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ゼロへと至る無限演算(プロトコール)  作者: 五五五
第四章「敗北=喪失という原則」
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第4話

 翌日の朝。

 凪とフィリアは家から出て、川沿いの土手を歩く。

 学園へと向かう通学路。といっても、歩く人影はほとんどない。空を飛び交う浮遊艇もちらほらと見えるだけ。

 歩いて移動するのは、ただでさえ時間がかかる。まして川を渡る橋まで大回りしなければ学園までたどり着けないのだから、凪の登校は早い。

 加えてフィリアも一緒である。どうも彼女は何かあるとすぐに興味を示し、寄り道しようとする。おかげで、ただでさえ早起きしなければいけないところを、さらに寝坊ができなくなっていた。

 けれども、凪はそれが嫌ではなかった。

 フィリアが現れるまで、凪にとって通学路というのは憂鬱な道だった。退屈な時間を過ごすために、わざわざ学校まで行かなければいけない。たとえ通ったとしても、ただ自分が劣った人間だと、足りない人間だと自覚させられるだけ。

 でも、フィリアが一緒だと、そういう陰鬱な考えを持つ暇もない。心のどこかで、「こういう時間がいつまでも続いてほしい」とさえ考えていたのかもしれない。ただのんびりと、二人で登校する日々が続くことを。

 だが、校門前に広がる光景は、凪の淡い希望にヒビを入れる。

 三〇を越える生徒が並んで立ち、門を塞いでいたのだ。

 本来、校門を塞ぐことに大した意味はない。ほとんどの生徒は浮遊艇で学校へと通うからだ。つまり、校門を塞いでいる連中は、歩いて登校する人間を待ち受けているということ。

「なんだ……これ?」

 カツッカツッカツッ……

 並んでいた生徒のちょうど中央。一人の男が近付いてくる。よく見慣れた、そして見たくない顔が。

「待っていたよ、ずいぶんとお早い登校だ。感心カンシン」

「なんだよ、こいつは。いったい何の真似だ?」

 男はメガネをクイッと上げると、ゆっくり凪達の周りを歩き始める。フィリアは何かを察知したのか、怯えて凪の腕にしがみつく。

「ふーん、確かに。これは……すごいな。本当にこんなことが可能だとは……もしそうなら、ぜひ知りたいものだ」

 男はフィリアへと腕を伸ばそうとした。

 パンッ!!

 凪が払いのける。

「どういうつもりだって聞いてんだよ! ラン!」

「……なんだ? いたのか、お前」

「質問に答えろ! これは何だ! フィリアに何をするつもりだ!!」

 凪はランを睨み付ける。

 メガネが反射して、相手の表情はよく見えない――が、奥に自分を見下し視線があるのはわかっていた。普段なら引いていたかもしれない。

 だが、今回は引くわけにはいかない。

「これは風紀委員の活動だ。一般生徒には関係のないことだ。引っ込んでいろ」

「フィリアが何をした? お前の言ってることはおかしいぞ」

 ランの表情がわずかに動いたような気がした。だが、凪には彼が何に反応したのか、よくわからなかった。

「お前はこの女の何なんだ? まさか彼氏だとでもいうのかな?」

「フィリアは俺の……」

 何を言えばいいのだろう?

 凪は続く言葉が思い浮かばなかった。彼女に抱く感情は、どう表現するべきものなのか。

 だから、一番曖昧な選択をしてしまう。

「俺の……友達だ」

「友達……トモダチ? そうか、なら他人じゃないな。理由くらいは教えてやろうか。その女には、『学内の風紀を乱した』疑いがある。よって我ら風紀委員会が身柄を預かることになった!」

 意気揚々と語るランの姿が、凪には恐ろしく見えた。背筋がゾワッとする。

 その感覚が、凪を突き動かしたのだろう。

「デバイス・アクティベート……発動言語、赤の烈弾!!」

 ズキンッ!

 頭の中を針が貫くような痛み。だが、怯んでいる場合ではない。

 凪の顕現は火の玉を生み、ランへと向かって真っ直ぐに打ち出される。

「発動言語、風精のシルフィード!」

 ランの周囲に強烈な上昇気流が生まれる。凪が撃ち出した炎弾は、空気に流されて上空へと吹き飛ばされた。

 完全に虚を突いたつもりが、すぐさま対応されてしまった。

「風紀委員会の活動だと言っただろう? 俺達がどういう組織だか……知らないわけじゃないはずだぞ。抵抗されることもあれば、逃げ出そうとする者もいる。だから、活動中は常にデバイスを完全起動しているんだよ!」

「なら……発動言語、地動のマイン・クロウ!!」

「くだらないんだよ! 個別言語アイディランチャー、最も賢き復讐ルサンチマン!!」

 ……。

 何も起こらない。

 だが、凪の頭にキーンという痛みだけが走った。

「な……なんで? クソッ! 発動言語、線上の蒼!!」

 ……。

 やはり何も起こらない。頭痛だけが凪の頭に響いてくる。だからこそ、心底おかしいと感じてしまう。


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