知ってる天井
目を覚ますと良く知ってる天井だった。カーテンの隙間からこぼれる日差しに目がチカチカするが、一緒にそよそよと吹く風が心地よくて気分がいいとも悪いとも言えない。そんな目覚めだった。
不意にムズムズした頭を掻こうと手を持っていくと、コツンという音がした。
「あ、そうか……寝落ちしたのか」
俺はどうやら昨日の夜にVRゲームで遊んでそのまま寝落ちしたらしい。あまり身体によくはないので普段は気をつけてはいるのだが、肉体と精神が疲労を訴えていることからだろう。やってしまったと頭を抱えた。
ここ最近何か疲れるようなことあったっけ?思い返してみるがここ最近の記憶がない。
「あれ、なんだっけ。昨日は……やべ、何したか全く思い出せない」
ま、いっか、で終わらせることが出来る人間だったならどんなに楽だろうか。俺の行動理念は納得いくまで突き詰める。それは殆どの科学者や研究者たちが持ち合わせているのだろう。
そそくさと仮想の学校に行く支度を(現実側でも操作可能)済ませて二階にある部屋から食卓のある一階へと向かった。
「おはよう、母さん」
「おはよう流星。どうしたの?いつもより三十分も早いじゃない」
セツナというのは俺のゲームの中の名前であり、リアルの方は梶原流星という別の名がある。って誰に言ってるんだろうな俺は。
「まぁね。そんなことより俺が昨日何かしてたか知らない?」
それを聞いた母親は朝食の準備をしているのを辞めて振り返り、変なものでも見るような目つきをした。
「はいはい、そういう年頃なのよね。母さんにはよく分からないけど、父さんもそういう時期があったらしいから、そういう悩みの相談は父さんにしなさい。えっと……中二病だったかしら?」
「ちがあぁう!」
「おお」
「いや、おお、じゃなくて!ほんとに記憶がなくて困ってるんだよ」
「あら、ごめんなさい。まぁ、あんたのことはよく分からないけど、病院に連れて行こうか?」
どうやらウチの母親は息子のことをまるで信じていないらしい。母親としてどうなんだとツッコミたいのもやまやまだが、今はこの懸念事項が優先なのでよしておこう。
「いや、学校に行って友達から聞くからいいや」
「そう?なら歳の近い子ばかりで安心ね」
「だから違うって!もう」
「さ、家事が忙しいな〜」
そう言って母は朝食を提供するなり、洗濯機のある洗面台の方へ去っていった。
「やれやれ」