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電脳獣被害者が透明人間になる世界で俺と彼女は引き裂かれ続ける(XXC  作者: 京夜騎士団長
第一章 始まりは2年前から
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DIEの由来

DIEディーアイイーって名前、不吉ですよね。作った人のセンスを疑うぞ」

無理矢理に重くなった空気を換気するように、あからさまに話題を逸らす。

「あはは。まぁ、死を意味するからねぇ。そうそう、まだその正式名称も教えてなかったよね」

「そ、そうですね」

この世界を侵食しようとする何者かに対する怒りも冷め止まぬままだが、辛うじて冷静に応じることができた。

「【Diversion Incarnate Eye】 流用し、具現化する目という意味らしい」

「・・・なるほどな。そこで【世界の脈の流れ】か。世界の脈の流れから情報を流用して部分的に読み取り具現化する・・・なるほどな」

製作者の着目点に感心しつつ、それを形として成し得た彼または彼女の人物像に関心を抱いた。これも研究者としての性なのだろう。

「DIEにはもう一つ必要な物があるんだけど何か分かる?」

「もう一つ?」

俺が首をひねると彼女はこほんと一つ咳払いをして続けた。

「うん!じゃあここで私と一緒に消えたアパラタスの話をしようか。私のヘッドギア【ダイブアパラタス】は一体どこへ消えたでしょーか?」

俺の目の前に突きつけたDIEを持つ手とは逆の掌を突き付けて、まるで子供に出すクイズのように問う彼女。

「全く見当がつかないな。誰かが持ち出したワケでもないだろうし・・・」

俺が答えを出しあぐねて考え込んでいると彼女が咳払いをしたので目線を戻す。彼女は自らの頭を指していた。

頭?どういうこと?痛いの?それともあんぽんたんなの?

「ここ」

「えっと・・・つまりは・・・脳?」

頭にあてた指をくるくる回しながら語り始める。

「モンスターを視認し、この世界で肉体年齢を凍結された時、アバターの脳ともいえるこのアパラタスごと私の身体はこの世界に引きずり込まれたの。どういうロジックで現実の体とヘッドギアが仮想世界に引きずりこまれて消えていくのかは未だに分かってないんだけどね」

それでね、と続ける。

「DIEはその脳ともいえる私のアパラタスに保存されてあるゲームデータを読み取って、それと私の持つアイテムのイメージと重ねてこの世界に具現化する機械なの。だから私達みたいに脳とヘッドギアが一体化した人間じゃないとDIEは起動すらしないの」

「そう・・・なんですか」

俺の煮え切らない返事に何を感じたのかは分からないが、彼女は澄ました顔で前を向いてまた廊下を歩き始めた。

彼女に続いてポツポツと歩きながら俺は再び考え込んでいた。

話を聞けば聞くほどDIEという機械に非常に興味をひかれる。だが、VR関連に他者よりは精通していると自負のある俺が全く聞いたことのないこの胡散臭い技術。興味よりも不安が重くのしかかり、いまいちモチベーションが上がらない。まぁ考えていてもしょうがない。聞くか。

「あの・・・DIEを作った人って誰なんですか?」

現実と同じロジックで存在する現実的仮想世界を根底から覆すような機械を開発したというのなら、俺が知らないような無名な人間なわけがない。何かしらその功績をこの世に残しているに違いない。そう考えての問いだった。

だが返ってきた言葉は意外なものだった。前を歩いていた彼女は急に止まったかと思うと身を翻し、低い位置からの上目遣いで言う。

「えっと・・・お願いがあるんだけど、このあと私たちのアジトに来ない?そこで紹介出来ると思うから」

「アジト?私たち?えっと・・・お前・・・じゃなくて・・・あなた・・・でもなくて・・・」

そういえば名前を聞くのを忘れてた!しまつたしまつた・・・。

今更になって聞くのももどかしく、コミュ障が発動して何かいい呼び方はないかとゴニョゴニョと独り言を呟きながら模索していたら彼女はクスッと笑う。

「ユーリ。私の名前はユーリっていうの」

ユーリか。いい名前だな。

最もそれは仮想世界におけるアバターネームだろうから自分で名付けたのだろうし、褒め言葉になるかはどうかは分からない。

その上俺は女の子にそういうことをサラリと言えるほど、対人コミュニケーションスキルが高いわけでもなかったのでこれは口には出すわけにはいかなかった。

「あー、オッケー。ユーリさんですね。俺はセツナ。今更だけどよろしくお願いします」

「アバターネームだしユーリでいいよ。それに仮想世界じゃお互い初見でもタメでしょ?」

タメというのはタメ口のことで、それは仲の良い友人など相手を対等の立場としてみて使う、敬語を使わない口語表現のことである。ちなみにネットでも初見でタメ口で喋りかけると忌み嫌われる場合が多々ある。

「いや、それはゲームの方の話であってこちらでは先生や先輩なんかもいるんですから普通は敬語ですよ。つってもそれが皆身に定着して誰もゲームですら初見じゃ敬語ですけどね」

「え!?そうなの!?」

どうやら本気で驚いているらしい。ジェネレーションギャップというやつなのだろうか。二十年程度の昔はそうだったとかも聞いたことないけどな。

「ユーリの時代の文化がどうだったかは分からないけど、タメでいいって言うんならそうさせて貰うよ。あ、俺の名前はセツナ。よろしくね」

「うん!是非そうして!私もそうするから。よろしくねセツナ!」

右の親指をビシッと突き立てて特大の笑顔を向けてくる彼女は、普段あまり人と関わることを得意としない俺にとってとても眩しく思えた。

それはそれとして・・・なかなかに複雑だ。

周りから見ると俺の方が歳上だから俺がタメで喋るのは普通に見えるだろうが、こんな幼女体型の少女・・・にタメ口を使われているところを見られるのは一人の男子として少しばかり恥ずかしい。

えもいわれぬ感情に顔をしかめ身をよじらせていると、いつのまにか彼女の顔が目の前にあった。

「嫌だった・・・かな?」

「っ・・・!」

潤んで光る瞳が俺の目を覗き込む。

やばい。これは年齢がどうとか関係なく惚れてしまう。いや、まぁ見た目は中学生なんだけどさ。それでも一応かなり歳上だぞ。なんだかなぁ。全くなんだかなぁって感じなんだよ。分かるか?この気持ち。

心臓をバクバクさせながらなんとか相手の視線から逃れることに成功する。そのまま目線を逸らすことでようやく言葉に出来る。

「べ、別に嫌じゃない・・・よ」

危うく「です」と言いかけて飲み込んただ。

「良かったぁ。私敬語って苦手でいつも上官に怒られるんだよね!」

「組織体型がしっかりした場所なんだな。ってか上官って、そんな軍みたいなところがあるのか?」

思いがけず詰め寄る形になってしまい、逆にユーリは一歩後ずさった。怖がらせてしまったかもしれない。

「あー・・・すまない。どうやらユーリが俺にくれる情報は俺の知らないことばかりで興味があってさ」

ふぅ、と胸を撫で下ろした少女が、急に目つきを変えて背筋を伸ばし、左手は体に並行、右手は指先を揃えて斜め45度で額にあてる。

いわゆる敬礼というやつだ。

「Virtual World Defense Force 仮想世界防衛軍グレン隊所属ユーリ特務中尉であります!・・・なーんてね」

ビシッとドヤ顔でキメた彼女は姿勢と表情を崩して笑う。

「成り行き上所属しているし、軍人といえば軍人なんだけど、こういうかたっ苦しいのはウチの皆は苦手でこういう挨拶なんて普通しないよ」

「は、はぁ・・・そうなんだ」

「あー、その顔は私が軍人だって信じてないなぁ?見た目で判断すると痛い目に遭うんだよ」

「い、いえ!決してそんなことはない・・・ですけど」

詰め寄る彼女に今度は俺が後退りすると、落ち着いて引くどころかもう一歩詰め寄って俺の瞳を覗き込んで言う。

「敬語に戻ってるよ」

と。

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