「ディストラクション 壊滅」のスピンオフストーリー 『こんにちは、古木恵美子です・・・』 NO 7
まさかでしたね恵美子が本気で格闘技に打ち込むことになるとは、おそらく誰も思わないことだったでしょうね、しかもいよいよ恵美子を襲う魔の手が忍び寄ってくるとは、格闘技を習っているとはいえ恵美子の技はまだまだ身を守ることができるとはほど遠いいと感じますが、しかし大学校内でその暗殺者に襲われてしまうとは、恵美子はいったいどうなってしまうのでしょうか?
第二章 不気味な暗殺組織
5 必殺技
そして、夏の大学対抗躰道選手権大会に向けて、恵美子の道場でも出場者を決めるための、校内選抜戦が始まることになりました。
道場で練習終了後、恵美子は師範に呼ばれました。
「古木くん、今回は頑張ってみなさい、前回は一手遅れたため相手に一本取られましたが自分の技量を確認できたでしょう、君は筋もいいし、成績はともかく、対戦により多くのことを学ぶことができます、そのことが大事です。」と師範から言われました。
恵美子は「はい」と言うと、自分でも何処まで出来るのか分りませんが頑張ってみたいと、意欲を燃やしました。
前回の選抜戦では、一年先輩の女性が相手でした。
内容は師範の言う通り、彼女が回し蹴りをしてきたところを、私がかわし、彼女が正面を向いたとき、私が右正拳を中断を突きました。しかし、威力が弱く彼女に払われて、同時に打ち込まれた左正拳が恵美子の顔面を防具の上から打ち込まれまして私は負けました。
反省点として、中断を突いた恵美子の正拳の威力の弱さ、スピードの無さに尽きると思いました。
私の正拳にスピードがあったのなら、威力があったのならば、彼女が払う前に私の右正拳が先に一本をとっていたはずです。
課題はここを鍛えなければ、今回の選抜戦も勝利はありえないでしょう、まして本来の目的は自分自身を守るための技を身につける事、この程度でまごついていましては実際に襲われましたら身を守るなんて無理に思えました。恵美子の課題ははっきりしていました。そしてそこを鍛えることで自分の技がどこまで相手に通用するのか確かめたいとも思いました。それは自分の技量がどのクラスにいるのか推し量ることができるからでした。
躰道の運技(運体)の動攻五戒の中に三節一体と言う言葉があります。
突き手の手、防ぎ手の肘、前に出る足の膝の各間接を前胸部に集めて、防御をしながら、行えと言う、戒めがあります。これは、防御と同時に攻撃をおこなえと言う戒めです。
いくつかあります戒めの中で、今回はこの戒めに挑戦してみることにしてみました。
攻撃と防御、また、防御と攻撃、これを瞬時に行う、躰道じたい、施、運、変、捻、転と、これら、基本の五つの動きがありますが、これらの動きを全て掛け合わせるように、無数の攻撃パターンが現れます。
防御も攻撃パターンに応じて無数に反応しなければなりません、もし、攻撃を躊躇しましたら、その瞬間から攻撃も後手となり、防御に終始することになりかねません、理屈ではこうなるのでしょう、でも、問題があります。私自身の能力です。
短時間で習得できるような技ではありません、そんなことは分りきっていました。
でも、勝つ方法を探しても、これしかありませんでした。
自分で決めたことがあります。諦めて、負けを待つことだけは納得がいきません、結果、納得が出来る動きが出来ていたのか、後悔だけはしないためにも、この運体の技をとにかく徹底して身体に刻み付けることを目標としました。
そして、今は、授業を受けていましてもつい、頭の中では、躰道の動きが浮んでいました。
左より回し蹴りをした場合、相手に背中を見せたとき、死角が生まれます。
だから、あの時、私は中断に打ち込んだのです。
でも、かわされてしまいました。
私の突きが一瞬遅すぎました、でもあの時の私にはあの間合でしか打ち込めませんでした。
これでは、だめですね、もっと早い突きを出せるようにしなければ、今回も勝てそうにありません、もっと突きに威力を加えるにはどうしたらいいのかしら、色々考えてみました。
右の正拳を打ち出すときには、もっと腰からひねりをつけて、力を込めて拳は握りしめなくては、そして、直線に素早く相手に打ち込む、その時の左手は、右手の突きに威力を増すためには、突き手の右手に増してすばやく腰にひき戻すことです、作用反作用の原理よね、師範も言っていました。
最大に相手にダメージを与えるには、打ち込んだ拳は瞬時にその拳を腰に引き戻します。有段者の人の突きを見ていますと、打ち込んだ直後に突き手を瞬時に腰に戻しています。
次の攻撃を考えますと理にかなっていますよね、今日の練習はここのところをしっかりとやってみます。
と授業中もついつい考えていました、これでは授業になりそうにありませんでした。
物理学をやっていますと、けっこう実験をおこなう機会も多いのです、それだけに、よほど気をつけないと、場合によりましては、小さな間違えが大きな爆発事故にも繋がる危険性もあります、とても注意を払わなくてはなりません、私は実験は好きなほうです。
例えば、化合物を適量で順番どおりに加えていきますと、理論道理になるはずですのに、どこかで手順を間違えますと、まるで別物になったりもします。
そして、新素材の発見に繋がったりするなんて、面白いですよね、残念ながら私はまだ、手順を間違えたことはありませんけれども、そして、今日は上島教授によります、実験を行う日に当っていました。
「はーい、皆、見て、いいですか、今日はですね、誰でも知っているように、ダイヤモンドはこの世の中で一番硬い物質とされているよね」そして、教授は鉛筆を持ち出すと「この鉛筆の芯のグラファイトは非常にやわらかい物質ですね、しかし、両者は同じ炭素原子から成る、同素体ですね、両者の違いは原子間の結合のネットワークトポロジーの違いです。
先ずは、この違いを確認してみましょう、そして、次に、応用された物質を皆さんから意見を聞きたいと思います。はい、では始めましょう」
それぞれの班に分かれて、実験台に向かいました。
既に、実験材料は配られていました。
そして恵美子の班は高柳舞、美川ゆきえ、水沢こずえのいつものメンバーでした。
ただ、恵美子は彼女達より、二年年上のため、恵美子から、彼女達に打ち解けようとはしていませんでした。
彼女達は恵美子を頼りにしていましたが、恵美子の性格からして、目上として振舞う事は出来ないため、彼女達を意識して避けているわけではありませんでしたが、恵美子からはあえて係わろうとはしていませんでした。
彼女達は笑顔で「恵美子さんがいますから、今日の実験もすんなりですね」とだいぶ頼りにされているようでした。
しかし、恵美子は今日は実験に集中出来そうにありませんでした。
恵美子は右手を握り締め、腰の辺りに引き込んで、ひねり出すように、前にゆっくりと突き出してみました。
ピタッと止めた拳に左手で触れてみて、右手の拳の先端が垂直になっているかを確かめていました。
それを見た舞が「何をしているのですか?」
「あー、いえ、別に、さあー、実験を始めましょう」恵美子は笑顔でごまかしました。
彼女達は「はーい」と準備を始めました。
「恵美子さん、セットできました、確認していただけますか」
「はい、じゃー、ゆきえさん、顕微鏡をお願いしますね、こずえさんはモニターのチェックをお願いします、舞さんは、記録してもらえますか」
「はい」
恵美子は左手を開いて、体の前で右側にずらして行き、何かの感覚を確認しているようでした。
「恵美子さん、モニターにグラファイトの結晶がでました。」と、こずえが言うと、恵美子はチラッとモニターを見て「そうね、この六角板状の亀のこうらのような状態が層になっているでしょう、それが、弱い結合であるファンデルワールスカで結合しているために鉛筆の芯はやわらかいのね」
「恵美子さんって、物知りですね」と、舞は感心していた。
「ありがとう、舞さん」と、恵美子は微笑みました。そして、次にやることを指示しました。
「それでは何故弱い結合なのか、グラファイトのファンデルワールスカを調べてみましょうね」
「はい」
恵美子の頭の中では躰道の組み手が行われていました。
相手が前蹴りをしてきたときは、私の右手を左肩まで持っていき、素早くそのまま下段に振り下ろして、蹴り込んできました前蹴りをはらう、まって、はらうのではなくて掴んで相手の軸足を私の左足ですくい上げたらどうなるのかしら。
「恵美子さん、見て、グラファイトのファンデルワールスカですが電荷を帯びていません、そのために、凝集力が弱いのではないですか?」と、ゆきえが発見をしました。
恵美子はまた、モニターをチラッと見ました。
「よく見つけましたね、ゆきえさん、凄いわよ」
恵美子は感心をしました。そして「そのファンデルワールスカは分子間力と同義のようです、だとしますと、分子の結合にも、大きい意味がありますね、とにかく、今日の実験は炭素で出来ています物質の結合の違いについてですので、ダイヤやフラーレンそれにカーボン系やグラファン系の違いも調べてみましょう」
「はい」
いつの間にか、恵美子が場をしきっていました、それも恵美子としては、ほとんど無意識にでした。
彼女達は恵美子を頼りきっていましたし、しかし、恵美子としてはそういう立場は苦手で、本当はいやでした。
恵美子は左手を開いて、手刀を相手にゆっくりと向けて構えました。
舞達は実験に気を取られていて、恵美子の動作には気が付きませんでした。
意識の仮想の相手が右正拳を中断に打ち込んできました。
恵美子は左手を右肩に持っていき、相手の打ち込んできました右正拳に対して、恵美子は右肩に持っていきました左手を、一気に振り下ろして、相手の中断突きを払いのけました。
同時に左足を踏み込み恵美子の中断突きの右正拳を相手に素早く打ち込み、相手の防御を想定して、より早く右正拳は打ち込まなければなりませんでした。
相手はそのスピードについていけず、防御が間に合いませんでした。
恵美子の突きをまともに受けて、相手は倒れて行きました。
「まー、大変、恵美子さん、器材を倒しちゃったは、どうしたんですか」と舞が驚いて叫んでいました。
「あら、やっちゃった」恵美子はハッとして、見ると高価な器材が床に倒れていました。
「大変だは、ごめんなさい、ごめんなさい」私って、もう、何やっているのかしら恵美子は自分が授業を真剣に取り組んでいなかったことに反省をしていました。
いよいよ、夏の大学対抗躰道選手権大会が行われる時期となり、校内でも選抜戦が始まりました。
恵美子の通います、躰道のクラブ、心錬館からは、有段者、男女三名づつ、そして、恵美子達段下の選手もやはり、男女共に三名づつ、計十二名が、出場権を争うことになるのでした。
そして、恵美子の対戦相手が決まりました。
初戦の相手はまたしても前回と同じ一年先輩の彼女でした。前回は恵美子の未熟差のために負けてしまいました。
しかし、恵美子の中には苦手意識はありませんでした、あの時は勝負になれていなかったために、攻めの駆け引きが出来なかった自分の負けでした。と言いたいのですが、本当の所はどうでしょう、今回勝てるかは分りません、自分が成長した分、相手は何せ一年の長はとても大きな差ですよね、前回はおそらく、恵美子の技は読まれていたのでしょう、勝負は意表を突いた技でなければ勝てないでしょう、一体、そんな意表を突くような攻撃はどんな技かしら、私が考えつく技はきっと彼女も思いついているでしょう、とにかく、私はよりスピードのある技を身につけなくては、きっと勝負にはならないでしょう。
今まで考えてきた事を練習では確実に身体に覚えさせなくては、でも、時間が無いは、恵美子は同じ事ばかり何度も何度も練習をやっていました。
突きを打ち込んだ瞬間、次の攻撃に移るため素早く打ち込みました拳を腰に引き戻す、この単純な動作を何度も何度も繰り返していました。
足技でも同じように、前蹴りにしても、足刀にしても、とにかく、打ち込んだら、素早くもとの位置に引き戻す、頭の中で考えていることを、何度も何度も繰り返していました。
しかし、何故かぎこちないのですね、何故かしらどうしてなのか分かりませんでした?
そして、打ち込んだ拳を引き戻して、次に打ち込む動作にスムーズに移れないのでした。
何処がおかしいのかしら、考えてみてもまるで分りませんでした。
何故攻撃がスムーズに繋がっていかないのか、確かめるため、道場の中で練習をしている先輩達の動きを一日中何もしないで見ていました。
しだいに、目が慣れていきますと、型が上手な人よりも、流れのきれいな人に目がつきました。
とても、スムーズに技を繰り出していくのです。しかも打撃力が大きいようです。
何処にコツがあるのかしら?
見ていても打ち出す拳は素早く、重そう、しかも、次の打ち出す拳はやはり素早い、あんなに繰り返し打ち出す拳が何故スムーズに連動しているのでしょう、恵美子には驚きでした。
そこで、一つ一つの技を観察することにしました、そして、分析を始めました。
どのくらいの時間を見ていたのでしょうか、すると、しだいに見えてきたのでした。
恵美子は頭の中で有段者の動きをスローにして、動きの特徴を考えてみました。
すると、身体の部分部分の動きに、ずれがあることを見つけました。
拳をうちこむ前に、腰が素早く動いていました。
その拳を引き戻し、次の拳を打ち込むときも、先に腰が突く方向に素早く動いていました。
蹴りも同じでした。
全ての動きが流れるように、連動して見える中に、先に腰がその中心で流れを作っている感じがしました。
「これだは」
直ぐに、恵美子はその事を練習で実行してみました。すると、動きに無理が無くなり、技の連動がスムーズに入りやすくなりました。
これを身体に覚えさせなくては、今以上のスピードや打撃力を身に付ける事は無理だと判断しました。
毎日、何度も何度も繰り返しました。
動きが自然になるまで、練習を繰り返しました。
恵美子はこの練習で今までに無い、スピードと威力が増したことを感じました。
けれども、実戦に生かせるのかわ、不安でした。
そして、とうとう、夏の大学対抗躰道選手権大会の為の校内選抜試合の日がやってきました。
道場では、既に試合は始まっていました。
恵美子は正座をして、順番を待っていました。
他の試合は見ることもなく、目をつむり、頭の中で立ち会いのイメージを作りながら試合を組み立てていました。
声が発せられた。恵美子の名前が呼ばれました。「白、古木恵美子」
「はい」道場に張り詰めた声が響きました。
そして、恵美子は道場の中央に歩み寄りました、相手はやはり前回と同様の一年先輩の女性でした。彼女と目を合わせると、一礼をして「さー」と声を上げると、すぐさま両手を前に身構えました。
そこへ、道場の入口から、静かに高柳舞と、美川ゆきえ、それに水沢こずえが入ってくると、その場に座り込みました。
そして、恵美子の試合を、固唾を呑んで見守っていました。
相手の選手は右手の拳を握り締めて体の前に構えると、左手の拳は腰に引いていつでも打ち込める体制で構えました。
前回はあの、左手の正拳を恵美子は顔面に受けてしまったのでした、ならば今回もあの左正拳の威力を見せていただくは、どこまで威力を増したのか、但し、今回はその正拳が当るとはかぎりませんわよ、そして、その正拳を誘うべく、恵美子はすり足で静かに、右に回って行きました。
すると、相手の選手が「さーっ」と気合を入れると、左手の正拳をならば受けてみなさいと、言わんばかりに、右足を一歩踏み出しながら腰から鋭い拳を素早く打ち込んできました。
恵美子は確かに威力が増していると思いました。
しかし、恵美子は想定していた突きのため、相手の目をそらさずに、首を横にスライドさせると際どいところでよけました、そして相手は左正拳を直ぐに引き戻すと、同時に次に右正拳を立て続けに、恵美子の胸に打ち込んできました。
恵美子は瞬間的に左手を平手で横から相手の右正拳を右に押し流しました。
そして、同時に、左手を腰に引き寄せると、力いっぱい拳を握り締めた、そして、左正拳を腰の位置からえぐり出し相手の胸にめがけて打ち込んだ。すると彼女は素早く右にかわし飛び跳ねて恵美子の顔面に左正拳を打ち込んできた。恵美子は右腕を絞り上げていき顔面を防御して、彼女の打ち込んだ拳を右ひじではじき返した。相手の彼女は着地をするとすぐに身体を左にサァッと素早く回転させて、右足で回し蹴りを繰り出してきました。
恵美子は身体を前屈させた。相手の回し蹴りが恵美子の身体の上を空を切って行きました。
直ぐに、相手が正面を向いて、次の攻撃に入る構えをとろうとしました。
その一瞬を縫うように恵美子は右正拳を力任せに打ち込んでいきました。
相手はこの流れは前回恵美子を倒した時の流れそのままになったことを思い描いた、この勝負はもらったは、と確信をしました。
そして、相手の彼女は決まったと恵美子の右正拳を右手で左に押し流すべく、素早く右手を肩から左に裏拳を力任せに流していった。そしてまた、左正拳で恵美子の顔面に決めてやると、相手はこれでこの勝負はもらったと、笑みを浮かべた。素早く体を前に突き出し左正拳を腰から力任せに打ちだす瞬間、恵美子は打ち出した右正拳を打ち切る寸前で寸止めして、突然、その右正拳を素早く腰に引き戻したのでした。相手は「ハッ」と思った。しかしすでに相手の左正拳は繰り出されていた。恵美子は引き戻した右正拳の反動を使って左正拳を腰から一瞬に相手の打ち込んでくる左正拳より素早く渾身の力を込めて相手の右脇腹をえぐるように恵美子は打ち込んでいった。相手の左正拳とがクロスした、しかし恵美子の左正拳が相手の女性の右脇腹を一瞬にえぐり拳はすでに腰に引き戻されていた。相手の左正拳が恵美子の顔面を外れて空を切った。
相手は「うっ」と唸り、顔がゆがんだ。「えっ、どうして」
瞬間何故、恵美子の左正拳が自分の右脇腹に刺さっているのか信じられず目を見開いた。
審判の手が恵美子に上がり「一本」と声が響びいた。
相手の選手は「まいりました。」と一礼をすると首を傾げて自分の席に戻っていきました。
すると、舞とゆきえとこずえの三人組みがいきなり飛び上がって「やった。恵美子さん、やった。」と喜んでいました。
恵美子は笑みを浮かべて戻ってきました。何故恵美子の拳が彼女より後に打ち出したにも関わらず先に打ち込めたのか、それは距離でした相手の彼女は恵美子の顔面を狙ってきました。恵美子の左正拳は相手の右脇腹と彼女の狙った距離の半分以下だったのでした。それは恵美子の計算でした。もちろんそれは一瞬の掛けでもありました。
恵美子は舞達を見ると笑顔で「ありがとう、皆来てくれたのね」
舞が微笑んで「恵美子さん、強いですね、見直しました。」
「いえ、トーナメントですから、次はより強い人と当ります、勝てるかどうかは難しいと思いますよ」
すると、こずえが「でも、次も必ず勝ってくださいね」と言うと、恵美子は微笑んで
「はい」と頷きました。
6 暗殺者
警視庁に通報が入ってきた。
それは、以前、世田谷のイベント会場で命を狙われた。環境省の久保田大臣政務官の自宅からでした。
昨夜は久保田大臣政務官は帰宅が遅く、そのまま、書斎でなにやらやっていましたが、寝室で休んだ様子がなく家族が気になりまして、翌朝、書斎にいきましたところ久保田大臣政務官の妻は、そこで書斎の床に倒れていた夫を発見したそうです。
直ぐに、救急車で係り付けの病院に搬送されましたが、既に、なくなられていたそうでした。
診断ではチアノーゼが出ていることや、かなり汗をかいた形跡や心臓部分を左手で押さえていた事などから、心筋梗塞ではないのかと思われていました。
ただ、主治医によりますと、久保田大臣政務官は高血圧の持病がありまして毎月定期的に診察を受けていましたが、心臓に障害があったことは一度もなかったとのことで、心電図でも異常が出た事はありませんでした、それが突然、どうしたのだろうと主治医は原因がとても気になったそうでした。
そこで、レントゲンを撮ってみたところ。
非常に驚き「なんだ、これは?」と目を疑がったそうです。どう見ても心臓がつぶれているように思えたからでした。
「おかしいな、こんな症状は今まで見たことがない」どう考えても病死にしてはあまりに症状がおかしいと、警察に連絡を入れたそうでした。
その件を聞きつけた、捜査一課の小田切警部は、以前、久保田大臣政務官は警視庁が協賛したイベント会場で命をねらわれたことを思い出していた。
しかし、その犯人は既に射殺されて死んでしまったはずだし、久保田大臣政務官があの犯人に狙われるなんてありえない話だと、同じ目的の犯人が別にいるのかも解らないと、思った。
あの犯人が死亡したことで、一連の大臣政務官連続殺人事件については、全てかたがついたはずでした。
しかし、一応、関連を調べてみる事になりました。
そこで、久保田大臣政務官のご遺体については警視庁の法医科で解剖を行うことになりました。
小田切警部は鑑識班を連れて、久保田大臣政務官宅を訪れました。
「いったいどのようなことなのか詳細は分らないが、とにかく久保田大臣政務官の死因は不審死のようだ、病死以外の何か証拠が出る可能性も無きにしも有らずだ、そう言う事で、慎重に鑑識を行って欲しい」
倒れていた久保田大臣政務官を発見した妻の話しによりますと、床に転がっているクリスタルの置物を指差して「これを右手で握りしめていたのです。」何故なのか妻もわからなかったそうです。
「そうですか、分りました。」小田切は近くにいた鑑識班の一人に「ねえ君、このクリスタル、もう動かしてもいいよ、これは何か出そうだな」と、小田切は鑑識に指示をしました。
「はい」鑑識官は布で包んでクリスタルの置物を拾い上げた。
小田切警部は部屋の中を丹念に見て回りました。
けれど、荒らされた様子もなく、物が取られた様子も無かった、それに久保田大臣政務官が何かに襲われた感じでもなさそうに思えた。
「おかしいと思わないか」と、小田切が言うと、そばにいた鑑識官が「何がですか?」と聞き返してきました。
「うー、これじゃあ、どう調べても、死因は病死としか出そうにないよな」
「はい、・・・いえ、先入観は禁物です。」大きな拡大鏡で鑑識官は絨毯を調べていた。
「だよな、でもここまできれいじゃー、何も出ないだろうな」と小田切は周りを見た。
そこに、クリスタルの鑑識を行った監職官が戻ってきました。「警部、指紋が出ました。」
「何だと、何種類だ」そのことで状況が変わってくると小田切警部は感じた。
「三種類です。」
「三種類だと、家族との照合は」その照合で不振なものがあるのか小田切の関心が高まった。
「家族と言いましても、ここにはご夫婦のみですので、クリスタルの置物についていました指紋の一種類は家族のものではありませんね、」鑑識官は淡々と説明をした。
その指紋は久保田大臣政務官の死と関係はどうなんだ「その指紋だが、至急本庁の指紋検索にかけて、指紋の主を割り出してくれないか」前が無ければ出ないだろうが、小田切警部はすぐに指示をした。
「はい」鑑識官はパトカーに向かいました。
パトカーに設置されています。端末機で指紋検索を始めました。
小田切は久保田大臣政務官が倒れていた場所を見ながら思い描いていた、頭をこっちに向けて、左手で心臓の辺りを押さえていたのだろう、それで、近くに置いてあったクリスタルの置物を右手で握りしめていたのか、急性的な心筋梗塞なら、クリスタルの置物を何故持つ必要があったのか、プロファイリングをしてみると、どうしても誰かともみ合いになったと考えたほうが自然なんだが、まだ、法医科からは久保田大臣政務官の解剖結果は報告が無いが、やはりまた心臓が握り潰されたというのではないだろうな?
やはり射殺された犯人の他にも同じような目的を持った別人がいるのか、それも何も証拠も無い話しだが、そのためにも何か立証できる物を探さなくては、そこえ、鑑識官が戻ってきた。
「小田切警部、指紋の割り出しが出ました。」
「何、指紋に前があったのか」
「はい、外務大臣政務官連続殺害犯の指紋と同じ物でした。」
「何・・・そんなバカな、その犯人は、既に死んでいるんだぞ」小田切は信じられなかった。
「警部、そうは言いましても、我々は事実を明らかにするだけです。あとは警部さん達で明らかにしていただかないと」
小田切は鑑識官の言うこともごもっともと頷いた。「確かに、それはそうだが、ありえない話しだぞ、間違いなく、その指紋の主はもうこの世にはいない幽霊のものとなるぞ、ふー、まあいいか、そうなると、久保田大臣政務官はここで、その幽霊と格闘になったはずだよな」
「はい、・・・いえ、幽霊ではなく、犯人とです、クリスタルの置物が落ちていた位置からして、おそらく政務官は、ここで犯人に襲われて、とっさに近くにあった、クリスタルの置物を掴んで反撃をしたのでしょう、ところが、犯人がそれを手で受け止めたときにでも、おそらく指紋はついたのだろう、もしも、犯人がいたとする仮定ですが、ただ、外傷がまるで無かったのですからして、本当に格闘になったのかはなんとも言えませんが」鑑識官は淡々と話しました。
小田切は疑問だった。部屋の中は犯人の存在が一切ないのに何故指紋を一つだけ残していったのか、ふき取ろうと思えばできたはずだが、何故だ、真犯人をかく乱するためにわざと指紋を偽造したのか?
小田切は警視庁に戻っていった。
すると、課長室に呼ばれました。
トントン「小田切です。入ります。」
小田切は課長室に入って行きました。
「課長、なんでしょうか」
「おう、小田切、ちょっと聞いておきたいのだが、本庁前で外務大臣政務官を立て続けに殺害した犯人は、間違いなく、射殺されたのか?」
小田切は今頃何を課長は言っているのかと思った。
「間違いありませが、何故ですか」
課長は厳しい表情で「久保田環境大臣政務官だが、解剖の結果が判明した。」
小田切も眉間にしわが寄った。「どうでした。」
「二人の外務大臣政務官の死因と同じだ。心臓が握りつぶされていたそうだ。しかも鑑識の鑑定からクリスタルの置物についていた指紋も本庁前で殺害された政務官の持ち物についていた犯人のものと一致したとのことだ。まさか、幽霊が久保田環境大臣政務官を殺害したわけでもあるまい、何かトリックがあるはずだ。」
小田切は課長も分かっていないと思った。「課長、だからそれは、犯人が我々をかく乱するためのトリックですよ、指紋は偽造でしょう」
「なんだと、とにかく後でこの件で捜査会議を行うぞ、小田切も参加しろよ、遅れるな」
「分りました。」
その日の午後十七時から捜査会議が始まりました。
同じ手口で三人もの大臣政務官が殺害されるとは、明らかに警察の失態は明白でした。
警視庁は何故大臣政務官ばかりがねらわれたのか、理由は分析できなかった、次の犯行が行われる可能性を考えて、何としても阻止しなくてはならないと、警視庁の威信にかけて対処すべく、特別捜査本部を立ち上げたのでした。
本部長には事の重大さから警察庁より刑事局次長がその任に当たったのでした。
刑事企画課や犯罪鑑識官も加わっていました。
捜査第一課は総手でこの犯人を草の根分けてでも必ず探し出して見せると、力が入っていました。
夏の大学対抗躰道選手権大会の校内選抜戦の試合で恵美子が一回戦の相手を倒して以来、三人娘の舞とゆきえとこずえは、何かにつけて、恵美子を頼っていました。
恵美子が次の教室に移動しているときでも、振り返ると知らないうちに、あの三人が恵美子の後ろで、楽しそうに会話に夢中になっていました。
恵美子としてはこんな、あねごのような状態になっていることはとても恥ずかしくて、困り果てていました。
ある日、恵美子が振り返り「舞さん、ゆきえさん、こずえさん、私といましても退屈ではありませんか、私は、そのー、人とのお付き合いは上手ではありませんし、あなた達を楽しませてあげられませんし」
すると、舞が「恵美子さん、ご迷惑ですか」と恵美子を見た。
「いえ、そんな、迷惑だなんて思っていませんけれど、あなた達こそ、年上の私といましても、つまらないのではないのですか」
すると、ゆきえが「とんでもありません、私達、恵美子さんといますと、安心が出来ます。」
「えー、私といると安心が・・・」恵美子には思ってもみなかった言葉でした。
すると、こずえが合槌を打つように「そうです、恵美子さん強いし、頭もいいし、憧れます。」
「えー、私を憧れるのですか?」まさか他人がそんなふうに自分を見ているなんて、恵美子はありえないと思いました。
舞が「一緒にいてはいけませんか」と悲しそうな顔をしたのでした。
「ああ、いえ、私はかまいません、好きなようにしてください」
すると3人は、笑顔で「あー、良かった。」と安心した様子で、こずえが「恵美子さんに突き放されましたら、どうしようかと思いました。」と、笑顔で喜んでいました。
恵美子にとっては、ため息が出てしまうほどに、これも嬉しい悩みでありました。
恵美子はあえて、なるべく、人にかかわらないように、過ごしてきたつもりでしたのに、一人が一番ほっとできると思っていたのに、自分の性格とはまるで正反対に、手下を率いるあねごのように見られてしまうことは、本当は大変困っていました。
実験にしても、直ぐに恵美子に「どうしたらいいんですか」と三人が聞いてくるのです。
「これでいいのですか?」とすぐに三人は恵美子に聞いてきました。
「次は、何をしましょうか?」と、何でも恵美子の意見を聞いてくるようになっていました。
授業についても「恵美子さん、これ教えていただけますか」
「恵美子さん、ここが理解出来なくて、教えてください」
「恵美子さん、・・・・」
「恵美子さん、・・・・」
と、恵美子も皆が可愛いと思い始めると、つい、つい「私に解るかしら」と言いながら、一つ一つ丁寧に教えていました。
いつしか、恵美子にとっても、三人をわずらわしいと思う気持ちも薄れて、年下の三人であっても、楽しく談笑が出来るようになっていました。
そして、一人一人の長所を見抜くと「次の実験では、舞さんが中心でやってみてくださいね、あなたは本当は、私よりセンスがいいですから、きっと成功しますよ、頑張ってね」
「えー、私無理です。」と舞が言うと、恵美子も微笑んで「そんなことはないは、私も協力しますから」
「分りました。」
以前の恵美子でしたら、自分の事で精一杯で、他人のことを考えるほどの余裕はありませんでした。
それが、何故変わってきたのか、人のことを思いやる気持ちが恵美子も気がつかないうちに湧いてきていました。
「ゆきえさんは計算がとても速いのね、物理学に向いていると思うはよ、統計力学を身につけたら物性論をマスターするのは早そうですね、凄いは、私もゆきえさんに教えていただかないと」
ゆきえははちきれんばかりの笑顔で「それは大げさですよ、それに無理です。」でも、内心は嬉しかったのでした。
「こずえさんにはいつも記録をお願いしてきましたけど、これまでの実験内容を一番理解しているのは、私なんかより、こずえさんだと思いますは、試験のときは、私に教えてくださいね」
こずえは、尊敬している恵美子に言われると、とても自信がもてる気がしてきました。
いつものように、恵美子は、次の授業を受けるため、校内の通路を歩いていました。
例によって、三人組みは恵美子の後ろから、少し離れた所をはしゃぎながらついて歩いていました。
そして、小さな池があります。周りは芝生が広がっていて、樹木もそれなりに配置されます、庭園風になっている広場にさしかかりました。
いくつか置かれているベンチには、読書をしている学生や、くつろいでいる学生、カンコーヒーを飲んでいる学生などが座っていました。
木立の中を進むと、ベンチもなくなり、人々も途絶えたあたりで、木陰に大学のキャンパスには不釣合いな姿の人物がこちらを監視をしているようでした。しかし、恵美子はまだ、気がついていませんでした。
すると、その人物が恵美子の動きにあわせて同じ間隔を保ちながら追ってきていました。
離れて、恵美子の後を歩いていました、三人組みのこずえが「ねえ、あの木陰にいる人、ちょっと変じゃない」
すると、舞が、その人物を見つけて「ほんと、見慣れない格好だわ、黒い背広にグイレーのストライプが入っているなんて」
ゆきえは笑って「それじゃあ暴力団のようね」と言うと、逆に舞とこずえは驚いて「えー、暴力団ですって、大変」
すると、その人物が小走りに、急に恵美子に近づいていきました。
そして、恵美子の後ろから、襲うように見えたのです。
ゆきえがあわてて「恵美子さん、危ない」と、叫んでいました。
恵美子はその声に振り向くと、黒い背広の男がいきなり恵美子に殴りかかってきた。
恵美子は、とっさに首を横にスライドさせると、相手の右拳が恵美子の耳元をかすめて、シューと音を上げて流れていった。恵美子は相手の目をはずさなかった。
すると、すぐさま相手の左手が恵美子の右ほほめがけて横から飛んできた。
恵美子は、後ろにのけぞるようによけると、その拳が、恵美子の鼻先を音を上げて空を切っていった。
相手の技が流れるように、次々に右足で回し蹴りが恵美子に向かって飛んできた。
恵美子は屈伸を使ってよけると、相手の右足が恵美子の身体の上を勢いよく越えていった。
相手の男の次の攻撃に移るすきを狙って、恵美子は右足刀で相手の脇腹をねらって蹴り込みました。
相手は後ろに飛び跳ねると、ピョンっとたって、ボクシングのように構えて、恵美子を睨めつけた。
恵美子も睨めつけて「何故なの、どうしてあなたは、私を襲たりするの?」と、恵美子は叫びました。
「理由は、おまえらは知る必要は無い」と、その男は、ボクシングのように構えたまま、前に踏み出してきた。
恵美子は合わせて後ずさりをしました。「あなた、今、おまえらと言いましたが、私とこの子達のことを言っているのですか」
と、言うと、三人娘は、自分達も狙われる対象なのかと、急に恐くなり、悲鳴を上げました。
すると、その男は、三人娘のほうに目をやり「フン、小娘どもには、用は無い」
だったら、誰の事を指しているのかと恵美子は思った。
「でしたら、一体誰のことなの?」
「うるさい」と、怒鳴ると、男は恐ろしい形相になりました。
さすがに恵美子も恐いと感じたときでした。この恐怖感は以前にも感じたことを思い出しました。
その男の顔をよく見ると、思いだしました。「あなたはイベント会場に来て、私からパンフレットを受け取った。あの時の人ね」
その男はニヒルに笑みを浮かべると「やっと思い出したか、まさか、おまえが、七年後に我々の組織を脅かすほどの存在になっていたとはな、それは見逃すことはできない、ここで処分する、信じられんな、イベント会場ではおどおどして、まるでさなぎのようにひ弱で、ただのおとなしいそこらのむすめと思っていたがな、フン」
「七年後?何のこと、意味が分からないは」恵美子は首を傾げた。
「どうもこうも無い、おまえはここで死ぬだけだ,我々にとって邪魔なんだよ」
「そんな、そういえば、あなたこそ、ここで射殺されたはずでは?」
「ごちゃごちゃうるさい、へらず口もしゃべれなくしてやるぜ、さなぎのくせして」男は怒鳴った。
「あら、さなぎだっていつか蝶になるは、天を目指して羽ばたきもするはよ、やれるものならやってみなさい」と恵美子も叫んでいた。
男は薄気味悪い笑みを浮かべると「面白れえ、殺してやる」と静かに言うと、「ウォー」と、うなると同時に前蹴りを勢いよく蹴り出してきた、それは、恵美子を一撃で砕かんとする勢いでありました。
恵美子はとっさに身体を左に流して、左腕でその前蹴りを右に押し流した、かろうじて相手の前蹴りをよけることが出来た。しかし、それは読まれていたのか、すぐさま相手の右正拳が恵美子の脇腹めがけて唸りを上げて飛んできた。
恵美子にはその突きがスローモーションのように見えていた。左腕を直ぐさま引き戻して脇腹をカバーするとその腕にズシンと相手の突きがめり込んできた。そのまま後方に恵美子は飛ばされてしまった。
そして、芝生の上を転がると、直ぐに相手が追ってきて、恵美子は半身を起き上がらせたところを、男は右足刀で恵美子の顔面めがけて蹴り込んできた。
恵美子はとっさに両腕を身体の前で十字に組み、男の蹴り込んできた足刀を十字に組だ腕ではさみ込みそのまま上に力任せに押し上げた。男の右正拳を防御したときの恵美子の左腕はまだしびれていた、男は足を払われてバランスが崩れたその男の胸板に恵美子は下から、腰に引き戻した右正拳を恵美子も唸りながらこん身の力で突き上げた。「うーん」恵美子の右正拳はまともに男のみぞおちにめり込んでいきました。しかし、男はあまりダメージもなく後ずさりをする程度でありました。「ふん」男は苦笑いをした。
恵美子は驚いた。「え」私の突きは効かないは、それならこれはどう、そのまま右に回転しながら、右回し蹴りを男の首筋に力任せに「うーん」と唸りながら蹴り込みました、やった、恵美子の回し蹴りは完璧に男の首筋に入りました。
今度こそ、やったは、恵美子は男の様子を見た。
男は「チェッ」と言うと、又もや苦笑いをした。
まさか、効いていないの?呆気にとられた恵美子の胸倉を男は掴むとそのまま恵美子を投げ飛ばした。
恵美子は木の葉のように宙に飛ばされると、芝生の上を転がった、そして、起き上がると男をにらめつけた。恵美子の渾身の回し蹴りも男にはまるで効いていない、これでは、打つ手が無いはと、身構えました。
男は面倒くさそうにため息をつくと「いいかげん飽きたな、俺の一撃で倒せると思ったのに、手間を取らせやがって、いつまでもやっていられるか、ふん、トリプラーでけりをつけるか、派手なので使いたくはなかったが、仕方ないか」
男は胸の辺りで両手の親指と人差指を合わせると手の平を広げて、口の中でなにやら呪文のようなものを唱えだした。
恵美子はその姿を見ていて、何をしているのかしらと思った。
すると突然、男は胸の前で組んでいた手を「はー」と言って押し出しました、すると、突然激しく燃え盛る火の球が現れると炎の尾を引いて凄い勢いで火球が恵美子に向かって飛んできた。
恵美子は目を大きく見開くと「な、なんなのこれ」と、あわてて右側の芝の上に飛び込んでいきました。
火球は恵美子の後ろにあった樹木に激突して「ドドーン」と吹き飛ばしていった。
恵美子は受身をして起き上がると、慌てて三人娘に向かって叫びました。「あなた達、逃げて」三人むすめは悲鳴を上げて逃げ出しました。
男はまたしても恵美子に向かって、火球を打ち込んできた。
何なの一体、小型の火炎放射器でも持っているのかしら?
こんな物を使われてはどうしようもないは、すきを見て恵美子も、逃げるしかないと思った。
続けて男が火球を撃ってきた。「トリプラーで殺してやる、死ね」
恵美子は慌ててよけるため、また右側の芝生の中に頭から飛び込んでいった。
火球はまたしても、樹木を吹き飛ばした。
恵美子は柔道の受身のように、前転をすると反動でスーッと立ち上がり、そのまま走り出しました。
次の火球を打ち込んでくるまでに少し間が空いた、あの男が言っていた「おまえら」と言う言葉が恵美子の脳裏に引っ掛かっていました。
私を含め、他の複数の人間となりますと、誰なのかしら?
恵美子が逃げ回る間も男は火球を打ち込んできていた。
このままでは恵美子は追い詰められて、あの火の球の的になってしまうと思った。
何故、いきなり現れて、私がこんな目に合わなければならないの、恵美子は唇をかみ締めました。
どうしたら、あの男を倒せるの、あんな武器を使うなんて卑怯よ、私が素手で勝てる訳無いは、まったく。
恵美子は、男が火球を打ち出すときに、身体が静止していることに気がつきました。
恵美子は大きな木を背にしていた。
そして、その木から顔を覗かせると、既に、火球が炎の尾を引いて、こちらに向かってはしってきていた。
「うわー」慌てて、恵美子はその木から飛びのいた、前転をして、男の前に飛び出すと、起き上がる寸前に、地面に落ちていた、十センチ程の石ころを拾うと、すぐさま起き上がった。
「ほらほら、やっと戻って来たか、フン」男は鼻を鳴らし、しぶとく抵抗しやがって、けりを付けるかと、数歩前に出た。
そして、身構えた。
そこを、恵美子は飛び蹴りを男に浴びせ掛けると、てぐすね引いて、待っていたという感じで、男は笑みを浮かべて、あっさりと身をかわした。
恵美子はあの笑みはなんなのと思った。しかし、次に恵美子は唸りを上げて前蹴りを男にあびせかけた。「うーん」
男は右手一本で恵美子の前蹴りをたやすく払いのけた、恵美子は男の直ぐ脇に間合いを取ると、男が振り向いた。
その位置は、男に打ち込む絶好の位置でした。
恵美子は一瞬に思った。あまりにも、私に打ち込んでくださいと言わんばかりの位置だと、恵美子の技は全て読まれている、しかし既に、恵美子の身体が反応していて、意志とはうらはらに既に、恵美子の左正拳が男にめがけて打ち込んでしまっていた。
男はまたもや笑みを浮かべて、既にそれは読んでいたと言わんばかりに、男は右の手の平を開いて、恵美子の左正拳を捕まえたら、今度こそこれで終わりにしてやるぜと、明らかに、恵美子は男の流れにはまっていた。
恵美子はしまったと、思った。
男は笑みを浮かべ左の手の平を広げて待ち構えた、力任せに打ち込んだ恵美子の左正拳が走って行った、「もらった」男の左の手の平の中に恵美子の左正拳が吸い込まれていった。その時だった、恵美子は拳を打ち切る直前で左正拳を寸止めしてしました。そして左手を腰に瞬時に引き戻した、と同時にさっき拾った石を持っている右手を、下から上に男の顎にめがけて、アッパー気味に力任せに身体ごと打ち上げて行った。恵美子の身体はそのまま男にのしかかって行ってしまった。
この不意打ちには、男も想定外だったのか、防御する暇もなく、男の顎に力任せに恵美子の石を握る右手が身体ごと男の顎を砕いていった。
男は宙を舞い、そのまま恵美子もろとも、後ろに倒れ込んでいった。
そして、「うー」と唸ると、男は動かなくなってしまった。
恵美子は男を押しのけて起き上がると、動かなくなった男を見て「変な武器を使って卑怯な手をつかうからよ」と持っていた石を地面に投げ捨てた。
心を落ち着かせるため、大きく深呼吸をした。
この男が言っていた「おまえら」の意味を考えていました。
私に一番関係があるとしたら、叔父の古木一鬼しか思い当たらなかった、叔父の事かしら、恵美子はスマホを取り出すとすぐさま叔父の古木一鬼に電話を入れました。
しかしどうしても不通になってしまい繋がりませんでした。
おかしいわね、どうして電話に出ないの、何かあったのかしら、まさか、さっきの男たちに何かされたとか・・・?
「大変、叔父様が危ないは」
恵美子はすると、慌ててバイクを取りに走りました。
「直ぐに、科警研に向かわなくては、もう、襲われているかもわからないは」
真赤なSV1000Sバイクが高速自動車道を突っ走っていった。
もろに暗殺者は恵美子に牙を向いてきましたが、恵美子の格闘技が相手に利かないとは言え護身には十分なりえました。しかも暗殺者の裏をかいて返り討ちとは、弱い者だからと言って油断をすると思いもよらないことが起こるということですかね、そしてまた暗殺者は恵美子の前に次々に現れだすのですね、恵美子は本当はそんな戦いは避けたいと思っていましたが、うらはらに容赦なく暗殺者は恵美子を襲ってきました。しかも大切な身内の叔父である古木一鬼主査が拉致されるとは、恵美子は許せないと・・・。