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4・お弁当パニック

新キャラ登場です!

いい加減旅に出ろやって思うかも知れませんが、まだ先です。

 今日は、チカが真面目に学校に行くと言っていた。が、今までは真面目に行ってなかったという訳だろうか? 不安になったぞ。


 クリーニングされ、心地よくなった毛布の上で窓から差し込む暖かい陽射しに照らされうつらうつらしていた俺は漸く目を開けた。

 コタツなどと同様の性質でもあるのだろうか? ぬくぬくしていると起きたくなくなる。もう春後半なので暑いけども。


 今日は寝覚めが悪い方だが、早く下に降りてチカを見送らなければな。チカは見送りをすると抱きついて手を見えなくなるまで振って嬉しそうに登校する。もう可愛いですよね。

 こうしては居られない。今何時だろう──八時二分。


「あ……登校時間過ぎてる」


 何てこった!! 水曜日以外の平日恒例の行事をまさか逃すなんて! チカ今日元気良く行けたかなぁ? 体調悪くないかなぁ?

 不安になり過ぎて親バカならぬ兄バカに昇進。後退かも知れん。


「チカ、やっぱりもう居ないな。何があったのか、トイレの電気が点けっぱだ」


 トイレの電気を消し、俺はリビングに向かった。

 普段通り俺の朝飯が準備されている。恐らく冷蔵庫には昼飯分の料理が仕舞われている事だろう。

 チカの見送りが水曜日だけ無いのは、朝の時間の問題からだ。俺は起床が遅く、だがチカは朝・昼と四回分の料理を作って行く。


 悲しいけど、俺に合わせていたら登校する時間に間に合わない。

 他の日は大丈夫なのかと問われると厳しいところだが、水曜日だけは朝から委員の仕事が有るらしいんだ。お兄ちゃん寂しい。


「結局頑張らせ過ぎじゃないだろうか……」


 罪悪感に項垂れる。どれだけ俺が無能だとしても、苦労のさせ過ぎは間違いなく身体に悪い。

 俺も何か出来る事を探してみよう。



 ──まだまだ時間は有るが、まず最初に俺が準備したのはブラシだ。風呂場の掃除を開始する。

 だが俺は風呂場の光景に膝を落とした。凄い綺麗。先に掃除したのかな……。よくよく考えたらチカが来てから汚かった事なんて一度も無いな。


「何の! 諦めるにはまだ早い!」


 まだ一箇所しか始めようとしていなかったのに「諦める」と考えてしまっている辺り俺はダメダメだな。家事ならまだまだ有るだろうよ。

 チカに頼むのが少し気後れする作業がある。それは洗濯だ!


「あの細い身体でこの作業はキツいと思うんだ。ここは身体の大きな俺が……あれ? 昨日の洗濯物が無いな」


 まさかと思い庭に出ると、昨日出した衣服やシーツなどが綺麗に干されていた。お日様の光を受け、気持ち良さそうに風で靡く。

 仕事早過ぎないですか? チカさん。


 いつそんな時間が出来るのか想像もつかないが、完璧過ぎる義妹にまた項垂れる。もしや先日から色々計算して朝に繋いでいる訳じゃないよな? そしたら結構な天才だよな。

 俺の脳裏に大量の荷物を持つチカの姿と、余所見しながらリフティングを行うチカの姿がフラッシュバックした。天才だよな……。



 自分に出来る事がまさかこんなにも無いなんて、と肩を落としてリビングに戻った。


「さてと、いつものことだけど暇だなぁ。ゲームでもするか? 俺はそれしか出来ないのか」


 可愛い義妹の為にも、何か役に立ちたいのだがその義妹がそうはさせてくれない。俺はそんなにも役立たずと見られているのだろうか。

 棚からコントローラーを持ち出し、テレビを点けてゲームを始める。詰まらない。


 何故だろう? つい数日前まではゲーム以外をやる気が全く出なかったというのに、何故今は何かしたいと奮い立っているのだろう。

 チカの役に立ちたいんだよなぁ。こんな俺でもさ。


「ん、喉が渇いたな。確か牛乳を買って来てくれていた筈だな」


 変に動いた所為か、飲み物が欲しくなり冷蔵庫に向かった。牛乳、紅茶などが残っている。


「……何だこの風呂敷で包まれている物は?」


 緑の風呂敷が何かを包んで冷蔵庫に仕舞われている。普段はこんな物置かれていない為、異様な存在感を放つ。


 とうとう俺はその風呂敷に手を出し、結び目を解いた。


「あれ? これ、チカのか?」


 姿を見せたのは卵焼き満載の弁当だった。

 弁当は俺には必要無いし、まさかチカが忘れていったというのか? マジで? 珍しいな。


 完璧少女の失念に口元が緩んでしまった俺は、自身の顔面を柱に打ち付けた。どんな最低な男だ俺は。

 お昼まではまだまだ有るが、いずれこの弁当は届けなくてはならない。早めに朝食を終わらせてゲームも終了させるか。


 その前に鼻血をティッシュを差し込んで止める。やらなければよかったよ。



 ──ゲームを終えると、時間は九時二十二分だった。思わずやり込んでしまったが一時間程度で済んで良かった。

 丁度休み時間になる頃だろう、と弁当を片手にスタンドアップ。玄関に辿り着いたところで俺は頭を抱えた。


 この家に他に誰か居ようものなら、俺の挙動不審な行動にドン引きしていたことだろう。

 だが、そんな事気にしていられない程に重要な点に気がついてしまったのだ。


 チカが通うのは「千寿ヶ峰女学園」──つまりは女子校だ。そして俺は勿論男だ。


 「千寿ヶ峰女学園」の特徴の一つとして、男性厳禁。どんな理由であろうと、敷地内に入り込むだけで刑務所行きが確定すると噂の絶壁学園だ。

 正門辺りに警備員が二名待機しているのだが、その二人には弁当を渡したところで廃棄されてしまう。


 これは、チカの元まで自力で届けるしかないのか!?


「くっ、例え刑務所に入る事になろうと、この弁当を届けなくては!」


 おかしなテンションに変化した俺は、頭の悪い決断をして外出をした。ただでさえ引き篭もりな俺が何をやれるというのか、自分でも訳が分からなかった。



 学園の数メートル先、曲がり角にまるでスパイの様に隠れる。バレたら一発で怪しい奴確定。

 だが、幸い警備員は一人だけになっており手薄な状態。これなら、行けるだろうか?


 俺は大胆にも警備員の元へ歩いて行く。まずは届けるのダメなのか訊いてみる事にした。

 犯罪者扱いを受けるよか断然いいよね。


「あの、すみません。確か、一の三の──あれ?」


「どうしましたか?」


「いえ、ちょっと待ってくださいね……」


 よくよく考えたら俺、チカの名前知らなくね? チカ本人は『チカ』としか俺に伝えていないんだ。〜チカ、だとしても苗字が不明なんじゃどうしようもない。


「どうしたんですか?」


「あ、あのその……一の三の女の子に弁当届けたいんですけど、やっぱりダメですかね?」


「勿論ダメですね。その生徒のお名前も分からないんでしょう? ストーカーや不審者の恐れがある限り、絶対にお断りさせていただきます」


 ストーカーや不審者って、酷いなこの人。確かに名前も知らないんじゃ不審者って思われても仕方はないだろうけど。

 後でチカに苗字、フルネームを教えてもらおう。


 明らかに不審そうに俺を睨みつける警備員に、俺からも睨みを利かせる。


「チカって子に、お弁当渡してもらえませんか?」


 反応を伺いながら頼んでみる。が、俺は直ぐに弁当を持つ手を引っ込めた。


「別にいいですが、その前に中身を確認させていただきます。全て取り出した上で毒や愛情表現の類が無い事を確認の上お渡しします」


「それもう弁当じゃなくなる気がするんですけど」


 俺はその周到さに恐怖を抱き、その場から離れた。

 警備員の視界から外れる距離まで遠去かり、そのまま円を描く様に迂回。正門がダメなら裏門だ。


 裏門は正門の正反対に位置し、警備員は誰も居ない。何故なら門は俺が二人分程の高さがあり、専用の鍵もある為通常では越えられないからだ。

 ここをよじ登ろうとしても、左右の監視カメラが自動で人影を追い、記録する。犯罪はこれで防がれるのだ。


「監視カメラさんやい、誰か教師でも生徒でも良いから呼んでくれないかな? チカって一年生がお弁当忘れて行ったんだけどよ」


 監視カメラさんは黙ったまま俺を二つの瞳で見つめる。そんなに見つめられると緊張しちまうだろう。

 この学園は盗撮などにも徹底的で、まず敷地を二メートル以上の石垣が囲んでいる。ま、この程度なら凄腕は余裕だろう。


 だが問題は校舎にある。

 実は教室は全て中心に十数部屋しかなく、外から確認出来る端の教室は全てダミー。誰も入室することはない。

 その上常にカーテンは閉まっており、窓も開く事がない。生徒達の体調が心配になるよな。


 勿論そこまで警戒している事が分かれば予想はつくだろうが、体育は全て屋内で行う。大きなホールが在るが、窓もカーテンも無い上、校舎からの通路で移動する仕様だ。


 学園の説明を読んだ事がある為色々知っているのだが、夏のホールは冷風機がぎっしりと取り付けられ、冬になると暖房に切り替えられる。とても便利だ。

 だが自然をもう少し身体に感じれた方が健康には良いと思うぞ。



「ま、そんなこんなで滅多に教師すらお目にかかれない、と。おっとヤベェ」


 先程正門で不審者扱いをしてきた警備員が、監視カメラと睨めっこしている俺に気がつき走って来る。この学園の敷地デカくて助かった。何とか逃げられそうだな。


 角を曲がり、何処か隠れられる又はまける様な場所を探す。とにかく家の横にでも隠れるか。

 逃げなければ完璧に不審者にはならないだろうが、あんな猛スピードで追われたら思わず逃げるわ。俺脚遅くて冷や冷やしたけど。


「……?」


 ふと、何かの視線を感じた。というか今もずっと感じている。

 警備員は未だ直ぐそこを彷徨いているだけで見つかってはいない。だから別の何かだ。


 俺が隠れさせていただいているお宅のワンちゃんではないし、この家主でもない。向かいのお宅からも誰も見ていないとなると、一体何に注目されている? ただの勘違いか?


「何処に行ったんだか……ひとまず理事長に伝えなくては」


 警備員は携帯電話を取り出し、恐らく今言ってた理事長に電話をかける。『変質者が出た』と。誰が変質者だ。

 警備員が去ったのを確認し、俺は再度学園に接近する。弁当を高く挙げ、誰かが見つけてくれないだろうかという淡い希望を胸に跳びはねる。

 端から見たら変質者。


 ゴミなスタミナが切れ、休憩する為腰を落とそうとした瞬間────何者かに脚首を掴まれ、眼の前が暗闇に覆われた。


「んぐ、んぐぐ」


 口も塞がれて声も出せないてか鼻塞いでる殺す気か。


「何だ今の音は! 先程の変質者か!」


 だから、誰が変質者だっつぅんだよこの野郎。それより助けて何が何だか分からないから。


 何かに触れている顔を上下に動かし、生暖かいぷにぷにしたものだと理解。これって、肌じゃないか?

 鼻先が触れたのはさらさらした布の様な物で、蕩けそうな程良い匂いがする。何だろう、何の匂いかな。


 匂いを嗅いで調べていると、股間に打撃が撃ち落とされた。思わず噎せて身体を硬直させる。

 結構な威力来たぞ!? いってぇ……。誰か人に捕まってる事は分かったけど、いってぇ……。



「折角面白そうだなぁと助けて差し上げたのに、エッチな方ですね。女の子の匂いで興奮しちゃう変態さんでしたの?」


 溜め息と共に発せられた幼そうな女の子の声に、俺は更に硬直した。

 もしかして、俺女子に助けられたの? つぅかダメージはデカいけど助けられたの? まさかとは思うけど、生徒に?


 突如闇から解放され、視界に現れたのは黒いレースが付いたパンツだった。鼻先が掠めている。

 そして触れていたのはやはり肌だったが、太腿に顔を挟まれていた様だ。え? どんな状況?


 太腿での拘束が緩んだので顔の方を見てみると、スカートをたくし上げた笑顔の女の子がこちらを覗いていた。

 金髪まではいかないが、綺麗なレモン色のゆるふわウェーブの髪で、淡い空色の瞳のかなり可愛い少女だ。


 幼そうな顔に似合わず、チカよりかなり成長した肢体に、思わず身体が反応してしまう。やめろ静まれ!



「ふふ、面白い方ですね。学園に侵入したかったのですか? 私がサポートして差し上げますよ? どう致します?」


 柔らかなちょいお嬢様口調で微笑む少女は、逆光で女神様の如く輝いて見える。でも俺侵入したい訳じゃないから。君の所為でもう侵入者だけど。


 もちもちでむちむちの太腿に頭を乗せられ、膝枕状態にされた俺は彼女に真剣な眼差しを向ける。


「俺はチカって子に弁当を届けに来ただけなんだよ。君に頼めるかな」


「チカ? うーん、私分かりませんね。そうだ、一緒に捜しに行きましょうか?」


 これだ! と閃いた様に手を合わせる少女。全然そうじゃない。俺侵入者だから。この学園男性厳禁だから。分かってる?


「そもそも何で俺を助けてくれたの?」


「面白そうだったからですよ」


「へぇ……」


 きょとんと首を傾げる少女に、俺は魚の眼を向ける。もう、この子何も考えてないっぽいよ。

 起き上がり、周囲を警戒する俺はレモン色の髪から逃れた。この表現、髪の毛に捕まってたみたい。


 脱出は無理だろうと考え、何とかチカに弁当を届けて無罪を主張してもらうしかない。この子にも責任は有るのだが、恐らくこの学園はそれを信用はしないだろう。

 この街の星となり、周囲から後ろ指を差されて過ごすのは絶対に嫌だ。


 先を急ごうと歩く俺の右腕が強く引っ張られた。痛いよさっきから。てか力強いな。



「何!?」


「えへへ、私お供させていただきます。よろしくお願い致しますね、変態さん」


「その呼び方は俺が全く救われないから。金輪際止めてください」


「はーい」


 マイペースなゆるふわ少女に頭を抱え、学園案内という形で共に来てもらうことにした。その方が何かと都合が良いというか、そうでなければ都合が悪いというか。


 ずっと思ってたんだけど、この子何で授業出てないんだ? サボり……とかじゃないよね? もしサボりならフォローどころか一緒に裁かれるのではないだろうか。


 不安で仕方がないな。何で弁当一つでこんな目に……。

犯罪者扱いされて大ピンチの『お弁当パニック』はまだ少し続きます。

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