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電脳獣被害者が透明人間になる世界で俺と彼女は引き裂かれ続ける(XXC  作者: 京夜騎士団長
第一章 始まりは2年前から
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仮想世界の高校はこんなところ

「へぇ〜・・・・高校ってこんな感じなんだねぇ」

目を輝かせて左右に忙しそうに首を振りながら前を歩く少女が尋ねた。

「ここは仮想世界の中でも中心になる仮想現実科学第一高校だから、設備も施設も他の学校より整ってて、普通とはちょっと違うかもしれないけど、まぁ大体はこんな感じだよ」

見た目から中学生と判断してお兄さん的な目線で高校の雰囲気を語るも、少し気恥ずかしい。

「へぇ・・・そうなんだ。かそーかがく・・・なんとかって何を勉強するの?」

「仮想現実科学な。えっと、勉強といっても先生達に教わるだけじゃなくて、自分たちもいち研究者としてこの世界に干渉する理論を組み上げて論文を提出して、立証出来た場合は大人の研究者と同じで研究資金と一定期間の仮想世界への干渉権限が与えられるんだよ」

「論文?立証?権限?なんだかよくわからないけど君はその勉強が好きでここに通ってるんだ」

歩を進めながら振り返った彼女は、顎に人差し指を当てて首をかしげた。あざといなー。だが可愛いから良しとしよう。

「ああ。俺はこの世界が大好きだ。だからこの世界がより良い物になるよう自分に出来ることがあるはずだと思って日々努力を惜しんでいないつもりだよ」

「いいなぁ、そういうの。高校かぁ。私も通ってみたかったな」

前に向き直った彼女が放った言葉はあまりにも不自然だった。だって彼女はどう見たって中学生かそれ以下だ。【行きたかった】という過去形は当てはまらないはずだ。ただの言い間違いだよな。

動揺してもごもごしながら彼女を呼び止める。

「あ、あの・・・じゃなくて、おい!」

「ん?」

身長145センチ程度で幼い容姿。そしてそれに伴う子供らしい声、天真爛漫な態度。そんな彼女に向けた問い。

「君さ・・・中学生くらい・・・だよね?なら高校はまだなんじゃ・・・」

「え、何言ってるの?・・・あー、なるほど。私そんなに幼く見える?」

彼女は少し考えて何かに気付いたらしく、血で汚れたレザースカートを摘んで翻したり、胸の周りを撫でたりしながらそう返してきた。

「あ、いやすまん。そうか。幼く見えるだけで実年齢は十七とか十八とかいってたりするのか。いやぁ人間って見た目じゃ分かんねぇもんだなぁ。ほんとすまんな」

「あははははは。なにそれ面白いジョークだね!あはは」

もう予想は出来ただろうか?俺はこの時出来なかったね。このあとの彼女の言葉を聞いて、しばらく口を開いたままにしていたくらいだ。

「私、この世界で肉体の見た目年齢を凍結されてからもう二十年。三十四歳のオバさんだよ」

「マジ・・・?」

「大マジです」


・・・・・・・・・。


しばらくしてようやく口が塞がってから彼女の両の手をがっしりと取った。

「え?な、なになに!?」

「ロリなおばさま、最高だと思います」

「熟女がお好きなんですね」

「それは非常に語弊があるなぁ」

「今の言葉からは何の相違も感じないのだけれど」

こほん。

「まぁ、それはそうと仮想アバターの見た目年齢の凍結なんてよく成功しましたね。この世界・・・RVワールドではアバターは現実世界と同じ顔で構成されるはず。つまりアバターの容姿年齢も現実と同じで上がっていくはずなのに」

そう。現実的仮想世界及びゲームの中のアバターも同じく、髪型や髪色などは変更できても個々人の顔は現実世界と違う物に設定することは出来ない。

アバターがポリゴンで構成されて少しだけ角ばって見える理由はここは現実ではないのだと認識させるのと理由は逆だ。

仮想世界のゲームでは現実と同じかそれ以上に体を動かして殺人や殺獣が行えるため、現実世界と仮想世界というかけ離れた二つの世界を分けて考え過ぎると現実世界でも殺人を犯す人間が一定数出現するだろうと政府側に判断されたためである。

そのためゲームの世界では見た目が現実と同じなのだが、人間が創ったわけではないこのRVワールドに関しては、何故最初から顔が現実と同調して成長するのかはまだ解明に至っていない。この世界にリンクするヘッドギアはただのバイパス機械でしかないから、ヘッドギア自体は関係ないことは分かっている。

この世界は仮想世界と言いつつ、その見た目を現実と変えることが出来ない。なのに目の前の少女・・・もとい、おばさん・・・再もとい、女性はどうだ。

三十四歳どころか二十代にすら、彼女の言う通り十四歳、下手するとそれよりも低い年齢にしか見えない。

見た目年齢の凍結を信じるにしても、どのようにしてそれを成功させたのか、研究者の端くれとしては非常に興味をそそられる。

彼女は俺の問いかけに対してあからさまに答えを渋った表情を見せた。

「えーっと・・・」

「機密情報でしたか・・・。それなら仕方ない。可能であることが分かっただけでも収穫です。いつか必ずこの手でその方法を見つけてみせますよ」

相手が歳上だと知ると、コミュ障が発動して気付かない内に敬語になっていた。

俺の突き出した拳を遠目で見つめた彼女は一歩踏み出した。そして柔らかく、とても温かい両掌で優しくそれを包み込んで首を振った。

「ごめんなさい。これは機密事項でもなんでもないんだ。ただ・・・」

「ただ・・・?」

彼女は物憂げで、俺の瞳ではなくどこか遠くを見ている。心理学的にいえば過去を思い出している時の目、というやつだろうか。

「私の場合は【成功した】ではなく、いつのまにかそうなった、の方が近いかもしれないね」

「あー、なるほど。偶然の産物というやつですか。確かにありますよね、たまにそういうのって。ってかあなたも研究者だったんですねぇ。それならそうと早く教えてくれれば良かったのに。はははは」

知ったかぶりをしていたかもしれない自分をごまかそうとやや早口で言い終えると、彼女はもう一度首を振って深く息を吸い込む。

それから覚悟を決めたような目をしてこう言った。

「私はさっき出てきたあのユニコーン、あれと同じようなモンスターによってこの世界に閉じ込められた。そしてそれと同時に見た目だけじゃなくて肉体の年齢も凍結されたの。そしてそれはあのユニコーンに干渉を受けたあなたも・・・肉体の年齢は止まっているの」

今日俺は何度絶句すればいいのだろうか。


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