけの人間が異世界行ってるんだよって話で。仮に神的な存在がいてさ、もともと特別な能力を持った人間を選別してると考えても、日本人ばっかり異世界行ってるってのも……」


「いやいや、マジに考えすぎでしょ」


 興奮してしゃべり続ける俺を止めるように割り込んでくる。その表情はちょっとバカにしてるようにも見えた。俺の被害妄想かもしれないが。


「……だ、だよなー。なんちゃってな」


「じゃこれ、お釣りっす」


「お、おう……」


 お釣りを手渡される。俺は自分がちょっと熱くなってしまったことを少し恥じるのであった。

 彼はオタク趣味を理解できる数少ない知り合いではあったが、その性格の軽さから決して相容れることはできないな、と思っている人物でもあった。嫌いな奴ではないが、一緒にいて楽しいとまで思えるような奴ではなかった。なにせアニメを好んで見るくせに、組んでいる音楽バンドがそこそこ売れてて女子ファンもたくさんいるというリア充っぷり。可愛い彼女の写真も見せてもらったことがある。

 ……ま、ありていに言えばひがみだ。


「お疲れっすー」


「おう、お疲れちゃん」


 そういってコンビニから出る。心地よい適温だったコンビニから出ると、秋風が吹いて、ほんの少し背中が冷えた。


 さて、異世界・転生モノは今となっては当たり前のジャンルとなったが、世に出始めたころはそれはそれはインパクトがあった。俺もそのインパクトに打ちのめされた口で、大学受験に失敗してふさぎ込んでいた頃にたまたま見たアニメで知って、閉じた世界が開かれるようだった。

 ままならない現実からの逃避といえば、まぁその通りだ。何も成せない、何者にもなれない自分が別世界ではありとあらゆる力を手にしてその世界の頂点になる。しかも大した努力もなく、だ。

 夢のようだった。それまで勉強一本で生きてきた俺にとって、そして挫折して絶望している俺にとってそれは神から差し伸べられた救いの手のようだったのだ。

 それから俺はそのジャンルにどっぷりとハマっていくことになる。

 アニメだけでは飽き足らず、コミックや、原作小説まで、ありとあらゆる異世界モノに手を出したのだ。

 それはちょっとしたオタク、というレベルを超えていた。自分が異世界に転生したらどのような人生を送ろうか。勇者になるか、魔王になるか、それとも有り余る知識で一財産築いてハーレムを作るか。はたまたのんびり異世界ライフを楽しむか。そんなことを日に十度は空想していた。

 そして当然そんな妄想とは正反対に、俺は何も持たないフリーターであり、異世界偏執のただの妄想狂なのであった。


「……あれ?」


 異世界で魔王になって世界を統治する妄想にふけっていると、気づけば俺は、大通りまで出てきていた。


「なにしてんだ俺」


 コンビニから自宅まではほぼ一本道。住宅街の真ん中を通っていくだけで済む。だが俺は異世界への妄想が膨らむあまり、車通りのある大通りまで無意識に出てきてしまっていたようだ。

 深夜二時を回っているというのに、さすがに大通りまで出てくると人の姿もちらほら見える。片側二車線の車道にはそこそこの台数の車も走っている。

 妄想もほどほどにしなければな、と自戒する。

 この時間ともなると車道を走る車もそれなりの速度を出すのだな、などとどうでもいいことを考えた。


 その時不思議なことが起こった。

 強めに吹いていた風がピタリと止まった。深夜の大通り。風が止むだけでこれだけしんと静まり返るものなのか、と思った。

 そして僅かな違和感。

 静かだな、と思った。そりゃあ、ジャージじゃ寒いなと思うくらい強い風が吹いていたのだ。それが止まったのだから静かになるのも当然だ。

 けれどおかしいな、とも思った。

 何がおかしい?

 静かなんだ。そう、とても静かだ。

 今の今まで走っていた車の音が、聞こえない。

 車の音どころか、何の音も聞こえない。

 静かすぎて、キーンと耳鳴りがするくらい、何の音も聞こえないのだ。


「……え?」


 車道に目を向けると、眼前で運送用トラックがピタリと停まっていた。

 いや、違う。別に赤信号で停車しているわけじゃない。


 時が止まっていた。


「は……? なんだ、これ」


 背中に気色の悪い感覚が走る。悪寒だ。

 恐怖。何か、見てはいけないものを見てしまったような。触れてはいけないものに触れてしまったような。

 入ってはいけない領域に、足を踏み入れてしまったかのような……。

 けれど思考は意外とクリアだった。何か、得体のしれない現象が眼前で起こっていることは理解できた。不思議体験をしているのだと。


「…………」


 足が、一歩前に踏み出される。

 車道へと。

 不思議な感覚だった。それは間違いなく自分の意思のはずなのに、何者かに引っ張られているような感覚でもあった。

 もう一歩、そしてもう一歩。

 気が付けば、俺は車道のど真ん中に立っていた。

 ドクンドクン、と何も聞こえない無音の空間のはずなのに、自身の鼓動の音だけが段々と高鳴って行くのが感じられた。

 トラックから、ほんの僅かに一歩の位置。そこで俺の足は止まった。

 まるでそこが定位置かのように。

 右手にあったトラックに目を向ける。眩しい。ライトが直接自分に当たっている。

 クラクションは鳴らされない。だってこのトラックは時間から取り残されている。


「あぁ、そうか……」


 その瞬間に俺は理解した。

 トラックといえば、異世界モノの定番だ。主人公はトラックに撥ねられるという不慮の事故で異世界に飛ばされる。ありとあらゆる作品で使われてきた手法だ。こんな時にまで異世界への妄執が脳内にあることに俺は僅かに自嘲した。

 俺はトラックに轢かれて……いや、引かれて、惹かれて……死ぬのだ。


 自然と口元が緩んだ。

 これまでの人生を思い返す。クソみたいな人生を。

 クソみたいな父。クソみたいな母。クソみたいな教師、クソみたいな先輩、クソみたいな……あぁ、よかった。

 俺には何一つこの世に残した未練なんかなかったじゃないか。常日頃からずっとずっと待ち望んでいたじゃないか。

 それはただの妄想。けれど俺もいつか死んで、このクソみたいな世界から逃げ出して、きっと俺が望んだ夢のような世界に転生することができるのだと。いつしか本気でそう思うようになっていたのだから。

 そうかそうか、つまりはただその時が来たというだけなのだ。

 理解した。理解したその瞬間には俺は満面の笑みを浮かべていた。


「ただ……」


 そうだな、ただ心残りがあるとすれば、


「ブクマしてた小説の結末、気になるなあ……」


 そして、世界は時間を取り戻す。

 眼前に迫っていたトラックは、そのままの速度を一切落とすことなく、幸せそうな笑顔の俺を轢き殺した。


さて、なんだかよくわからない現象のせいで死んでしまったのだが。


「マジで勘弁してほしいんスけど。狩谷さんが急に事故で死んで、シフトの穴がスッカスカなんすよ」


え、誰? ここは俺の心の中のはずなんだけど。


「いや小野なんスけど」


小野君? 俺と肩を並べる底辺フリーターのくせに彼女持ちで人気のあるバンドを組んでる小野君?

本編には名前すら出て来なかったモブじゃなかったのか。


「いやいや、そこそこの付き合いの職場の同僚捕まえてモブとか失礼っしょ。一緒に夜勤した仲じゃないですか」


うーん、でもさ、俺多分死んじゃったし。これから異世界行ってくるから。もう会うこともないと思うんだよね。


「はあーあ、まさかマジで狩谷さん異世界行っちゃうのか。いやどう考えても狩谷さんじゃムリっしょ。剣道とかやってました? 空手は? なんもやってないスーパーインドアでしょ、狩谷さん」


大丈夫だって、どうせなんかわけわかんない内にすごいチートに目覚めるだろうし。

主人公補正でその辺はなんとかなるだろ。夏の覇権だった異世界モノ見てないの? 何の取柄もない40歳ヒキニートが素手で魔王倒してたでしょ?


「現実とフィクションの区別がつかない三十って、そりゃ彼女もいねえわ」


いやいやそれ関係ないだろ! 俺に彼女がいないのはちょっと運とか巡りあわせとか悪かっただけでね?

あと俺はまだ二十九だから、そこ四捨五入しないで。


「サクっと死んじゃうんだもんなあ……。みほちゃん、狩谷さんのこと気になってるって言ってたのに」


え、それマジで言ってる? なんで死ぬ前に言ってくれなかったの?


「ま、死んじゃったもんはしょうがないスね。傷心のみほちゃんは俺が慰めて、そのまま狩谷さんのことは忘れさせますから、安心してどっか行っちゃっていいですよ」


小野君……? え、君、彼女いたよね。写真見せてくれたじゃん。


「まあ俺、バンドも掛け持ちしてるし。彼女も掛け持ちしちゃえばよくね? みたいな」


ああ、なるほどクズなんだ。


「異世界行ってハーレム作ろうとかのたまってる狩谷さんに言われたくないスねー」


ええい、もういい! 純愛を知らないチャラ男はとっとと俺の頭から消えろ!

……はあ、まったく。

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