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ゼロへと至る無限演算(プロトコール)  作者: 五五五
第三章「相似=異なるという公式」
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第2話

 部屋に戻ってきた凪は、しばらく言葉を失ってしまう。

 一分ほど前、部屋のドアを開けようとすると、鍵が閉まっていないことに気付いた。そこで凪は呆れる。デバイス錠はオートロックであり、全時代的な鍵を利用した経験がないとはいえ、あまりにも不用心だと感じたからだ。

 そもそも、他人の家なのだから、そのくらいは気を使ってほしい。凪は幼馴染の少女にハッキリと文句を言おうと扉を開いたのだ。

 そして、六畳間に繋がる廊下を歩いていくと、そこに怒りの対象が座っているのが見えた。

「あのね、ツミキさん。人の部屋に上がるんだから、せめて鍵くらいはしっかり閉めて……おいて、ほしい……」

 そこには美女が立っていた。

 真っ白なセーターに、桃色の小さなリボン。浅葱色のジャケットと紺色のショートパンツは少しボーイッシュな印象も受けるが、スラッと伸びた脚のラインに色気を感じる。キラキラと煌くクリスタルヘアーと相まって、どこかのモデルよりずっとキレイに見えた。

「ちょーっと、私の趣味が強すぎたかもしれないけど。うんっ! すごくいい感じになったわ! あれ、なんだウナギ君、帰ってきてたの?」

 美樹の言葉に、凪はまるで反応しない。ジッと、佇む美女――フィリアのほうだけを見つめている。

「ナギッ! ネコさんいっぱい貰った! かわいい! かわいいのっ!」

 フィリアは両手いっぱいに持っていた、ネコらしきもののアクセサリーやらぬいぐるみやらを凪に見せようとした。だが、彼の瞳は、ずっとフィリアへと固定されている。

「ナギ……どうしたの? だいじょうぶ?」

「ちょっと凪っ! フィリアちゃん困ってるでしょ! 返事くらいしなさいよ!」

 美樹からの喝が入り、ようやく正気を取り戻す。

「あ、あぁ……いや、別に見取れてたとか、そういうわけじゃなくて!」

「誰もそんなこと言ってないんだけど……」

「しまった……何を言ってるんだ俺は。クールだ、クールになるんだ」

 頭を抱えながら打ちひしがれる凪。そんな彼を尻目に、美樹は自慢げに胸を張る。

「ま、私の見立てだからね! ふふん、見直したか!」

「いや、それは素材がよかっただけで……」

「なにーー! なら何? 私が着ても似合わないっていうの!」

 勢いよく立ち上がる美樹。顔を真っ赤にして、目を釣り上げながら睨みつける。若干涙目に見えなくもない。

「……比べものにならないだろ。自覚あるんじゃないのか?」

「ぐっ!」

 美樹はまじまじとフィリアを見る。

 顔も肌もスタイルも、どこをとっても勝てる気がしない。だが、それをここで認めるのは、どうしても悔しい。

「ふ、ふんっ! 確かにフィリアちゃんは可愛いけどっ! 私よりずっと肌もキレイだけど! でも……でも私だって負けてないもんっ! ちゃんと出るとこ出てるし!」

 ぐいっと胸を引き寄せてみせる。制服の上からでも、張りと形の良さがわかる。幼馴染とはいえ、その発達した体を前にすれば、自然とイヤラシイ感情も浮かんでくる。だが、凪は努めて冷静に対応する。

「胸があればいいってもんじゃないだろ……」

「胸だけじゃない! おしりキレイだって、友達からは評判なんだからっ!」

 今度はお尻を突き出してみせる。ひらりと短いスカートが舞い上がると、中からエメラルドグリーンの……。

「ば、バカっ! お前、見えてるぞっ!」

「見えてるって何が……ま、まさか! 凪のバカ、なに見てるのよ!!」

「お前が見せたんだろうがっ!」

「人を変態みたいに言うなぁぁ!」

 美樹は怒鳴りながら、拳を握りしめる。凪は「顔が凹むな」と冷静に考えていた。だから、思いきり目を瞑ったのだ。

 ……。

 予想されていた衝撃は、凪の身に訪れなかった。不思議に思い、そっと目を開けてみる。目に入ってきたのは、フィリアのキレイなうなじ――つまり背中である。

 両手を広げて、凪と美樹の間に立っていた。

「ダメ。ナギにヒドいことしちゃ。ミキでもダメ」

 キッと睨みつけられ、美樹はたじろいでしまう。

「フィリアちゃん、別にそういうわけでじゃないんだよ。これは……その……」

 言葉に詰まる美樹。見かねて、凪はフィリアの肩に手を置いた。

「大丈夫だよ。俺とツミキはこういうの慣れてるから。腐れ縁ってヤツで、こんなのしょっちゅうだから」

「クサレエン? これがふつうなの?」

「まあ、普通ではないけどな」

 チラッと美樹のほうに視線を向ける。すると、むくれながら横目で睨みつけられる。

「凪が失礼なことを言うからいけなんだからね」

「はいはい、わかってますよ。ごめんなさい」

 ピッピッピッピッピ

 急に電子音が鳴り出す。どうやら美樹のデバイスから出ている音らしい。

「やだ、もうこんな時間じゃないっ! 私、そろそろ夕飯だから帰るね!」

 美樹はカバンを手に取ると、そのまま廊下を走っていく。

「それじゃ、またね!」

「また来る気じゃないだろうな」

 凪がぼやくが、美樹の耳に入る前に扉が閉まる。ハァッとため息が出てしまう。

「あ、いい! いくら可愛くても、フィリアちゃんにいかがわしいことしないように!」

「いいからさっさと帰れっ!!」

 ドアが閉じる間際、覗き込むようにしながら美樹が残した一言に、凪は思わず大きな声を上げてしまった。


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