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ゼロへと至る無限演算(プロトコール)  作者: 五五五
第二章「管理=支配という定理」
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第5話

「いくぞ、凪くん!」

「……デバイス・アクティベート!」

 凪の腕にはめられたデバイスから、いくつものモニターが空中に浮かび上がる。

 姫子は凪達の足止めをするため、すでにデバイスを完全起動〈アクティベート〉していた。ニューロデバイスを完全起動した人間が向き合えば、それは決闘の始まりである。

「大いに競うぞ、凪くん! まずはこちらからだ! 始動言語、セフィ……」

 姫子の動きが止まった。目を見開き、表情も固まってしまう。

 彼女にとっては思考の範囲外だった。だが、凪にとっては当然の選択。

「僕の負けです」

 凪は土下座していた。両手を折り重ねながら地面につけ、頭を丁寧に下げている。

「……どういうことだ? 何をしているんだい、凪くん」

「ですから、僕の負けです。参りました」

「まだ……まだ、何もしていないぞ?」

「それでも……僕の負けです」

 姫子の表情はみるみる内に険しくなる。二人の様子を見ていた生徒達もざわついていく。

「凪くん……何もしないまま、競争から下りるというのか?」

「競う必要はありません。意味もありません。ですから、僕の負けです」

 凪は頭を下げたまま、静かに返答する。それまでギリギリ笑顔を保っていた姫子だったが、もはや限界を迎える。

「私は、負けを覚悟して向かってくる人間は嫌いではない。その必死さに希望を見るからだ。逃げようとする者も尊敬するよ。その賢さに輝きがあるからだ。だが、君は何かな……凪くん」

 姫子の問い掛けに、凪は何も答えなかった。ただジッと頭を下げ、嵐が通り過ぎるのを待っているようだ。

「私は、君から演算割当を奪ったりはしない。だが、君が勝てたなら私の演算割当を半分得ることができるんだぞ? 失うものはない……チャンスだけが目の前にある。それでどうして……どうしてこのようなことになるんだ! 答えたまえ、一条凪っ!!」

 返事はない。

「ナギ? ねえ、ナギ……どうしたの?」

 あまりにも反応がないため、フィリアのほうが心配を始めてしまう。

「五年間、私から徹底して逃げ続けてきた生徒が、一体何を考えているのか興味があったが……単なる腑抜けだったとはな。本当に残念だ」

 姫子は凪に背を向けると、そのまま校舎のほうへ歩いていく。

「君は弟くんとはまるで違うのだな……一条二年生」

 吐き捨てられた一言に、凪は少しだけ息苦しさを覚えた。けれど、しばらくすれば、それも収まる。

「ナギ……どうしたの? お腹いたいの?」

「……いいや、違う。服が汚れちまったな。今日はもう帰ろう」

「ガッコウは?」

「学校は……もういいんだよ」

 凪は立ち上がると、そのまま校舎に背を向ける。遠くから、聞こえるはずのないヒソヒソ声が響いてくるようだった。


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