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電脳獣被害者が透明人間になる世界で俺と彼女は引き裂かれ続ける(XXC  作者: 京夜騎士団長
第一章 始まりは2年前から
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滑らか

ホバリングしてどう攻めてこようかと窺っている天馬の位置を見定め、鞘はないが右腰に刀身を据え、その腰の位置を深く落としゆっくりと目を閉じる。

さっきはゲームに規定された跳躍力がなきゃ戦えない。そう考えていた。

だが、お前がいればその考えは全く異なる。俺の相棒レックスデストラクションに付与された特別な能力の一つ。

「レックス・デストラクション固有奥義・・・」

俺の構えと威圧になにかを感じたか、天馬が目の色を変えて猛烈な勢いで空に向かって逃げていく。

「破壊の一閃(フラッシュデストラクション )!!!!!」

右腰の刀身を空駆ける敵に向けて一気に振り抜く。

真空波のごとき勢いで黄緑色に光る剣撃が猛烈な勢いで敵に向かって飛んでいく。迫る殺気を感じ取った天馬が振り返り、流石の機動力でホバリングを使って避ける。

それでも完全回避とは行かず、片翼に直撃してもげた。これで天馬は飛べないので地面での戦闘が出来る分有利となった。

だが、この破壊の一閃は回避不可能な秘奥義としてゲーム内では有名で、もう戦う必要などない。

この奥義から付いた二つ名がある。


「必殺のセツナ。それが俺の名だ。」

飛んで行った斬撃は急旋回して、落下していく天馬めがけて再び飛んでいく。

まるでブーメランのように。


バシュッ!!


天馬の身体は首の上と下で両断され、地面にボトリと鈍い音を立てて落ちた。

斬撃はそのまま勢いを止めることなく俺に向かって飛んでくる。


危ないって?


いいや、ほんとコイツはブーメランみたいに肩の位置に伸ばした刀身の中に吸い込まれるようにして消えた。

刀身を包む黄緑色の光がまさに、この飛んでいく剣撃なのだ。

ゲームに規定された能力だが、コイツを使いこなせるようになるために当時はかなり特訓したのを思い出す。

一体何度真っ二つになったことだろうか。

ほんの2〜3年前のことなのに無性に懐かしくなって、この奇妙な事態の中でも笑みがこぼれてしまう。

「って、浸ってる場合じゃねぇよな・・・」

近くで倒れている女の子。その子に色々と尋ねなければならない。

混乱して動かない頭を無理矢理捻って振り返った。

「ここは本当に仮想世界なのか・・・・?」

冷や汗を垂らす俺の言葉の意味は、実際に見てみればわかるさ。

壁に寄りかかって気絶している少女。その後頭部から首、胸、腹にかけて滴り、服に染み続けている血。紫色に変わったボロ雑巾のような腕。

壁の底には血溜まりまで出来ている。

仮想世界で気絶はありえない。仮想世界に接続するということは、脳神経への回路伝達の過程で本来脳から体の末端まで行くはずの信号をヘッドギアをバイパスとしてこの世界の自分のアバターの体に繋いでいるということである。

意識そのものをこの世界に移していると考えればいい。

だが貧血、目がくらむなど現実で起こりうる気絶が起きた時には、アバターはここに留まらず、ヘッドギアの安全機能により強制ログアウトされてしまう。

つまり、気絶してこの場に体が留まっているこの状況は本来あり得ない。

そしてその異常さはそれだけじゃない。彼女の滑らかさだ。

ポニテに結ってあるミルクティ色のシルクのような髪質、という意味の滑らかさもそうだが、そういう意味じゃない。

彼女だけがこの世界では滑らかなのだ。

仮想世界では現実世界との境界が曖昧になることを防ぐために、この現実的仮想世界でさえもアバターの体はよく見ないと素人には分からないが、僅かに角ばっている。

それが彼女にはなかった。

ボロボロのフーデッドケープ、その中からのぞく顔、腕、足の肌の艶やそのこまやかさ。血と汗で貼り付いて垂れた髪の間から垣間見える、彼女の顔の中心にある桜色の唇と曲線を描く透明な頬。

彼女の存在だけがとても仮想世界にいることを意識させない。

そういった意味の【滑らかさ】だ。

「と・・・とにかく助けないと。

でも、出血の処理なんてこの世界には・・・あっ!」

彼女を助ける唯一の方法を咄嗟に思いついた。


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