「ディストラクション 壊滅」のスピンオフストーリー 『こんにちは、古木恵美子です・・・』 NO 8
暗殺者はなりふり構わず恵美子を襲い始めました。
しかも、恵美子の叔父の古木一鬼主査まで拉致をしてきました。その理由がなんと暗殺者の組織の未来に恵美子が脅かす存在になっていたとか、それが本当なのかどうなのか、まさかそんなことでいちいち未来から命を狙いにこられてはたまらないですよね、けれど拉致されてしまった叔父の古木一鬼主査を恵美子は取り返すことができるのでしょうか?
第二章 不気味な暗殺組織
7 拉 致
恵美子は高速自動車道の追い越し車線を走り、三台の車を追い抜いたときでした。
突然、後ろについていた黒塗りのアウディがスピードを上げて迫ってきた。
恵美子はサイドミラーでその車を確認をすると、直ぐに、走行車線に入り込み、やり過ごそうとしました。
しかし、走行車線を走る恵美子のバイクにスピードを合わせて、追い越し車線をピタッと離れずにアウディは走行していた。
そのアウディの後ろのウインドが開き、乗っている人物の顔が見えました。
その顔を見て恵美子は驚いた。
さっき、大学の構内で恵美子が倒した、黒い背広の男が、顔も無傷で笑みを浮かべて恵美子を見ていた。
そして、いきなり、その男が恵美子に向かって、両手を組んだ手の平を向けてきたのです。
それを見た恵美子はまたあの火の玉を撃って来るんだと思った、慌ててバイクのスピードを上げて、前を走る車の左側の側道がわからその一般車両を追い抜いて、走り抜けていった。
サイドミラーに燃え盛る火球の炎が向かって来るのが見えていた。しかし、恵美子が側道がわから追い抜いて行った一般車両に火球は激突していき、その車は火を吹き上げて爆発を起こした。
「えっ、うそ」一般の人を巻き込むなんて、恵美子は唇をかみ締めて、全速で追い越し車線に飛び出すとアクセルを全快に加速して振りきって逃げようと、突っ走りました。
アウディに乗る男が、苦笑いをして「チェッ、外れたか」と、顔をゆがめていた。
アウディもスピードを上げて、恵美子のバイクを追ってきた。
V6エンジン、3.2リットル、265馬力では、あっ、と言う間に恵美子は追いつかれてしまいました。
恵美子はサイドミラーでアウディの接近してくる姿を見ていた。
このままでは体当たりされてしまう、間違いなく殺されるは、直ぐに、走行車線に逃げ込みました、側道がわから何台も恵美子のバイクは一般車両を追い抜いて行きました。
アウディは恵美子のバイクにスピードを合わせて、追い越し車線から同じように一般車両を追い抜いていった。
そのまま、恵美子は何台も車を追い抜いて猛スピードで逃げていった。
アウディの男は痺れを切らせて、またもや、火球を撃ってきた、走行する一般車両の間を縫って火球が恵美子のバイクを追って飛んできた。
サイドミラーで火球が向かって来るのが見えていた。恵美子は慌ててバイクのスピードを負荷して加速した、火球は恵美子の背中を追って向かって来た。恵美子は走行車線の側壁側を加速して逃げ切った。火球は高速道路の側壁に激突して炎が広範囲に飛び散り爆発をした。
アウディの男は「チェッ」と舌打ちするとすぐにまた火球を打ってきた。
又しても、高速道路を走る一般車両の間を縫って、激走する恵美子のバイクに向かって右側面から火球が真っ直ぐに近づいて来ていた。
恵美子は慌ててブレーキを踏んでバイクを減速させた、すると火球が恵美子の目の前を燃え盛る炎の尾を引いて走っていった、恵美子の左側の側壁に火球はまたもや激突していった。
アウディの男はこれで決まりだぜと、続けざまに火球を撃ち込んできた。
恵美子は今度こそ逃げ切れない、もうだめだと思った。
その時でした減速した恵美子のバイクを追い越した一般車両が目の前で火球に激突して一瞬にして炎が吹き上がった、そして爆発して火達磨になって走っていったのでした。
恵美子は目を見開いて、怒りが込み上げてきた。
無関係の人まで巻き込んで「もうやめて」
恵美子のバイクはいきなり追い越し車線に飛び出すとアウディの後ろに回りこみ、アクセルを負荷して、スピードを上げるとアウディにピタッとついて走っていった。
恵美子は一気にアクセルを負荷して加速をすると、前のタイヤを浮かせた、アクセル全快でアウディの車体の上に乗り上げていった、そしてボンネットの上に乗ると後ろのタイヤを持ち上げて、一気にフロントガラスに叩きつけた。
アウディのフロントガラスは一瞬にひびが全面に走り何も見えなくなってしまった。
恵美子のバイクは路面に跳ね降りると、一気に突っ走っていった。
アウディはそのまま、路肩の側壁に激突して行ってしまった。
恵美子のバイクのサイドミラーにアウディが爆発する状景が映っていた。
恵美子は首都高速六号線を北に向って走っていった。
「早く行かなければ」
恵美子は前方を走る黒塗りのBMWを追い越しました。
すると、そのBMWが恵美子のバイクにピタッと、後ろについて、同じ速度で追って来たのでした。
恵美子は嫌な予感がした。
また、走行車線に入ると様子を伺った。
そのBMWは恵美子の横にピタッと付くと同じスピードで追い越し車線をそのまま走行していった。
すると、BMWのセダンの後方座席のウインドが開いた。
恵美子は気になり、チラッと覗いて見た、するとなんと驚いて目を見開いてしまった。
「なんで?」
そこに乗っていたのは、先ほどまでアウディに乗っていたあの黒い背広を着た同じ顔をした男でした。
恵美子は一気にバイクのアクセルを負荷すると加速して、何台も車を追い抜いて高速道路を突っ走って逃げた。
すると、BMWも猛スピードで追いかけて来た。
恵美子が逃げても、逃げてもBMWは追いかけて来た。
あの男の人は一体どうなっているの、しつこすぎるは。
あわや、BMWは恵美子のバイクに衝突寸前まで追いかけてきた。
恵美子はバイクを蛇行させて走行車線に逃げ込んでいった。
BMWもしつこく追いかけてきて、追い越し車線から走行車線に突っ込んで行き恵美子のバイクを壁に激突させようと、急に幅寄せをしてきたのでした。
恵美子はアクセルを負荷すると、激走してBMWの前方に飛び出した。
そのまま、前を走っていた車を何台も追い抜いていった。
BMWも追い越し車線から、走行車線に入ったり出たりと、それを何度も繰り返しては恵美子のバイクに追いついて来ていた。
そしてまた、BMWは恵美子のバイクを壁に追い詰めていくと、BMWのウインドを開けて火球を撃ち込んできた。燃え盛る火球は恵美子に激走していった。
恵美子はブレーキを掛けて後方に下がって際どい所で火球を交わした。
火球は側壁を爆発させていった。
アクセルを負荷した恵美子のバイクはBMWの左側に回りこむと、運転手側のウインドウにバイクごと体当たりをしていった。
そして、ステップを踏みしめると身体を立ち上がらせてブーツを履いた右足でBMWの運転手側のドアのウインドを力任せに蹴り込んで窓ガラスをぶち壊し、そのまま運転していた男の顔めがけて蹴り込んだ、運転をしていた男は無表情で恵美子の右足をよけるため、とっさにハンドルを右に切ってしまった、しかしそこには側壁が連なっていた、恵美子の乗るバイクのサイドミラーに側壁に突っ込んで行くBMWが映っていた。
恵美子は思っていた。あのBMWは私の走る前方から現れてきた、乗っていたのは、またあの黒い背広の男だったは、でもあの男は大学の構内で私が倒したはず、それが、次にアウディに乗って追いかけてきた、そのアウディも壁に激突したはず、だけど何故、私の走る前方から同じ男が乗ったBMWが現れたのかしら、どうなっているの?
私は何処からか見張られているのかしら、そう思った。
今は、そのことよりも、早く叔父の所に行かなければ、恵美子はアクセルを負荷して、高速道路をまっしぐらに走っていきました。
警視庁では二人もの外務大臣政務官を本庁前で殺害されながら、その犯人を射殺してしまい、犯罪の解明もままならないうちに、残念なことに犯人は死亡のまま書類送検されてしまった。
これで、この件は終わったかと思われた。
しかし、一年近くも過ぎた頃に環境大臣政務官がまたもや殺害された。外務大臣政務官と同じ手口で殺害されたのでした、おまけに、現場に残された指紋が射殺された犯人のものと同じ物だったとは、何度、鑑定をしなおしても、やはり同じ犯人のものと断定するものの、死人の捜索もありえなかった。
おそらく捜査のかく乱のために、偽造された指紋なのではと考える捜査官もいました。警視庁の科学捜査研究所が現場を細かく調べたが、何せ証拠が少なすぎて、指紋以外、何一つ一連の事件に繋がるものは他には出てこなかった。
そこで、科学警察研究所にプロファイリングを依頼してきたのでした。
とにかく、一連の事件の解明のためどうするかこれらの事件の証拠があまり上がらないため捜査本部を立ち上げるか迷っていた。とにかく特別チームを作ることにした。
「課長、特別チームはいいですけれど、死んでしまった犯人を捜すなんてどう考えても無理です。相手は幽霊ですよ、それがまた生き返って、新たな殺人を行ったなんて、いくらなんでもそんなことはありえないでしょう」
「小田切、そこには必ずトリックがあるはずだ。それを解明するのが、おまえの仕事だろう、こんな所で行き詰っているようじゃあ、犯人にはとうていたどり着きそうに無いな、そんな事だと思って、科警研にプロファイリングを、お願いをしておいたぞ、今日は科警研に行って、一応、確認してこいや」
「はい、分りました。」
そして、小田切警部は科学警察研究所に向かいました。
科警研では古木一鬼主査は爆発研究室で爆発実験を行っていた。
そこは六十センチの厚さのコンクリートの防御壁で囲まれた放射線も電波も通さない鉛の入った壁で覆われていました。
古木主査は幾つかの種類の爆薬を確認していた。
「ねーえ、政さん、テロでよく使われるとなると、やはりペンスリットですかね」
政さんとは、科警研で三十年、爆薬の研究では一目をおかれていました、森政二郎のことでした。
「主査、ペンスリットは熱に対して鈍感なぶん、あつかい易いし、更に自然分解が進み難いこともあつかい易い理由でしょうね、C―4のようなプラスチック爆弾にも使われていますが、しかし、国際的にはテロが使用しているのはPENTでしょう、かつて、日本のあの教団もサリンと共に製造をしていましたよね」と言いながら政さんは別の薬剤を取り出した。
「あー、そうだったな、ところでそれも威力実験をするのですか」古木主査はそれに目をやった。
「あー、これですか、オクタニトロキュバン、これはテロも扱えないと思いますね、なにせ製造する器材も高価だし、四十もの工程を行うことから、理論上では、爆発物としては最大の威力があるとされていますから、とにかく先ずは、耳掻き一杯でどのくらいの威力があるのかやってみましょうか」政さんは準備を始めた。
「政さん、いくら威力があると言っても、耳掻き一杯では、威力確認になりますかね、難しくはないですか?」古木主査はまさかと思いました。
政さんは笑いながら「では、やってみましょうか」
政さんは耳掻き一杯のオクタニトロキュバンをコンクリートに分厚い鉄板で囲まれた実験台にセットしました。
その部屋から、政さんは出てくると、防弾ガラスの前に立って「それでは主査、おこないます。耳宛をしましょう」と政さんは耳宛をしました。
古木主査は必要なのかと思いながらも耳宛をした。
政さんは手元の起爆スイッチを無造作に押した。
「ドーン」
実験室を揺るがすほどの威力がありました。
「おう、信じられんな、本当に耳掻き一杯ですか?」
古木主査はその威力の凄さに驚いた、そしてその脅威について、今は扱い難いためめったに使用されてはいないが、これだけの威力はテロリストにしてみれば魅力だろう、いつかは彼らもこれを手にするようになるだろう、それは今以上の脅威になるだろう、日本もいつか、これを使ったテロに狙われないともかぎらない、我々はそれを許してはならない、こんな物を使われだしたら被害が何処まで広がるかも解らないだろう。
古木主査は自室に戻っていった。
ドアを開け、部屋に入り、事務机に向かいました。
そして、持っていた、書類を机の上に置いたときだった、部屋の中に人の気配を感じた。
それも、嫌な予感を感じた。
振り向きざまに、「誰だ?」と叫んだ。
ソファーに身をしずめている黒い背広の男が古木主査を睨めつけていた。
古木主査と目が合うと、その男は笑みを浮かべて立ち上がりました。
「静かにしていただきましょうか、そうでないと、この建物を爆破する事になります。オクタニトロキュバンで」と言うと右手に持つリモコンらしきものを古木主査に見せた。
オクタニトロキュバンだと、既にこいつらはあの高性能爆薬を持っているのか、それは疑問だ?
しかし、古木主査は確かにリモコンのような物を確認した。
それが、本物かどうかは分らないが、すると、黒い背広の男が笑みを浮かべて「確かめてみますか、どこか、一つ建物を吹き飛ばしましょうか」と、指を赤いボタンに掛けました。
これが本物だとしたら、大惨事になるだろう、と古木主査は思った。
「そうです、悲惨なことになりますね」
変だ、この男、私の考えが読めるのか?と古木主査は思った。
何のためにこんなまねをするんだ?古木主査は考えた。
すると、「私の目的ですか」笑みを浮かべて、その男が、見透かすように言いました。
「・・・・やはり」読まれていると、古木主査は確信した。
「古木主査、私に同行していただきましょうか」
「何処えだ。」
「それは知る必要はありません、言う通りにしていただきましょうか、でなければ悲惨なことになりますが、どういたしますか」
「分った。但し、私を拉致する訳ぐらいは教えていただこう、そのくらいの権利はあるだろう」古木主査はため息をついた。
犯人は頷いて「一緒に来ていただければ分る、私達の考えを理解していただき、協力をしていただくことになります。科警研は未来の我々の目的にとても障害となっているため、我々の傘下におくことにしました。但し、あなたが所長に就任したときですが」
「私が所長に、ありえんな」古木主査は苦笑いをした。
「まあ、十年以内には分ります。事実だと言う事が、これくらいでいいだろう」その男は厳しい顔をした。
「いや、もう一つだ、あなたの格好を見ると、外務大臣政務官、環境大臣政務官を殺害した組織の者だろう、私はこの類の事件を解明することを生業としている、解っている、何故殺害をしたのだ、教えてもらったら、素直にあんたらの言う事を聞こう、どうなんだ。」確かにその男も黒い背広を着ていた。一連の犯行の犯人と同じ格好でした。
「うー、いいだろう、どうせその記憶も・・・・彼らのことか、理由はあなたと同じですよ」
「どういうことだ?」古木主査は首を傾げた。
その、黒い背広の男は少しいらつき「だから、将来、我々の目的を追行する上でじゃまな存在になったからだ、国連の政務官だからといって権力の横暴で我々を脅かすとは、自業自得だろう」
「国連?」この男は何の話をしているのかと思った、とにかく、古木主査にはよく理解が出来なかった。
「もういいだろう、さあ、来て頂きましょう」男はせかせるように強い口調で言ってきた。
「分った」古木主査は仕方なく歩き出した。
その時、古木主査は手に持っていた備品を床に落としてしまった。
すると、その男は左手の人差指を上に突き上げると、左右に振って、口で「チッチッチッ」と声を出すと「それはまずいです、不自然に見えますよね、テーブルの上に置いていただきましょう」
古木主査は無言で拾い上げた。
「それでは行きましょう、私は姿を消しますが、常に、あなたの後ろについています。不審な動きをしましたら、直ぐにこのリモコンのスイッチを押します。遠いい場所の建物から、爆破をいたします。いいですね」
古木主査は頷いた。
ドアをあけ、古木主査は部屋を出た。
後ろにいた男は姿を消していた。
古木主査は、あのダイヤモンドに似た装置を使っているのだろうと思った。
廊下を歩いていった。そして、階段で一階に下りて行った。
途中、所員に何人にも会った。
一階のロビーで、受付を通るとき「ちょっと、出てくる」と受付の子に言うと、自動ドアを外に出て行きました。
古木主査は周りを見ながら歩いていった。「それで、この後はどうするんだ。」
「そのまま道なりに歩いていってもらいましょう」黒い背広の男の声だけが後ろから聞こえてきた。
言われるままに古木主査は歩いて行くと、黒塗りのセダンが止まっていた。
中に、既に二人ほど同じようなかっこうの男が乗っていた。
後ろについて歩いてきた男はダイヤモンドに似た装置のスイッチを切ったのだろう、姿を現した。
「車に乗ってもらおうか」とその男が後部座席のドアを開けた。
古木主査は起爆装置の電波はどこまで飛ぶのかと思った。とにかくこいつらを科警研から遠ざけなければと思うと車に乗るしかないと思った、運転手と助手席に座る男の顔を見た。
「えっ」その顔をとっさに、隣の男の顔と見比べてしまった、何と全員が同じ顔をしていた。
どうなっているんだ、単に三つ子なのか?
そして、古木主査は聞いてみた。「もうそろそろ教えてもらえないか、何処に行くのか」
男は首を傾げて「何処へ行くだと、我々には、話すようには指示は受けていない」
古木主査は変だと感じた。この男達の人格が感じられなかった。
そして、確かめるように質問をしてみた。「今、何時なんだ。」
無反応のようだ、と言うより、古木主査が質問をしたこと自体に反応していないように感じた。
こいつら、一体、何者なんだ、と思うと、まずいと思った。
私の思考は読まれていたはず、しかし、何の反応も示さない、今は読まれていないのか?
古木主査は隣に座る男の顔を見た。
すると、その男は反応を示したようだ。古木主査の顔を見ると「おまえが知る必要は無い」
古木主査はへんに感じた。おまえが知る必要は無い、とはどの脈絡からの言葉なのかと?
古木主査は思った。私の顔を見て何かを読み取った答えなのか、なるほど、こいつらは相手の顔の何かを見て思考を読むのか、表情なのか、目なのか、それにしてもずれた答えのように感じた。それにこいつらの動きはどうなんだ、試してみるか、いきなり古木主査は隣の男に殴りかかった。しかし、その男の動きは俊敏で古木主査の殴りかかった腕を読んでいたかのようにかわすと、古木主査の腕を掴み、難なくを制圧した。
動きはとてつもなく早いな、訓練されているようだが、暴力団には見えない、なにかかなり規律の取れた、自衛隊のような規律のある組織なのか、しかしそんな裏組織が日本に存在するのか、一体、どのような組織なんだ?
「うむー」と思った。裏の組織?そういえば恵美子の部屋を荒らしたのはこいつらか、確か清さんが、あの荒らし方は裏に何だかの組織を感じると言っていたが、確かに暴力団ではない、かなり規律のある組織のように感じると、一体こいつらの組織は何なんだ。
科警研に警視庁の小田切警部が到着した。そして、建物に入っていった。
恵美子もやっと科警研に到着をしました、バイクから飛び降りると、走って建物の中に入っていきました。
小田切が受付に「あのー」と、訪ねようとすると、隣の受付に恵美子が飛び込んできて「古木主査はおりますか」と、いきなり尋ねました。
それを聞いて、小田切警部は恵美子の方を見た。
「古木主査ですか、今しがた外出されました。」と受付の女の子は恵美子に答えると、恵美子は慌てて状況を確認していた。「古木主査は一人だったのですか」
「はい、お一人でした。」
「何処へ行ったのか、行き先は分りませんか」恵美子は早口で尋ねた。
「はい、それは、伺っていませんでしたので」
恵美子の切羽詰った表情を見て、小田切警部は恵美子に寄っていきました。
「恵美子さんですよね、どうかされましたか?」
「あっ、小田切警部」恵美子は振り返り小田切を見た。
「そんなに慌てて、どうされました。」小田切警部は恵美子の様子から何か問題が起きたのかと推測した。
「私、殺されそうになりました。」
「えー、誰にですか」小田切警部は驚いた。いったい何故?
「あの、大臣政務官達を殺害しました男です。」恵美子は襲われたときの恐怖を思い出して怖くなりました。
「何だと、あいつが・・・・、それで、よく逃げられましたね、なんともありませんでしたか」と言うものの、小田切警部は信じられなかった。どうなっているんだ、その犯人は死んだはずなのに、あっちこっちで事件を起こしやがって、いったいあいつはどうなっているんだ。
「私は大丈夫です。それより、叔父の古木主査も狙われています。もう襲われたのかもしれません」恵美子は焦った表情でした。
「古木主査がですか、それは本当ですか?」小田切警部は部下を見ると「とにかく課長に知らせてくれ、古木主査が何かの事件に巻き込まれた可能性があると、詳しい事は追って報告すると言っておいてくれ」
「分りました。」
部下は無線ですぐさま警視庁に連絡を入れた。
小田切は恵美子に「恵美子さん、とりあえず、所長の所に行きましょう、主査の所在について何か分るかもしれません」
恵美子は頷いて「はい」と、返事をしました。
二人は所長室に向かっていった。
トントン「恵美子です。上条所長はいますか」
「おう、恵美子くんか、入りたまえ」
恵美子と小田切は所長室に入っていった。
「恵美子くん、小田切警部、今受け付けの子から連絡があったが、古木主査に何かあったようですが、恵美子くんは何か思い当たることでもあるのですか」上条所長は気難しい表情をしていた。
「はい、以前叔父といきました。イベント会場で会った黒い背広の男に今日、私は殺されそうになりました。」
「なんだと」上条所長の顔色が変わった。
「それで、恵美子くんは大丈夫だったのか」上条所長は恵美子に近づいて怪我が無いか確かめるように見た。
「はい、その時に、その男が、おまえらは生かしてはおかないとか、私のほかに複数で言っていました。私にとって思い当たるとしましたら叔父しかいません、上条所長、叔父は今何処にいるのですか」
「うーん、行き先を言わずに出て行ったようだが、電話をかけてみるか」
恵美子は慌てて「だめです、いま掛けたら取り上げられてしまいます。叔父はGPSを持っていないのですか、だって、重要とされる人は、今時皆な持っていますよね」
上条は頷いた「分りました。交通科学第三研究室に行きましょう、車両や各種装置に関する研究を行っている部署です。」
そして、研究室に入っていきますと、何人もの作業員が仕事をしていました。上条所長は主任を呼びました。
「山崎主任、山崎主任はいますか」
「はい、所長なにか」
「それが、古木主査が拉致された可能性がありそうだ、すまんが、主査の所在を確認できないか」
「何ですって、なんでまた主査が」歩きながら主任が心配そうに「それで犯人からは何か言って来たのですか?」
上条所長は頷き「いや、まだ、はっきりしたわけではないが、とにかく今何処にいるのか確認してみてくれないか」
「分りました。」と言うと、山崎主任は一台のパソコンの前に座ると、キーボードをたたき出しました。
モニターに何かの数値が打ち出されました。
そして、項目欄に何かの数値を入力しますと、主任は検索をクリックしました。
すると、すぐさまモニターに地図が現れた。
その地図の路線上を点滅する青い光が移動していました。
その点滅する光のそばに数字と何かの情報が書き込まれていて、名前が、古木一鬼、科学警察研究所、主査と書かれていました。
所長はモニターを見ながら、説明を始めた。「このシステムはよほどのことが無い限り、使用は制限されています。プライバシーの侵害にもなりますし、使い方によっては、法律に触れる部分もあるからね」
「そうなのですか、それで叔父は今何処にいるのですか」恵美子は早く、叔父の居場所を知りたかった。
小田切はモニターの地図を覗きこむと「この路線は常磐道ですね、この方向だと東京に向かっていますね、所長、古木主査は東京に向かう用事でもあるのですか?」
「いや、聞いてはいませんね、警察庁や警視庁に行く事はありますが、全て私には報告があるはずです、無断ではありえないな」
「そうですか、ではやはり拉致された可能性がありますね、とにかく、検問を引いてこの車を確保しましょう」と小田切はモニターを見ていた。
「このまま進んでいくと、中央環状線に入ってしまうな、そうなると、交通量が増えて検問は難しく成るな、だとしたら、この常磐道から首都高6号線に入った八潮の料金所のここなら敷地も広いし犯人の車を確保するのはやりやすいだろう、ここに検問を張りましょう、犯人の車はここで確保します。そのように課長に連絡をします。」
すぐさま小田切警部は捜査一課の課長に連絡を入れて、古木主査が拉致をされた可能性が極めて高いことを告げると、古木主査を乗せた車は今、常磐道から中央環状線に向かっていることを伝えると、捜査一課の課長は神妙な表情で「それは間違いないのだろうな」
「はい、いま科警研で古木主査の居場所をGPSで見ています。」
ヘリで確認したうえで、検問を引いて、拉致した車を確保したい旨を小田切警部は課長に伝えた。
「分った、ヘリを出して確認させる、検問は機動隊に出動してもらう」
「分かりました。・・・・課長、それと、犯人につきましては、一連の大臣政務官殺害に関係のある連中のようです。何としても確保してそこのところをはかせましょう。課長、念のために、八潮南の料金所のところが広くなっていますよね、ここにも検問をおいたほうがいいかも知れません、でないと万が一の場合そこの出口から下に逃げられる可能性があります。下に逃げられたら多くの一般人に被害がでます、なにせやつら、火炎放射器のような武器を持っている恐れがあります。くれぐれも気を付けてください、私も直ぐに向かいます。」
小田切警部は上条所長に一礼をすると「私はもう行きます。失礼します。」と言うと、科警研を出ていった。
恵美子も「私も行きます。」と言うと、上条所長は信じられない顔をした。以前の恵美子ならそんなことは言い出す子ではなかった。
「君が行ってどうするんですか、危険なだけですよ」
「でも、叔父様の傍に行かなくては、身内ですから叔父様に何かありましたら、おば様や京一くんやみゆきちゃんに何て言っていいか、後できっと後悔します。」
恵美子の決意の硬さを感じた上条はこれ以上止めても無理だと思った。
「分った、でしたらせめてこれを持っていきなさい、何かの役に立つかも知れません」
上条はポケットから、ダイヤモンドに似た例の装置を取り出しました。
「使い方は、極めて簡単です、このボタンを押すんだ。」
上条はその装置の真ん中にあるボタンを押した。
すると、上条の姿が消えてしまった。
「上条所長、何処なのですか」
「ここだよ」上条は姿を現した。
「きっと、君を守るだろう、それと私も状況を知っておきたいので、これも持って行ってほしい」とハンドフリーのマイクセットを恵美子に渡した。
恵美子はそれを受け取ると腰のベルトに装着して、ヘッドセットを耳に付けました。
「上条所長、私も、もう行きます。状況は逐一報告します。では失礼します。」恵美子は上条所長に一礼をした。
「くれぐれも気を付けなさい」上条も頷いた。
「はい」
恵美子はバイクで科警研を出発した。
8 追 跡
恵美子の乗る、真赤なリッターバイクSV1000Sは猛スピードで常磐道を東京方面に突っ走っていった。太陽の反射でヘルメットのバイザーが輝いていた。
小田切警部達の乗るパトカーもサイレンを鳴らして、パトライトを発光させながら、東京方面に向かっていた。
恵美子は科警研を出て五分も経たないうちに、黒塗りのセダンの車に囲まれてしまった。
見ると、五台程が恵美子のバイクの前後を囲んでピタッと同じスピードで走っていた。
恵美子は思った、私はやはりどこからか監視されていたのね、それにしてもしつこいわね、そして、恵美子のバイクは走行車線から追い越し車線に飛び出して、逃げ切ろうとスピードを上げたが黒塗りのセダンは走行車線と追い越し車線を同時に恵美子のバイクにピタリと付いて走っていた。
恵美子は横をチラッと向き、黒塗りのセダンを運転している男の顔を確認した、すると、やはり大学で恵美子を襲って来た、あの男の顔でした。恵美子はあの時の恐怖が蘇ってくると、ゾッとしてしまった。そのときでした、後ろを走る黒塗りのセダンがいきなりスピードを上げて恵美子のバイクに体当たりをしてきたのでした。
恵美子は慌ててアクセルを負荷してスピードを上げると走行車線にバイクを突っ込んでいきました、追ってきた車をサイドミラーで確認をするとその車の運転手も助手席に乗っている男の顔も皆な何と同じ顔をしていました。
「何て言う連中なの、そんなにあの顔は流行っているのかしら?」
すると、追い越し車線を同じスピードで走る黒塗りのセダンが恵美子のバイクに幅寄せをしてきて側壁に追い詰めてきたのでした、後部座席の窓が開き両手を組んだ男が現れたのです。その男も同じ顔をしていた。
「なんなの、気持ちが悪いは」
いきなりその男が火球を撃ってきた。
恵美子はあわててアクセルを負荷して側道がわから前を走る一般車両を数台追い抜くとまた、追い越し車線に飛び出していった。サイドミラーの中で火球が恵美子が追い抜いた一般車両に激突して爆発をした。「そんな」恵美子はやりきれない思いを感じた。もうたくさん、関係ない人まで巻き込んで、あなた達は何も感じないの、何が理由か分からないけど、私は・・・。いままで恵美子は気が弱く人見知りが激しく他人の顔もまともに見ることもできないほど恥ずかしがりやでした。だから思ったことも言えない引っ込みじあんで・・・要するにそういう弱い性格でした。しかし悪いことには絶対許せない性格でもありました。
黒塗りのセダンのやっていることは、もう恵美子の我慢の限界を超えていた。
「許せない」その一言は今までの恵美子のすべての性格を払拭する強い意思でした。
なおも、黒塗りのセダンがぴたっと前後左右について恵美子のバイクを追ってきた。
今度は走行車線を恵美子のバイクと並行して走る黒塗りのセダンの後部から火球が打ち出された、恵美子はバイクをなおも加速して高速道路を突っ走った。後ろから火球が追いかけてきた。火球が恵美子に襲い掛かる寸前で恵美子はいきな加速をしてバイクを倒し前を走る黒塗りのセダンの右側を追い越すと中央分離帯にそのまま突っ込んで行った。火球は恵美子の頭上を追い越して恵美子の進路を妨害していた黒塗りのセダンに激突して爆発した恵美子は中央分離帯のガードの側面をバイクのタイヤが音をあげ横向きで激走していった。その横で黒塗りのセダンが爆発をして宙に浮き上がった。スピードを上げて突っ走る恵美子のバイクのサイドミラーに映る、黒塗りのセダンを運転する男の顔はそれでも無表情で感情すら伝わってきませんでした。
恵美子のバイクの左側の走行車線を走る黒塗りのセダンがぴたっと同じスピードでマークしてきた。
そしていきなり、前方に飛び出してきた黒塗りのセダンに恵美子の乗るバイクの進路をふさがれてしまった。
横を走るセダンの後部座席の窓が開き、そこに現れた男が無表情にも、恵美子に向けて躊躇無く燃え盛る火球を撃ち込んできた、火球は炎の尾を引いて恵美子に向かって走って来た。
恵美子は慌ててアクセルを負荷して加速した。しかし前方を走る黒塗りのセダンが邪魔をして恵美子は火球から逃げきれないと感じた。このままではもろに火球に吹き飛ばされてしまうは、どうすれば・・・すでに火球は恵美子の後ろに追いついた。
前輪が浮くほどアクセルを全快にスピードを上げて前を走る黒塗りのセダンを追い抜こうとした、けれど黒塗りのセダンは抜かれまいとあくまでスピードを上げ恵美子の前方をふさいで走っていた、恵美子はもう間に合わないと思った、火球が恵美子に襲い掛かってきた。
恵美子は身体をちじめ火球から遠ざこうとした、しかし火球は恵美子の頭のすぐ後ろに来ていた。アクセルを全開に負荷し前輪を浮かせ、前を走る黒塗りのセダンに乗り上げた。火球は黒塗りのセダンのリアバンパーに激突した、そしてセダンの後部を吹き飛ばし燃料タンクに引火した。一気に黒塗りのセダンは炎を吹き上げて爆発をした。恵美子はすでにバイクごと宙に飛び跳ねていた。
恵美子は路面に着地するも、そのまま猛スピードで突っ走った、すぐに別の黒塗りのセダンが追いついて恵美子のバイクを追って来た。それにしてもしつこいわね、こんな事をしていては叔父の乗る車には追いつけなくなってしまうは、恵美子は上条所長から預かった、胸に付けた、ダイヤモンドのブローチに似た装置のスイッチを素早く押した、すると、黒塗りのセダンに追いかけられていた、恵美子はバイクもろとも猛スピードで走る姿が陽炎のようにゆれ始め、高速道路上から、パッと姿は消えてしまった。
拉致された古木一鬼主査を乗せた、犯人の車を警視庁のヘリコプターは発見したもようでした、後部座席に座る古木一鬼主査を望遠レンズは捕らえて映像を警視庁に送ってきたのでした。
「本部、こちら偵察機あらわし2号機です。捜索中の車を発見いたしました。黒のセダン、ナンバーは・・・・」
しだいに検問の敷かれた、首都高入り口の八潮料金所に犯人の車が近づいていった。
直ぐに警視庁のパトカーが犯人の車の前後を挟み、機動隊が待ち構える検問所に誘導して行った。
路上に発炎筒が焚かれ、赤いパイロンが置かれて進路が確保されていた。
犯人の乗った車はやけに素直にパトカーに導かれて検問所に近づいて行った。
一般の黒い車が何台か検問を受けていました。
紺のヘルメットに紺色の闘争服を着た機動隊員、三十人程が、検問に当っていました。
古木主査を乗せた黒塗りのセダンが速度を減速して検問に近づいていった。直に検問だと言うのに、犯人達は顔色一つ変えず、まるで冷静でいた。
古木主査はいくら何でも、これだけの機動隊員が検問をする中を突破する事は無理だろうと思った。
しかし、ここで、この犯人達が逮捕されたら、黒幕にまではたどりつけなくなる、しかも、ロボットのようなこいつらが、どう見ても口を割るようにも思えなかった。
検問の列に静かにならんでいた犯人の乗る黒塗りのセダンが、いきなり赤いパイロンを蹴散らして、車列からはみ出すと、助手席と後部座席の窓を開けたかと思うと、そこに乗る男達が両手を組み車の窓越しに前に押し出した、すると燃え盛る火球を次々機動隊めがけて撃ち込んできたのでした。
炎の尾を引いた火球はいたるところに飛び散って行った。
広い料金所のあちこちで火柱が上がり、爆発を起こしていった。そのたびに、何人もの機動隊員が一気に吹き飛ばされていき、あっと言う間にほとんどの機動隊員が吹き飛ばされていた。
機動隊員達は強化プラスチックの盾で防戦をするが、何の役にも立っていなかった。
犯人達は難なくゆっくりと八潮料金所に敷かれた検問所を突破して行ってしまった。
状況は直ぐに、警視庁に報告された。しかし検問を難なく突破されてしまったことであせりと緊張が走った、そして次のランプで下に逃げられる前に犯人を八潮南の検問所では必ず犯人の確保をするように激が飛んだのでした。
「こちら八潮料金所の検問所だ、犯人に突破された。そちら南の検問所では犯人の確保を頼む、犯人は火炎放射器のようなものを使用する、注意されたし」
「何だと、そんな武器を使用しているのか、一級の警戒体制が必要だ」
警視庁はすぐさま応援にパトカーを数十台と白バイも数十台を八潮南の検問所に向かわせた。
八潮南の検問所では一気に緊張が高まっていった。
白バイに左右前後を囲まれた犯人の黒塗りのセダンは重装備をしたまるで装甲車でもあるかのように思えた。
不気味にもその黒塗りのセダンがゆっくりと検問所に近づいて行きました。
検問所は、武装された機動隊員で埋め尽くされていました。
すると、犯人の乗る黒塗りのセダンは検問所から二十メートル程離れた所で車を止めた、白バイの警官は検問所に入るように促した、すると、助手席から、黒い背広を着た大柄の男が両手を挙げて車から降りてきたのでした。
そして、その男は、白バイの警官を見ると無視をして、何かを確認をするかのように、検問所の端から端まで睨むように見渡していた。
機動隊員もゆっくりと、犯人の乗る車に近づいていきました。
機動隊としても両手を挙げた犯人に対して、拳銃の使用は許可されてはいなかった。
黒い背広を着た犯人は車の脇に立ち薄笑いを浮かべていた。
そして、歩き出して検問所に近づいていった。上げていた両手を、おもむろに胸の辺りに下げて行くと、胸の前で左右の親指と人差指どうしを合わせて、手の平を前に広げて、何かの呪文を唱え出しました。
男は笑みを浮かべながら「バカなやつらだ、トリプラーでも食らわせてやるか」と「フン」と鼻を鳴らすと、楽しむかのように胸の前で組んでいた両手を前に押し出して行った、すると燃え盛る火球が突然現れて機動隊員が群がる中に不気味な笑みを浮かべて火球を撃ち込んでいった。
火球はゴーと音を上げて炎の尾を引いて機動隊員の中に次々に撃ち込まれていった。
その男は大声で笑い出した。「ハハハハハ」
トリプラーとは、インドはバラモン教のベーダー経典の中に出てきます。
破壊の神、マハー・カーラが三都市、金で出来た都市、銀で出来た都市、鉄で出来た都市を焼き尽くしたときに使った武器だと言い伝えられていました。バラモン教の妖法の技の一つでありました。
マハー・カーラとは別名を日本ではシバ神として知られています。
火柱が上がり、爆発と共に炎が四方に飛び散った。
機動隊員は一撃で八人程が宙に舞い上がった。
男は次々にトリプラーを機動隊員の中に撃ち込んで行った。
いたるところで爆発が起きていき、そのたびに機動隊員が吹き飛ばされていった。
八潮南に敷かれた検問所は一瞬にして、戦場と化してしまった。
一面に黒煙の立ち昇る中、黒い背広の男は笑っていた。
古木一鬼もトリプラーの威力には驚いた。機動隊員が何十人も倒れている光景を目の当たりにして、むごい事をする、ひどすぎる「もういいだろう、やめさせろ」と叫んだ。
隣に座っている男も運転をしている男も無関心のように、無言で、にやにやと笑みを浮かべていた。
その表情を見て、古木一鬼はなんていうやつらだと思った。
だんだん、怒りが込み上げてきて、古木一鬼は隣の男を見るなり「一体、おまえたちは何者だ、何のためにこんな事をするんだ、えー、いいかげんにしろ、答えろ」と、怒鳴ってやった。
すると、隣にいる男がゆっくりと古木一鬼を見た「我々はおまえに、何も答える立場に無い、目的など我々には意味が無い、われわれに意味があるのは、ブラフマーへの忠誠であり、ブラフマーであるナンディー様のお言葉だけだ、我々はブラフマーの一部であり、一体だ、だから我々には躊躇も無ければ、ためらいも無い、ただ、指示にじゃまになるものは、排除するのみだ、よって、おまえの意見は我々には意味を成さない、フン」とまた、無表情になっていった。
古木一鬼は眉間にしわを寄せて、ブラフマーとは何なんだ、ナンディーという人物は何者なのかと思った、そいつが一体、日本で何をしようとしているんだ、その人物に直接聞かなくては何も分からないようだと思った。それには、ここにいる連中と一緒にあじとに行くしかないだろうと思った。
八潮南の検問のいたる所で炎が上がっていき、機動隊員があちこちに倒れ込んでいた。
黒い背広の男が攻撃を始めてまだ1分と経っていない、数十秒のことだった、既に機動隊は壊滅状態になってしまっていた。
黒い背広の犯人の一人は路上で無表情に周囲を睨みつけていた。
黒塗りのセダンはゆっくりと、路上のその犯人のそばまで動き出しました。
路上の犯人はフンと鼻を鳴らすと、車に乗り込んで、車はそのまま走り去っていってしまった。
やっと、警視庁のパトカーが次々にやって来ました。
サイレンが響き渡り、パトライトが辺りを赤く染めるほどでした。
暫くすると、恵美子も真赤なバイクに乗り、現れました。
恵美子は周りの光景を見て、ずいぶん悲惨な状態に驚きました。犯人はだいぶ火球を多用したように思えた。
恵美子は科警研の上条所長に無線マイクで連絡を入れ、状況を報告した。「上条所長、犯人の車は検問を突破していきました。検問所は悲惨な状況です、ひど過ぎるは、機動隊は壊滅状態です。叔父の乗った車はどのあたりか教えていただけませんか」
「恵美子くん、危険だと思ったらやめるんだぞ、いいね、古木主査の乗った車は高速道路をそのまま、六号線で東京方面に向かっているようです。」
「分りました。」
「ダイヤモンドに似た装置はどうですか、使えましたか」上条所長はその装置の効果を聞いてみた。
「はい、使ってみました。でも、連続で使用しますと、十五分がリミットのようですね、機能が停止しました。」
「そうですか、言うのを忘れていたが、機能が停止してもその間に勝手に充電するようです、フル充電に三十分程かかるようですね、本来なら何か充電器があるのかも知れませんが、とにかく短時間に多用は無理のようです、それより無茶はいけませんよ、相手は相当の破壊力がありそうですから、気を付けてください」上条所長は恵美子が事件に巻き込まれないか心配であった。
「はい、分りました。」恵美子は上条所長の言葉に従った。
小田切警部達も到着したようでした。
恵美子はバイクのギアをローに入れると走り出していきました。
古木主査を乗せた、犯人の車は六号線を走っていた。
恵美子はバイクのギアを次々にチェンジをしていき、アクセルを全快にしていきました。エンジンがキーンと高音を上げていた。
両国から日本橋に差し掛かると、しだいに車はつまり出して渋滞が始まりだしました。
恵美子のバイクは車の隙間を縫うようにして、前へ進んでいきました。
箱崎ジャンクションでとうとう恵美子は叔父の乗る黒塗りのセダンを見つけだしました。
直ぐに、上条所長に報告をしました。
「上条所長、叔父の乗ります、車を見つけました。これから接近します。」
「恵美子くん、慌ててはいけません、直に白バイ隊が行くはずです、白バイ隊の到着を待ちなさい」
「はい、分りました。」
恵美子はそのまま、距離を保って、犯人の車を監視していた。
「遅いは、白バイ隊の人達、早くして」
すると、後ろのほうから物凄い爆音と共にサイレンを鳴らし、真赤な回転灯が周囲を赤く染めながら、遠くからもはっきりと認識できました。
続々と白バイが現れて、一般車両の交通規制を始めると、高速道路の封鎖を始めました。
一般車両を次のランプで一般道に誘導をはじめ高速道路から下に降ろし始めた。
そして、渋滞で停止していた犯人の車を、白バイ隊が取り囲みはじめた。
「上条所長、恵美子です。今、白バイ隊が到着いたしました。犯人の車は取り囲まれています。」
「そうですか、恵美子くんは離れているんだよ、白バイ隊に任せなさい」尚も上条所長は恵美子を心配していた。
「はい、分りました。」
恵美子が見ていますと、警視庁の青と白色に塗り分けられた大型のホロ付きのトラックから特殊部隊のSATまで現れました。
SATとは、特殊警備隊のなかでも、警視庁の第六機動隊や大阪府警や千葉県警などの機動隊の部隊などにテロ対策の任務が与えられている部隊が組織されています、この部隊が、特殊急襲部隊(SAT)と呼ばれる対テロ特殊部隊のことであります。
恵美子は離れた路肩にバイクを止めて「どうなるのかしら」と心配して、見ていました。
そこへ、増え続ける機動隊の車から見覚えのある、警察犬もつれてこられていました。警備隊員の右わきに座っていた。
たしか、あのブラックのジャーマンシェパード・ドックは警視庁でも今は一頭しかいないと聞いていますが、だとすると、あの子はシーザーだは、シーザーまで来ていたのね。
SATの隊員が所定の位置に付くのを確認すると、白バイ隊の中心者がマイクを取ると犯人の乗る黒塗りのセダンに向かって警告を始めた。
「あなた達は包囲された。これ以上抵抗はやめなさい、速やかに投降することを、求めます。」
恵美子は見ているままを、科警研の上条所長に伝えていた。
「恵美子くん、ありがとう、状況は分りました。くれぐれも君はそれ以上近寄ってはいけませんよ、巻き込まれたら、とても危険ですから」
「はい」恵美子も頷きました。
白バイ隊の中心者による、投降の呼びかけは続いていた。
犯人の乗る、車の中では何も動揺もなく、ただ、淡々と攻撃を仕掛けるタイミングを狙っていた。
犯人の車の助手席に座る黒い背広の男が苦笑いを浮かべると「この程度で、包囲をしたつもりなのか、呆れたやつらだぜ、まったく自分たちの置かれている立場が何も分かっていないやつらだ、私一人でたくさんだ、壊滅させてやるか」
すると、古木主査の隣に座る男が「まて、21、ここでは、我々は表に出る事は許されてはいない、どこまでやっていいのか確認をする」
そしてその男が何処かに連絡を取り始めた、古木主査が見ると、とても変わった携帯電話だと思った。衛星電話なのか、それとも衛星も基地局も介さないものなのか?
「19です、状況は見ての通りです、対処について、指示を・・・」
「・・・・・・」
「分りました。」
「どうだ」21が尋ねた。
「トランスポートの準備をしている、完了するまで、そのままで待機だ。」と、19が言った。
古木主査は何の事かと思った、トランスポートとはどう言うことなんだ?それに19と言ったやつが話している相手に、見ての通りです。と言っていたが何処からか監視しているのか?
白バイ隊の中心者の説得は続いていた。
「素直に投降しなさい、投降しないのであれば、強行手段に出るぞ、時間は1分待つ」
21が話しかけた。「1分だそうです。準備は間に合いそうに無いが、仕方ありませんね、私に1分いただけますか、やつらを黙らせますが」
「うーん、仕方ないか、では、早いところ決めて来い」
古木主査はこの会話を聞いていて、これだけの警官やSATまで来ていると言うのに、自信過剰なやつらだと思った。
それにしても、名前を持っていないのか、21はこいつの名前だというのか?
すると21が運転手に向かって「17、少し右によれ、場所を確保したい」
古木主査は運転手を見た、この男は17と呼ばれた。
車は右に寄って行った。
黒塗りの車の助手席のドアが開いた。21はゆっくりと外に出て行った。
そして、周りを見渡すと、口の中で何かを唱えだしたのでした。
恵美子は車から降りてきた犯人の顔を見たときに呆れてしまった。
「えー、また、同じ顔なの」
その男も、恵美子を襲った、あの男の顔をしていた。
その男が素早く、胸の前で両手の親指と人差指を合わせ押し出した、恵美子はそれを見て、とっさに叫んでいた。
「火の玉が来るは、逃げて」
火球は凄まじい勢いで21の構える手の中から飛び出していった。
それも、次々といたるところに21は火球を撃ち込んできた。
火球が白バイ隊に向かって走っていった。
白バイ隊の中心者は「逃げろ、逃げろ」と叫ぶのが精一杯でしたが間に合わず、火球はいたる所で爆発していき、何十人もの白バイ隊員が火柱と共に吹き飛ばされていった。
次々と爆発する火球は白バイ隊員やSAT隊員を吹き飛ばしていった。
ついに、SAT隊員に犯人の射殺命令が出された。
SATの隊員はレミントン・アームズ社製のボルトアクション方式ライフルのスコープの中の犯人を狙い定めて、引き金を引いた。「タッカン」
隊員が一斉に引き金を引き、ライフルの銃口から弾丸が発射された。
「タッカン」「タッカン」「タッカン」
犯人の21は何故か笑みを浮かべて、ハエでも追い払うかのように、なんと、片手でSAT隊員の発射した弾丸をはたき落としていた。
21は笑みを浮かべて、防弾装置の装着は常だが、実戦で使うのは初めてだ、なかなか小気味がいいものだ、「さーあ、もっと撃って来い、ハハハハ」
「なんてやつだ、あいつは人間なのか?」まるで不死身のサイボーグのようだ、とSATの隊員達は呆れていた。
そこに犯人の21がSATに向けて、火球を次々に撃ち込んできた。一瞬に辺りが火の海になってしまった。
悲鳴と共に、SATの隊員はあいついで吹き飛ばされていった。
恵美子の目の前で起きている光景が、アッと言うまに、炎の渦となり、まるで地獄の様相に一変してしまった。
白バイ隊もSATも、その状景に成す術もなかった。
このままでは叔父様はまた連れ去られてしまうは、SATも白バイ隊もこれでは叔父様を取り返すのはむりだと思った。
「それでも私は叔父様を取り返さなくては」と思いつめたようにつぶやいた。そう思うといつまた叔父様が連れ去られるのか気が気ではなかった。おば様や京一君やみゆきちゃんの悲しむ顔が脳裏に浮かぶと恵美子はいてもたってもいられなくなり身体が反応していた。
バイクにまたがり、同時にセルモーターのボタンを押していた。「キュルルン」エンジンが始動して、振動が体に響いてきた。大きく深呼吸をするとフルフェイスのサンバイザーを一気に下げてアクセルを全快に負荷すると恵美子は21をにらめ付けた瞬間クラッチが切られた、叔父様は取り戻さなければ、バイクは全速力で飛び出していた。
9 奪 還
バイクのタコメーターの回転数が振り切れんばかりにアクセルを負荷していった、犯人をにらめつける恵美子には周りの情景は視界に無かった、バイクは唸りを上げていた、ステップを蹴りクラッチを切ると一瞬にバイクは突っ走って行った。身体を前傾に沈めるとフルフェイスの狭い視界に火球を打ちだしている21だけが見えていた。「取り返すは」と思いつめた恵美子にはそれしか無かった。無我夢中で、あっと、言う間に、犯人の21に突っ込んでいっていた。
それを見た古木主査は慌てて「恵美子、やめろー」と叫んだ。しかし、この状態で恵美子に聞こえるはずもなかった。
慌てて古木主査は何とかしなければ、とにかく車から出なければと、助手席のわきに目についた、車に常備されている発炎筒を身を乗り出して掴み取ると、素早くそれを発光させてしまった。
恵美子は既に犯人の21に猛スピードで突っ込んでいった。
トリプラーを打ち込むことに夢中になっていた21は、まさか自分に向かって来るやつがいるとは思ってもいなかった。そして、恵美子に気付くのに一瞬遅れた。
「うむー」振り向くと、恵美子が21の目の前にバイクで突っ込んできていた。21は何も出来ず、ただ飛びのくしかなかった。
恵美子は走り抜けると両肩で大きく呼吸をしていた。本当は怖くてたまらない、でも叔父様は取り返さなくては、ただそれだけでした。足をちょこっと路面を蹴ってクイックで素早くバイクを回転させると、犯人の21を睨みつけた。21も起き上がり、やはり恵美子をにらみつけた.
「ばかめが」とトリプラーを打ち出す構えをした。
犯人の車の中では一瞬にして煙だらけになってしまい「ばか、何をする」と犯人達は発炎筒を掴むと外に投げ捨てて、車外に飛び出してきた。古木主査も咳き込みながら、外に飛び出した。そして恵美子を見ると「恵美子、逃げろー」と叫んだ。
恵美子も叔父の古木一鬼を見つけると、必ず取り戻さなければと強く思った。
古木主査は車から飛び出したものの、しかしすぐに古木一鬼の隣に座っていた19と名のる男に捕まってしまった。
恵美子は唇を強くかみ締めるた。しかし体は震えていた、自分の技が通用しないことは大学の構内で襲って来た男で思い知らされていたからだった。「勝てないは」どうしたらいいの・・・。
恵美子はフルフェイスのヘルメットを脱ぎ捨てた。
突然「シーザー」と叫ぶと、犯人の21に向かって腕を向けて指差した。そして口笛を吹いていた。
警察犬のシーザーの耳が反応してゆっくり立ち上がった、シーザーは恵美子の目を見た。そして犯人の21に向けられた恵美子の腕を確認した。
恵美子は心の中で、シーザーお願い、助けてと念じた。
恵美子は一気にバイクのブレーキを切るとアクセルを全快に負荷して「ゴー」と叫んだ。バイクはまっしぐらに21に向かって突っ走った。
恵美子のゴーサインを聞くと、シーザーもまた、まっしぐらに走り出して行った。
「もらったぜ」と犯人の21は笑みを浮かべて、恵美子にトリプラーを打ち出す構えをした。
「さー来い」21は恵美子を引き付けて粉々に吹き飛ばしてやるぜと、笑みを浮かべた。そして胸の前で組んだ手を押し出そうとしたときだった。
「なに?」21は目をパチクリさせ何処へ行った、と焦りだした。
恵美子は21がトリプラーを打ち出す瞬間にダイヤモンドに似た装置を作動させて姿を消したのでした。
恵美子が次に姿を現したときは古木主査を捕まえている犯人の目の前でした。
その犯人の19は目を大きく見開くと、素早く左手で、突進してきた恵美子のバイクを何と左手一本で押さえつけて止めてしまった。そして、右手を伸ばすと、恵美子の身体を捕まえた。そのまま空中に放り投げた。
17が恵美子に向かってトリプラーを打ち込もうとすると、19が左手を上げ制止させた。そして「17は車に乗っていろ」と言った。
恵美子は宙を舞い路上に叩きつけられてしまった。
恵美子を投げ飛ばした犯人の19は21を見ると「21、やってしまえ」と叫んだ。
21は「フン」と鼻を鳴らした。「今度こそ、小娘あの世へ行け」と両腕を前に突き出して、トリプラーを打ち出そうとした。
その時でした。猛ダッシュで走ってきた、警察犬のシーザーが犯人の21に飛び掛っていったのでした。
21は不意を突かれて、そのままシーザーに突き飛ばされて、路上に転がった。
シーザーは21に尚も攻撃を続けていった。
恵美子を投げ飛ばした犯人の19は21を見て「チェッ、どじりやがって」と苦笑いをした。
その隙に恵美子は路上を前方回転して、投げ飛ばした犯人の19の足元に転がり寄ると、下から犯人の喉をめがけて、右足刀を蹴り上げた。「うーん」
19は右手で恵美子の右足刀を払いのけた、恵美子は左右の正拳を立て続けに打ち込んだ、19は左手一本で払うと、前蹴りを打ち込んできた、とっさに恵美子は右によけて、そのまま左回し蹴りで応戦をした、またしても19は左手一本で払った。
恵美子は小手先の技では通じないと思った、この男にダメージを与えるとしたらどうしたらいいの、そうだは、三節一体だは、突き手の手、防ぎ手の肘、前に出る足の膝の間接を前胸部に集めて、防御をしながら行え、これだは、恵美子は右足で路面を力任せにけり込み、大きくジャンプをした。宙に舞った両足を胸の辺りに抱え込み19に向かって飛び込んでいった。ぎりぎりのところまで引き付けると、体ごと右足に体重のすべてをかけると19の顔面目前で唸りながらけり込んだ「うーん」さすがの19も後ろにのけぞり、あわや蹴込んできた恵美子の足を避けることは出来たが、そのまま、路上に腰を落としてしまった。
恵美子は19の後ろにある車を蹴って路上に落ちていった。
その様子を見て17が車から降りてきて、起き上がりかけた恵美子に襲い掛かってきた。
「きさま、許さねえ」
恵美子は素早く、後ろ蹴りでその男のみぞおちめがけて、「ウーン」と唸りながら力任せにけり込んだ。
男は「グーッ」と言ったものの、ほとんど効いてはいなかった、恵美子は、えっ、と思った。そして直ぐに蹴った足を引き戻すと、そのままの体勢からまた、もう一度、力任せに「ウーン」と唸りながら右回し蹴りを打ち込んだ。
やはり、恵美子の蹴りは通用しませんでした。
古木一鬼はどうしていいのか、まるで手が出なかった。
周りの白バイ隊の隊員やSATの隊員達も犯人による火球の攻撃から身をかわしていたが、恵美子の行動に虚をつかれた状態で呆気に取られていた。
「なんて、無謀な」と思いながらも、恵美子の勇気に感化されて、腰の拳銃を引き抜くと、犯人に向かって走り出した。
恵美子が蹴り込んだ17は、恵美子を見据えて丸太のような右腕で殴りかかって来た。
恵美子はその腕を両手で掴むと、身体を時計の逆回りに半回転させると、背中を相手の懐にぶつけて、背負い投げの要領で腰を素早く前屈させた、相手は自分が打ち出した腕の勢いで、身体が前のめりになり、あとは勝手に自分の身体の重さを自分で止める事が出来ず、前に飛んでいってしまった。そして、路上に転がっていったのでした。
もう一人の、路上に腰を落としていた犯人の19が起き上がって来た。
小娘一人に翻ろうされるとは、19は怒りが込み上げてきた。
「おまえ、ただじゃおかん」
恵美子をにらみつけた。
古木一鬼は今まで一緒にいた犯人がこんなに感情的な表情になったのは見たことがなかった。何をするか分らないと思った。
そしてその犯人の19は、両手を身体の前でくみ出した。
恵美子はそれを見て、まずい、火球を撃ち込まれると思った。
恵美子は19を見据えて、身構えると、唇をかみ締めた。
だめだわ、この距離では逃げられない、殺される、汗がにじみ19を見据える恵美子は願うように、小さな声で「シーザー助けて」ととっさにささやいていた。
その犯人の表情は目が血走り殺意がむき出しになっていた。
「死ねてめえ」とはき捨てると、両腕を前に押し出した。瞬間眩い光が現れ、それが燃え盛る火球に変ったのでした。
恵美子はもうだめだと思った。
その時だった、車を飛び越えてシーザーが現れたのでした。そのまま、火球を撃ち出した19にシーザーが飛び掛って行ったのでした。
19は「うわー」と言うと、シーザーに横倒しにされて、撃ち放った火球は空に向かって放たれていき、その先の高層ビルに激突して行き、大爆発を起こした。
恵美子はこの一瞬に起きた、殺されると思った恐怖から、判断が鈍って動けなかった。
その表情を読み取ると、古木一鬼は恵美子の手を掴むと「逃げるぞ」と叫んだ。
恵美子は慌てて「はい」と言うと、シーザーを見た。
「シーザー、撤収」と叫ぶと、走り出しました。
シーザーも一気に走り去って行った。
犯人達は路上から起き上がると、周りを見回して、睨みつけた。また、火球を打ち出す仕草を始めたのでした。
それを見た、白バイ隊の隊長が「あの火球を撃たせるな、発砲、発砲、発砲」と叫んだ。
白バイ隊員の所持する拳銃が一斉に発砲がはじまった。
SATの隊長も一斉射撃を指示した。
これにはさすがの犯人達もどうしようもなく、犯人の19が「車に戻れ」と言うと、犯人の三人は、車に乗り込んで行った。
銃弾がプツプツプツプツと車に突き刺さって行った。
犯人の19の携帯電話に連絡が入った。
「はい、19です。はい、分りました。」
そして電話が切れると、携帯電話を懐にしまい込んだ。
「準備が出来たようだ。戻るぞ」と19がいった途端に車は青白く光りだした。そして、車体を包む青い光が陽炎のように揺らぎ出して、突然、炎を噴出して車は激しく燃え上がった。
そして、大爆発を起した。
周りにいた白バイ隊の隊員達も、その爆風に巻き込まれて、次々に吹き飛ばされていった。
暫くの間、誰も起き上がる者はいませんでした。
恵美子も古木一鬼も爆風に吹き飛ばされて、路上に倒れ込んでいました。
恵美子がゆっくりと起き上がると、シーザーが横に座って恵美子を見つめていた。
恵美子は微笑んで「シーザー、ありがとう、私を助けてくれて」恵美子はシーザーの首に手を回してほほ擦りをしました。
そして、シーザーの目を見つめると「とても素敵よ、シーザー、でも、もう行きなさい、警備隊員の人が心配しているわよ」と言うと、シーザーは走って戻っていった。
古木一鬼も起き上がると、恵美子を見て「おまえ、無茶し過ぎだぞ、俺は生きた心地がしなかったぞ、お前に何かあったら、三重の兄貴と姉に申し訳が立たないところだ、まあともかく、ありがとう」と言うと、頷いた。
そして、大破した、犯人の乗っていた車があった方向を見つめた。
しかしそこにあるのは煙の立ち昇っている車の残骸だけでした。
救急車やパトカーが何台もやって来ました。
まだ、白バイや一般車両が燃えていた、消防車は消火活動を行っていました。
そんな中、恵美子は無線マイクで科警研の上条所長に連絡を入れました。
「上条所長、全て終わりました。叔父様も無事です。ご心配をお掛けしました。」
「そうか、よかったよかった、ごくろうさまでした。主査はどうしていますか」
「はい、叔父様は今、警部とお話をしています。」
「そうか、分りました。恵美子君も一度所に来てもらえるかな」
「はい、分りました。」
古木一鬼は、少し離れた所で小田切警部と拉致された状況などを聞かれていた。
鑑識は爆発した、犯人の車を丹念に調べていました。
しかし、三人の犯人の遺体の痕跡がまるで残っていませんでした。
「課長、おかしいです、何も出てきません」
「そんなバカな、あれだけの騒ぎを起こしたんだぞ、何にも無しで済まされるか、いくら爆発したからと言って、犯人の身体の一部ぐらい何処かに残っているだろう、もう一度よく調べて見ろ」
「はい」鑑識はまた、丹念に調べだしました。
いくら調べても、車の中には人が存在した痕跡すら何一つ見つけることが出来ませんでした。
まるで何処かに消えてしまったかのような感じでした。
後日、古木一鬼主査は、警視庁に呼ばれていた。
「入ります。」古木主査は会議室に入ると、既に警視庁の幹部達が席についていた。古木主査は意外に思ったのは村瀬主要部長までもが来ていたことでした。
主要部長と言いますと、警視総監、副総監の次の役職のナンバー3に当たる人物です。
あれだけの大惨事ともなれば警視庁をあげて事件の解明に当るのはむしろ当然のことかも知れないと古木主査も思った。
また、南主要参事官も来ていた。南主要参事官は各部長と同格ながらも、部長クラスは警視長であるのに対し南主要参事官は階級が警視監と彼らより上級のため、この場を仕切っていました。そして、刑事部、公安部、警備部、交通部の各部長、それに各課長が左右の席に着いていました。
南主要参事官が「古木主査、ご足労かけて申し訳ないが、色々と聞かせていただきたいのだが、その椅子に掛けてくれたまえ」
「失礼します。」幹部が居並ぶ前に置かれた椅子に古木主査は腰掛けました。
村瀬主要部長が微笑んで「暫くでしたね、古木君」と声を掛けました。
古木主査は一礼をすると「はい、ご無沙汰しております。」と挨拶をした。
そして、主要部長が話を始めた。
「古木主査、先日は大変な目に合いましたね、犯人からは暴力は受けなかったでしたか」
「はい、受けてはいませんでした。」
「そうか、それは良かったでした。君も知っての通り、先日の犯人の逃走劇では、八潮の検問所また、八潮南に設けた検問所それに箱崎ジャンクションでは我々も、大変な犠牲者を出してしまいました。
亡くなった隊員は十一名に及ぶ、負傷者に関しては四十名以上にもなっている、これは、近年の警備行動を見ても、これだけの犠牲者を出したことは、前代未聞のことだ、非常に残念でならない、しかし、その犯人の痕跡が、現場から、一切発見されておらない、犯人が存在したことを立証する手がかりさえ皆無だ。
これでは、被疑者不詳のまま、書類を送検しなければならない、君も知っての通り四十八時間以内に書類は検察に送検しなければならない決まりだ、明日には提出のさいそくが来るだろう、しかし、これでは提出したところで、検察から、再度補充捜査を言いわたされるだろう、それは警視庁としても屈辱だ、なんとしても犯人の特定は出来ないものか、あれだけの事件を起こしておきながら、犯人が煙のように消えてしまって何も出ないでは、あの大惨事が警察の一人芝居で行ったと言われかねない、こんな情け無い事は世間のいい笑いネタにもなりかねない」
主要部長の言葉はここにがん首をそろえている、各部所の責任者への叱咤の言葉に他ならなかった。
そして、村瀬主要部長は頷くと「古木主査、我々の心情は解って欲しい、私からの苦言は以上だ、後は南主要参事官、頼みました。」
南主要参事官は一礼すると、古木主査に質問を始めました。
「古木主査、君はこの事件で唯一犯人と接触した人物だが、犯人については後ほど詳しく伺いたいが、そもそも何故君は拉致されたのか、その辺りの理由についてはどうですか、解っている範囲でいいので話して欲しいが」
「はい、私も犯人にそのことは質問をしました、犯人の話では。科警研が将来、彼らの目的にとって障害となっているためだと言っていました。彼らは将来つまり未来のことを現在形で「障害となっているためだ」と言っていたことが気になりましたが、意味は分かりません、それに彼らの目的についても解らないです、彼らと言いましたが、私は彼らの背後に組織があるように感じました、とにかく、私を彼らの意のままに操れるようにするため、なんだかの方法で私を洗脳するつもりだったようです。
私はそのように理解しましたが、また犯人達は科警研を彼らの傘下におくために、私を拉致したと言っていました。それは、私が科警研の所長に就任したときのためだとか時期まで言っていました。
私が所長だなんて、そんなことはありえない話だと笑いましたが、彼らは真面目に近い将来そうなるとか、さも見てきたかのような口ぶりで言っていましたが、ふざけた話しだと思いました」
それを聞いた南主要参事官は不謹慎かと思ったが、つい笑ってしまった。
「馬鹿げた話だ、科警研には上条所長がいるではないか、拉致をするなら上条所長になるはずだと思うが、犯人も何を勘違いしているのか、理解できんな?」
村瀬主要部長は怪訝な顔つきで、思い出していた。そういえば、科学警察研究所の上条所長の方から将来の科警研の所長に古木一鬼君を推薦しておきたい旨を伝えてきた事を、そのように教育方針を考えて行きたいと、それも最近のことで、まだ、総監と副総監と私の三人しか知らないことだが、何故、犯人が知っていたのか?
しかも、当分先の話だというのに、犯人の話しは何故現在形なんだ、それは気になった。
南主要参事官の話しを聞いていた村瀬主要部長が「南主要参事官、犯人の言う話は信憑性がない話でもない、今は詳しくは説明はできないが、私には興味深い話だ、何故、犯人がそこに目を付けたのか理由を知りたいものだな」
南主要参事官は思慮深い表情で頷いていました。そして「古木主査、ところで捜査一課の小田切警部からも事情を聞いているが、この犯人は一連の大臣政務官殺害の犯人と顔、形ち全てが同一だったとの見解を持っていたが、信じがたい話しだ、その可能性は、君はどう思う、一応、大臣政務官殺害の件は犯人死亡ということで書類は送検されて落着してしまっているが、今日の聴取と、この件は別件として考えているが、一連の関係が有るのか、合わせて聞いておきたい、君はどう思う」と聞いてきました。
「はい」と古木一鬼は思い出した、大臣政務官殺害について犯人と会話をした内容を、しかしその内容は古木一鬼にも理解しづらく信じにくかった。
「私は殺害された犯人を見ていないので何とも、ただ私を拉致した犯人は全員同じ顔をしていました、大臣政務官達を殺害をした犯人の特徴は聞いていましたので彼らを見たとき、顔の形や、背格好が大臣政務官を殺害した犯人のものと一致していたため、どうなっているのか不思議に思いました、それで大臣政務官殺害について問いただしました。すると、犯人の言う事には、私を拉致した理由と同じだという返事で、政務官殺害の犯行を隠さず認めていました。」
「同じ理由とはどういうことですか?」南主要参事官が首を傾げて理解出来ないといった感じでした。
「はい、犯人は少しいらつき、このように言っていました。つまり、だから、将来、我々の目的を追行する上で、じゃまな存在になったからだと、国連の政務官だからといって権力の横暴で我々を脅かすとは、自業自得だろうと、おかしなことに、外務大臣政務官と、環境大臣政務官を指して国連の政務官だと言っていました。この話はまるで整合性も無く、私も理解出来ませんでした。」
会議室に居並ぶ幹部達もさすがにこの話は理解できませんでした。
「古木主査、何故、国連の政務官の話がいきなり出てくるんだね、間違いでは無いのか?」
と南主要参事官が尋ねた。
古木主査は事実を話したまででした。「いえ、間違えではありません」
すると村瀬主要部長が確認をするように「古木主査、犯人達は間違いなく、国連の政務官だからといって権力の横暴で我々を脅かすとは、自業自得だろうと、現在形で言っていたのかね?」
「はい、確かにそのように話していました。」
南主要参事官はこの話の内容では調書には書き残せないと思った。
つまり、二人の外務大臣政務官と、環境大臣政務官を殺害した犯人の動機が国連の政務官の権力の横暴であって、それぞれの政務官の役職との整合性が合わないではないか、これでは検察への説明がままならない、彼らが将来国連の役職につく可能性は無くもないのだろうが、それは将来の仮定の話であり、その仮定の将来で国連の政務官として権力の横暴をしたから殺害をされたと、こんな理由では検察のいい笑いものになるだけだ、ここに居並ぶ幹部達の思考も混乱していた。
南主要参事官はため息をついた「ふう、そんな訳の解らない理由で彼ら大臣政務官達は殺害されたと言うのか、有能な人材をかわいそうなことをしました。あまりにも残念です。犯人には怒りさえ覚えますね、まあいいでしょう、解りました。その件に関しては、よく精査した上で結論を出したい」そして、犯人を割り出す上で何か特徴は無いのかと聞いてきました。
古木主査は思い出していた。「はい、特徴といいますと犯人達は常に何処かに連絡を取っていて、逐一指示を仰いでいたようでした。あの犯人達にはいちいち行動する理由など必要はなかったようです。顔は無表情で感情は無いと言うか、コントロールされていまして、人を殺す事にもまるで躊躇がありませんでした。」
刑事部の部長は目をパチクリさせて「そんな、仮に人を殺すのに理由も要らない躊躇も無い、そんな人間がいるのか、考えられんな」
「恐ろしい人格だな」と刑事部長が言うと、南主要参事官が「おそらく、そのように、訓練されたのだろう、しかしそのような組織が日本にあるのか」
南主要参事官は公安部長を見ると「公安部長、そのような組織について認識はあるのか」
公安部長がすぐさま返事をした。「そのような組織については認識しておりませんが」
「それはまずいだろう、何のためだか知らんが、平気で殺人を犯すような組織を野放しにしておくことは、今後、何をしでかすか解らないぞ、何故今までこんな組織が何処にも浮び上がらなかったのだ、公安も北にばかり目が行き過ぎてはいないのか、すぐさまこの組織を洗い出す支持を出していただかないと」南主要参事官は公安部長を睨んだ。
「はい、さっそく指示をいたします。」公安部長は気まずそうな表情をした。
「ところで古木主査、犯人が連絡を取っていた人物についてはどうなのですか」主要参事官が尋ねた。
古木主査は質問を聞くと頷いて「はい、えーと、ブラフマーと呼ばれている人物に犯人は連絡をしていました、犯人の会話の中でナンディー様と言っていたように記憶しています。この人物が、犯人達に指示をしていたと思われます。」
「ブラフマーですか、ナンディーとは何者なんだ?」南主要参事官は首を傾げた。
「どのような人物なのかは聞きだせませんでした。」古木主査も恐縮した。
すると、公安部の部長が「ブラフマーですか、聞いた事がある名ですね、警備上各宗教団体を調査する必要から教義も学んだことがありますが、たしか、ヒンズー教の教義に出てくる三人の神の最高神をブラフマーと言ったと思います。おそらく、その名をかたっている者がいるのではないでしょうか、もしかしましたら、なんだかの宗教に絡んだ組織かも知れません、何せ、宗教法人は数が多すぎますから、しかも我々も手の出しにくい体質がありますので、とにかく、このブラフマーに関する組織を洗い出してみましょう」
南主要参事官はまたため息をつくと「とにかく、そのブラフマーとか、ナンディーと呼ばれる人物が率いる得体の分らない組織がこの日本の何処かにあるようだな」
古木主査は続けました。「犯人の行動の全ては、そのブラフマーの指示を忠実に実行するのみで、犯人にとって、その行動に、意味も理由も不必要だと犯人達が言っていました、まるでマシーンかサイボーグのようでした。」
「それは事実です。私の部下の白バイ隊員もかなりの人数が犠牲になりましたが、その攻撃は一瞬で何十人もの隊員を奴らの武器の火球で倒されました。また、我々の発射しました銃弾をまるでハエでもはたき落とすように銃弾を叩き落していました。その攻撃はまるで楽しんでいるかのようでした。」と、白バイ隊を指揮します、交通部の部長が言いました。
刑事部長はどういうことなのか信じがたい思いがした「その、犯人の顔が皆同じ顔をしていたと言ったが、どういうことなんだ、しかも機動隊の発射した銃弾を叩き落すとは、サイボーグなどありえないだろう、古木主査」
「はい、何か特殊な装置を使っていたようです。彼らは私の感覚ではおそらく、クローンかと思いましたが」古木主査は感じたことを話した。
「君、人間のクローン化など世界の何処にも許されてはいないだろう、それにそんな技術はまだ、確立されてはいないのではないのか」刑事部長はありえないと呆れていた。
古木主査は刑事部長の言葉を肯定したものの現実にはどうだろうと思った。「それは表向きのことでしょう、裏社会では何処まで行われているのか、想像も付きませんですね」
南主要参事官も頷いていた。「確かに、古木主査の言うような社会になりつつあるのかも知れないな、人間の手でより強靭な人間を作りだされるそんな社会になっているのかも解らないな、ところで、その武器とはどんな物なのだ。警備部長、SATから報告は受けていないのか」
「隊員から事情を聞いたところでは、バスケットボールほどの火の玉を撃ち込んできたといっていました、その火球がかなり長い炎の尾を引いていて、小型の火炎放射器を使用していたと言うものもいました、その炸裂の威力はかなりのものでして、一発で十数人が吹き飛ばされたもようでした。」警備部長は苦虫をつぶしたような表情をしていた。
南主要参事官は古木主査の意見を聞いた。「なるほど、古木主査はどうだ。」全員古木主査の言葉に注目した。
「はい、犯人の隣で私は見ていましたが、銃火器は持っていませんでしたね、素手でしたが」
すると、警備部長が信じられない顔をして「そんなバカな、武器も無しで、火球を撃ち出すなんて不可能だろう、なんだかの武器はあったはずだ。」
南主要参事官は古木主査の顔を見た「古木主査どうなんですか」
「武器らしき物は見ておりません、犯人が言っていましたが、あの武器はトリプラーと言うそうでした。火炎放射器では炎は出せても爆発して十人もの人を吹き飛ばすようなものではありません」そして古木主査は身体の前で両手の親指と人差指を組んで見せて「このようにして、なにやら呪文のようなものを唱えているようでした。とにかく録画を記録担当の部所で保管しているはずです、確認してみてください」
主要参事官は頷いた「武器については分った、まるでマジックのようだな、録画を検証しよう、ところで、犯人達は一体、何処に向かっていたのだろうか、分らないか、古木主査」
「分かりません、ただ、あの方向でしたら東京の中心部のような気がします、根拠がある訳ではありませんが、想像では皇居に近いところのような気がします。
一連の大臣政務官殺害事件の時も、すぐさま検問が敷かれ、霞が関の範囲でも一斉に捜索がかけられたにも関わらず、何も掛からなかった所を考えますと意外と本庁の近くのような気もしますが、失礼しました、これはあくまで私の推測ですが」古木主査は重要なことを推測で言ってしまったことに軽率な気がした。
居並ぶ幹部達は頷いていた。
結局、犯人についても、その組織についても、動機も目的も理由についても何も確定するには至らず、謎ばかりが残って、被疑者不詳のままなんら犯人の特定も不確実に終わってしまった。
そして、数日後、警視庁の鑑識から連絡が古木主査にありました。
それによりますと、古木主査の衣服にやはり拉致犯の一人の者の皮膚痕が付着していたということでした。そして、それが、霞ヶ関一丁目の交差点で殺害されました、下村外務大臣政務官のカバンに付着していた皮膚痕のDNAと一致したと、言う事でした。
それによりまして、大臣政務官連続殺害事件と古木主査の拉致事件とが同一線上に繋がりそこになんだかのグループか組織が存在するのではないのかと背景が浮き彫りになってきた。
とにかく、今回の事件に関しては、古木主査は彼の知る限りの事は全て調書で伝えてあるため、後は警視庁の捜査に任せることになりました。
そして、数日して、恵美子が科警研を尋ねて来ました。
所長室に古木主査も来ていた。
トントン、「恵美子です。」
「おー、来たな、どうぞ」上条所長はニコニコしていました。
ドアを開け恵美子は入っていきました。「失礼します。」
「やー、恵美子君、今回は大変な目に合わせてしまって、申し訳なかったね、すまんすまん」と言うものの、上条所長はご機嫌でした。
「ご心配をお掛けしました。」と恵美子は、頭を下げました。
すると、古木主査が「まさか、恵美子が、あんな無茶な行動に出るとは、思ってもみなかったぞ、はらはらして生きた心地がしなかったぞ、あの大男相手によく無事で済んだものだな、所長にも見せたかったでした、きっと所長なら、気絶したかも知れませんよ」
上条所長は大笑いをして「ハハハハ、バカを言うな、これでも昔は柔道の有段者だぞ、ハハハ」
すると、恵美子がカバンから無線器とダイヤモンドに似た姿を消す装置を取り出して「今日はこれをお返しに伺いました。このおかげで私も命拾いをいたしました、貴重な物をお借りしましてありがとうございました。」
上条所長は笑顔で頷きながら受け取りました。
それを見ると、古木主査は「所長、それはまずいですよ、その装置は一応証拠品ですよ、それを持ち出して、使用させるとは」
「まあ、まあ、まあ、緊急事態ですから、緊急事態」と悪びれる様子もなく所長はニコニコしていた。
古木主査もニコニコして「私もそのおかげで助かりましたし、今回は大目に見る事にいたしましょう、ハハハ」
恵美子は気難しい顔をして「大学の構内で私が殺されそうになったときに、犯人が妙な事を言っていました。その内容はこうです、まさか、おまえが、七年後我々を脅かす存在になっていたとは、とまるで私が将来何をしているのか見てきたかのような言い方をしていました。何だか、気味が悪くて、ずうーと気になっていました。」
すると、古木主査も「そういえば、私が拉致されるときも確か犯人が気になる事を言っていました。
つまり、科警研は将来、我々の目的にとって障害となっているため、我々の傘下におくことにした。但し、あなたが所長に就任したときですが、と言っていました。私が所長だなんて、冗談はやめてくれと、笑い飛ばしましたが」
すると、所長が「まんざらそれは、冗談でも無いようだね、この科警研も今は副所長は警察庁の副次長が兼務しているが、私はゆくゆくはここの所長は科警研の生え抜きの人物にと考えている、君も候補だよ」
古木主査は厳しい表情で「それでは、今回の事件のやつらの標的は私ではなく科警研ということはやはり間違いではないことになりますよ、それも将来、奴らの組織にとってじゃまな存在となっている科警研がです。」
上条所長も厳しい表情で「我々も、そのような組織に狙われていることが分った以上は、そのことに対処すべき防御を考えながらこれからの科警研を作り変えていく必要があるだろう、そんな不気味な組織が存在するとは、徹底してその組織を探し出してやります、今回これだけの大事件を乗り越えてきた恵美子君にも、是非加わっていただきたいと思うが、古木主査、どうだろう」
古木主査は頷いて「そうですね、私は今回の事件はまるで納得ができません、それにこれで終わったとは思えません。必ず次があるはずだと思っています。そのときはきっと真実を暴きますよ、それに、警視庁の聴取では話しませんでしたが、このダイヤに似た姿を消す装置にしても、また彼らが身に付けていました防弾装置は銃弾が彼らの身体に当たる直前でバラバラ落ちていきました、それにあの携帯電話にしても、どう見ても奴ら自身明らかにクローンですよ、どれを取っても現代の技術を遥かに越えていました。彼らの言動を思い起こしますと信じられないことですが、未来から送り込まれてきたのではないのかと錯覚さえしてしまいそうです。奴ら車の中でどこかに連絡を取っていたときに、テレポーテーションの準備をするとか言っていました。私は奴らは車からその装置で逃げたのだろうと感じています。その点も含めてやつらがいったい何処から現れたのか、また、何を目的としていたのか次は必ず暴きます。」と所長を見た。
所長は古木主査の話しを信じがたい思いで聞いていた。「テレポーテーションですか、ある意味次に現れた時は逆に楽しみですね」と非常に興味を持った。
「恵美子、おまえは今後どうする」古木一鬼は恵美子を見た。
恵美子はニコニコして「さあ、私は、まだ、科警研に入るとは決めてはいませんです、第一、私が科警研に入らなければ、将来の私も狙われずに済みそうですし、他にも、やりたい事が沢山ありますから、夢もありますし」
すると古木主査が感心を示して「一体、恵美子の夢とはどんなことなんだ?」
「そうですね、一つは、クライマーとして世界の屋根に挑戦してみたいです、それに、世界の遺跡の探検も、世界の海にも潜ってみたいし」
「解った、解った、所長、当分恵美子は好き勝手をしているようですね」
古木主査も上条所長も、当然、協力してもらえるものと思っていた当てが外れてガッカリしていましたが、恵美子の夢は膨らむ一方でした。
「私が一番したいことは、自分の可能性にもっと挑戦してみたいと思います、もしかしましたら次は、空を飛んでいるかも知れませんね、私もこれから何が起きるのかドキドキしています。
あなたも、何かに挑戦してみてはいかがですか、きっと、新しい自分に出会えるかも知れませんね」
第二章 終 了
このお話は前作の「ディストラクション 壊滅」のお話と繋がっていまして、第一章の巨大海底遺跡にしても、その未来の地球が赤い未確認生物に壊滅されてしまうことも、また。第二章に出てきます謎の暗殺組織にしてもその首謀者ナンディーはディストラクション 壊滅ではマヤ・ナンディーとしてある会社の会長で出てきましたね、ようするに、前作も今作もその始まりは一緒ということで、すべては繋がっているのでした。
次なる展開はこの自衛隊おもしのぐ暗殺組織の全容があらわになり世界とネットワークが存在していた。そして日本の政府が壊滅してしまう、救世主は現れるのでしょうか・・・