2・お金に困ることになる。
ごちゃごちゃになってしまったので、打ち切りみたいなことにします。
エタらないですが、予定よりかなり縮めて完結となります。それでも読んでくださった方々ありがとうございます!
朝か、朝か、なんて考えてたせいで寝付けなかった。眼の前にチカの顔があるって、寝れないわ。
しかも朝か朝か考えてたはいいけど全然朝じゃなかったしな。
日差しに目を瞑り、少しずつ開けて慣れてきた頃にチカの身体を揺すった。チカは瞼を軽く擦りながら身体を起こす。
「おはようお兄ちゃん。もう朝かぁ。そろそろ出発しようか?」
「いやいや、金が無いのにこれからどうするっての? 飲み物とか食べ物はまぁ、今ある分で足りるかも知れないけど。これからまた別の国に移動して、休憩するとしたらどうすんだよ」
「だったらどうしたい? この街でお金稼いでみる? どうやって働くのかは、私でも分からないんだけど。日本とは勝手が違うじゃん?」
「まぁ、そうなんだけどさ」
だとしても残り僅かの金であてのない旅を続けるのは厳しいと思う。少しくらい金を増やさなきゃ、必要な時に断念することにもなる。
チカでもこの国での働き方は知らないか。何かビザが必要だとかってのなら覚えてんだけどなぁ。ねぇよ。
「うんまぁ何事も挑戦してみることが大事だよ。お兄ちゃんは外国語出来ないでしょ?」
「あ、あうん。全然出来ない」
「だから私が事情を話して、何とかお金集めてみるよ。ここのホテルの人にも、色々掛け合ってみる」
「……また俺、役立たずじゃない?」
「仕方ないって。私が無理矢理連れて来た様なものなんだから、任せてね。私は最強の義妹なんだから!」
「頼りにしてます」
ただ、不安は消えないけどな。チカが危ないことさせられそうになったらどうしよう、とか。
でもチカなら何とかしそうだな。どんなことでも熟して、どんな国でも環境でも生き抜いていけそうだ。だから心配は無用だって、任せよう。
因みに悲しいことに、俺はいつまで経っても役立たずってとこだな。もう何日経ったんだろう? 暇な時間の方が倍以上長いぞ。
「まぁ……頼むよ。あんまり無理はしないでくれな?」
「大丈夫だって、心配し過ぎだよ。ことは急ぎでもあるから、私早速出かけるね。帰りにお兄ちゃんが暇な時に使えそうな物も見てくるから」
「それは有り難い。安物で全然構わないからな」
「はーい。んじゃ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
チカはホテルのフロントの男性に何やら話しかけてから出て行った。男性は俺に眼を向けると、親指を立ててウインクした。
いや全く何を伝えたいのか分からないから。一応頷いておくけども。
「えっと、チカが居ないからまたまた暇になった訳だ。どうしよう──って、どうしました? ドアに、え? 何してんの? 何打ち付けてんの?」
フロントに居た男性が急にやって来た。それから、ドアに何かを打ち付けている。凄いうるさいよ。
外側に取り付けられたのは、英語で書かれた──いやダメだ読めない。『ハウス』って読めるんだけど他がよく分からない。
犬小屋とか書かれた訳ではないよな?
チカ、何を伝えたんだろう。
「あー、暇だ暇だ暇だ暇だ」
何もやること無しでダラダラするだけの日々。こんな内容、誰でも飽きる。さっさとフランスにでも行きたい。
──またいつの間にか爆睡してた。
「お兄ちゃんただいま! ほらこれあげる。まず、脚が疲れるだろうからサポーターね。それで、カメラと発泡スチロール」
チカは帰って早々その三つを差し出して来た。発泡スチロールは一体何の役に立つのだろうか。
カメラを使うとしたら、外に出なきゃなぁ。面倒臭いが暇潰しにはなるか。
「サンキュー、発泡スチロールは何で? 何に使うんだ?」
「貰ったから。でも使い道、無いよね」
「無いね。本当に何に使うのか分からない」
結果、発泡スチロールはフロントの男性にあげた。凄い要らなそうにして受け取ってくれたよ。いい人だ。
ゲームみたいに買い取ってくれる場所とかあれば楽なんだけどなぁ。発泡スチロールって幾らになるんだろう。
部屋に戻ったとこで、漸く本当に訊くべきことを思い出した。
「結局どうだった? 何処か見つかったか? 雇ってくれる様な場所」
俺の質問で、チカは申し訳なさそうな顔になった。無理だったということだろう。
「短期間だと受け入れてくれないらしくて、中々見つからないかな。また明日もめげずに探してみるけど」
「まぁ気長に行こう。何もしない俺が言うのも何だけど、急ぎ過ぎてもいいことは無いからな」
「うん、頑張るよ。今日はもうお風呂入って寝ちゃいたいな。お兄ちゃんだけで食べててよ」
「いいのか? スタミナ保たないぞ?」
「まだまだ余裕だよ。じゃ、お風呂入ってきまーす」
もう既に沸かしてあったのか。チカに手を振って、昨日のピザの残りを食べる。あんま美味しくねぇ。
明日は早速カメラでも試してみるか。殆ど持ったこともないカメラなんだけど、まぁ大丈夫だろ。その辺散歩しつつ景色撮ったりとかいいかもな。
──午前十一時起床。当然、既にチカは居なかった。どんだけ寝たんだ? 十四時間くらい寝たか?
何はともあれ暇な時間再来だ。朝飯のピザ食べて、外に出てみよう。あんま疲れたくないけど。
「カメラって、普段使わないからどうすりゃいいのか分かんないな。えっと、このボタン押しゃ撮れるのか? ちょっとあの木で試してみよ」
都会から一旦離れて、虫に刺されまくった森に少しだけ踏み入った。そこでカメラを使ってみた感じ、まぁ撮れないことはないので撮りまくってみることにした。
……初心者がプロみたいに撮りたいなんて考えると、いざ撮る時にテンション下がるのでやめておきましょう。たった今経験しました。
「うお、何だこの虫気持ち悪い。幼虫? 何の幼虫だよ知らねぇよ。流石に撮る気にもならないし、早めに離れておくか」
幼虫らしき生き物と遭遇した後、毛虫や蠅や蛾などと遭遇して森から出た。二度と入りたくない。
「これならいっそ空でも撮るか。プロなんかは、鮮やかな色彩を生かした写真を撮るよなぁ。……ちょっと俺も拘ってみるか」
この角度からならいいのが撮れるんじゃないか? もうちょっと陽で照らされる場所に出ようとか、少し空以外に映り込めばかっこいいかも──なんて考えて撮った挙句ブレまくりの駄作が出来たので、もう二度と意識して撮りたくねぇと不貞腐れた。
この歳で不貞腐れるの、格好悪いよな。
「だからもう格好がどうとか気にすんなっつんだよ! どうでもいいの! マジで必要ねぇから!」
自分に腹が立って一人キレてたら、通りがかった人に冷めた眼で見られた。そして我に帰る。ごめんなさい。
写真を撮るのも直ぐに飽きたため、今日はもう帰ろうとホテルに向かった。ホテルに帰るって何だよ。
──あんな醜態晒して、もう外に出たくない。などとまた気にしていて自分で腹が立った。
俺はもうニートじゃなくなるんだ。ニートじゃないんだ。ニート思考は必要ないんだ! ──いやまだニートだろ。
ニート力が悪化した様に思える。俺はまたまた眠ってしまっていたらしい。気がついたらベッドでチカが脚をパタパタさせてる。お疲れ。
……床で寝るのどうにかなんないかな。
「あ、おはようお兄ちゃん! 今日は結構疲れちゃったなぁ〜」
溜め息を零したことで俺の眼が覚めたことに気づいたチカは、多少疲労が顔に出ていた。本当に疲れてるんだな。
「お疲れ様、ありがとうな。そして役に立たなくて申し訳ない」
「何かネガティヴになってない? お兄ちゃん、旅でネガティヴになっちゃダメだよ。何もかも上手くいかなくなるよ」
「マジかそれ嫌だな。分かったなるべくネガティヴ寸前で堪えるよ」
「せめて『ポジティブでいる』がよかったなぁ」
苦笑したチカは無造作に置かれた紙袋を拾う。中からは様々なパンが現れた。今日の夜飯なのだろうか。
今更だけど俺達昼飯食べてねぇのな。節約だろうか。
「じゃあこれ貰うよ。何か、ヨーロッパって感じするし」
「一応ここアジアだよ」
「ずっとヨーロッパかと思ってたんだけど」
「アジアだよ」
何だまだヨーロッパですらなかったのか。都会っぽいから、アジアは抜けたと思ったんだが。あとヨーロッパって感じがするパンって何なんだ。
二、三個食べたチカは立ち上がり、先に沸かしていた風呂へと向かった。本当に疲れたということで、まだ八時だが寝たいらしい。俺もそうしよう。
──翌日から、ここでの俺の生活は統一されたものとなった。
起床時刻は大抵午前十時。朝飯に前日の夜飯の残りを食べて、カメラを所持して出かける。
適当にぶらついて、何となく撮りたくなったものを写真に収める。納得いくものは撮れないけど。
その後は運動不足にはならない様に歩き回って、疲れたと感じたら直ぐに戻る。
戻ったら戻ったで特にやることはない。だから念入りにカメラのデータを眺め、要らない物は削除する。
気がついたら寝てて、これが俺の生活になった。
「寝過ぎだろ。夜も寝てるのに午後ほぼ寝てるぞ俺」
今日も今日とてデータ削除を終えた。つまりこの後は睡眠の時間だ。今日でここに来て十日になるが、こんな生活でいいのか? チカは頑張っているのに。
因みに、六日程前にチカはバイト先というかお手伝いをさせてもらえる場所を見つけたらしい。今は給与が貰えるまで待つといった感じだ。
「俺はだーらだ〜ら過ごして、義理の妹で好きな女の子に全て任せるとか……情けないな。男としてこれでいいのか?」
ダメだろうなぁなんてことは当然考える。だが一度社会に出て絶望した俺にとっては、働くということが既に拒みたい項目となっている。だから、どうせ無理。
ここはチカの言葉に甘えて、任せるしかないんだろうな。あー情けない。
「何がチカと並びたい、だよな。何も出来ない何もやらないダメ人間が、おこがましいにも程があるってんだ」
ネガティヴやめろと言われたのに、ネガティヴ思考が止まらない。挙句の果てには、チカのことまで拒む様な思考が生まれた。
「チカみたいな完璧人間なら、俺なんかと居るより優秀なイケメンとかといる方がいいだろ。イケメンがいい奴とは限らないが。それでも、役に立たない俺みたいな奴と居て笑われるよりは……」
そこまで声に出して、胸が痛くなった。またチカの気持ちを無視してる。
だがそんなこと気にもとめられないくらい、今の俺は荒んでいた。心が痛んでいた。病んでいた。
チカが帰ってもいないのに、風呂にも入っていないのに、飯も食べていないのに──ベッドで横になった。
「お兄ちゃんおはよ。昨日は起きなかったから、私だけでご飯食べちゃった。はい、これ」
「あ、サンキュー」
「……お兄ちゃん元気ない? 何かあった?」
「いや別に? 中々写真撮るの上達しないなぁってな。切ないだろ?」
「確かに。だけど、お兄ちゃんプロじゃないんだし、撮りたいもの撮ればいいと思うよ。上手いとかどうとか考えないでさ」
「だな、そうしよう」
チカは鋭いが、適当に誤魔化しておいた。実際、写真撮るの上達しないのが切ないのは事実なんだが。
チカに『やっぱ別の人と結婚して下さい』なんて言ったら、チカの故郷でのすれ違い二の舞になる。それは避けたい。ここ日本語通じないし。
朝飯を食べてたら、「そう言えば」とチカは何かを取り出した。封筒……?
「これ、お手伝い代もらったよ。結構貰えたのがびっくりだけど、これでようやく先に進めるね」
「おう、マジか。電車に乗って、ヨーロッパについてどうする? パスポートって海外で作れる?」
「作れないことはないみたいだけど、難しいかなぁ」
「じゃあ一気にフランスってのは無理か。疲れてんのに、大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫。全然大丈夫」
逞しいなチカ。俺なんて数時間歩いて疲れたーって、ホテルに戻ってるのに。
ここから更に歩く羽目になる。荷物は増えたから、その分負担は爆上がりする。まぁラストスパートと思えばいいんだ。旅はフランスまで。後はのんびり帰る準備を整えるだけなんだから。
二日経って駅に向かった。荷物が果てしなく邪魔なんだが、ラッシュ時でなく比較的空いてる時間の電車に乗った。
「電車で何処まで行くんだったっけ?」
「終点まで行けばヨーロッパには出るよ。ギリ。だからそこまでまだまだあるから、寝ちゃおうか。起こしてもらえるし」
「まぁ暇だし、この荷物だから休息が必要だよな。んじゃ、寝よう」
電車で二人して眠って、起こされてたのに中々起きなかったらしくて怒られた。それでも俺達は、ヨーロッパについたんだ。凄いね本当。
とまぁ、そこで、更なる問題点が出て来るなんて、俺もチカも誰も彼も予期してなかったんだが。
神のみぞ知る危機に、俺達は気づく由もなかった。




