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ゼロへと至る無限演算(プロトコール)  作者: 五五五
第四章「敗北=喪失という原則」
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第8話

「ど、どうしたの? ウナギ……ちょっとおかしいよ?」

「おかしい……何がおかしいのさ。俺はいつも通りだよ。何も変わらず、空っぽのまんまの……負け犬のまんまだろうがっ!」

 また奪われた。

 また奪われてしまった。

「ランは……いつだって俺より上で……だから、俺には何もない! アイツは何でも与えられるのに、俺は全部なくしてきたんだ!」

 当然だから、必然だから、仕方がないから……そんなのは全部言い訳だ。

 奪われて悔しくなかったことなんてない。

 失って歯がゆくなかったことなんてない。

 何もないのが仕方がないと思ったことなんて――本当は一度だってない。

「それでも、俺には何もできない……取り返すことなんてできない……そんな力はどこにもないっ!」

 どうしていつも自分ばかり――何も手に入れられないのか。

 手に入れたと思っても、すぐに奪われ失ってしまうのか。

「そんな……こと、言われても……私にはわからないよ。それに……ウナギには、私がいるじゃない。私は友達でしょ? ずっと……これからだって!」

「美樹……それは、違うだろ?」

「え?」

 何を言われているのか全く理解できないという表情。美樹が見せた様子に、凪はなおさら苛立ちを覚える。

「お前の友達は……俺じゃないだろ? 『一条凪』って人間だ」

「はぁ……? だから、あなたじゃない。一条凪はあなたのことでしょ、ウナギ?」

「その呼び方はやめろよっ!」

「いたっ!」

 凪は美樹に近付くと、彼女の腕を掴んだ。力任せに引っ張られたことで、美樹は怯えてしまう。

「ウナギうなぎウナギ……その呼び方は、俺が『一条凪』だからだろ! そうあって欲しいって、一条家の人間であれって……お前はそう思ってるんだろ!」

 今度は美樹を突き飛ばす。いったい何が起きているのか、彼女にはまるで把握できず……それでも震える声で問いかける。

「どうしたの? いったい何を言ってるのよ、ウナ……凪。いったい何がそんなに気に入らないのよ!?」

「……一条の家は名門だ。だから優秀な人間しか必要としてない。俺は落ちこぼれで……生まれながらの落伍者で、何も持たないタダ飯食らい。だから、俺は一条の人間じゃない! 父さんも母さんも……ランだって! 俺を家族だなんて思ってないんだよ!」

「それは……でも、そんなの関係ないじゃない!」

「あるんだよ! 俺が一条の人間だから……お前だって『友達』やってるんだろうがっ!」

「……!?」

 感情をぶちまけた凪は、ハッとした。

 目の前の少女が浮かべたのは、見たことがない表情だった。

 いつだって前向きで、明るくて、元気で。そういうのだけが取り柄みたいな幼馴染が本当に……本当に悲しそうな顔をしている。

 見ていられなかった。見たくなかった。そうさせたのが自分だから、なおさらに。

 目を外らした先。そこにはタオルを被せたままにしてあったラップトップがある。現実から逃げるように、凪はコンピュータの前に座り込んだ。

「何、してるの?」

 美樹の質問に答えることなく、凪はラップトップを覆っていたタオルを取り去り、いつもの作業を始める。

「ちょっと、凪……これは何? まさか、あなた……まだそんなこと続けてたの?」

「お前には関係ないだろ」

「関係ないなんて、どうしてそんなこと言えるのよ!」

 カタカタカタカタ……。

 キーボードを叩く音が響く。ラップトップの画面には、凄まじい速さで難解なコードが流れ続けている。

「自分が何してるのか……本当にわかってるの! こんなの、バレたら凪は……!」

「どうでもいいよ、そんなこと。どうせ、俺には何もないし。なら俺はせめて……知りたい。知りたいんだよ、俺に何もくれなかった、神様ってヤツの正体が!」

「ねぇ、ダメだよ……全然ダメだよッ! ねぇってば、凪! どうしてそんな、〈イデア〉をハッキングするなんて無理だよ! できるわけ……!」

「俺に……『無理』だなんて言うなよっっ!!」

 少女の目に映ったのは、今にも泣き出す子どもみたいな……。

「もう帰ってくれよ。俺に……関わるなよ」

「……わかった。もう、いいよ。さよなら」

 会話が終わると、すぐに画面へと目を戻す。トタトタと廊下を歩く音がしてから、バタンと扉が閉じられた。


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