ユーリ
「三キロメートル地点・・・あそこか」
ほぼ正確にその地点に降り立った。先程ユーリが通信で言っていたように複数のモンスターがその場所に倒れていたから簡単に分かった。荒々しく大地が切り裂かれたような戦闘の痕が残っている。
複数というか十体いるんだが、どう戦ったらたった数分でこんなに倒せるのか。彼女のその強さに強く興味を惹かれた。
だが、その当人がこの場にいないのはどういうことだろうか。
そういえば、もし仮に俺たちこの世界からログアウトできない人間が死んだ場合、俺たちの死体はこの世界に残るのだろうか?
それとも死は特別で仮想のゲームのようにポリゴンの欠片となって爆散するのだろうか。その場合死体はこの場に残らずに消えてしまう。もしかしたらユーリは・・・
そんなことは決してないはずだと信じたい。彼女は強い、だがあのユニコーンの時のようなこともある。あの時何故翼を召喚しなかったのか、それとも出来なかったのかもしれないが彼女はあのユニコーンには負けた。それは俺の頭の中に事実として存在している。
よって俺は彼女の生存を心から信じることが出来ないでいた。
そう沈みかけていた時だった。足下に違和感を感じたのは。なんだ?地震か?
・・・まさか!
「せあっ!」
自分の持つ反応速度の限界まで振り絞り、出来る限り高くジャンプした。そしてそのまま翼でホバリング維持しながらさらに高度を上げていたその最中。
ゴオオオオオオオオオオオ
ドガアアアアアアアアアアアアア
唸る地面がひび割れてその下から土竜型の電脳獣が姿を現した。鼻あたりにドリルを携え、怒号をあげる大きく開かれた赤黒い口には剥き出しの牙が数多く突き出している。そして回転するドリルのその先端あたりを凝視していると、双剣でドリルの先端を器用に押さえて火花を散らすユーリの姿があった。
ガキィイイイイイイイン
地上に出るとほぼ同時にそれを弾いて、若干ドリルの回転によって乱されながらも滞空姿勢を取ることに成功して、俺のやや下あたりでホバリングした。
「ユーリ!」
「せ、セツナ!無事!?」
「なんとか!そっちは平気か?」
「うん。ちょーっと危なかったけどね」
「なら手伝おうか?」
「それはいいかな」
即答だった。ユニコーンの時は見る暇も余裕も無かったのだが、彼女の目は輝いていた。まるでこの状況を楽しんでいるとでもいうかのように。
「大丈夫、見てて」
そう言うや否や、一瞬にしてその姿を眩ませた。
ブショアッッッ
物凄く切れ味の良い刀で大きな物を削いだ、そんな音が響いた。
ユーリの姿がその断面の初まり部分に現れたと同時に、土竜型モンスターのドリル部分が根っこから切り落とされた。そしてそこから奴の血が物凄い勢いで溢れ出ている。
『片手剣スキル:伸張する剣・極』
「はい、おしまい♪」
俺を見上げてニッコリと笑う彼女が約二十歳も上というのは信じ難い。そんなあどけない純粋な笑顔だった。
俺が苦笑いを返すのが正しい反応なのか迷っていた絶妙なタイミングで、耳元の通信機から声がした。
『こちらグレン。セツナ、聞こえてるか?』
「こちらセツナ。戦闘を終了しユーリの戦闘支援のため彼女と合流しました。オーバー」
『そうか、いい判断だな。ユーリは無事か?』
「はい。力が有り余ってるように見えます」
『そ、そうか。俺、アイリス、クレア、アレクは持ち場の戦闘を終え、今一箇所に集まっている。お前も準備を終えたらすぐに東第五ブロック、ポイントB2731地点に来てくれ』
「分かりました」
プンッという消滅音がして通信が遮断された。
「ユーリ!隊長が集合だってさ」
「了解」
翼を広げて飛び立ち、獣の爪や斬撃で荒れた戦闘痕を一度見下げてから目的地へと急ぐのだった。
彼女の存在に不安定さを覚えた戦闘でもあった。