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電脳獣被害者が透明人間になる世界で俺と彼女は引き裂かれ続ける(XXC  作者: 京夜騎士団長
第一章 始まりは2年前から
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ミルクティ色の髪の少女

サボり部屋へ到着。本来なら誰も怪我をすることはないため、特に存在する意味もない保健室のカーテンを半ば強引に剥がして少女をベッドへと横たえた。

ポーションのおかげか流血はおさまり、怪我も見た感じ無さそうだが、彼女の服(というには洒落っ気がなさすぎるが)に染み付いた血は拭えずベッドはすぐに黒く染まった。

「しまったなぁ。これは隠せねぇ・・・」

ガシガシと頭を掻きながら、ここまで来る時に感じた違和感を思い出す。

「メニュー展開」

ボイスコマンドで仮想のメニューウインドウを呼ぶ。右上に浮かぶ時計を確認すると、今はまだ授業が行われている時間帯だ。

それなのに運動場、体育館、そしてこの保健室に至るまでの廊下や教室、職員室などの全てに人間の姿や声、気配を確認することが出来なかった。

まるで俺とこの子だけが取り残され、この世界から全ての人間が居なくなったような・・・そんな違和感。

そこまで考えたところで、先程京が俺の隣から姿を消した時に彼女が言っていたことを思い出した。

「強制ログアウト・・・それもこのRVワールドで全員同時に・・・そんなことが可能なのか?」

だがそれは現に起きた。そう見て間違いないだろう。まぁ、こんなに血だらけの少女を背負った姿を見られることなくここまで来れたので都合が良かったと言えなくもないが。

とはいえ強制ログアウトとはいえ、はてさて誰一人再ログインして来ないというのもどうだろうか・・・。

学校に誰も居ないだけでなく、他の場所も同じように俺と彼女以外誰も残っていないのだろうか。

そこで俺はとある単純で重要なことを見落としていたことに気付いた。

「あ、俺は?」

そう、大事なことを忘れていた。全員がログアウトされていて、隣にいた京まで居ないのに何故俺だけがここに取り残された。

それに・・・この少女も。

近くに置いてあったパイプ椅子を引き寄せて腰掛け、改めて彼女をまじまじと見た。

血で黒く染まったフーデッドケープ。その下には薄い茶色のレザースカート。そこから覗く白い脚部が、戦闘の際に滲み出た汗で艶やかに輝いている。

目線は上半身に向かって行く。

肉感はなく平な胸元と片手で掴めそうな程細い首。

その上にあるシュッとしている方だが、年齢からかどこかあどけなさと程よい丸みを帯びた顎。

透明に光る桜色の唇。鼻も良く整った形をしている。

ミルクティ色の髪はシルクのように滑らかであるのにサラサラで潤いを感じる。

そして俺を見る榛色はしばみいろの大きな瞳。


俺を見る・・・瞳・・・?


ガタンッ・・・!


「うわぁっ!?」

「きゃあーっ!」

「わあああああ!」

「うおおおおおお!」

俺も驚いたが彼女もそれに驚いて、何故だか互いに二度驚く。ゼェハァと両者が息を切らしているのが収まった頃、先に口を開いたのは彼女の方だった。

「フゥ、フゥ・・・き、君は一体なんなんだ!?」

「ハァ、ハァ・・・。なんだ・・・俺のことがそんなに気になるのか?」

「べ、別にそんなこと聞いてないから。そ、その・・・き・・・きききキスしようとなんて・・・してないよね?」

「は?何言ってんだ」

「だ、だだだだよね!はぁ、良かったぁ。でも真顔で言われるのはなぁんかムカつく」

顔を赤らめ、どうやら怒っているらしくそっぽを向いた。忙しい奴だなぁ。

どうやら彼女を見ている内に顔が近付いていたらしく、目と目が合った時には鼻先同士がくっつくほどの距離にいた。

そりゃまぁ勘違いするか。

「それはそうと、怪我は大丈夫かい?」

「う、うん。あれ・・・全く痛みもないし、頭もさっきまでガンガンいってたのに・・・」

頭を押さえながら顔をしかめているので、隠す理由もないし教えてやることにした。

「そりゃ良かった。グランポーションとデバフフルエイドがよく効いたんだね」

「え!?」

「え?」

眉間に皺を寄せていた彼女の表情が更に険しくなり、困惑したような表情で俺を見ている。

何かを恐れているような、そんな瞳だった。

「その・・・悪い。君のその機械、ちょっと借りてユニコーンのやつを・・・ちょちょいっとな」

「ふざけないで!DIEは一般の人が使うとどんな危険なことが起こるか分からないのよ。二度と触らないと約束して!」

え・・・。

きまりが悪くて逸らした目線が一気に引き戻される。

威圧感・・・?いや、これは後悔だ。

過去の自分の経験が言葉に重みを増させ、それが圧となりオーラのようなものを発しているかのように感じさせる。

彼女の過去に一体何があったのだろう。

「わ、悪い。約束するよ。たしかにちょっと不謹慎だったかもな。でも俺はただ君を・・・この世界を守りたくて、壊されたくなくて無我夢中で絞り出した答えがその機械を使って戦うことだった。それだけだ」

「あなたはバカなの」

「いや、でもあのままだと俺も君もヤバかったわけで・・・え・・・?」

彼女の眉間の皺はいつのまにかほどけていて、そこで止まらずに顔は崩れてくしゃくしゃになっていた。

「あなたはバカだ」

「そうかもね」

何も言い返せず力なく呟いた。視線は宙を舞う。

「何も教わらずに使いこなしてしまうなんて君には才能があるのかもね」

「それ褒めてないだろ」

「あ、分かる?」

彼女の濡れた笑顔にはどこか影がかかっているように感じた。しかし今は触れないでおこう。こんな事態だ。連絡先でも交換すればそのうち聞く機会もあるだろう。

それよりも今はやらなければならないことが山程ある。

「話は変わるんだけど、君に聞きたいことが沢山あるんだ」

「うん。そうだよね。私もあなたに聞きたいことが山程ある」

「俺にもか。分かった、何でも聞いてくれ」

「勿論そのつもり。んー、でもここで話すのもなんなので・・・」

少女は一呼吸おいて涙を拭い取り、とびっきりの笑顔でこう言った。

「学校の中を探検しながら話そう!」

と。

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