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我々悪党  作者: 炬燵郎
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他三名

「五月蝿えぞ馬鹿野郎がよ。」飲みかけのココアを人質に飲ませながら、おじさんは楽しそうに笑う。急に傾けられたマグカップへ齧り付きながら咽る人質。僕は退屈にそれを眺めた。おじさん、僕もココア飲みたいのに。「お前の所為でお釈迦だぜ?」無し無し、御褒美もお零れもなしだバーカ。と人でなしが笑うみたいな顔をしておじさんは電話を切った。栄太郎おじさんが今回の件で、おじさんの役に立つ為駆けずり回っていた事を僕は知ってる。それが裏目に出るのが栄太郎おじさんの良い所だ。御褒美どころかお零れなんて一つも貰った試しが無いのを知ってる。だからいつも利用されるだけされてるだけで、片棒に触らせて貰えた事もない。きっとおじさんがお巡りさんに捕まっても、栄太郎おじさんは捕まらないだろう。良い事だと思うけど、可哀想な気もするし変な感じだ。「‥げは‥ッ」口の端から垂れたココアをポタポタさせている人質のお兄さんの髪の毛を掴み上げるおじさんはそのまま自分の顔の前に持ち上げた。「オイ、マークンずらかるぞ」人質のお兄さんを見たまま僕に話し掛ける。少し反応が遅れたから睨まれた。「うん。」お兄さんの顎に拳銃を突き付けて、顎から頭のてっぺんまで通る穴を開けたおじさんは、僕の手を引いて倉庫の外へ歩き始めた。銃声の音は頭が痛くなる。ビクッとしなくなったけれど、心の準備がないとまだ心臓がドキドキする。



「ねぇおじさん」おじさんの身体は煙草臭い。吸ってないのに身体から匂う空気が何となく煙たいけれど、嫌な匂いだと思った事は無い。

「何だ。」おじさんはやれやれと眼を細めながら返事をする。まただ。

「人と話す時は目を見ないといけないんだ」

おじさんは話す時に僕を見ない。暫く経ってからおじさんは笑った。

「五月蝿えよ」



ナニヤッテンノ。

「解らないけど、おじさんがこれ聞くと良いって。」

ドノオジサン??

「栄太郎おじさん。」

栄太郎おじさんに貰ったウォークマンから流れる落語を聞きながら、メサリーと話す。寝起きのメサリーは畳の跡をほっぺに付けながら僕の頭を撫で始めた。メサリーはおじさんのアパートに居候をしている十九歳の金髪のお姉さんだ。美人さんなのだと自分でよく言っているし、おじさんは鼻で笑うけどどうやら強ち違う事もない、らしい。

オジサンニナッチャウヨ。

違うよメサリー。落語は良いよ。おじさんの趣味じゃないんだって。けど、僕にもまだ難しいみたい。何度か聞いてようやく意味を理解出来そうになる。知らない言葉や知らない物の名前が多いけれど、何となく楽しい気分になるし、頭が良くなっている気がする。落語は楽しいよ。

マークンハヨイコダネ。

歯をニイって見せながら笑うお姉さんは確かに可愛かった。お人形みたいな顔なのに、見た目は僕と変わらないくらい子供っぽくて元気な笑い方をする。聞いてみるって訪ねてみたら、イイヤって手を振ってた。


「死にたいよー。」栄太郎おじさんは、甘い物が大好きだ。公園のベンチで幸せそうにクレープを食べながら、美味しいなぁって言う代わりに死にたいって言う。「死にたいの?」栄太郎おじさんは今日も幸せそうだ。また良君の役に立てなかったよ。死にたいよー。おじさんは嘘をつくのが凄く上手か、驚く程下手か、どっちかだ。「クレープは美味しいね。」おじさんは甘いチョコバナナカスタード(バニラアイスのせ)が好きだ。僕は野菜とソーセージとハムとツナの入ったクレープが好きだ。しょっぱい味が、クレープの生地ととても合っていて美味しい。「んー、そうだね」最初にしょっぱいクレープを頼んだ僕に、「クレープ食べないの?」って首を傾げていたおじさんは、今は何も言わないで奢ってくれる。同じクレープ好きでも僕とおじさんは少し違うなと思っているみたいだ。「自殺をしようと思ってみるんだけどね」おじさんは新しい趣味を始めようとしている人みたいに言う。「そうなんだね」例えば今、おじさんが自殺をしても、事故だと思われてしまうと思った。こんなに幸せそうなのだもの。幸せな人より幸せそうになるのがおじさんは得意なのかも知れない。「マークン君は?」「‥‥?」突然で何を聞かれているか分からなかった。僕は自殺してみない?って事らしいと分かったけど首を傾げた。「んー、‥分からない」あんまり考えた事がなかった。こわそうだし趣味だったとしても楽しそうじゃない。「そっかぁ」おじさんは食べ終わったクレープの紙屑をゆっくりクシャクシャにして広げて、クシャクシャにしてゆっくり広げた。そのまま何も言わずにベンチから立ち上がって歩き始めたから、サヨナラなんだなと思って急いで挨拶をした。「またね!」急いだから咽そうになったのが可笑しくて笑っちゃったから恥ずかしくてまたベンチに座った。昔お友達に「死にたい」と相談を受けてたオジサンは、悲しんだり怒ったりする訳じゃなくて物好きだなって顔でその人を見てた事を思い出した。その時から僕は死んじゃうって事がよく分からなくなったけど、何となく残念な事なんだなって気がする。

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