プロ契約
そんなこんなで後日本戦が行われ、俺は運良くか悪くかラクサス、ディバインの両方と当たり、それなりの難はあったが決勝まで勝ち上がった。
そして例のフードの奴、クリアという女と戦い敗北した。優勝という目的こそ逃したものの、次席という功により株式会社プログレスという他にもバレーやバスケが強いと有名な会社と契約し、プロの道に進むことが出来た。
収入は高校生にしては非常に多く、今最もVRでのPVPが注目されていることから契約金が六年契約で一億円、他に活躍次第で月収が入るそうだ。
税金などを引いても手元にまだ八千万近く残っているが、何に使っていいかも分からず、とりあえず両親に七千万を託して活動資金として一千万を自分の通帳の中に放り込んだ。
ゲームの接続料金、新作のハードもソフトも全てゲームにかかるお金は会社が出してくれるので、ほんと使うことないんだが。それにこの会社を選んだ理由はお金が主な理由ではない。
接続料とゲーム購入料金さえ出ればどこでも良かったのだが、この会社はVRの最先端開発もしているとのことで興味を持って色々調べていたこともあり、オファーが来たのをきっかけにその部門の偉い人に直接会うことが出来た。
「どうも梶原さん。わざわざ来ていただいてすみません」
「いえ、お忙しいことかと思いますし、こちらの世界でもボタン一つですぐに行きたい場所に行けますから」
「そう言って頂けるとこちらとしても助かります。ささっ、立ち話もなんですからお掛けになってください」
待ち合わせの会議室に到着し、そこに居た四〜五十代の男が椅子を引いてくれた。
「ありがとうございます。えっと……」
「あ、わたくし瀬野尾と申します。以後お見知りおきを」
と言って名刺を差し出して来たのでそれを丁寧に受け取り、こちらも出来る限り丁寧に名刺を渡した。
「これはこれは。いやぁ、まだ高校生なのに名刺を携帯していらっしゃるとは、さすがは一高の生徒さんですなぁ」
老人は参ったとでも言いたげににこやかな顔で後ろ頭を掻いた。
「流石に僕もこういう場に必要だな、と思った時しか携帯していませんよ」
照れ臭くなってこちらも頭を掻いた。
「それでも素晴らしいと思います。ウチの若いモンにも見習って欲しいですな」
話が長くなりそうだったので本題に戻すとしよう。
「あははは……ところでいきなりなんですが、こちらで開発しているVR技術の進捗について少しお聞きしてもよろしいですか?」
「どうぞどうぞ。なんでも聞いてください。お答え出来る範囲でなら私も踏み込んでお話し致しますよ」
「えっと、まずその答えられないようなことはこちらの会社で重役になれば知ることが出来ますか?」
俺の質問に何か意外なことがあったのか、瀬野尾という丸眼鏡の男は目を丸くしてその分厚そうな眼鏡の位置を直すのだった。
「いやはや、これはびっくりしましたな。てっきり梶原さんはこのままプロプレイヤーで進むのかと思いましたが、我々研究者側に回られる予定があるのですか?」
「そのために一高に通ってますので」
真顔で即答する俺を見て瀬野尾は大声で笑った。
「はっはっはっは。これは一本取られましたなぁ。いやぁ、あの決勝戦の視聴者数は全世界で十億人を超えてましてな。わたくしもその一人なのですが、あの戦いを見てわたくしが社長に掛け合って直接オファーをお願いしたのですよ」
「そうだったんですか。ありがとうございます」
「まさかあれだけ戦える方が研究者志望とは、いやぁ……ほんとうに驚かされましたな」
「この世界を知り、干渉することが好きなので」
「なるほどなるほど。さすがはこの業界で最も有名な高校生ですね」
「やっぱり知ってたんですね、僕のこと」
「はい、読ませて頂きましたよ。ギル・パプテマス・アルドレアの基本理論を応用した論文、第六サーバー実在論。それに強制ログアウト観測論。どれも素晴らしかったですな」
「あ、あははは」
両方とも俺が考えた訳ではなく、実際に体験したものやユーリたちに聞いたことを論じただけのものが凄い反響を呼んだに過ぎないのだけど、こうして瀬野尾というこの業界の第一人者の目に触れることになったのだからよしとしよう。
「分かりました。では少し待ってくださいね」
「ん?」
何が分かったのか分からないが、瀬野尾は隣に置いてあったパソコンを慣れた手つきで扱い、何かを印刷してそれを俺の前に広げた。
「こちらはわたくしたちの幹部にしか知らされない情報を開示するために、情報漏洩を防ぐという契約書にサインしていただく必要がありますがよろしいですかな?」
「ということは……」
「ええ、私の知っていることを全てお話させて頂きますよ」
「ほ、本当ですか!」
俺は自分でも気付かない内に身を乗り出していた。
「本当ですとも。その代わりこのことは内緒でお願いしたいのと、梶原さんからも情報の提供をお願い致しますよ」
瀬野尾はふっくらした豊かな顔に満面の笑顔を浮かべて、その温かそうな手を差し出した。
「はい!もちろんです!」
喜んで彼の手を取った。
こうして俺はこの会社と契約し、プロとして戦闘スキルを磨くと共に、ユーリ達を見つけるべく彼の助手として研究することを許されたのだった。
俺は誓う。仮想と現実、そして現実的仮想の世界を繋ぐパイプになると。




