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3・笠井原公園

第3話です。

あー、エロい感じにしたい訳じゃないのに。

 チカに連れられて最寄りの公園にやって来た。千寿ヶ峰が誇る異常に狭い公園だ。


 正直引き篭もりとして一年近く生きた俺にとっては外出は面倒なことだったが、チカがとうしてもと言うのでついて来た。それに、運動不足も解消しなくてはと考えていたし。



「お兄ちゃん! 見て見てこれ、紫陽花咲いてる〜」


「紫陽花ってこの時期咲くのか?」


「もうちょっと後かなー」


「何で咲いてんだ!?」


 まだ時期が早い気もするが、何故か咲いている紫陽花畑を二人和やかに見つめる。

 ちらりとチカの横顔を見たが、何処か幻想的な美しさを感じた。これが美少女か。現実の。

 現在四月後半だというのに立派に咲いてんな紫陽花。


 突如飛び上がる様に立ち上がったチカはベンチに向かい荷物を置いた。重かったのかな? いや、もっと重い物持てるもんな。


「お兄ちゃん、楽しい事しようよ!」


「た、楽しいこと……?」


 楽しいことって、やらしい事とかじゃないよな? 野外で濃厚なまぐわいがしたいとかではないよな? 俺は無理だからな。


 チカは持参した学校の黒バッグからサッカーボールを取り出した。どうやって入ってたんだそれ。

 まさかサッカーをやる気か? チカは運動が楽しいのか、俺は真逆だ運動嫌いだぞ。楽しくない。


「あー、俺サッカーはちょっと……」


「やってくれない?」


「う、やる。やるよやろう」


「やった!」


 チカは屋内では献身的なんだが、外に出るとアクティブな性格に変わるみたいだ。開放感でもあるのかな。

 家では苦労させっ放しだからな。こういう時くらいチカに付き合ってやらんと。


 でも運動は本当に苦手でして。


「ふぁっ!」


「あ、ごめん過ぎてっちゃったね」


「いやいや、俺が下手だからだ。すまん」


 俺がなってないのも自分の責任にしてしまうなんて、もし俺が何かやらかして罪に問われる事になったら心配だ。『お兄ちゃんじゃなくて私がやりました!』なんて言わないか不安。

 ただ、もう女子高生と同居している時点でダメな気もするが。


 何かチカと釣り合わないなぁなんて思考が浮かんだが、そもそも俺とチカは兄妹! そんな事考えてはならないんだ。

 チカと俺は恋人関係にはなることが出来ない関係なのだ。勘違いしてはならない。

 きっとチカもそれを望んで訪ねて来た訳ではないんだから。


 ……その前に俺は恋人より妹が居てくれた方が幸せだしな。


「ていっ!」


「とうっ!」


「ほむんっ!」


「やあっ!」


 お、お、お? 続くぞ、続いてるぞ? 何でだ、俺覚醒でもしてしまったのか!? 最強に上手いじゃないか!

 まあただのキャッチボールみたいなものだし、選手になれるかどうかと言われたら絶対ムリ。足も遅いしスタミナ無いし何よりルール分からないし。


 チカに蹴ったボールはちゃんとチカの元へ行くし、チカが蹴ったボールもちゃんと俺の足元に来るし──あれ、俺一歩も動いてない気がするな。


「お兄ちゃん上手!」


「あ、ありがとう」


 俺は蹴る時くらいしか動いていないのに、チカは汗が滴る程走り回っている様だ。

 これってもしかして、俺が上手いんじゃなくてチカが俺に合わせてくれてるのか? チカが俺の足元を狙って蹴って、俺が蹴ったボールの進行方向を計算してるんじゃないか?


 運動音痴な俺がボールをしっかり蹴れている事すら疑わしい事なのに、狙い通りに蹴れる訳がない。

 俺は再度足元へ正確にやって来たボールを踏んで止め、拾い上げた。


 俺の考察が事実ならば、何も喜べないからだ。


「……お兄ちゃん?」


「チカ、こんな情けない兄貴に合わせてくれてありがとうな。こんなダメ人間に……」


「ちょ、お兄ちゃん!? お兄ちゃんダメなんかじゃないよ! 合わせたのが嫌だったなら謝るから! ごめん、ごめんねお兄ちゃん。ごめんなさい……」


 深々と頭を下げるチカを見て、俺は何をやっているんだろうと自己嫌悪に襲われた。


 チカは一切悪くないと断言出来るのに、自分が情けなくて何故か謝らせてしまっている。頭も下げさせてしまっている。

 泣きそうな声で「ごめんね」を続けるチカを見て、俺は自分自身を殴り飛ばしたくなった。


 本当にダメ人間だな、俺。


「お兄ちゃんは、全然ダメなんかじゃない。私にとっては光なんだよ、お星様なの」


 お星様って、死んでるみたいに言わんでくれよ。

 俺が光って、憧れてるということか? ニートに憧れる程ダメなことは無いと思うんだが。チカさん大丈夫? 疲れてるんじゃない?


「チカ、俺は誰が見てもダメな人間なんだ。自分で出来ることなんて大してないし、仕事もしない運動も出来ない、取り柄のない人間だ」


 自分がダメ人間なんてことは、散々言われてきて既に自覚を持っている。同じ様な人間の中ではまだマシだとは思うが、通常、この年齢で仕事も探さず一人暮らしなんて本当のダメ人間だ。


 俺は両親が存在していなければ生きていない人間なんだ。


「だから、お兄ちゃんはダメなんかじゃないんだって」


「なら、寧ろ何処がダメじゃないんだ」


 こんなにも否定されるならと、意地悪してくなってしまった。本当俺はダメな奴だな。

 俺がダメじゃないと言うならば、その言葉を言い切れる自信は何処から湧いてくるのかが知りたい。本当はただご機嫌取りの為に口にしてるだけじゃないのか?


 俺は人を疑って仕方のない人間だから、自分が優遇される立場になれば全てを信じられなくなる。それ程にダメな人間だと理解しているんだ。


 チカは無言で黒バッグに近づき、漁り始めた。


 やはり何も言えないじゃないか。なぁ? 本当は俺をダメな奴って思ってるんだろ? チカだって。


「これ、見て思い出さない? 私がお兄ちゃんをリスペクトする理由だよ」


「トラン……ペット?」


 トランペットで思い当たるのは、小学六年生の頃に吹奏楽で金賞を受賞したことくらいだが。それに俺は複数人居るトランペット奏者の一人だし、特に目立った記憶すらない。

 一体トランペットがどうしたって言うんだ? 尊敬する様な事無いぞ。


「お兄ちゃんは、優秀なトランペット奏者だったのに卒業前にその道を閉ざした。それが、理由」


「いやそれダメな方じゃね?」


 チカは近所迷惑すら気にせず思い切りトランペットを吹いた。乱暴に音を出した様に見えたが、全体に滑らかな音色が響いた。


「自信が持てる道を自ら閉ざし、一から始めて生きてきたお兄ちゃんに私は惚れちゃったんだよ。好きなの」


「いやだからそれダメ人間に向かった原因──え? 今なんて?」


 チカちゃんの俺リスペクト思想よりも最後の一言に集中してしまった。今だって、俺の事好きって言ったよね?

 あ、ああ。分かってる分かってるって、どうせ兄として好きだよ〜とかそんな感じの好きだろ。


 ラブでないことは分かりきってるのになあーあ恥ずかしい恥ずかしい。


「好き、だよ。お兄ちゃんのこと。吹奏楽でも感動したし、お母さんから聞いてたから大方どんな人かも分かってたもん。私はお兄ちゃんのこと、凄く、好き……なの」


 顔を紅潮させるチカは、幾ら演技力が高いからだと考えてもドキッとしてしまう。その言葉が本気なら天にも昇る幸福なのにな。


 凄く好きってことは、俺のことを兄妹としてじゃなく恋愛対象として見ているということか? だとしたら何故妹になりたかったんだ? 恋人にして下さいと言えばよかったのに。

 どうしても妹がよかったのなら、それは完璧なるブラコンだぞ。どうしようもないシスコンの俺が言うのもなんだけど。


 脳内で都合のいい解釈ばかり続ける俺は、正気に戻ってチカの頭を撫でてみた。


「ありがとうな、チカ。俺もチカのこと、好きだぞ」


「えっ」


 妹として、最大の愛を注いでやろうと思っているくらいだ。こんなに俺を愛してくれるのは母親ですら違ったからな。二番目はそうだけど。

 だからこそ、チカの母親を捜し出してやりたいのもある。親が居ないのなんて寂しいだろ。


 チカの頭を撫でながら、まるで本当の妹をあやす気分でいた。ああ心地いい。


「お兄ちゃん、私のこと好き、なの?」


 突然、確認の台詞がチカから飛び出した。


「ああ、好きだって言ったろ?」


「本当? えへ、えへへへ、えへふふふ。ふふふ、えへへ〜」


 チカが故障した。照れながら頬に手を当て、身体を左右にゆっさゆっさゆっさゆっさ。胸部の脂肪もゆっさゆっさゆっさゆっさ。

 身長差で覗き込むと服の弛んだ部分から柔らかそうなお饅頭が二つ確認出来る。ピンクの……ん? ちょっと待てチカさんや。


「お前ブラ着けてねぇの!?」


「わあっ!? お兄ちゃん見たの!?」


「見た見たマジでガン見した! 山の頂上まで摘む様に見たぞ!」


「ふぇぇ!? もー! エッチぃ!」


 避妊具隠し持ってた奴が言うな! よくよく見てみれば服の上からでもお豆が二つ盛り上がっているのが分かる。これはエロい。

 誘っているのか? 誘っているのか!? ヤバい俺の理性が保たないよこのエロ妹!


 興奮と困惑に板挟みにされて更には混乱した俺はチカの短いパンツに目線をやった。


「パンツは……」


「穿いてるよ! もぉ」


「だ、だよな」


 ピンク色の脳味噌をしている兄貴を許してくれチカ。でも幾ら気にしないからってその格好は反則だって。うん。

 俺以上に変態な男がこの場に居たらやる事やられちゃうからな、警戒してくれよ。


 チカは流石に恥ずかしくなったのか、指摘した後から胸を隠し始めた。両手でそれぞれのお豆さんを覆う様にしてこれは服の上からの手ブラですねぇ。エロい。


「お兄ちゃん、その思考は流石に恥ずかしいよ……」


「チカちゃん、人の思考を読むのはやめようよ……」


 チカは度々人の脳内を読んでくる事がある為、いつかプライバシーなことまで読まれてしまう気がする。昨日はどんな妹育成ゲームや妹とメロメロいちゃいちゃするゲームをやったのか、とか。


 まあその度静かに発狂してることを知られる方が兄として恐ろしいんだけども。


「大丈夫だよお兄ちゃん。お兄ちゃんがいつもエッチなゲームしてるのは知ってるから。私は全然気にしてないから存分にゲームしててね」


「知られてた! いや待て別にエッチなゲームではないからな!? 妹育成するゲームだからな!」


 妹とメロメロでいちゃいちゃするゲームの事は伏せておく。


「でも、ちゅーしたりぺろぺろしたりするゲームも……」


「すみませんっしたああああああ」


 俺は地面に頭を打ちつけながらダイビング土下座。義妹に妹とちゅーしたりするゲームを知られてしまった。これから警戒されてしまうかも知れない! それは本当に嫌だ。


 これからは控える様にするか、チカと親睦を深める為にも。彼女が学校に行っている間にだけプレイしよう。


 辞めるなんて一言も言ってないぞ。


 チカは俺の手を引いて立ち上がらせると、ツボにはまった様に涙目で笑い始めた。そんなに土下座面白かった? 偶にやってみるか。

 あ、ダメだそれじゃ信用されなくなってしまう。


「全然大丈夫だって。お兄ちゃんがエッチなゲームしててもエッチなことして来ても私は気にしないから」


「はい……?」


「あ、あの、あはは。お兄ちゃんゲームみたいなことして欲しければ、いつでも、言ってね? 私頑張るから!」


「真っ赤になって涙目になって言ってる人にそんな事頼めません!」


 チカが段々段々エロくなっていく。エロいよ、エロいよこの娘絶対俺より脳内ピンクだよ。桃色だよ。


 ただこの作品十八禁じゃないからね、なるべくこんな会話文は入れちゃダメなんですよ。控えましょう。ね。

 チカは俺からボールを受け取ると、リフティングが開始した。ボールも見ずに続けている。凄いな。



「あのさ、お兄ちゃん。私トランペット奏者として笠井原公園でコンクールに出演するのが夢なんだよ」


「ああ、俺がチームで金賞を取れたアレだな?」


「うん。私もお兄ちゃんみたいに凄い人になりたいからね!」


「自由に動き回りながらリフティングする方が余程と凄い気がしますが」


 笠井原公園とは此処から一時間半かけて到着出来るかなり広い公園で、毎年一度だけ吹奏楽コンクールが開催される。

 だが、コンクールに出場出来るのは秋にある地区大会でトップ3に入賞した全国の強者達だけだ。決して簡単なものではないが、チカを応援しよう。


 さてと、チカがリフティングしながらトランペット吹き始めて少し恐ろしくなったのでそろそろ帰る事にするか。


「チカ、そろそろ帰るぞ。日も暮れてきた」


「まだ朝なんだけど……」


「俺は長時間外に居たくない」


「まだ三十分も経ってないよ!? でも、分かった。手繋いで帰ろっ」


「ああ。俺も温もりを堪能するよ」


 右腕に柔らかく暖かいクッションを感じながら、俺はトランペット奏者だった頃の日々を懐かしく思い出していた。


 ──あの頃はまあ、楽しかったよなぁ。

まだ旅には出てませんね。そろそろ本題に入れるかな

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