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ゼロへと至る無限演算(プロトコール)  作者: 五五五
第二章「管理=支配という定理」
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第6話

 ピンポン。

 めずらしい音がする。凪にとって、部屋のチャイムがなるという経験はほとんどない。家族にさえ住所は教えていないからだ。通販を利用することもない。昔なら、何らかの勧誘で、見知らぬ他人が訪ねてくる機会もあったらいしいが、あまりにも非効率的で完全に消えてしまったという。

 とにかく、凪にとってチャイムの音は聞き慣れないものだった。だから、無視することに決めた。

 ピンポン……ピンポンピンポンピンポン!

 今度は連打が始まる。だが、凪は断固として動かない。眼の前のラップトップの画面に集中し、キーボードを打ち続ける。

 背後でフィリアが何やら動き回っている。音が気になっているようだが、凪は知らんぷりを決め込んだ。

 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン

「ねえ、ナギ。耳がいたい。なあに、これ?」

 フィリアが体を揺さぶってくる。ドアの向こうにいる人間は、相当にしつこい性格らしい。

「ああもう! うるさくて集中できないっ!」

 念のため、作業中だったラップトップにカバーをかける。

 凪は作業のために付けていたヘアバンドを外す。うざったい前髪が垂れ下がってきたが、それよりもチャイムを止めるのが先決だ。

 鍵を開けると、ノブに手を伸ばすより前に、扉が開いた。

 ガチャンッ!

 用心のためにかけてあったチェーンがピーンと伸びる。すると、ドアの隙間から見慣れた少女の顔が覗いた。

「やあ、ウナギくん! 今日は大変だったね。姫子さんに負けちゃったんだって? それも何もしないで土下座したって! まったく相変わらずだね」

「……ツミキ? なんでお前がここにいるんだよ!」

「なんで? ご挨拶もいいところ! 先生から頼まれて様子を見に来たのよ? ただし、ウナギのことじゃないからね? フィリアさんのことだから」

 ――ああそうか、学校には住所を届け出ていたんだ。

 実に当たり前のことを思い浮かべてから、ツミキの発言について、改めて思考を巡らせてみる。

「ん? ちょっと待て。フィリアの件って何だ?」

「ウナギ……今のあなたは、転校生を無理矢理連れ去ってる変態さんなんだよ? まして、相手は……美少女なわけで。さあ、フィリアさんはどこにいるの?」

 凪とフィリアの関係は誰も知らない。美樹の言う通り、傍から見れば凪は誘拐犯めいた行動を取っていた。

「えーっと、フィリアなら自分の家に帰ったんじゃないかな?」

「それはどこ?」

「え? どこって?」

「データの不備なのか、先生達もフィリアさんの住所がわからないって……だから、ウナギの家まで来たんだから! さ、フィリアさんの家まで案内して!」

 凪はフィリアを学校に転入させたハッカーを呪う。中途半端な仕事をして、とんだトラブルを持ち込んでくれたものだ、と。

 だが、どこにいるのかもわからない相手に腹を立てている場合ではない。とにかく、目の前の少女を追い払わなければいけない。

 幸い、チェーンがかかっているおかげで、美樹からは凪の姿だけしか見えていない。

「悪いんだが、フィリアはあまり人馴れしてないんだよ。明日にはきちんと学校に連れていくから……今日のところは帰ってくれないか?」

「そうはいかないわよ。先生からの頼まれ事、途中で投げ出すわけにはいかないの! それに……ウナギがフィリアさんにいかがわしいことしてるかもしれないし」

「い、いかがわしいって何だよ! ツミキは俺がそういうことする人間に見えるのか?」

「見えるわよ! 見えるに決まってるでしょ! ウナギはどうしようもない無気力ダメダメ人間だけど……高校生男子なんだからっ! この間だって、私にブラのサイズなんて……聞いてきたし」

「あれは……ちょっと参考に聞いておきたかっただけで」

「参考って……何の参考よ! まさか……夜な夜な私の胸についてあらぬ妄想を……」

「どうしてそうなる!」

 顔を真っ赤にしながら怒ってみせる美樹。だが、その表情はどことなく嬉しそうにも見える。

 だが、少女が抱く感情の機微など、今の凪にわかるはずがない。必要なのは、なるべく早く彼女を追い返すことだけだった。


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