エミという名の少女
「どうしたんですか?グレン隊長。」
先程アレクから耳打ちされた時と同じような蒼白な顔でその人影を見ていた。
「エミ・・・・なのか?」
「エミ?そんな奴いたか?」
アイリスがそう言うと他の二人は首を振った。
「そうだよ、お兄ちゃん。」
「「お兄ちゃん!?」」
ビルに寄りかかる形で影になっていたその人物が一歩踏み出すと、その姿は明るみに出てより鮮明に見えるようになった。
驚いたことに、その人物は恐らく小学生の低学年程度、腰の背には短剣を携えていた。
こんな小さな子がこんな偏屈な場所にいて、その身に合わぬ《武器》と言うものを持っているその異様さに驚いたのだ。
「なんで・・・・お前・・・・。」
彼女を呼ぶグレンの喉は乾ききっていて、しゃがれたガラガラの声が響くばかりだった。
「エミね、お兄ちゃんが居なくて寂しかったよ。」
「そんなはずない。お前は確かにあの時死んだはずだ。」
彼女が死んだ?どういう意味だ?
「うん。あのね、あの時お兄ちゃんがどこかへ行ってしまったあと、知らない男の人に助けて貰ったの。この世界には死んだ人間を生き返らせることができる装置があるんだって言ってた。」
「嘘だ・・・・・そんなことあるわけない。これは幻覚だ。誰だ!!こんな趣味の悪いことをする奴は!!」
左手で額を抑え、右は抜剣した片手剣を素人のようにブンブンと振り回している。
「お兄ちゃん!エミは・・・・エミはここにいるよ!ほんとにいるよ!!!」
「うるさい!!」
混乱したグレンはエミに向かって切りかかっていく。
恐らく先程のモンスターとの戦闘の件もあり、アドレナリンが分泌されていて冷静な判断が出来ないのだろう。
「た、隊長!!」
アイリスの呼ぶ声すら耳に届かず、グレンのエモノはエミの顔面を目掛けて振り抜かれる。
はずだった。
ドスっ・・・・・。
「グフッ・・・・・カッ・・・・エミ・・・・・?」
「エミがそんなに信じられないの?お兄ちゃん。」
エミになだれ込む形で倒れていくグレン。
ドサリという音と共に地面に伏すと、彼の周りには赤黒い液体が湖のように広がっていく。
そしてエミの手には血塗られたダガーが握られていた。
「隊長!!」
クレアが怒号と共に突っ込んでいく。
中距離攻撃を得意とする二丁拳銃使いのクレアは己のエモノを抜くや否や、目にも止まらぬ速さで連射した。
だが、異様なものを俺は見てしまった。
エミはそのあどけない容姿からは想像出来ないような機敏な動きでダガーを扱って銃弾を全て弾いた。
「うそ・・・。」
クレアの顎が外れて戻らないようで、それを隙と見たエミがダガーを構えて物凄い勢いで突進した。
その刀身が今度はクレアを貫かんとするその瞬間だった。
ガキイイイイイィイイイィイイイン!!!
「!?!?」
エミが目を見開いたその先には全身を赤く覆った人物が、その剣先でエミのダガーを叩き落としていた。
「あ、アレク・・・・。」
「テメェも基地に戻りてぇか?クレア。」
俺の時と同じだ。
彼は本当に速くて強い。そしてものすごくおいしいところを持っていく。
そんな印象を受けた。
エミはダガーを拾うことなくバク転して退いていく。
「すみません。油断しました。」
「その油断が命取りだっていつも言ってんだろうが馬鹿野郎!!」
「はい。」
アイリスとの口喧嘩にも動じないクレアが萎れている。
「油断してるとこうなっちまうんだよ。何寝てんだバーロー!!」
アレクは側で寝ているグレンの腹を蹴っ飛ばした。
ええええええええええ!!!?
怪我人なんですけどおおおおおお!!!
「ゴフッ!!!」
咳き込みながらも彼は剣を支えにしてよろよろと立ち上がった。
「もっと怪我人を・・・・労われ!」
「ケッ、死んだふりしてるテメェが悪ぃ。」
そこでアレクの背中のあたりがモゴモゴと動いてその装備の首のあたりから何かがぴょこりと出てきた。
「も、もう!アレクおじさん、酷いよ!」
「誰がおじさんだボケェ!!」
「?????」
「アレクさん、今のは・・・・。」
全員の頭にはてなマークが浮かんでいるように思えたので代表して俺が質問した。
アレクの後ろから顔出した何かが彼の背中から飛び降りる。
「おいグレン。テメェの妹はここにいる。そいつは偽物だ。」
「そう!そいつは偽物だ!!」
アレクが指差すのを真似て彼が連れてきた小さな女の子もエミを指差した。
というかエミとその女の子の顔は全く同じもので、恐らくアレクが連れてきた方が本物なのだろう。