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9・妹ご飯は美味しいですか?

 一日目、有り得ない程暇だったな。退屈だった。他に何かやることないだろうか。

 俺は夜の甲板に寝転がり、そんなことを考える。


「チカはチカで、俺と結婚する気満々なんだよなぁ。本当に何処に惹かれる要素があるんだ? 一人暮らしして仕事にも生活すらも失敗したニートだぞ俺」


 自分を貶すと、結構苦しいものだな。うん。

 だが、そんな疑問を限りなく浮かべられる程俺に誇れる点が無いのだ。

 何も無い男を普通好きになるか? 特に天才の域を超えた超人だぞ。自分と似た人間を好くのが最適だと思うんだが。

 まあ好かれて悪い気はしないので、有り難く受け取っておこう。俺モテないし。


 夜は幾ら気温が高くても冷え込むな。下に何も敷いていないから冷たいよ。

 何故俺は甲板で仰向けになっているのかというと、星空を眺める為だ。昨日は雲が多かったのか、星は大して見ることが出来なかったが今日は満天だった。

 そんな日は、こうでもして癒されていたい。


 チカも誘ってはみたものの、ダイビングを繰り返し、操縦を計六時間ぶっ通しで続けた為疲れてしまった様だ。今はもう寝ている。

 チカと二人切りで見上げる星空は格別だっただろうが、独り占めするのもまた趣がある。


「俺は普段何もしていないし、操縦のやり方だって曖昧だ。疲労感がまるで無いから、寝付くのも遅いんだよなぁ。だからこうして星を観るんだけど」


 何もしていないことに対しての無力感や罪悪感、劣等感などを感じてしまうが、「何かやれ」と言われたら言われたで何も出来ない。

 つまり、正真正銘役立たずという訳だ。


 チカはそんな俺を認め、無能なのを知りながらも好意を抱いてくれる。寛大な心の持ち主なのだろうな。

 だがいよいよ、限界なことがある。

 別に何かを我慢している訳ではないし、苦しい訳でもない。知っていなければダメなんてことは微塵たりともないのだ。

 ないのだが──


「チカって、一体何者なんだろうか。どんな家系で、誰の娘で、何処からやって来たんだろう。未だ苗字すらも明かされていないしな……」


 俺が気にかかって仕方がないのは、チカの素性に関してだ。

 これから共に過ごして行く為にも、義兄妹間の事情を説明出来なければならないだろう。なのに、俺はチカのことを知らな過ぎる。

 チカは俺との結婚を考えて意気揚々と日々を生きるが、対する俺はそんな乗り気じゃない。そもそも、素性も知らぬ人間と婚約というのが有り得ない話だろう。


 大抵のカップルは相手側の素性を拳程度は知り得ている筈だ。俺は全然知らない。

 俺達はカップルではないが、兄妹だ。義理のな。

 義理だとしても最低限事情は知るだろう。でも俺はチカの正体すら掴めていない。現状を簡単に説明すると、小指の半径程しかチカを知らない様なものだ。


 尋ねてもスルーされる予想しか出来ない。チカは自分の素性にだけは頑ななんだ。


「さて、このまま寝るかな。魚とか飛び乗って来ないよな? ちょっとだけ不安なんだが」


 水面付近で寝るのは諦め、操縦席の扉前で就寝。流石に毛布は持って来れないので、上着で代用した。

 それでもやはり冷んやりと肌寒いのは、海上だからだろうか。

 睡魔がサボっていて寝付くのに多少時間がかかったが、深夜には恐らく寝たのだろう。記憶が無い。



 ──夢の中でシャワーを浴びている途中、自分が本当に濡れていることに気がついた。そして目を覚ますと、マシンガンの様に全身を撃つ雫に襲われて思わず瞼を伏せた。

 大雨になっていた様だ。

 あーあ、見ろよこれ。びっしょびしょ。風邪引いてしまうだろ。


「……て、そんなこと言ってる場合じゃない! ここ船の上で、薬なんて無いんだからな。本当に風邪引いちまう!」


 急いで濡れた上着を手にして操縦席に逃げ込んだ。

 屋根の上で轟音が広がる。恐怖だな。

 さて、どうしたものか。上着も服も自分自身もずぶ濡れだ。乾かすにも、その間俺は昨日の服しか残ってないぞ。


「今はまだ、チカが起きてない……な」


 地下に続く床の蓋から中を覗き、チカが就寝中なことを確認した。

 その他には誰も乗っていないが、四方を見渡しつつ服を脱いだ。今更だけどトイレってどこで?

 驚くことに昨日はトイレに入っていない。つぅか、直ぐ横に小さな扉があったわ。『といれ』ってボールペンで書かれてるし。


 流石にパンツは脱ごうか迷ったが、チカがまだ寝ているならそれも構わないだろ。

 俺は恥じらいもなく(そう言い聞かせて)全裸になった。服は絞ってあちこちに掛けておく。


「何だろう、全裸になると解放感はあるけどやっちまった感もある。ここでチカが起きて来たら最悪だよな」


 身体をタオルで拭き、そのタオルはバケツの中に入れておく。俺はやり方よく分からないから自分じゃ無理だが、チカが洗ってくれる筈だ。

 それにしても雨が強いな。この船沈むんじゃないか? いや、そんな不吉なこと考えるのはやめておこう。


「お兄ちゃん、お兄ちゃんが……ふあぁ……」


「どわぁっ!? チカ!?」


 床の蓋はいつの間にか開いており、チカが顔を出している。

 チカの顔は紅潮しており、口元を両手で覆っているが、その視線は確実に俺の息子へと注がれていた。有り得ない程のガン見である。

 咄嗟に先程バケツに入れたタオルで股間を隠し、距離を取った。


「あ……お兄ちゃん」


 チカは何故か残念そうに手を下ろした。地下から上がり、俺の眼の前にちょこんと座る。


「チ、チカ。お前いつから見てたんだよ」


「……ご馳走様でした」


「それ女の子の台詞じゃない!!」


 義兄のアレをガン見してご馳走様はヤバい。女の子っていうより、妹として言っちゃダメな台詞だ。

 兄が興奮して襲いかかってしまうかも知れないからな。チカみたいな美少女は特に不味い。

 それに、男はケダモノだから嬉しそうに裸を見られると邪な気分になってきてしまうんだぞ。チカ、気をつけなさい。


 俺は必死に理性と下腹部辺りを抑え、チカに乾かす方法があるか問いかけた。

 漸く雨に気がついた様で、チカは板を二枚取り出した。何処から持って来ました?


「二枚の板で挟んで、水を押し出してみるね。乾く速度は早まると思うから。流石に乾燥させられはしないんだけど」


「いや、いいんだ。なるべく早く着替えられればそれでいいから、ジロジロ見ないでくれ」


「お兄ちゃんは私の見たくせにぃ」


「すみませんでした」


 膨れているけど、そんなに見たい? 見ていて安らぐものじゃないぞ。気分悪くなるぞ。

 あと、いい加減この作品R18に設定変更しなくてはならなくなるから、やめてくださいこんな感じのイベント起こすの。


 びしょ濡れになってしまった服を板で挟み、潰しているチカだが、皺になるのは嫌らしい。俺も嫌だ。

 それと余談だが、下の板には小さな穴が疎らに空いておりそこから水が落ちる、という感じらしい。

 その為か、下の板の更に下には、バケツが置かれている。


「はい、出来たよ。まだまだ濡れてるから、中に干しておこっか。暫く裸になっちゃうね、どうしよ」


 心底不安そうに見つめてくるけど、一番視線が通っているのはやはり下腹部だ。どんだけエロいんだこの娘。昨日ポケットから避妊具落としてたし。


「じゃあ、暫く毛布にでも包まってるよ。何かあったら呼んでくれ」


「うん、分かった。私温まるようなお料理作っておくね」


「頼んだ」


 笑顔を見せ、急いで下に入り毛布に身体を包んだ。正直凄く寒いから。

 服が乾くまでどれくらいかかるだろうか。それまでずっと全裸なんだが。

 女子高生と二人切りで、俺だけ全裸なんてどんな羞恥プレイだよ。喜べねーよ。


 服は重たいからそんな何着も持って来ていないし、乾くまで待つしかないだろうな。

 襲いかかる睡魔と戦っていると、丼を持ったチカが降りて来た。何故それ?


「お兄ちゃん、はいどうぞ。あったいかなと思ってこれにしたんだ」


「魚が入ってる……スープ? 魚は分かるけど、スープはどうやって作ったんだ?」


「ん? 説明する? ちょっと複雑な内容なんだけど」


「あ、じゃあいいよ」


 こんな海上で、何も材料が無い筈なのにスープを作っている時点で結構凄いからな。

 スープを口に運び、魚の香りがするのに気がついた。魚で出汁を取った、とかそんな感じかもな。

 でも、ここまでしっかり味がつくんだなぁ。


 俺に丼を預けたチカは甲板に向かって行った。雨が降っているのによく行くな。

 傘なんて無いんだけどな。

 まさか、濡れて服が透け透けになって俺同様裸になるつもりでは!? ……な訳ないか。流石にな。

 チカのことだし、何か考えがあるに違いない。期待しておこう。



 ──五分程経つと、チカが上から降りて来た。結構濡れていて、シャツが透けている。

 これは流石にエロい。童貞には厳しい状況だな。


「お兄ちゃん、私甲板に屋根作って来たよ」


「屋根!?」


 思いも寄らぬチカの発言に、大声が出た。密室なのでよく響く。

 だって、五分間甲板で雨中何をしてるのかと思えば屋根を作ってたなんて、誰でも驚愕するわ。

 てか、どうやって作ったんだ。


「ちゃんとしたものじゃないんだけどね。漁港に仕舞われてた木材を積んでおいたんだけど、それを使えそうな金具とかで繋げて上だけでも隠せるようにしたよ。横からの雨は、材料足りなくて無理だったけど」


「五分やそっとで出来ることじゃないだろ!?」


「え、出来るよ。私やって来たもん」


「そうだけどね!?」


 ここで「普通なら」なんて言葉を使ってしまえばチカを傷つけるかも知れない。だから慎んだ。

 俺の為を思って色々動いてくれるチカを悲しませたくはない。

 だけどそれはそれ、これはこれ。俺がやることになったら絶対に不可能と断言出来る。


 幾ら筋肉もりもりで屈強な男が五分でテントを作れと命令を受けても、恐らく軽々時間をオーバーするだろう。

 だがチカはそれすらも可能にした。貴方は分身でもしたのでしょうか。


 脳内でマッチョが働く光景を想像していると、眼の前に花園が広がった。というか花柄のブラジャーが姿を現した。

 チカがシャツを脱いだんだ。


「ちょっ、ちょっと待てチカ! 何してんの!? せめて男の前では脱がないようにしよう!」


 咄嗟に腕で視界を遮るが、好奇心と本能故少しばかり覗き見している。それに気がついている様だが、チカは更にブラジャーまで外した。

 華奢な背中を向けているので、()()などは見えないが、所謂下乳は確認出来た。

 ちょっと待て俺死ね。

 てか、本当こんな細いのに力凄いよなぁ。どんな原理?


 俺同様毛布に包まったチカは、こちらを覗き込んで微笑んだ。ちょっとだけ照れ臭そうに頬を染めて。


「エッチぃ」


「いや、股間ガン見した人に言われても……」


「でも何で大っきくなってたの?」


「いやなってないよ」


「え……!? それでアレ!? お兄ちゃん、すっごいねぇ」


「嬉しくないやめなさいてかこの会話をやめさせて」


「はーい」


 大体、こんな美少女と二人きりな上二人共裸なんて状況に陥ったら、緊張するか興奮するか、だと思う。偏見かも知れないが。

 そしてその上相手からは好意を寄せられていて、ちょっと性的な話題も挟んで来る娘なら、皆我慢出来なくなっちゃうのではないだろうか。

 身体つきもいいし。


 俺は義妹だし、兄としての威厳を守りたいとして絶対に襲わない様に心掛けるけど、いつか誘惑に負けてしまいそうで怖い。

 チカには求婚されたけど、本当にこんなコなら大歓迎なんだよなぁ。何でも出来るし俺に甘いし。

 可愛いし。


 てか本当に何で俺のことなんか好きなんだよ。何度も疑問にしてるけど。

 吹奏楽のコンクールで優勝したから? ゲームが上手いから? 単に好みだから? どれだとしてもここまでする様なものじゃないだろう。

 チカは未だ謎めいてる。いつか真実を知りたいものだな。



 夜になると雨が止んだ様で、甲板を叩く音が聞こえなくなった。チカは甲板に向かい、屋根を確認すると船を動かし始めた。

 操縦よく出来るよな。

 それと、まだ少し湿っているけど服は乾いたので、勿論着る。

 ……待て? この服が乾く前に昨日チカが洗濯してくれた服が乾いてると思うんだが。何の為に全裸で居たんだ俺。風邪引くよ。


「お兄ちゃん、来て来て!」


 チカが手招きをして飛び跳ねているので、揺れに怯えながらも向かって行く。


「どうした?」


「あそこ、見える? 四百メートルくらい先なんだけど」


「……島か?」


「うん! 何処かの国だと思う!」


 少しばかり離れた位置に光を放つ大陸を発見したので、俺達は上陸することにした。

 だが、何処の国かはまだ分からない。下手をしたら日本人が大嫌いな人間が住んでいるかも知れない。

 射殺されたりもあるかも知れない。恐怖に味が震えた。


 それを抑え込む様に手を握って来たチカはにこりと笑った。

 明るい笑顔は、俺の心を包み込む様だ。


「大丈夫だから、行こう?」


「あ、ああ。行こう」


 ステータス最強の義妹と旅を始めて約三日。遂に最初の国に辿り着いた。

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