俺が守る
「お、来たようだな」
空中に俺の姿を見つけたグレンは、整備した片手剣を納刀するところだった。ホバリングして着陸すると彼は俺の羽を見て眉を寄せた。
「ジャヴァウォックウイングか。そんなレアアイテムよく持ってたな。確か確率小数点の世界ってことで誰も持ってなかったと思っていたが」
「それが運良く手に入りましてね」
かつての記憶を思い出してやや苦笑いする。
「そしてそのレックスデストラクション も」
「これはとある条件を満たせば確率四%に上がるので、そんなえげつなくはないと思いますけどね」
「当時ニュースになったあれだろ?大人数レイドボスのゲーム内最強モンスターをソロ攻略したら確率が四%になるっていう」
「はい。俺もポーション切れでかなりギリギリでしたけどね」
「ま、そういうことなら腕は期待しても良さそうだな」
「ゲームとここでは勝手が違いますよ」
この世界で何度か自分の中に芽生えた『怖い』『死にたくない』といった感情を思い出して拳を握った。
「確かに・・・な」
グレンも心当たりがあるのか空を仰ぎ見ていた。
俺はユニコーンと戦ったユーリのことを思い出し、血まみれになる自分の姿を想像して体が動かなくなった。
ログアウト不能、仮想と現実の体が一体化した俺たちが戦うということはそういうことなのだ。再び拳がわなわなと震えだすのを強く握るとこで、皆から、自分から必死に隠すのだった。
「でももう大丈夫です。俺が皆を守れるくらい強くなってみせます」
「あーん?誰もテメェに守ってもらうなんつってねぇだろ。なに勘違いしてやがんだ。マセガキが」
ま、マセガキって・・・
「俺たちは守ってもらうために戦ってるんじゃねぇ。むしろ逆だ。この世界を、この世界にある秩序を守るために戦ってるんだ」
顔や言動に似合わないアレクから出てきた『秩序』を守るという言葉は俺の中にずしんと入り込んできた。彼も俺と同じかそれ以上にこの世界を愛しているのだ。
「ったく君ぃ、あたしたちを守るなんて数百年早いよ!」
アイリスが俺の背中を叩いて朗らかに笑った。
「そうです。私達はそれぞれ君より強い存在である、ということをもっとしっかりと認識すべきです」
とクレアが目を逸らしながら言う。
「そうですね・・・俺はまだここに来て一日も経っていない新入りでした。先輩たちのことをもっと頼らせて頂きます」
深くお辞儀するとグレンが肩を掴んだ。
「改めて入隊おめでとう、セツナ。グレン隊へようこそ。歓迎するよ」
俺は伸ばされた手を取り、その温もりを感じた。彼はこの世界で生きている。俺はこの世界で生きている。より一層深くそう感じた。