1・可愛い妹入りませんか?
妹との出会いからスタートです!
引き篭もり生活を始めて早三年が経ち、一人暮らしはしてみるものの仕事は探してもいない。
だが俺が生き延びられているのには一つ理由がある。無かったらくたばってるよとっくに。
俺は一人暮らししてからというもの、社会の厳しさを叩きつけられ正直やる気を失くした。もう仕事なんてしたくないよー、とニートに転職したのだ。
今は金のある親の援助にて生活をしている。
瀬賀京。齢19歳にしてニート、そして二次元が大好きな社会に生きる事と決別した男だ。
今日も今日で漫画を読み漁るだけ。一日中布団に包まっている。
「ああ、癒しだよなぁこんな妹居たら。可愛くて優しくて、甘えん坊で家庭的で。俺にもこんな妹欲しかった。まあリアルじゃ無理な話だが」
俺が好むジャンルは恋愛物で、細かく指定すると兄と妹の禁断のラブコメだ。
献身的で兄に対し愛情を注いでくれる妹、想像するだけで心が温まるだろう。二次元だけにしか精通しない理論だろうが。
跳ねた頭髪が気になって弄り回す俺は、漫画を読み終えると目覚まし時計の時間を確認した。
「もう7時になるのか。朝飯食ってアニメでも観るか」
朝飯を食べては録画してあったり、DVDであったりアニメを鑑賞する日々を送っている。無論、妹愛満載なアニメである。
リビングで一人寂しく食す朝食はトーストした食パン二枚。味が欲しい時はチョコやジャムを塗る。それだけだ。
だが流石にこんな生活を続けていると身体に悪いのでは、と家の中でのみ時々ストレッチをする。
ストレッチ以外はしないが何か?
洗濯はするし家事もしなくては一人暮らしだと清潔感が保てないので、外に出ない代わりにそれくらいはやる。流石に汚いのは嫌なんで。
「今日の予定は〜、ブログ書いてゲームして終わり、と」
アニメ鑑賞の直前に毎日確認するのが当日の予定。特別な予定は一切無いのだがな。
ブログというのは、妹育成ゲームや妹を愛でるゲームや妹が献身的にお世話をしてくれるゲームなどの感想や評価を纏めた自身特設サイトだ。
俺の妹愛がフル発揮されたその文章に魅了されてか、既にフォロワーは二千人を超える。皆、妹が大好きな人達ばかりだ。
「お、メッセージが来てるぞ? 珍しいな。何々? 『今、妹を募集出来る無料サイトが人気なんですよ』だと? 何だそれは」
確かに妹を募集出来るのはとても嬉しいことなのかも知れないが、その様なサイトは大抵金が欲しくてだろう。信用出来ないな。
万が一金目的でない女性が俺の元にやって来たとして、完璧な妹が手に入る訳でもなし。無駄無駄。
俺はそのメッセージに「くだらない」と返信をした。
「……だが、一つ気になるな。そのサイトはどんな内容なんだ? 何故妹募集などのサイトを作り上げたんだ? 一体何故?」
口ではくだらないと言っていながらも、俺は妹キャラが大好きな為、もし演技でも本当の妹の様に接してくれる人間が来てくれたら天にも昇る心地だろう。
だとしても、三次元が二次元よりも優れているとは思えんし、無駄。無駄だと、無駄だと思うんだ。
──『妹募集 サイト』
無駄だと、時間の無駄だと頭では分かっているのだが、どうしても指先が言うことを聞かない。俺はサイトを検索した。
説明には『義妹になってくれる美少女達が永遠に隣に居てくれるよ!』と雑な紹介が記されている。永遠に、ね。
そこだけじゃないぞ、「美少女」と書いたからにはそれ相応のプロポーションをもつのだろうな? いや、たかが知れている。無理だ。
俺には必要無いな。
だが、この時俺は自身の生活を一変させる状況が迫っている事に一切気づいていなかった──。
それは夕暮れ時、親からの資金を受け取る為ポストを拝見しに向かおうとした時だった。
「ん? 何か人だかりが出来ているな。芸能人でも現れたのだろうか」
正直興味が湧かないのだが、俺の住むこの町には芸能人がよくやって来る。
何らかのロケか歌手ならばライブ会場でも近くにあるのか理由は明確ではない。まあそこそこ都会ではあるのだが。
まあ今はそんな事、今じゃなくてもそんな事どうだって構わない。その辺で芸能人がアピールしてようがアヒルになってようが知った事ではない。
俺は普段よりも少なめの資金に溜め息を零した。
「そろそろ親達も限界なのだろうか……。だとしても俺は働きたくないしなぁ。どうするべきか」
悩んだ末、出した答えは「まあどうにかなるだろ」という甘い考えだった。
食事を一日一度に減らしてしまえばその分食費が浮くだろうと気楽に考えたが、実際は上手くいかないであろう現実も見えていた。
元々ニートになる予定だったならいざ知らず、俺は半年近く会社に勤めていた身だ。苦労だって知らない訳ではない。
迫り来る飢えの恐怖に全身の血の気が引いて行く。餓死は嫌だ。
「誰か、俺の為に働いてはくれないだろうか。なんて甘いよな。甘い甘い。こんなダメ人間の為に働く物好きはいないよな」
頭では考えられるが、身体は動こうとしない。そんな俺は普段通り夕方から睡眠を取った。
明日から、一日二食に減らそう。
「おはようお兄ちゃん! ご飯出来てるから着替えたら食べてね! 洗濯物はやっておいたし、掃除もしたし、私は学校行ってくるから!」
「え、あ、ん? あぁ、おう……?」
誰かに起こされた、お兄ちゃんと呼ばれたのは幻聴かと思ったがテーブルには一般家庭に出てくる様なしっかりとした朝食が並べられていたのだ。
凄いぞ俺。幻聴に起こされるだけでなく無意識の内に料理を作っているとは。一人暮らし出来ているではないか。
もっそりと食事を終え、ボケっとしたまま洗面所に向かった。そして、目を見開いた。
「な訳無いよな。絶対俺が朝食を作ったんじゃない」
この家には先程まで誰かが居たんだ。そして俺を起こし、朝食を作ったんだ。
だが生憎俺を「お兄ちゃん」と呼ぶ様な存在は知らないし、そもそも兄弟すら存在しない。なのに何故俺の世話をして来た? 不審な事この上無いぞ。
声の主は「学校に行ってくる」と言っていた筈だ。ここから一番近くにある学校と言えば、私立高校の「千寿ヶ峰女学園」のみ。
授業が終わる時間は確か十七時半頃な筈だ。ならその時、犯人を捕らえようではないか。
俺は十七時を迎えるまで妹育成ゲームを二、三作品程クリアし時間を潰した。ゆっくりやっていたかったのだがな。
そして千寿ヶ峰女学園の生徒達が帰路を歩くのを確認し、ドアの前で待ち伏せをする。誰かがドアを開いたらとっ捕まえてやろう。
「! 足音が近づいて来たぞ。正体を掴んでやる!」
鍵が解除され、ドアが開きその姿が確認出来た瞬間、俺は彼女を引き込んだ。
端から見たら拉致だよな、これ。
「お、お兄ちゃん? どうしたの……」
「お兄ちゃんではないだろう、誰だお前! 人ん家で勝手に何してる!?」
「えっ」
床に押し倒した少女の身体はとても華奢で、肩にかかる黒髪は清潔にして清楚なオーラを醸し出している。
大きく開いた瞳は睨みつける俺を驚いた様に見つめている。
この少女の姿を確認してまず俺が感じたのは、美少女だということだった。
二次元が三次元に負ける事がないのは確かなのだが、この少女は二次元に負けず劣らず絵に描いたような美少女なのだ。
正直、この体勢が恥ずかしく思えてきた。
「お兄ちゃん、私のこと覚えてないの?」
「憶えていないも何も、お前の様な少女見覚えがないんだけど」
「あれ、あれ? そっか。そっ、かぁ……?」
何やら首を傾げている少女だが、いまいち言っている事が分からなかった。
憶えていないかどうかも分からない筈がない。こんな美少女なら俺は恐らく忘れる事がないだろうからな。
それにまず、出逢ったことも顔を見たことも無い。芸能人だとしても知らないぞこんな娘。
少女は小さく手を挙げると、静かな声でこの家にやって来た説明を始めた。
「私は、お兄ちゃんの妹になりたくてここに来たの。お兄ちゃんは、私に妹になって欲しくて呼んだんだよね……? 違う?」
「いや、あの、呼んだ覚えがないのだけども」
「あれ? 何で? あれ? あれ?」
何で? と言いたいのは俺の方なのだが、兎に角俺は誰にも妹になって欲しいなんて頼んだ記憶がないのだが。
妹が欲しい気持ちに嘘も偽りも冗談も毛程に無いのだが、こんな美少女に頼んだ覚えが無いし、頼まれた覚えも無い。そもそも会ったことがない。
それと「お兄ちゃん」と一度も間違える事無く呼んでくるが、俺は君の兄ではないだろう。
「私、勘違いしちゃったのかな」
「だと思う。というかそれ以前にそんな話を誰かとした覚えが微塵も無いよ」
「私のこと、追い出す? 私はお兄ちゃんと一緒に居たいんだけど……」
「……」
両手を胸に置いての上目遣い。これが普通の人間ならこんな迷わないのだが、美少女であり一緒に居たいと言ってくれる彼女を無下に扱う事は出来なかった。
何より「お兄ちゃん」と呼んでくれるのだ。
三次元に俺を惹きつける様な魅力は無い。そう感じていたつい数十秒前が懐かしい。
俺は彼女の愛らしい瞳に、声に魅了されてしまったのだ。
「ありがとうお兄ちゃん! 私お兄ちゃんの為に一杯頑張るから、ずっと一緒に居ようね!」
「あ、ああ」
負けてしまった。これは妹欲しさに敗北を喫してしまったと言うべきなのだろうか。それとも彼女を叱りつけて追い出すのが可哀想だと思ってしまったからなのか。
どちらにせよ、俺はこの少女を受け入れてしまったのだ。
「お兄ちゃん何かして欲しいこと無い? お兄ちゃんがしたいことなら何だっていいよ!」
「な、何だって良いってことはないだろう」
「ううん? お兄ちゃんとなら何しても楽しいもん!」
弾ける笑顔て空間を照らし空気を浄化する少女は躊躇いも無く俺に抱きついてきた。
我が妹となるならよく聞いておいてくれ。「何してもいい」なんて言ったら俺暴走しちゃうからね。お兄ちゃんでいられなくなっちゃうからね。
何兄貴になる気満々でいるんだ俺は。この娘を早く説得して親の元へ帰さなければ誘拐犯と勘違いされる可能性もあるんだぞ! 喜ぶな!
俺は少女に向き直り、肩を掴んで真剣な眼差しを向けた。
「君は何処から来たんだ? 俺の妹になってくれるのは嬉しいんだが、親が心配する。早く帰りなさい」
説得方法、下手くそ過ぎるだろ我ながら。
ここはもっと強めに言い聞かせて帰宅を促すべきであろうよ。何を嬉しいと感謝してるんだアホか。
少女はポカーンと口を少し開き、肩を竦めている。ほら、怖いなら早く帰れ。
「お兄ちゃん、私親いないしお家無いんだよ?」
「──え?」
邪気の無い天然な表情で告白された内容に、今度は俺の方が硬直してしまった。
帰る場所が無いということを何気無くアピールした少女は、すぐに明るい笑顔を見せた。
この娘は、今までどうやって生きてきたんだろう──って、今のが真実とは限らないだろう。何を考えているんだ俺は。
「私はお兄ちゃんさえ居てくれればそれで良いんだよ? お兄ちゃんが私を受け入れてくれたのが、凄く嬉しいからさ。お願い、見捨てないで?」
「今のは、本当なのか? 親も、家も無いって……」
「うん! 私が頼れるのはお兄ちゃんだけなんだ」
作り笑顔なんかじゃない。優しい瞳で笑うその顔は、天使の輝きを放つ。
この娘が嘘を吐いていないことは、流石の俺でも理解出来た。
だがそれを真実だと理解した上で気になることがまだ残っていた。それは、これまでどう生き延びてきたのかだ。
親も居なくて家も存在しないのならこんな綺麗な姿で居られる訳も、学校に通うことだって出来ないだろう。
「俺の家に来る前は何処に住んでたんだ? 生活費はどうしてた? 学費もどうやって補っていたんだ」
「お兄ちゃんのお母さん達だよ! お母さんに拾って貰って、去年から今までお兄ちゃんの妹になることだけを夢見てた。だから今、凄い嬉しいんだよ?」
「母さんが、拾ったのか」
一年間、俺は義妹として育てられたこの娘の事を知らなかったが、この娘はずっと俺を知っていたんだな。
俺の妹になることだけを夢見ていた、か。つまりこの娘は母さん達から自立し、高校生になりバイトが出来る年頃になったから俺の元へ来たと、そういう事だろうか。
俺がチョロいだけの可能性も捨て切れないのだが、俺はこの娘を守っていかなければならないと謎の使命感を覚えた。
順序や物事の始まりが如何であろうと、妹が出来た事に変わりはない。例え血は繋がっていなかろうが、見捨てたら兄として失格だ。
「なら、歓迎する。残念ながら俺は役に立たないぞ?」
「大丈夫! お母さんが私に家事全般教えてくれたし、一通り出来るから。お兄ちゃんは一緒に居てくれれば良いの!」
「そうか、ところでこれから暮らすなら名前を聞いておかなければな」
「うん、私は『チカ』!」
俺はチカの頭を優しく撫で、チカは瞳を閉じて微笑んだ。
だが、何故彼女は俺のドストライクな外見をしているのだろうか。母さんにも俺の趣味は教えていない筈なのだが。
まあ良いか。別に。
「よろしくな、チカ」
「うん! ありがとう、お兄ちゃん」
謎がまだ完全に解けた訳ではないが、俺はチカを義妹として迎えることにした。
これからいつまでこの関係が続くのかは想像出来ないが、彼女がいつか旅立つ日まで、俺は見守ろうと思う。
壊れても、消えても、ずっと。
どうでした?可愛く書けてました?いやまだ分からないか。
どうでした?お兄ちゃんちょっと気持ち悪く書けてました?偏見か。
他の二作品よりは短いと思われる今作ですが、よろしくお願い致します!!