面倒な奴と再会
そんなこんなでモヤモヤとしながら午前の授業を終えて昼休みになり、教室から出ると既に京が廊下に立っていた。
「お待たせ」
「一分も待ったぞ」
「それは待ったとは言わん」
「ちぇっ」
そして校外に出ようと靴を履き替えているところで声がかかった。
「二人とも、どこに行くんだい?」
声に引かれて振り返ると、そこには花畑星羅が腕を組んで立っていた。
「ちょっと外に用事があってな。許可は取ってあるぞ」
「それは見れば分かる。そうではなく、お前は一体何をしているのだと聞いている」
「それこそ分かり切ってるだろ。というか今言ったじゃねぇか」
「そうではない。誰と行こうとしているのか聞いているのだ」
あー、そういうことか。コイツホントしつこいよなぁ。
「あーーーー、えっとーーーー。うん、京とだな」
「それが問題だと言っているのだ」
星羅はずずいと距離を詰めてきて、人差し指を俺の胸に突き刺した。
「これの何が問題なんだよ」
「何度も言ってるだろ。男女が二人きりで歩くということはそういう関係だと勘違いされるものだと。お前も昨日は迷惑していると言ってただろう。迷惑ならそういうことを控えるべきだと何故分からない」
「いや、分かってはいるが、そんなことより京は親友で一緒にいたいと思う方が勝ってるからどうしようもないだろ」
「りゅ……流星……」
京の目が桜色に潤んで見えたのは気のせいだろうか。ん……待てよ、なんか引っかかる。
「星羅、お前俺と昨日どんな話したか覚えてるか?」
「ああ、お前は藤ヶ崎との関係を勘違いされるのは迷惑だと、そう言っていたぞ」
「他には何か言ってたか?」
「藤ヶ崎と食堂に行くと言ってたな。まぁ藤ヶ崎は食堂には行ってないようだったがな」
星羅は途中から俺に耳打ちして、敢えて京には聞こえないようにそう言う。
「なんでお前がそれを知ってるんだよ」
つられて俺までコソコソ声で話してしまう。
「お前が勘違いされて迷惑だって言ったあと、体育館側から運動場へ駆けていく彼女を私は三階の廊下の窓から見た」
「俺と飯の待ち合わせしてたのにか?京は何かを隠してる……?」
彼女はキョトンとしている。訝しんでいても仕方ないし、後で聞けばいい話だ。それより今は裏路地の方だ。
「よし、分かった」
星羅が頷く。
「ああ、分かってくれたか。って何の話だったっけな」
「では僕も一緒に行こう」
「はい?」
「何か問題があるか?」
いや、そんな堂々と言われましても。ねぇ。
「いや、ないけど許可証は?」
「僕は生徒会役員だ。許可証を出す側の人間だぞ。後からなんとでもなる」
「そういうもんか?」
「そういうものだ」
押し切られたような気がしなくもないが、まぁ断る理由も浮かばないし面倒なのは嫌だからとりあえず頷いておいた。
「……」
京が落ち込んでいるのは何故だろう。俺が鈍感なのか?もしかしてそういう線があったりするのか?分からん!女ってのはホントに分からん!
「運動場の裏側の道路に行くだけだぞ」
「ああ、行く」
「特に何もないかもしれないんだぞ?」
「構わん」
行くの一点張りだ。俺が納得するまで突き詰めるのと同じくらい、星羅もとことん頑固なのだということはこの数ヶ月の付き合いで把握している。ため息をついてやれやれと首を振るしかなかった。
「勝手にしろ」